おすすめ新書:『リスクの正体~不安の時代を生き抜くために~』(神里達博著)岩波書店

おすすめ新書:『リスクの正体~不安の時代を生き抜くために~』(神里達博著)岩波書店
感染リスク高まる中、新書『リスクの正体』を読んでみた新型コロナウイルスが猛威をふるい、「感染リスク」という言葉も日常的に使われるようになってきました。会食はリスクが高い、リスクを回避しよう、など、もはやリスクという言葉を聞かない日はないほど。でも、リスクって実際にはどういう意味なんでしょう? 「危険」や「脅威」では、なぜいけないの?
『リスクの正体』は、科学技術に伴うリスクや、自然現象のリスクについて研究している千葉大学の神里達博教授が、現代社会の様々なリスクについて述べている本です。初出は朝日新聞のコラムなので、その時々のリスク、ヒアリ騒動や豊洲市場の汚染問題、テロのリスクなどについて書かれているのですが、全体的に「このリスクはどういうのもで、どう対処するのがベストだろうか」という視点が貫かれています。
実はこの「リスク」という言葉、神里教授によると、比較的新しい言葉なのだそうです。本書の最終項である“「安全安心」とリスク”という項目では、リスクという言葉の起源が、西洋の近代社会とリンクしていることが説明されています。つまり、それまでキリスト教圏ではすべて教会が決めていたことを、市民社会になり、人々が決められるようになった。そこで、自由と引き換えに、個々人が「リスク」を負うことになったというわけなのです。
本書では、リスクとは「能動的に行動することに伴う『好ましくない』こと全般を指す」と解説されています。リスクは自由や個人の権利と必ずセットになるはずなので、まずは「能動的に行動できること」が前提なんですね。知らなかった。
でも、一方はといえば、日本人が本当に自分の意志で「能動的に行動できて」いるかというと、いささか疑問ではあります。その自由が保証されていない場面が多いですし(上司の命令が間違っていても従わなければならないなど)、一方で市民のほうも何か大きなことは会社や政府に決めてほしいという依存心が強い気がします。
神里教授も本書の中で、「リスクという言葉が日本語化されていないことが、この概念を私たちの社会が消化しきれてない証拠」と指摘しています。個人個人がリスクを引き受けるためには、一度は近代的な市民社会というものを実現しなければならないのかもしれません。
政府がリスク、リスクと言っても、それが我々が選択した能動的な行動でなければ、個人が負うことはできません。そのことはハッキリ言わなければいけないと思うと同時に、この政府を一応は民主的な手段で選んだのも、やはり我々だという自覚も必要な気がします。
(文/吉田直子)
『リスクの正体 ~不安の時代を生き抜くために~』(神里達博著 岩波新書)は岩波書店より発売中。880円(税別)
https://books.rakuten.co.jp/rb/16300927/

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