【中島愛 インタビュー】
自分自身と向き合い、紡いだ、
十編の“緑”の物語
3年振り5枚目となるオリジナルアルバム『green diary』は“緑”がテーマ。自身のキャリアの始まりにあるからこそ避けていた色と向き合えたのは、ここまで進んできた自信の表れであり、重要な原点回帰でもある。シンガーとしての夢を着実に叶えながら、ひたむきに進む中島愛の行く手は、今、緑色の光にまばゆく照らされている。
未熟さと豊かさを併せ持つ“緑”は、
今の自分にすごくシンクロする
今回の『green diary』は“緑”がテーマということですが、その理由は何だったんでしょう?
声優デビュー作のアニメ『マクロスF』で私が演じたランカ・リーは緑色の髪の毛をした女の子で、当時『マクロスF』でライヴをやる時は私の出番になるとみなさん緑のペンライトを振ってくれたんですね。ただ、作品から離れて中島愛としてデビューしてからは、正直言ってランカ・リーではない自分も見せようと“緑”を避けてきたところがあったんです。“自分から緑を提示しちゃいけない、いろんなカラーを見せなきゃ”と活動してきたんですけど、10年経って“やれるだけやれたな”という自負が生まれ、ようやく“緑”というのは私…中島愛という人間を表すアイデンティティーのひとつとして、すごく重要な色なんだなと受け入れられるようになってきたんです。
いろんな色を見せてきて、ようやく一周できたんでしょうね。
そうですね。そもそもアニメのフェスとか海外のイベントで、私が出ると自然とみなさんペンライトの色を緑に変えてくださる光景がとても印象に残っていましたし、昨年の秋くらいには“そう言えば、私、最近すごく緑の服着てる!?”って気づいたんですよ。あと、2019年の秋に出したシングル「髪飾りの天使」が『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』というアニメのEDで、そこで私が声優として演じていたトゥーリという役が緑色の髪をしていたのも、ひとつの大きなきっかけでしたね。今作は30代になって初めてのアルバムということもあり、“そもそもの自分のアイデンティティーって何なんだろう?”っていうところに向き合うべきだろうと考え、今回は“緑”をテーマにすることにしたんです。
ちなみに“緑”という色自体に対しては、どういうイメージがあります?
辞書を引いてみたりすると“青臭い”とか“未熟さ”みたいな意味もありつつ、“豊かさ”とか“包容力”っていう面もあるんですよね。その相反するバランスが自分の今の年齢にすごく合ってるんじゃないかっていうのは、“緑”をテーマに決めたあとで改めて感じました。ド新人ではないけれど、まだ中堅と言われるキャリアでもないので。それに同じ緑でも、黄緑から青に近いような緑まで、いろんな色があるじゃないですか。なので、“じゃあ、収録する10曲に全部違う緑を当てはめていこう!”っていうところから曲作りもスタートしたんです。例えば4曲目の「ハイブリッド♡スターチス」は若葉色で、8曲目の「ドライブ」では作曲のtofubeatsさんに“心の中に張ってる藻みたいな色”ってお願いしたら、ちょっと驚かれましたけど(笑)。アーティスト写真では、その10色をステンドグラスで組み合わせた葉っぱを私が持っているんですよ。
なるほど! では、1曲目の「Over & Over」も最初から1曲目として制作の依頼を?
はい。□□□の三浦康嗣さんに“1曲目に置きたいので、日記の書き出しのような感じでお願いします”と言って。“green diary”というアルバムタイトルは最初の時点で決まっていて…シャンプーしてる時にポロッと出てきたんですよね。そういうのって私、だいたいバスマットに乗ると忘れちゃうんで、“マズい!”って慌てて身体を拭いて出て、すぐに書き留めました(笑)。
そんなアルバムの幕開けだから、日記の書き出しと。ピアノの一音でポーンと始まり、浮遊感を漂わせながら静と動を行き来するのが、まるで感情の波を表してるようでした。
ポエトリーリーディングのようにしゃべったり、かと思えば急に歌い出したりする感じがいいとお願いして、“じゃあ、ステージに立っている時と普段の私のギャップというか、その矛盾感をそのまま曲にしよう”ってことになったんです。私、ステージに出る直前まで“瞬きしたら明日になってないかな?”って願うくらい緊張するのに、ライトが当たった瞬間に豹変するんですね(笑)。すごくキーが高くて歌っていて難しいし、取り方によっては難解な曲でもあるんですけど、たぶん聴いていくうちに気持ち良くなっていくんじゃないかな?
この曲と2曲目のリード曲「GREEN DIARY」は、中島さん自身の想いやキャリアが色濃く反映されていると感じたんですが。
そうですね。キャラを私物化したいわけではまったくないんですけど、「GREEN DIARY」に関してはランカ・リーとしてデビューしてからの道程にフォーカスしてます。曲をお願いした尾崎雄貴さんも、デビュー当時はどう思っていたかとか、そのデビューを経てどういう感情だったのかというところを聴き取ってくださって。結果、自分が自然と思っていることや人に言われたいことが全部入っていて、もう“えっ、テレパシー?”みたいな(笑)。“3分ちょっとの曲で、ここまで物語ができているなんて!?”と驚きました。
青かった林檎が赤くなる展開とか、ちょっとグッときますよね。未熟な緑から色づいた緑と、移り変わってきた緑が全部詰まっているダイアリーだと。
はい。“それでいいんだ”って言ってもらえた気がします。その分、歌い方にはすごく迷って、しゃべってる時と同じくらいの力の抜き具合で歌いつつ、最後のほうで一箇所だけランカ・リーを重ね合わせて歌ったんですよ。ランカじゃない歌い方も知ってほしいという気持ちで長年歌ってきたけれど、この曲でそれをやってしまうと違うと思ったので、そこは分かる人が分かってくれたらいいなぁって。MVではきれいにヘアセットしている私と髪を濡らしたウェットな私が出てきて、後者は数年前に休業していた時の自分を象徴しているんです。どちらに行けばいいのかも分からなくて自分を見失っている私に、きれいな私が“あなたの来た道は間違ってないよ”って言ってあげてるようなイメージですね。大変だったって言いたいわけじゃないけれど、“真っ直ぐじゃない道でも大丈夫だよ”っていうメッセージにしたかったんです。