大原櫻子インタビュー 「コロナ禍で
生活や価値観が大きく変わった中で生
まれた」最新アルバム『l(エル)』
を紐解く

“life” “live” “love”について考え、向き合い、「“l”人が凜と立っている姿にも重なった」ことにより『l(エル)』と名付けられたアルバムを2021年3月3日にリリースする大原櫻子。「コロナ禍で生活や価値観が大きく変わった中で生まれた」という今作について、“音楽”と“芝居”の両軸で活躍する彼女にたっぷりと話を訊いた。
——舞台『両国花錦闘士』の上演期間中、1月10日にお誕生日を迎えられた大原さんですが、25歳になってなにか心境の変化はありますか?
諸先輩方から「24歳と25歳では全然違うよ」と聞いていたんですけど、やっぱり心境の変化はありました。24歳までは、自由に生きていいイメージ。でも、25歳を迎えてみたら、そろそろしっかりなきゃいけないなと思うようになって。
——10代のころからお仕事をされていて、歌手、女優としてかなりの経験値がある大原さんでもそんなふうに感じるのですね。
ありがたいことに、いろいろな経験はさせていただけていますけど……子どものころ、25歳といえばもっと大人に見えていたのに、自分はまだまだ大人になりきれていないなという焦りみたいなものもあります(苦笑)。
——自分を客観視できているということでもあります。それに、音楽やお芝居を軸にさまざまなお仕事をこなしているわけですから。
1月28日まで『両国花錦闘士』に出演していて、その舞台の終わりかけくらいで2月の生配信ライブに向けての準備をしていたときに、自分がどういう人間なのか、一瞬わからなくなってしまったりもしたんですけどね(笑)。その前に音楽の制作をしていたかと思えば、お芝居の台本と向き合って、今度はまた音楽のことを考えて。
——自らを表現する音楽、ある期間で自分とは違う人生を生きるお芝居、行ったり来たりすれば混乱してもおかしくありません……。
そうそう、混乱。『両国花錦闘士』でも歌を歌う場面はあったんですけど、急に自分の歌の練習をしたときに、自分ってこんなに高いところまで声が出たっけ!?って驚いたりもして。「わたし誰?」ってインスタに思わず投稿したら、ファンの方から「鏡に向かって“私は大原櫻子”と何回か唱えなさい」というアドバイスをいただきました(笑)。
——でも、そうやってさまざまな表現をすることで、大原さんの人生がますます実り豊かなものになっていきますね。さて、誕生日にリリースを発表された『l(エル)』は、大原さんにとって5枚目となるアルバム。約1年前にリリースされた4thアルバム『Passion』はタイトル通り情熱的で挑戦的な作品でしたが、凜とした美しさ、力強さを感じさせる「STARTLINE」から始まる『l』は、なかなか先が見通せない今に、歌で音楽で光や希望をもたらすような作品だと感じました。
それはとてもありがたい言葉です。言ってくださったように、『Passion』は情熱を注いだし、それまでなかったような空気感や雰囲気を持った楽曲に挑戦した作品なわけですけど、今回の『l』は、人生や生き方=“life”について考えたり、“live”が思うようにできなかったり、愛=“love”に向き合ったり、コロナ禍で生活や価値観が大きく変わった中で生まれた作品。大文字の“L”ではなく小文字の“l”と表記するタイトルは真っ直ぐに引かれたスタートラインを表しているし、“l”は人が凜と立っている姿にも重なったりして。リード曲でもある「STARTLINE」は、メロディも歌詞も素敵だし、自分の意志で道を切り拓いていく前向きで強いメッセージにもなったなと思っています。
——伸びやかな声と決意の歌詞に、背中を押してもらえますから。
私自身、とても元気をもらえる曲です。
大原櫻子
——かと思うと、「Carnival!」はライブ映えしそうなダンスポップナンバー。大原さんのテンション高いシャウトにも楽しくなってしまいます。
日ごろ溜まったストレスやネガティブな気持ちを、そのひとときだけでも吹き飛ばしてくれるのがエンターテインメントなわけで、「STARTLINE」みたいなメッセージソングはもちろん、少しラフな曲があってもいいし、ラブソングがあってもいいし。「Carnival!」は、ただただリズムに身を委ねて思いきりダンスして楽しめる、私らしい曲です。
——耳に心地よいリリックとそれを活かす大原さんの歌声が魅力のR&Bナンバー「Long Distance」にしても、オーディエンスがクラップをする姿が目に浮かんで。<離れている時間>を嘆くのではなく、<ありがとう>というポジティブさに気づきももらえるんです。
そう、離れている時間があるからこそ気づけることがあると思うんですよね。Mayu Wakisakaさんが歌詞を書いてくださったのはコロナ前だと思うんですけど、以前のように気軽に人と会うことがしにくくなった今、聴いてくださる方それぞれに気持ちを重ねても聴いてもらえるんじゃないかなっていう。
——大原さんが作詞された「抱きしめる日まで」にしても、<また会える その時まで 信じてるから>というフレーズが、たとえ離れていても大丈夫と思わせてくれて。救われたような気にもなります。
大切な存在と遠く離れてしまうことがわかったときから、実際に離れてしまうまでを描いたんですけど、恋人でも友だちでも家族でも、離れてみて知る相手の存在の大きさ、ありがたさがあって。小倉しんこうさんが生んでくださったメロディの温かさと真っ直ぐさに導かれるように浮かんだ、<どこまでも続く青空は 悲しいくらい美しくて>っていう冒頭の言葉をきっかけに、大切な人への愛とか感謝を伝える歌詞を書いていきました。
——ノスタルジックな雰囲気もまた、琴線に触れるんです。
人って、なつかしさを感じるから感動するらしいんですよね。<2人で歩く白線は 時を刻んで あせていく>というフレーズにしてもそうだし、なつかしさを感じてもらえるような歌詞にできたらいいなとも思っていたので、うれしいです。
——そういう意味では「同級生」も、聴き手それぞれに子ども時代や共に青春時代を過ごした仲間や同級生の姿を思い浮かべることができます。
「同級生」は演奏が始まった瞬間、毎回泣きそうになるんですよ。
——あまりにも美しいストリングスの音色ですよね。そこから繊細に折り重なっていく演奏に、大原さんの歌声がとても映えます。
それはもう、楽曲の世界にグっと引き込んでくれるミュージシャンの方々が、本当に素晴らしいからで。楽曲それぞれ、音で居場所を作ってくださるからこそ、私は遊べるんです。
大原櫻子
——紡がれる音や言葉、描かれる世界によって表情がガラっと変わるのが大原さんだなと今作でもあらためて思います。「#やっぱもっと -Album Version-」は、前作『Passion』に収録のダークなバラード「電話出て」に続いて、一青窈さんが作詞をされていて。恋と愛情の狭間で悩む女心がとても生々しく描かれていますね。
「電話出て」のときもそうだったんですけど、一青さんは歌詞を書くにあたりすごくていねいにインタビューしてくださるんですよ。「さくちゃんの経験、見てきたもの、感じてきたことを教えてほしい」って。その上で、私が歌に寄り添いやすいように歌詞を書いてくださっているし、「電話出て」とはまったく違う人物像が描かれてもいるじゃないですか。一青さんの振れ幅に驚きつつ、「電話出て」にも「#やっぱもっと」にも共感できてしまうというところもすごいなと思うんですよね。
——確かに、「電話出て」の歌詞には重すぎる愛がにじみますけど、その気持ちわかる!って実は多くの人が感じるでしょうし。
そうそう。ドキっとするのは思い当たる節があるからだったりするし。「#やっぱもっと」にしても、恋をしたことがある人だったらわかる!って思うフレーズがたくさんあるんじゃないかな。
——<いつも急に終わりは来るから 僕が #やっぱもっと 好きって言えば良かったな>という後悔にしても然り。ミュージックビデオでぬいぐるみに語りかける大原さんの姿も共感を呼びます。
ひとりであれこれ考えて、ジタバタしちゃうものですよね、恋は(笑)。「電話出て」に続き、「#やっぱもっと」でも人には見せられない心模様を言葉で表現してくださった一青さんに、感謝です。
——提供される楽曲や歌詞によって新たな表現の扉を開いていくのは、大原さんにとって楽しいことでもありますか。
時には難しいチャレンジもあったりするんですけど……自分の知らない世界や自分にはない色を提示してもらって、それを自分のものにしていくというのは、表現する人間としてひとつの楽しみではあります。
——2020年11月に配信リリースした「透ケルトン」は緑黄色社会の長屋晴子さんが書き下ろしたナンバーでしたが、その手応えがあって、長屋晴子さん作詞、同じく緑黄色社会の小林壱誓さんが作曲した「だってこのままじゃ」へとつながっていったのでしょうか。
そうなんです。晴子ちゃんと私は同い年ということもあり、「透ケルトン」の制作を通して意気投合しまして。またぜひ曲提供してください!と言っていたら、早々に願いが叶いました。
——緑黄色社会らしい爽快感が大原さんにすごくよく似合います!
清々しさとか真っ直ぐさが、私に似合っていたらうれしい。本当に、メロディのチョイスも天才だし、言葉のチョイスも天才!って思っちゃいます。
——「透ケルトン」の<自分には素直でいたいな 一番に大切にしたいな 簡単にみえて実は難しいこと>というフレーズに、はっとさせられたりして。
晴ちゃんの言葉には、晴子イズムがちゃんとあるんですよね。その上で、「透ケルトン」には女性のかっこよさや強さが、「だってこのままじゃ」には恋する男の子のかわいらしさがあって。それぞれの世界を楽しみながら、刺激も受けながら歌いました。
——そして、「チューリップ」は大原さんが初めて単独で作詞・作曲をされたナンバー。優しさや温かさに満ちています。
おうちにいる時間が長くなってみたら、それまで働きすぎていたんだなって感じた方が多いだろうし、自分を見つめ直す時間はやっぱり大事にしてほしいなと思って。まさに、優しさに包まれるような曲を作りたかったんです。
——チューリップをモチーフにしたのは、どうしてだったのでしょうか。
タイトルをつけたのは、実はあとからだったんですけど……この曲を作ろうと思ったひとつのきっかけでもある友人が、ちょうどチューリップが咲く4月・5月に縁のある人で。加えて、チューリップの花言葉である“愛”と“誠実さ”は、私が大事にしているもの。初めて単独で作詞・作曲した大切な曲にはこれしかないと思って「チューリップ」と名付けました。
——大原さんの澄んだ歌声で<いつもの あなたが一番好き>と肯定してもらえたら、それだけで元気になれます。
自分のことが一番好きだけど、自分のことが一番嫌い。そういう人って多いと思うんですよ。私自身もそうだし。自分を肯定したり、ほめてあげたりするのは、なかなか難しいんですよね。それでも、なんにもしなくたって生きていればそれでいいのよって言いたくて。
——ただたっぷりのお日様の光とお水を浴びて。
まさにその通りです。ただ<生きていきましょう>って書くのは勇気が要ることでもあったんですけど……それを重たく歌うのではなく、ポップに歌うことで、軽やかに伝えたくて。明日も頑張って生きようって思うきっかけに「チューリップ」がなれたらうれしいです。
——聴いた人の心に、きっと色とりどりの希望の花が咲くはずです。さらに、歌声とギターだけの「チューリップ -Duo-」には、また違った味わいがあって。
曲を作ったとき、ギターと歌だけでいいのかなって思ったこともあって、「チューリップ -Duo-」も入れさせてもらいました。CDではTakuma Wakanaさんに、初回限定盤AのDVDに収録した映像では渥美幸裕さんにギターを弾いていただいて、歌と同時録音しまして。アレンジによっても、楽器を奏でる人によっても違う表情になるんだなという面白さをあらためて感じました。
大原櫻子
——5作目のアルバムを作り終えた今、新たに見えてきたものもあるのでしょうか。
歌が好き!からスタートして、いろいろ知ることでより歌を好きになっていって。さまざまなミュージシャンとの出会いは自分にそれまでなかった彩りをもたらしてくれる、ということを『l 』の制作を通しても痛感したし、これからも多くの才能に刺激を受けつつ、自分らしさを発信していきたいなと思いました。音楽に限らずお仕事全般に言えることなんですけど、年々増していく興味や好奇心をこれからも大事にしたいです。
——4月から6月にかけては、全国14か所15公演✕2タイトルのダブルコンセプトコンサートツアー『大原櫻子 CONCERT TOUR 2021“Which?”』が開催されますが、約2年ぶりの全国ツアーになるのですよね。
そうなんです。2020年は舞台があってできなかったツアーがやっと開催できます!
——アルバム『Passion』をメインとした-P version-と、アルバム『l』をメインにした-L version -、それぞれ選曲と演出を変えて、1会場に2公演の異なるツアーが並行して走るとのことで、準備は大変そうですがとても楽しみにしております。
最長で4時間の舞台を1日2公演、合わせて8時間舞台に立ったこともあるので……今度のツアーは1公演70分だし、いけるんじゃないかなって(笑)。コロナ対策でこれまでの当たり前が当たり前ではなくなっても、そういう新しいスタイルに挑戦できるっていうのは、自分にとっていい機会でもあると思うんです。『両国花錦闘士』では、歓声は上げられないけど、そのぶんお客さんがとっても大きな拍手を送ってくださって、カーテンコールも通常の2〜3回ではなく、4回になることもあって。みなさんの想いに胸打たれたし、表現という形で精一杯お返しをしたいと思ったんですね。今度のツアーでも、これまで以上に会場に足を運んでくださることへの感謝を伝えたいし、みなさんの期待や想いに応えて、一緒に思いきり楽しみたいです。

取材・文=杉江優花 撮影=菊池貴裕

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