【それぞれの『アリージャンス~忠誠
~』vol.1】 4年ぶりに向き合う『ア
リージャンス~忠誠~』

【シリーズ/それぞれの『アリージャンス~忠誠~』】

『アリージャンス~忠誠~』が、2021年3月12日より東京国際フォーラム ホールCで上演される。第二次大戦下のアメリカで、日系人が「敵性外国人」として扱われ強制収容所に移送された史実に基づき創作され、ブロードウェイで上演されたミュージカル作品。その日本語版の開幕が迫る中で、ブロードウェイ版を観たことのある日本の演劇ライター諸氏が、それぞれの観劇経験を綴った。シリーズ第一弾は、演劇ライター兵藤あおみ氏。(SPICE編集部)

◇ 4年ぶりに向き合うミュージカル『アリージャンス~忠誠~』
TEXT:兵藤あおみ
 筆者がブロードウェイでミュージカル『アリージャンス~忠誠~』を観たのは、2016年1月26日(火)夜。大雪のため乗る予定だった飛行機がキャンセルとなり、一日遅れでNY入りし、慌ただしく観劇日程をこなしていた中でのことで、よく覚えている。
(左) Longacre Theatre (右)PLAYBILL (撮影:兵藤あおみ)
 『アリージャンス~忠誠~』は、「スター・トレック」のヒカル・スールー役などで知られるベテラン俳優ジョージ・タケイの実体験をもとに、第二次世界大戦中、強制収容所へ送られた日系アメリカ人の姿を描いた社会派人間ドラマ。2012年秋にサンディエゴでトライアウト(試演)を実施したのち、2015年秋にブロードウェイ入りを果たした同公演で、タケイ自身が主人公の青年サムの祖父カイトと年老いたサムの二役を務めたほか、サミー役に2009年の『RENT』の来日公演でも活躍し、TVドラマ「glee」のウェス役で人気を博したテリー・リアン、サムの姉ケイ役に『ミス・サイゴン』のキム役のオリジナルキャストとして知られる歌姫レア・サロンガ、そして収容所でケイと親しくなるフランキー役に宮本亞門演出の『太平洋序曲』などブロードウェイ作品に出演する傍ら、韓国ミュージカルでもさまざまな大役を担うマイケル・K・リーと、人気と実力を兼ね備えたアジア系俳優たちが勢ぞろいしたことでも話題となった。
 戦前、多くの日本人が労働者としてアメリカに移住。それぞれが慣れない土地や言語、文化と格闘しながら懸命に働き、生きてきた。しかし、1942年12月7日、日本軍が真珠湾を奇襲攻撃したことからアメリカに暮らす日本人や日系アメリカ人に対する猜疑心が広がり、彼らは住まいや財産を没収され、強制収容所に送られることに。その数、12万人以上といわれている。劇中、理不尽な状況下に置かれながらも希望を失わず、“我慢”の精神で乗り切ろうとする日系アメリカ人の姿に胸打たれた。そんな彼らに追い打ちをかけるように、アメリカへの忠誠を問う忠誠登録質問票が配られる。人権を奪いながらアメリカへの忠誠を誓わせるやり方にサミーの父タツオは猛反発するが、サミーは父親の意向に反し、アメリカ軍への入隊を試み続ける――。
『アリージャンス~忠誠~』 テリー・リアン Original Broadway Company of Allegiance / photo by Matthew Murphy
 本作に出合う前も、日系アメリカ人強制収容所問題についてはアラン・パーカー監督の映画「愛と哀しみの旅路」(90年)や山崎豊子著の「二つの祖国」などの作品を通して見聞きしてきた。が、ミュージカルという形態でこの問題と向き合うのは初めてのこと。2010年にブロードウェイで観た『スコッツボロ・ボーイズ』というミュージカルが、アメリカ黒人差別の歴史的大事件(スコッツボロ事件=1931年にアラバマ州で黒人青年9人が白人女性への強姦容疑の濡れ衣を着せられた)をエンターテインメントとして見事に描いていてとても感動したことから、筆者の中での『アリージャンス~忠誠~』への期待も大いに膨らんでいた。
 実際、戦争勃発によりそれまで幸せに暮らしていた家族が苦境に追いやられ、それぞれの価値観や考え方の違いから対立し、別離したのち、長い年月を経て和解に至るといったスケール感のあるドラマが、良質の音楽とともに届けられた。印象に残っているのは前述のリアン、サロンガ、リーらキャストの抜群の歌唱力、そしてタケイの絶大な存在感。全編を通し、ストーリーは暗く重いが、盛り込まれた楽曲や「ふっ」と肩の力が抜けるような演出によって、終始張りつめた状況で観続けるといったこともなかった。クリエイター&キャストの「この物語を伝えたい」という強い気持ちがこもった、熱いパフォーマンスだった。
『アリージャンス~忠誠~』マイケル・K・リー 他 Original Broadway Company of Allegiance / photo by Matthew Murphy
 実は筆者、ブロードウェイで『アリージャンス~忠誠~』を観る3年前に「4 Stars」(13年)のプロモーションで来日していたサロンガに取材していた。その際、同作のトライアウト時の話となり、劇場に足を運んでくれた日系アメリカ人から「自分たちの体験がそのまま描かれている」と感動してもらったこと、(演者として)とても意義のある体験ができたことなど、彼女なりの作品への手ごたえを聞くことができた。また、筆者がブロードウェイ入りを楽しみにしていると伝えると、「最終的にジョージ(・タケイ)はこの作品を日本で上演したいと考えているはず」と秘密を打ち明けるように言葉を返してくれたのを昨日のことのように覚えている。
 そのタケイの悲願が間もなく達成されようとしている。3月12日に日本語版が開幕するのだ。演出を担うのはブロードウェイ版と同様、アジア系カナダ人のスタフォード・アリマで、キャストもケイ役の濱田めぐみやサミー役の海宝直人ら実力派ぞろい。奇しくもアメリカでは新型コロナウイルスの影響でアジア人への差別やヘイトクライムが増加しているという状況。今、この作品と再び向き合う意味がきっとあるはずだ。世界中のあらゆる場面で理不尽と闘う人々のことを思いつつ、劇場に向かいたい。
『アリージャンス~忠誠~』 レア・サロンガ、ジョージ・タケイ Original Broadway Company of Allegiance / photo by Matthew Murphy

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