Rin音、空音に続くZ世代のラッパー「
クボタカイ」の表現センスは何が新し
いのか?

チルアウト・ヒップホップ系のトラックに乗せ、日常や恋愛をラップ&メロディで表現するリアリティ、10年代後半のシティポップやいわゆる「夜」をユニット名に冠するアーティストのリスナーにもリーチする二十歳前後の新世代ラッパーが、より広いフィールドで評価を集めている。

今回紹介するクボタカイは、レーベルメイトでもあるRin音や、兼ねてから親交がある空音と共通項も多いラッパーだ。3人が共演する、Rin音の『Summer Film’s feat.空音、クボタカイ』では、スチャダラパーの『サマージャム’95』や曽我部恵一ft.PSGの『サマー・シンフォニー Ver.2』など、先人のサマーチューンとバディ感を想起させつつ、イマドキの20代前後らしさも伺わせた。
Summer Film’s feat. クボタカイ, 空音 – Rin音

Rin音は昨年2月にYouTubeへ公開した『snow jam』が今や1600万回再生を超え、レコード大賞新人賞も受賞するほどのポピュラリティを獲得。空音は『Hug feat.kojikoji(Album ver.)』の動画が2600万回再生、2ndアルバム『19FACT』がApple Musicの「ヒップホップ /ラップ」チャートで1位を獲得したり、全国のFM局でも頻繁にエアプレイされている。そしてクボタカイは昨年8月、シンガーソングライター・みゆなのシングル『あのねこの話』にフィーチャリングで参加し、Spotifyバイラル50入り、AWA急上昇ランキング1位を獲得。

そんな彼らが作る“新世代ラップシーン”を展望しつつ、存在感を増すクボタカイのオリジナルな作品性やバックグラウンドを紐解いて行こう。

Text_Yuka Ishizumi
Edit_Miwo Tsuji

ユニークな存在を輩出する福岡のミュー
ジックシーンとクボタカイの化学反応

新世代ラッパーとして、2020年を代表するニューカマーとなったRin音とクボタカイは同じく「福岡」を拠点に活動するラッパー/トラックメーカー/シンガーソングライターだ。
ベッドタイムキャンディー 2号 / クボタカイ

決して広くはないエリアにクラブが多く存在する福岡。かつて、ハードなストロングスタイルのラップのイメージが強かったこの地のヒップホップ・シーンだが、最近の潮流のきっかけの一つとして九州を拠点に活動するリミキサー/DJのolive oilと画家/VJのPoppy Oilを主要メンバーとするクリエーター集団“OILWORKS“の躍進があるかもしれない。

2013年に福岡に拠点を移した5lackがolieve oilと作った『50』の時代は少し遡りすぎかもしれないが、生活者としての5lackが窺える『愛しの福岡』というナンバーがあったりする。

しかもクボタカイ2019年リリースの1stEP『明星』収録の『Wakakusa night.』には5lackのナンバーを引用した

Feelin29のPVみたいな 気分で5、6時間のロングトリップ

というリリックがあり、ラップ・スタイルも世代も違うが、この一行が掻き立てる心象風景はどこか両者に共通している。クボタはインタビューで5lackや、その兄のPUNPEEらの、今の日本で起きている日常的な事柄をさらっとラップに落とし込むセンスが好きだとも言っていて、リリックセンスに少なからず影響はある様子。
“Wakakusa Night.” (Official Music Video)

さらにクボタカイやRin音らに近い世代になってくると、フィーメール・ラッパー・泉まくらの出現も、福岡拠点アーティストとしては新鮮な驚きがあった。脱力気味で音数を詰め込みすぎない表現は、ヒップホップ・リスナー以外にも広く届き、くるり主催の「WHOLE LOVE KYOTO」への出演や、パスピエとのコラボ音源のリリース、TVアニメ『スペース☆ダンディ』では菅野よう子・mabanuaとコラボも実現した。彼女の音楽は来たるZ世代への布石のように思える。そんな風に福岡のヒップホップや広く音楽シーンがコンテンポラリーなミュージシャンと交流しつつ、音楽的なレンジを広げる中、Rin音やクボタカイ、Z世代のラッパーは彼らなりのコラボレーションでリスナーの層を広げていく。

その中で、キーパーソンとなる女性シンガーソングライターが2人いる。
“せいかつ” (Official Music Video)

まずは、今やフィーチャリング・ボーカルでも引く手数多なkojikoji。彼女がクボタカイの楽曲をカバーしたことを契機にライブで共演。クボタの1stEP収録の『せいかつ』をkojikojiの弾き語りでデュエットするライブ映像ではkojikojiのふんわりした声質とリリックの内容がごく自然に聴こえる。盟友関係になった2人は2020年2月に『パジャマ記念日 feat. kojikoji』をリリース。切なくもセンシュアルなやりとりが二人の平熱の歌とラップで展開する親密なナンバーだ。
みゆな – あのねこの話 feat. クボタカイ【Official Music Video】

2人目は、デビュー前からTVアニメ『ブラッククローバー』の主題歌を手掛けたり、2019年の「FUJIROCK FESTIVAL」に出演、ドラマ『ひまわりっ〜宮崎レジェンド〜』主題歌の『ソレイユ』などを手掛ける、みゆな。『あのねこの話 feat.クボタカイ』でのコラボは、チルアウト・ヒップホップとR&Bテイストが融合。この楽曲で、お互いのファンを拡大した。ちなみにみゆなとクボタは出身が宮崎県と同郷で、地元の若いリスナーの間では“新たなスター”との呼び声も高い。

ちなみにkojikojiは前述の空音とは『Hug feat.kojikoji』をはじめ、『Girl feat. kojikoji』でもコラボ。ヒップホップをアコースティックギターでカバーする動画をアップすることで注目を浴びた彼女が、チルアウト・ヒップホップのアーティストと共演する機会が多いのも納得だ。シンガーソングライター的側面とヒップホップアーティスト、トラックメイキングも行うクボタカイらとの一種のハブになった部分も多いだろう。コラボのスタイルも従来のヒップホップの客演のパワフルなイメージとは一転、強気というよりどちらかといえば引っ込み思案、恋愛を描いても浮遊感や余韻がじんわり残る作風だ。そうしたニュアンスをコラボにも持ち込んだことは新世代ラッパーの特徴と言えるだろう。

また、2010年代後半の福岡は、バンドシーンも熱い。今やネオソウルバンドというには音楽的なレンジを広げメジャーデビューも果たしたyonawo、新旧のダンスミュージックを昇華し、DJにも愛されているAttractionsや、ブルージィな感覚を若い世代ながら表現するSTEPHENSMITHなど、ソウル、ヒップホップと親和性の高いバンドが多く出現していることも、この地の音楽シーンを豊かにしている一因だろう。

Rin音、空音に続くZ世代のラッパー「クボタカイ」の表現センスは何が新しいのか?はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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