ライブハウスの火を消さない奇跡の7
000人超が視聴した9時間にわたる配信
フェス「LITORY LIVE FLAME ~Live
my own way~」をレポート

ライブハウスの火を消さない――。コロナ禍で苦難に立たされているライブハウスがこれからも存続してゆくことをテーマにした無料オンラインロックフェス「LITORY LIVE FLAME ~Live my own way~」が開催された。会場となった下北沢ReGのステージには、ライブハウスを愛する全10組のバンドやアーティストが集結。9時間にわたり、ライブハウスへの想いをステージに刻んだ。転換中には、メインパーソナリティの鮎貝健氏によるインタビューも行なわれ、コロナ禍で感じたこと、ライブの在り方など、それぞれのアーティストと「いま」を包括的に伝えるイベントになった。以下のテキストでは、全10組のライブの模様をレポートする。
climbgrow
トップバッターはclimbgrow。昨年メジャーデビューを果たし、“成り上がり者”という意味をバンド名に掲げる滋賀発の4人組は、杉野泰誠(Vo/Gt)が振り絞るような熱いシャウトを聞かせる「風夜更け」で口火を切った。初っ端から容赦ないフルスロットルのテンション。「行こうぜ! 俺らが日本のロックンロールバンド、climbgrow!」。杉野の声に気迫が滲む。谷口宗夢(Dr)が叩き出すタイトなビート、奔放にうねる立澤賢(Ba)のベースラインと、“ステージの主役は自分だ”と言わんばかりの近藤和嗣(Vo/Gt)のギター。衝動を剥き出しに暴れまわる楽器隊をバックに杉野のしゃがれた歌声がその場を完全に掌握するように不敵に響きわたっていく。「これからの未来は俺たちが作っていく」(杉野)。そんな言葉と共に届けた「未来は俺らの手の中」は、どんなときもロックンロールを鳴らし続ける、そんな想いを託したこの日に相応しい1曲だった。絶望の夜を越えてゆけと鼓舞するラストソング「ラスガノ」まで、全力で歌い切り、去り際に「負けんな!」と言葉を残した杉野。climbgrowのロックンロールには激しさだけはなく、痛みを包み込む優しさがあった。
NUBO
NUBO
軽やかに転がるイントロの“あの”ギターリフが鳴り響いた瞬間、NUBOの時間がはじまることを高らかに告げる「THREE TWO」からキックオフ。この時間を共有する仲間を出迎えるように、ステージ中央で大きく両手を広げるTommy(Vo)。じんわりと助走するようなバンドサウンドに一成(Vo)のハーモニカが重なる。“迷わず振り抜け”と、ツインボーカルで紡がれるポジティブなメッセージには一点の曇りもない。サブ(Dr)が叩き出す軽快なリズムに前進の意思を刻んだ「Such one」から、「好きなことにはとことん行こうぜ!」と突入した「GODA」。Wakai (Gt)とマツシタジュンジ(Ba)の竿隊が激しく暴れまわった「Present changes past」へと、彼らのライブには欠かせない鉄板曲を惜しげもなく連発するセットリストだ。MCではTommyが、コロナ禍にあって様々な状況に置かれた人たちの生活に想いを馳せ、「いつか報われるまで、僕らは音楽をやろうと思います」と伝えると、その想いを音楽に託した「RESHINE」へとつないだ。“LOVE LIVE SPACE”のフレーズで画面越しのシンガロングを誘った「L.L.S」から、「Circle」へ。汗ダクになりながら、画面の向こうにいる視聴者と固く手をつなぐように手を差し出すTommyの仕草が熱かった。
■茉莉奈
茉莉奈
3番手は、出演アーティスト中、唯一の女性ソロシンガーとなる茉莉奈だ。「さあ、最後まで楽しんでいくよっ!」。革ジャンに身を包んだロックなスタイルで、1曲目の「Everlasting」を皮切りに、激しく身振り手振りを交えながらパワフルな歌を聴かせていく。「音楽に助けられてきた私がいまこうしてライブハウスで音楽ができることが幸せです。“ここに帰ってきていいんだよ”って言ってくれる場所がライブハウスだと思っています」。そんなふうにライブハウスへの想いを伝えると、儚げで壊れそうなバラード「約束と夕空」、真っ赤な照明が和テイストの楽曲に映える「千年コントラクト」、キュートなポップソング「yume」まで、曲ごとにまったく異なる世界を作り上げた。茉莉奈は、昨年ソロとして本格始動したばかり。この状況下で新たなスタートに立つ過酷さもあるだろうが、いまできることを全力でやる。そんなチャレンジを厭わない茉莉奈の芯の強さを感じるステージだった。
HOTSQUALL
「お家で踊ってもいいからねー!」というチフネシンゴ(Gt/Vo)の親しげな呼び声からスタートしたHOTSQUALL。初っ端に、昨年リリースされたアルバム『SEVEN SHOUTS』からの燃え滾るようなナンバー「Flame」を叩きつけて、最新のバンドのモードで勝負をかける。間髪入れずに「Yuriah」から「Let's Get It On」へ。ドウメンヨウヘイ(Dr)が性急に刻むツービートのうえを駆け抜けるグッドメロディ。「お茶の間のみんな一緒にヘイホーしようぜ!」と誘いかけるステージには、画面の向こう側をライブ会場に変えてやるという覚悟が滲む。「泣いてもいいけど、くよくよするなって曲」と紹介した「No Boy No Cry」、背中に強いライティングの光を浴びながら、「ライブハウスは陽のあたる場所だ!」と、シンガロングを誘った「Place in the sun」へ。ホスコにとって、この日が初の無観客ライブだというが、22年間にわたり、何百本もライブを重ねてきた彼らの目には、そこにいないお客さんの姿をたしかに感じているのかもしれない。“人生を笑え!”と、バンドが大切にするテーマをぶつけた「Laugh at life」まで、HOTSQUALLが体現する太陽のようなメロディックパンクは暗闇を照らす希望そのものだった。
SECRET 7 LINE
「ライブハウスの炎を燃やしにきたぜ!」。その第一声から、なぜ、この日、この場所で自分たちが音を鳴らすのかという意味を噛みしめるように叫んだRYO(Vo/Gt)の言葉で幕を開けたSECRET 7 LINE。1曲目「1993」から、スリーピースとは思えない表情豊かなバンドサウンドにのせて、RYOとNarita(Vo/Ba)の人懐こいツインボーカルが滑らかにスイッチする。後方に陣取るTAKESHI(Dr)も時折立ち上がり、スティックを力強く振り下していた。パンクミュージックへの愛を込めた「COME BACK TO YOU」、画面の向こう側をダンスフロアに変える「DANCE LIKE NO TOMORROW」を畳みかけ、ステージを怪しげな光が照らしたダークなポップパンク「TILL THE SMELL`S GONE」を終えたところには、「ライブハウスになってきたやろ? そっちも」と、問いかけたRYO。「いまできることを最大限にやって、ライブハウスを、ライブバンドを、ライブキッズを、これからもつなげていきましょう」と語りかけた「IT'S ALL RIGHT」のあと、 “深呼吸して歩き出そう”と日本語詞を織り交ぜて歌った「YOUR SONG」まで、息つく暇もない全8曲。ジャンプをさせ、シンガロングを誘い、最後までライブハウスの作法を崩さずに駆け抜けた愚直のステージの最後には、「また必ずライブハウスで会おうぜ!」と、画面の向こうのリスナーと約束を交わした。
■THIS VERY DAY
THIS VERY DAY
長丁場のイベントも折り返し地点を過ぎた。6組目に登場したのは、この日の出演バンドのなかではもっとも若い、2019年結成の5人組 THIS VERY DAYだ。青空の下が似合いそうな開放的なロックナンバー「Departure」を皮切りに、ピアノボーカルYujiの伸びやかなボーカルが骨太のバンドサウンドのうえを伸びやかに広がっていく。バンドのコンセプトが「挫折」と「希望」だという彼らは、泣き言や弱さも包み隠さずに内包した等身大な歌を届ける。ジャズの要素を取り入れたピアノが美しく絡む「星に願いを」のあと、「ライブに救われて、ライブに助けられて、ライブで強くなって。俺たちもそうなれるように、一緒に一歩ずつ前に進んでいきましょう」と、この日集結した先輩バンドへのリスペクトを込めて語りかけたYuji。ウォーウォーという力強くシンガロングを誘った「Stay with you」まで、短い持ち時間ではあったが、心揺さぶる歌で爪痕を残すステージだった。
THE CHERRY COKE$
ティンホイッスルとアコーディオンの調べが、ハイカロリーなロックサウンドと賑やかに重なる「火華~HIBANA~」からキックオフ。唯一無二のアイリッシュ・パンクバンド、THE CHERRY COKE$の時間だ。「画面の前だからって、手抜きするんじゃねえぞ」。KAT$UO(Vo) の熱い煽りが画面の前とライブハウスの距離を一気にゼロにする。バンジョーとホイッスルが軽やかに重なるインスト曲「John Ryan's Polka」から、お祭りソング「Dong Chang Swag」へ。この日は、フロアにお客さんがいない状況を活かして、ステージにアリーナ会場のような出島が設置されていたが、それをフル活用するダイナミックなパフォーマンスも彼らならではだ。MCでは、LITORY LIVE FLAMEの意思に寄せて、「真っすぐで実直な姿に感銘を受けた」と、KAT$UO。イベントに捧げた「My story ~まだ見ぬ明日へ~」や「SAILOR'S HYMN」は、何度でも立ち上がる“物語”と、再出発を讃える、このイベントに相応しいナンバーだった。ラストは「Of Music」の温かな演奏のなかで、様変わりしたライブハウスの状況、それでも変わることのない音楽の価値について触れ、「バンドマンの誇りにかけて、またみんながライブハウスに戻ってこられるその日まで鳴らし続けるから」(KAT$UO)と伝えて、フィニッシュ。20年以上にわたり、世界中でライブを続けているチェリコの音楽は、こんなことでは終わらない。そう確信できる揺るぎないステージだった。
■The Number Zero
The Number Zero
10組のアーティストがライブハウスへの想いをつないでゆくイベントも残り3組。終盤に差しかかり登場したのは、ノルウェー出身の女性ボーカルIngerを擁するThe Number Zeroだ。「短い間でも楽しませてあげられたら、うれしいと思います」と、Ingerが英語と日本語で静かに伝えると、「Web of Truth」からライブはスタート。楽器隊はギターのTyraとマニピュレーターKに加えて、サポートメンバーとしてKOUJI(Ba)とREIJI(Dr)を迎えた5人編成が、エレクトロと重厚なメタルサウンドのハイブリットによる激しくも美しい音像を作り上げていく。ダンサブルで躍動感あふれる「Manic Pixie Nightmare Girl」、ステージ上でヘドバンを繰り広げた新曲「Reverse Magic」から、Ingerのパワフルな歌唱がライブハウスを支配するような「Comets」まで、次々に表情を変えた全4曲。「何よりもライブが好き」と語り、コロナ禍にあって、配信ライブにも積極的に取り組んでいるThe Number Zeroの魅力が凝縮されたステージだった。
Xmas Eileen
トリ前。ジングルベルのSEで乗り込んできたXmas Eileen。トレンチコートと仮面に身を包んだメンバーが堂々たる風貌でステージに現れると、早速、ボーカル左が「モニターの前で叫んでくれよ!」と、カメラ目線でアピールする。疾走するエレクトロロックにボーカル二人の高速ラップが交錯する「Kiss me Kill me tonight」、昨年リリースされた最新EP『PROTOTYPE』から、太陽のほうへと力強く歩んでゆく生き様を鼓舞する「PATH」、さらに爆発力のあるサビへと痛快にアップビルディングする「BAD BOYS BE AMBITIOUS」では、コミカルなポーズで踊ったかと思えば、全編日本語の歌詞で、涙を越えてゆく覚悟をストレートに歌う「99.9」へと、強力なライブアンセムをノンストップで連発していった。4曲を終えて、トレンチコートを脱ぎ捨てたメンバー。MCでは、ボーカル右が、無観客のライブを経験したことで、「いつも目の前でバカ騒ぎするナイスなやつらのおかげで、自分たちのライブが成り立ってくることがよくわかりますね」と語り、この状況下でもライブハウスのために命を賭ける“バカたち”がいることがうれしいと、らしい言葉で感謝を伝えた。ステージ狭しとモンキーダンスで暴れた「Dance Number」まで、頭から終わりまで攻めに特化した熱すぎるステージに、またライブハウスという場所が恋しくなってしまった。
KNOCK OUT MONKEY
約9時間にわたった「LITORY LIVE FLAME」のトリを務めたのは、神戸の暴れ猿ことKNOCK OUT MONKEY。開始早々、w-shun(Vo/Gt)が「2021年初ライブ。初ライブが配信ライブ、時代っぽいね」と言ったが、結成から20年にわたり、生粋のライブバンドであり続ける彼らが“2月に初ライブ”なんて、こんな時代でなければありえない。1曲目「HOPE」から、この瞬間に微塵も後悔を残さないとでもいうような全力のパフォーマンスで揺るぎない希望を描いていく。やがて花咲く未来の訪れを祈るようなミディアムテンポ「実りある日々」では、“いつだってライブハウスはフリーダム”と即興のフェイクを挟んだw-shun。続く「映画にも負けないシナリオ」では、この状況下で“動き出す”というやり方を選んだ「LITORY LIVE FLAME」への賛同の意を表すと、「お前が主役のライブハウスを今後も作っていきましょう」と呼びかけた。ライブハウスという場所への熱い想いを伝えるべく、何度も言葉を尽くしたステージ。底抜けの楽しさを詰め込んだ「Our World」では、「暴れ狂える時代に戻ったときに、この身が滅ぶようなライブをするから」と、最後までライブバンドとしての矜持を貫いて、イベントを締めくくった。
 全10組のステージが終わってみて、配信だからと、“ゆったりと聴かせる曲”を選ぶようなバンドがいなかったな、と思った。全国のライブハウスをかけずりまわり、そこで育てあげ、ライブハウスでこそ聴きたい曲を、配信ライブでも演奏していた。そして、愚直に訴え続けていた。やがて苦難の季節は終わる、涙は越えてゆける、あきらめてはいけない、と。ライブハウスはそういう場所だ。暴力的なまでの爆音が、昨日までの悲しみに寄り添い、明日を生きる勇気をくれる。彼らはそれを誰よりも知っているからこそ、ライブハウスという文化を守り抜くために戦っていた。その火は決して消してはいけない。
取材・文=秦理絵 Photo by 大橋祐希

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