現代社会に歴史が鋭く問いかける、ミ
ュージカル『マリー・アントワネット
』開幕~笹本玲奈のマリーを観た

『エリザベート』『モーツァルト!』で大人気を博したミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)&シルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)のコンビが、遠藤周作の小説「王妃マリー・アントワネット」を原作に手がけた日本発のオリジナル・ミュージカル『マリー・アントワネット』。2006年に初演され、2018年には新曲を追加しての新演出版も好評を博した。その新演出版の再演が、2021年2月21日(日)まで東京・東急シアターオーブにて上演中だ(3月には大阪・梅田芸術劇場メインホールにて公演あり)。Wキャストのうち、マリー・アントワネット=笹本玲奈、マルグリット・アルノー=昆 夏美、フェルセン伯爵=甲斐翔真、オルレアン公=小野田龍之介の回のGPを観た。
フランスが財政危機に瀕する中、王妃マリー・アントワネットは飢える民衆に見向きもせず、きらびやかなドレスを着ての華やかなパーティを楽しみ、再会したフェルセン伯爵との禁じられた恋に心を燃え上がらせていた。庶民の娘マルグリット・アルノーはマリー・アントワネットへの憎悪をたぎらせ、言葉の力で民衆を束ねていく。そんなマルグリットに、権力の座を狙うオルレアン公が接近し――。日本でも名作少女漫画「ベルサイユのばら」でおなじみのフランス革命の物語が、今作においては、マリー・アントワネットとマルグリット・アルノー、同じ“MA”のイニシャルをもつ二人の女性を軸に描かれてゆく。
ミュージカル『マリー・アントワネット』舞台写真
自分が注目されていること、嫉妬を買っていることを意識せず、不用意に振る舞う、そんな笹本のマリー・アントワネットのありようは、現代においても、有名人やセレブがちょっとした言動で炎上したり、あることないことネットで叩かれたりする様を彷彿とさせずにはおかない。ポップな曲はポップに、ロック調の曲では絶唱、しっとりとした曲ではしっとりと、曲によって歌い方と雰囲気を変えている様子がうかがえる。そんなマリーに献身的な愛を捧げ続けるフェルセン伯爵役の甲斐は、直情を感じさせる歌唱が印象的。フェルセンがマルグリットに対して対等な人間として真摯に接することが、それまで愛されずに生きてきたマルグリットの心に変化を生じさせる要因のひとつとなっているが、甲斐フェルセンのマルグリットへの接し方は温かみを感じさせる。恋人の悲報を聞いての反応にも、深い悲しみがこめられている。
笹本玲奈

ミュージカル『マリー・アントワネット』舞台写真

マルグリット・アルノー役の昆が、パンチの効いた歌声に詩情と痛切な哀しみとを感じさせる好演を見せる。革命を経験したことで、マリー・アントワネットが人間として成長を見せていくのと同様、マルグリットもまた人間として成長を見せていく、その過程がパラレルで描かれていくのがこの作品の見どころのひとつである。貧困にあえぐ昆のマルグリットは、マリー・アントワネットを“敵”として憎むところから始まり、その敵を排除さえすれば自分を取り巻くこの絶望的な状況に何かしらの解決が与えられると夢見ている。しかしながら、その“敵”さえもが社会の巨大なシステムの前に時として無残なまでに無力な姿をさらさずにはいられない一人の人間であることを知り、同じ女性として共感を寄せる、そこが、この作品のクライマックスである。小柄な昆マルグリットが、理想の実現よりも権力闘争を優先する、自分より体躯の大きな男性たちに、ときに痛めつけられながらも敢然と立ち向かっていく姿には心の内に快哉を叫ばずにはいられない。そして、ラストで、――今なお続く暴力の連鎖を人はどうやって止めることができるのか――と客席に向かって問いかける姿は、夜空にあって小さいながらもはっきりとした輝きを放つ星の如く、一条の希望の光を一身に担うかのようである――彼女の姿が、その問いのひとつの答えを示している。

ミュージカル『マリー・アントワネット』舞台写真
(左から)甲斐翔真、昆夏美
恋と革命、シリアスな物語のコミックリリーフとして、マリー・アントワネットの髪結いレオナール役の駒田一と、モード商ローズ・ベルタン役の彩吹真央が、軽妙なやりとりとステップを披露して楽しませる。マリー・アントワネットに終始変わらぬ友情を捧げ続けるランバル公爵夫人役の彩乃かなみは、心をそっと照らす優しい陽だまりのようなやわらかな歌声で魅せる。
(左から)笹本玲奈、甲斐翔真
(左から)笹本玲奈、昆夏美

出演者 コメント
■マリー・アントワネット役(Wキャスト):笹本玲奈
徹底された厳しい感染対策の中で進めてきたお稽古を経て、今日無事にこの日を迎えられる事を心から嬉しく思っております。
今後どの様な状況になるかは誰にも分かりませんが、一回一回の公演を『今日と言う日は今日しかない』という心持ちで務め、劇場にお越しくださったお客様に最高の舞台を全身全霊でお届けします。
■マルグリット・アルノー役(Wキャスト):昆夏美
このような厳しい状況の中ではありますが、再びこの作品をお客様にお届けできますこと大変嬉しく思っております。カンパニー一同、気持ちをひとつに稽古を重ねました。幕が開くということは決して当たり前ではなく、奇跡なんだと感じます。この奇跡に感謝をし、責任を持って舞台を務めたいと思っております。そしてご観劇くださったお客様の心の潤いとなれば幸いです。
■フェルセン伯爵役(Wキャスト):甲斐翔真
健康で安全に。そして限られた時間の中で濃密に作り上げてきたこの作品をお客様に届けられるという「喜び」に満ち溢れています。
ここまで来るためにバックアップをして下さった全ての方々に感謝し、初日に挑みたいと思っています。
最初は、想像の数十倍の高いハードルに呆然としました。こんな大役が自分に務まるのか、と悩むこともありました。でも今は、この作品に関われていることを誇りに思います。大好きな『マリー・アントワネット』に出演できて幸せです。
フランス革命という激動の時代、マリーという“人間”を心底愛し、命がけで救い出そうともがいたフェルセンを楽しみにしていただければと思います。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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