まだ、何者にもなれる 鈴木愛奈を追
いかけたくなった1stライブツアー『
Aina Suzuki 1st Live Tour ring A
ring ‒ Prologue to Light ‒』横浜
公演レポート

2021.2.11(Thu)『Aina Suzuki 1st Live Tour ring A ring ‒ Prologue to Light ‒』@パシフィコ横浜 国立大ホール
2021年2月11日(木・祝)にパシフィコ横浜 国立大ホールで開催された鈴木愛奈1stライブツアー『Aina Suzuki 1st Live Tour ring A ring ‒ Prologue to Light ‒』横浜公演のレポートをお届けする。
本公演は2020年1月にリリースされた1stアルバム『ring A ring』のお披露目の場として設けられた自身初のワンマンライブだ。元々、昨年6月に中野サンプラザで開催が予定されていた同ライブだったが、COVID-19の影響で公演中止に。
情勢を考慮してリリースから約1年越しのタイミングで、横浜・大阪・名古屋・千歳の4都市を巡るライブ”ツアー”にパワーアップさせての開催となった経緯がある。ファンはもちろん、何より本人が1番この日を楽しみにしていたのではないか、そう感じさせた2時間のライブパフォーマンスであったと先に記しておきたい。
撮影:中原 幸
舞台が暗転すると、暗闇の中からオルゴールの音が聞こえてきた。アルバム1曲目「The Start of Phoenix」だ。曲の終わりと同時にパッと舞台が明るくなり、黒のドレスを身にまとった鈴木愛奈とバックバンドが映し出され、少し緊張した面持ちのまま、アルバムの2曲目でもある「ヒカリイロの歌」からライブが幕を開けた。
「始まるよ わたしの道」という歌い出しから始まる同曲はアルバム初聴時と同様、新たな物語の始まりを想起させたし、ライブツアーとして復活した本公演にサブタイトル的に追加されていた「Prologue to Light」という伏線も、全てを解き放ってくれた事に気が付いた。
この流れでアルバムの曲順通りの選曲が続くのかと思いきや、3曲目は2ndシングル『もっと高く』のカップリング「Cocoon」。そして「Butterfly Effect」と彼女の高い歌唱力を出し惜しみせず序盤から聞かせにくる強気な選曲を続けた。
正直に言えば「飛ばしすぎでは?!」と思わずにいられなかったが、そんな彼女の気迫とも思える姿勢を強く感じられたし、何より一気に彼女の世界観へと引き込まれた。
撮影:中原 幸
直後のMCでは、掛け声なし・席数を減らし着座でのカタチにはなりつつも、こうやって無事にライブを開催できたことへの安堵が混じったような満面の笑みで、現地勢・配信勢に「マイクを胸に近づけたら、心臓の音がみんなに聞こえるんじゃないか…ってくらいまだまだ緊張してます」と本音を漏らす。
中野サンプラザ公演の中止発表から9ヶ月、悔しい想いを”ライブツアー”という更に高いハードルで倍返しにして届けてくれた彼女が感じているプレッシャーは想像に難くない。
そんな気持ちと同時に自分を鼓舞するかのように「温かく迎えてくれたファンの皆さんとの”縁”を大切に繋いでいきたい」と決意を語った。”縁”や”Ring”という言葉は彼女のラジオなどを聞いていてもよく耳にするし、輪を広げていきたいという意味がアルバムやラジオの番組名にも込められているのだという。
撮影:中原 幸
先ほどまでが”初心表明”的な景気の良いナンバーだとするならば、続く「やさしさの名前」「はつこい」では、打って変わって、優しくも温かい歌声を届けてくれた。
「Happiness」はギターのカッティングが印象的なポップなダンスナンバーで、彼女と一緒に手を振り会場の一体感が増していき、振り付けが可愛らしい「アイナンテ」ではサビで「にゃー!」のコールアンドレスポンスを(大きな声が出せないので)心の中で楽しんだ方も多かっただろう。会場のボルテージが徐々に上がっていくのを肌で感じた。
撮影:中原 幸
アイナンテ後のMCパートではバンドメンバーの紹介も行われた。キーボードにはシンガーソングライターの酒井ミキオ氏も加わるなど豪華なメンバーに目が行きつつも、ライブはアコースティックパートへ突入。
純白の椅子に腰掛け「antique memory」、「繋がる縁 - ring -」を披露。 彼女の歌声に寄り添うようなアコーディオンやアコースティックギターのグルーヴに酔いしれつつ、音数が減るからこそ、ビブラートの強さやしゃくりの強弱など、彼女の最大の武器である歌声をより深く感じることができた。
撮影:中原 幸
舞台は再び暗転し、ドラムへスポットライトが当たるとバンドの各パートへとリレーしていくインターリュードがスタート。どこからともなく三味線や琴の音が聞こえてきたと思いきや、花魁風の艶やかな真紅のドレスにお色直しした彼女が登場し「玉響」、ソーラン節のコールアンドレスポンスが楽しい「祭リズム」、「月夜見moonlight」と和テイストなロックナンバーを3曲続けて届けた。
ライブも中盤を迎え、だいぶ緊張もほぐれてきたのか伸び伸びとした歌声を届ける姿を見て、彼女の歌手としてのルーツが”民謡”であることを思い出す。ここはまさに本領発揮といったところだ。
自身もお気に入りだという真紅のドレスにも軽く触れたMCでは、現地のファンによるペンライトを回すというファインプレー(?)のおかげもあって、お色直し後のMCパートお決まりの「回って〜」のやりとりで衣装の後ろ姿も拝みつつ「やっぱりアニソンが大好きなんだよ!」と意気込み、続けたのはアニソンカヴァーパート。
『劇場版 名探偵コナンから紅の恋歌』主題歌の「渡月橋 〜君 想ふ〜」は”から紅”のタイトル通り、まさに先ほど着替えたばかりの真紅のドレスにピッタリの選曲だし、「いつか歌いたいと思っていた」ほど思い入れが深い曲ということで、大切な1stライブで歌うことにしたのだとか。
「しっとりした分、次は盛り上がる曲を!」という言葉から始まったカヴァー2曲目はTVアニメ『デジモンアドベンチャー02』主題歌の「Butter-Fly」。説明不要の”THE 王道のアニソン”も、第7回全日本アニソングランプリファイナリストらしく、堂々と歌い上げた。
ライブも終盤に突入し「もっともっと盛り上がれますか!」「2階も3階もついてきてよ!!」とあおり「もっと高く」「遥かなる時空-そら-を翔ける 不死鳥-とり-のように」と強めの楽曲で更に畳み掛けてきた。ここまで数回のMCパートこそ挟んでいるものの、かなりの曲数を間髪入れずに歌い上げる彼女のパワフルさは少しイメージになかったので、素直に驚いた。
そんなことを思っていると、再び会場は暗転し「Eternal Place 第一楽章」が流れる。アルバムの曲順同様に、いよいよライブにも終わりが近づいていることを察した。
最後に、純白のドレスに着替えた彼女が登場して歌ったのは「Eternal Place 第二楽章」。2時間の長丁場の最後にまさにふさわしい、荘厳で壮大な一曲だ。
ここまで和テイストなロックナンバーやアニソンカヴァーなど、本当に多様な一面を全力で見せてくれたからこそ、達成感のような、喪失感のような、何とも言い難いが大きな感情が胸にこみ上げてくる。
素晴らしいラストの後は、アルバム最後の1曲「Eternal Place 第三楽章」と共に最後の挨拶へ。
自分は今夜のステージを見て、正直に言うとかなり驚いた。これまでに抱いていた彼女のイメージを大きく覆されたからだ。自分がこれまでに見たことのあった、Aqoursのライブパフォーマンスだけでは決して垣間見ることの出来なかった”鈴木愛奈”の姿が確かにそこにはあった。小さな身体を忘れさせるくらい大きく身ぶり手ぶりするステージングや、聴く者を圧倒する力強い歌唱力だったり、グループとしてではなく、個としての力強さをまじまじと感じた。いや、むしろグループで活動した大舞台での経験がそうさせていることは間違いないだろうが、そんな経験も経て、これから”アニソンの歌姫”としてのステップを駆け上がっていくだろうと予感させる何かを感じずにはいられなかった、と断言したい。
撮影:中原 幸
アンコールの際にMCで「1度しかない1stライブ」と語っていたように、誰よりもこの日を待ち望んでいたのは彼女自身であろう。アニソンカヴァーのパートでも少し触れたが、彼女は高校生の時に一度、第7回全日本アニソングランプリにてファイナリストまで駒を進めた実力者だ。その翌年には声優としてデビューを果たすわけだが、そんなデビュー当時から夢見ていた”アニソンシンガー”としての初のライブで「ずっと語りたいと思っていた」と胸の内にずっと秘めていたとあるエピソードを最後に語ってくれた。
彼女自身がなぜアニソンシンガーを志すようになったのか、少しツライ過去の話も交えつつもどれほどまでに「アニメ・アニソンが好きか」という詳しい話は、”1度しかない1stライブ”を一緒に見届けた皆さんと本人の胸の中で大切に共有してほしいと思うが、そんなエピソードを打ち明けてくれた後に聞くアンコール最後の1曲「今日のわたしをこえて」はファンにとっても大切な1曲になったことだろうと思う。
撮影:中原 幸
いわゆる王道なアニソン然とした楽曲から、コミカルな曲、ハードなサウンドのロック楽曲や、オーケストラのミュージカルのような曲まで、彼女の巧みな歌唱力や実力を十分に堪能できたライブであったことは、言わずもがなだが、改めて伝えたい。そんな彼女が今後、どのような曲と出会い、どんなアニソンシンガーとなっていくのか。きっと何者にでもなれるからこそ、どんな道を歩んでいくと決めていくのだろうか?アンコール最後の「今日のわたしをこえて」最後のフレーズにもある「あの日描いた景色の先へ、今日のわたしをこえて」という歌詞の通りに、彼女のこれからにとても興味が湧いたライブだった。今日見た景色を、いったい何色で塗り替えていくのか。鈴木愛奈の見据える先を今後もチェックしていきたいと思う。
レポート・文:前田勇介 撮影:中原 幸

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