インディーズ時代から現在、そして未
来を見せた樋口楓『Kaede Higuchi L
ive 2021 "AIM"』ライブレポート

3021.2.19『Kaede Higuchi Live 2021 "AIM"』@TACHIKAWA STAGE GARDEN
2月19日、VTuber・樋口楓のワンマンライブ『Kaede Higuchi Live 2021 "AIM"』が東京・TACHIKAWA STAGE GARDENで開催された。
樋口はVTuberとして動画投稿を開始した2018年以来、さまざまなミュージシャンとコラボレーションして積極的に音楽活動展開。そして2020年3月にシングル『MARBLE』でメジャーデビューし、同年末にはライブタイトルにもなったフルアルバム『AIM』を発表している。そして今回のライブはインディ期からメジャー期までのボーカリスト・樋口楓としての歴史、そしてこれまでのVTuber・樋口楓の歴史を総ざらいするものとなった。
定刻、ステージ前に張られた透過型スクリーンに『AIM』のリード曲「アンサーソング」のMVと世界を同じくしながら、視点を変えた煽り映像が流され、そのスクリーンが天井へと上がっていくと、ステージには樋口の姿を映し出した巨大ディスプレイと、その両脇にギター、ベース、キーボード、ドラムからなるサポートバンドの面々が。彼らは『AIM』収録のロックナンバー「FRONTIER」でワンマンライブをキックした。
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
その後、ライブは樋口のコンパクトなMCを挟みつつ、ボーカリストとしてのキャリアを自由に横断するような内容に。彼女はメジャーデビュー前となる2019年に発表したダンスナンバー「Red Star」でオーディエンスのクラップを煽ったかと思えば、『AIM』に収録された最新ナンバー「TOBI-DERO!」ではステップを踏みながら、スカパンクを高らかに歌い上げた。さらにうなるベースが耳に残る2018年のファンクナンバー「Red Star」や、『MARBLE』のカップリングナンバーにしてドラムンベース仕立てのメタルチューン「Sugar Shack」と、彼女はカラフルなセットリストで前半戦のステージを彩った。
カラフルな前半戦から「カッコいいブロック」へ
樋口はメジャーデビュー当初から、自身が音楽活動をする動機のひとつにVTuberのファン層や認知の拡大を掲げていた。そして昨年末『AIM』を発表した頃から、それまで男性が多めだった自身のファンに女性が増えてきたことに触れ「このままVTuberの世界が広がったらいいな」とあらためて決意を固めると、ライブは、曰く「カッコいいブロック」へと突入していく。
『AIM』収録の「Be Myself」ではギタリストとキーボーディストがハードなソロバトルを繰り広げる中、〈Don't be too late〉〈時代はいつも加速し続けるから〉〈また次の焦躁が試そうとしている〉〈飲み込まれるもんか〉と、まさに先ほどの言葉を裏付けるようなメッセージを届け、さらにピコリーモ曲「ステレオアイデンティティ」を叩き込むと、そののちには2019年の1stライブ『KANA-DERO』で「一等賞の盛り上がりを見せた」という「響鳴」をドロップ。ステージと客席の温度をさらに上げてみせた。
樋口がこれまでのセットリストを振り返り、自身の音楽活動のルーツには動画視聴者から提供されたファンメイド曲があるとして、それらの楽曲を「メジャーデビューした今も、そしてこれからも歌い続けたい」と、古株のファンを喜ばせるMCを繰り広げたライブ中盤では、VTuber・樋口楓とボーカリスト・樋口楓が、メジャーデビュー曲のタイトルのようにマーブル状になる演出が施された。
それまで樋口を写しだしていたディスプレイに、2020年夏にYouTube上で開催された、彼女が所属するVTuberプロジェクト・にじさんじメンバーらによるゲーム『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』大会『にじさんじ甲子園』でVR関西圏立高校の“樋口楓監督”が投影される。そんな彼女が『にじさんじ甲子園』の熱狂と感動を振り返り「きらめけ、V R関西ナイン!」「明日へ羽ばたけ」とエールを贈ると、画面が切り替わり、そこにはこの日の主役であるボーカリスト・樋口の姿が。
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)

Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
そして”監督”も引用したフレーズなどを織り交ぜつつ『にじさんじ甲子園』の思い出を自ら歌詞にしたため、ZAQが作曲したアッパーチューン「Victory West!」をパフォーマンスすると、続いてディスプレイには、VTuber・樋口楓のオルターエゴとも言える存在、カエデちゃん(3歳)が登場。
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)

彼女が3歳児ならではの無邪気さを発揮すれば、それを受けた樋口は、カエデちゃんと違って年齢を重ねるごとに隠さざるを得なくなったプリミティブな欲求や欲望を食欲になぞらえて歌い上げる由緒正しきロックンロールナンバー「たこ焼きロック」をプレイした。
さらにもうひとりの樋口のオルターエゴにして、VTuberにはならなかった“樋口楓(22歳)”が、平凡ながらも変化のない自身の生活を嘆くと、ボーカリスト・樋口はそんな自分や同じ思いを抱えるファンを鼓舞する「アンサーソング」を投下。現在17歳である自身と、あったかもしれない過去や未来の自身がリレーするVTuberだからこそ可能な演出でオーディエンスを盛り上げた。
「まだまだ死ねないね」樋口楓の覚悟
ライブ本編最後のMCタイムで樋口は「VTuber活動を通じていろいろな経験ができて、いろいろな人に会えた」「心が大人になった」「VTuberという存在に出会えてうれしい」としつつも、周囲の人々とのギャップや“取り残され感”に言葉にならないもどかしさを感じていることを歌った、と「アンサーソング」に込めた自身の思いをポツリ。しかし、あらためてこの日、TACHIKAWA STAGE GARDENに集まったオーディエンスたちを見回すと「26歳くらいで死ぬんちゃうかなと思ってたけど、まだまだ死ねないね」と笑顔を浮かべていた。
その後、樋口はメロウな16ビートに乗せてハイトーンボーカルを聴かせる「mìmì」と、ピアノをフィーチャーしたミディアムチューン「For you」という渋めの2曲で魅せると、直後には一転。ブライトなディスコビートに乗せてVTuber・樋口楓の現在地を歌う「現代社会、ヒロインは!」と、ヌケのいいロックナンバー「アブノーマルガール」を披露して、万雷の拍手の中、ディスプレイという名の彼女のステージをあとにした。
その後も鳴り止まないアンコールの拍手に応えて、ギターの鋭いカッティングと、どこか妖しげなハモンドオルガンのが絡み合う「Q」をまくし立てるように歌った樋口は、満面の笑みとともに告知があるとひと言。今夏、この日のライブが映像商品としてリリースされることと、現在制作中の新曲が7月放送開始のアニメ『100万の命の上に俺は立っている』第2シーズンのOPテーマに採用されることをアナウンスして、オーディエンスを驚かせた。
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)

Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)

この日のラストナンバーは、メジャーデビュー曲「MARBLE」だ。ここまでデビュー以来キービジュアルになっていた濃紺のロングコート姿だった樋口は、瞬時にいつものスクールガールルックにお色直し。そしていくつものスモークが噴き上がり、またいくつもの火柱が上がるステージで「みんなの熱いAIM(照準)をここに集めてください!」「これから大変なこともあると思うけど、明日と未来を自分のものにするために私と一緒に歩き続けよう!」とのシャウトとともに、この曲を高らかに歌い上げて、メジャーデビュー後、初のソロライブを締めくくった。

Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
Photo:花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)
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前述のとおり、今回のライブは樋口のVTuberデビュー後のキャリアを振り返る構成になっていた。そして楽曲群を通じてその歴史を紐解くことで、彼女はVTuber≒2.5次元という、ある種あいまいな存在であるにもかかわらず、一切ブレなく真っ直ぐに活動してきたことを証明してみせた。また、インディ時代の楽曲群や歴史と重ね合わせることで、メジャーデビュー後、彼女はVTuberとしてのキャリアで手にしたものはもちろん、失ったものすらも音に乗せてパフォーマンスしていたことを明らかにしていた。樋口楓なら地上波テレビアニメという広い世界に打って出ても、きっと自身の美意識や思い、そしてファンの願いを裏切ることなく音を鳴らし続けてくれるはず。そんなことを予感させてくれる公演だった。
取材・文=成松哲 撮影=花菜(株式会社オギクボマン)・今元秀明(Studio3969)

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