山田孝之主演のミュージカル『モンテ
ィ・パイソンのSPAMALOT』ーー人気作
のパロディとナンセンスなネタが満載

「これはミュージカルだから、聖杯を見つけてウェディングを挙げなければ、評論家は『達成感が少ない』とか言う」。この言葉は、大阪・オリックス劇場で上演中の舞台『モンティ・パイソンのSPAMALOT』で放たれる台詞のひとつだ。
(C)ミュージカル「モンティ・パイソンのSPAMALOT」製作委員会
同作は、世界中に影響を与えた伝説の喜劇集団、モンティ・パイソンの映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1974年)を原作とするミュージカル。ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズの監督で知られる福田雄一による3度目の再演で、山田孝之、賀来賢人、小関裕太、三浦宏規、矢本悠馬、お笑いコンビのシソンヌ、新妻聖子らが出演。中世イングランドを舞台に、聖剣エクスカリバーの使い手として有名なアーサー王らが、事情がよく分からないまま聖杯を探しまわる物語だ。
先述の台詞があらわすように、この舞台の大きな見どころは、ミュージカルにありがちな展開、歌の内容、台詞など予定調和と言われそうなものにあえて踏み込み、メタ的表現を絡めてそれらを痛快に皮肉っていく部分である。たとえば、山田孝之扮するアーサー王に聖剣エクスカリバーを捧げるため、湖から貴婦人が出現するエピソードについて「水の中から人が出てくるなんておかしい」というようなツッコミが入る。また、バックミュージックが鳴れば「いま歌ったのは誰だ」と後ろを振り返る。
(C)ミュージカル「モンティ・パイソンのSPAMALOT」製作委員会
極めつけは、湖の貴婦人を演じた新妻聖子の歌唱シーン。「バラード調で最後にキスをする」、「男女が寄り添って歌うときの距離が近すぎる」など、ミュージカルの定番を交えたブラックジョークたっぷりの歌詞を、本格的な歌声でうたいあげる。さらに新妻は、名作に引っ張りだこの舞台女優にも関わらず、物語中盤から出番が減ることへの恨み節まで歌として披露し、「私、もっとまともなソロが歌いたい」と訴える始末。
ほかにも、大ヒットしているアニメーション映画、大人気日韓アイドルグループなど、誰かに絶対怒られそうなパロディが満載。そういった現実性を巻き込んだ演出が特徴的で、なおかつ売れ線に乗っかりまくっていく。あと、賀来賢人のプライベートの姿を引っ掛けてディスる、長谷川忍(シソンヌ)の台詞も秀逸だった。
ひときわ笑いを誘ったのは、アーサー王と旅を共にするガラハッド卿が歌う曲だ。いろんな意味でスレスレな選曲とあって、周囲が「著作権が大変なことになる。それにあの事務所は……」と、芝居中とは思えない本気のトーン。
(C)ミュージカル「モンティ・パイソンのSPAMALOT」製作委員会
芝居の間合いやテンションはまさに福田雄一ワールド。即興かと思わせる不安定な音階の歌、気持ちの悪いなまりの喋りなどで、観る者をずっとムズムズさせる。アドリブなのか設定なのか分からない曖昧な境界線を引き、不思議で不気味な場面を作り出す。役者も思わず吹き出して笑ってしまう、素の場面もいくつか見られた。何より、ワンシーンごとに必ず何か笑いでオチをつけようとするところが、福田作品の真骨頂である。
それにしても山田孝之はお見事である。なぜなら、どんな場面であっても一切崩れないからだ。舞台上の役者たちのおかしな言動、終始巻き起こる観客席からの笑い。山田は、それらに流されることなくどっしりと芝居をやり抜く。グッと目ヂカラを込めたあの印象的な顔つき、太くて凛々しい声。福田作品での山田はいつも、徹底的にふざけている。だけどそのクセに、佇まいは真面目過ぎる。そのギャップがおもしろい。
そもそも原作のモンティ・パイソンの作品群は、不条理かつナンセンスな笑いで、演劇界、映画界の偉人たちを魅了してきた。同作は、そんなモンティ・パイソンの世界観への憧れを感じさせる作品である。
(C)ミュージカル「モンティ・パイソンのSPAMALOT」製作委員会
『モンティ・パイソンのSPAMALOT』は2月23日(火・祝)まで大阪・オリックス劇場、2月26日(金)から28日(日)まで福岡市民会館大ホールで開催される。
取材・文=田辺ユウキ

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