大倉孝二「生の舞台にしかない良さを
知って欲しい」~舞台『マシーン日記
』インタビュー

2021年2月3日(水)から27日(土)まで東京・Bunkamuraシアターコクーンにて、3月5日(金)から15日(月)まで京都・ロームシアター京都 メインホールにて、COCOON PRODUCTION 2021『マシーン日記』が上演される。
Bunkamuraシアターコクーン芸術監督の松尾スズキの過去作品を、松尾自らが指名したクリエイターが“新演出”で甦らせるシリーズとして上演される今作は、1996年に初演後、何度も再演されてきた松尾の代表作のひとつだ。
今回演出に指名されたのは、映像ディレクターの大根仁。舞台とテレビのコラボレーション番組として2002年から2004年に放送されたドラマ「演技者。」(CX)でも『マシーン日記』の演出を手掛けた大根が、初めてのシアターコクーンで再び今作に挑む。
小さな町工場に隣接するプレハブ小屋に、右足を鎖でつながれ監禁されている電機修理工のミチオを演じる関ジャニ∞の横山裕をはじめ、ミチオを監禁している兄・アキトシを大倉孝二、アキトシの妻でミチオに強姦された過去があり、未だ不倫関係にあるサチコを森川葵、新しいパート従業員として工場に来たサチコの中学時代の体育教師だったケイコを秋山菜津子、という魅力的な俳優4人によって、2021年版として今作がどのように上演されるのか期待が高まる中、舞台、映画、ドラマ等と幅広い活躍を見せてその存在感を示している大倉に話を聞いた。
大根さんの作品への思い入れに足りる仕事がしたい
ーー松尾スズキさんの作品へのご出演は今回が初めてですが、どのような思いを抱かれていますか。
単純に光栄だというのと、プレッシャーとダブルな感情があります。松尾さんの作品を拝見していても、出てみたいという思いはあったとは思うんですが、ただ出られるものだとも思っていなかったし、自分があの世界観の中にいられると思ったこともなかったので。
ーー一観客としては、むしろ大倉さんが松尾作品初だということが意外といいますか、違和感なくご出演されているイメージが沸いてきます。
でも、別に僕じゃなくても、他にいっぱい個性的な人いるじゃないですか(笑)。​
大倉孝二
ーー今回、松尾さんの作品が初、横山裕さんと森川葵さんも初共演です。大根仁さんとは舞台では初ですが、以前何度かお仕事をされたことがあるとうかがいました。
映像作品でお世話になっていますし、僕が所属しているナイロン100℃のDVD用の映像を撮ってもらったこともありました。大根さんが松尾さんの作品をどんなふうに演出するんだろう、というのは楽しみですね。僕なんかより大根さんの方が『マシーン日記』にも松尾さんにも思い入れがあると思うので、そこに足りる仕事がしたいです。
ーーその中でやはり何度も共演している秋山菜津子さんの存在は大きいのかなと思いますが、いかがでしょう。
そうですね、このお話しをいただいたときに秋山さんの出演はもう決まっていたので、秋山さんがいるのならば、とお受けしたところは正直ありました。役者としての秋山さんの大ファンでもありますが、個人的にすごく信頼を置いている方なので、秋山さんがいるのならば大丈夫じゃないか、と思えたことは大きかったです。
ーーこの作品への出演が決まった後で、何か秋山さんとお話しされましたか。
お会いする機会はなかったんですが、僕も出演させていただこうと思う、という連絡はしました。そうしたら秋山さんの方から「いてくれたら助かる」というお言葉をいただいたので、「ホントに?」と思いました(笑)。僕の方は本当に秋山さんに信頼を置かせていただいていますけれど、秋山さんが僕を信頼しているかどうかは未だわかりません。
松尾さんは演劇の“見世物”的な要素を受け継いでいる
ーー『マシーン日記』はこれまで何回か上演されてきましたが、ご覧になったことはありましたか?
残念ながら僕は生では観たことがなくて、映像で拝見しました。でも、今回のお話しが決まってから観たので、全然冷静に見られていないんですよ。だからこのお芝居の全貌は僕の中ではまだ何もわかっていないんです。​
ーーやることが決まってからその作品を観る場合は、自分の役を中心に観てしまうものなのでしょうか?
いや、そういうこともないですね。もちろん自分の役は観ますけれど、いろんな方々のお芝居を観つつ、という感じです。でもやっぱり“お芝居”を観ちゃいますね、全体的なお話しというよりは。ああ、こういうふうにやるんだ、とか。ただ、それは出演が決まっているからというよりも、仕事柄どうしてもお芝居を観ちゃうことが他の人より多いのかもしれないです。​
大倉孝二
ーーこの作品を書いた松尾さんご自身が、かつて今作について「悪夢のイメージ」とおっしゃっていました。本来ならば人は悪夢なんて見たくないはずなのに、なぜ芝居として見せようと思うのか、また観客側もそれを観たいと思うのか、非常に不思議な現象だなと思いました。演じる側の大倉さんはどうお考えになりますか。
このお話しを引き受けたときは、深いことは考えていなかったです。どちらかといえば、自分にとって好都合な要素、それこそ秋山さんとまた一緒にできるとか、松尾さんの名作をやれるとか、コクーンでやれるとか、いいところに目がいっていました。今となってはマイナスなこと、こんな難しいことをやるのか、コロナ禍のこととか、どんどんちゃんとしなきゃいけなくなってるじゃないか、と思えてきて。狂気の部分なんてものは一番なくていいみたいな感じになっていて。世の中的には“良くないこと”を排除する傾向にある中で、こういう作品を体現していくというのは相当難しいことだな、と改めて思っているところです。​
ーー現実世界ではちゃんとしなきゃいけない、悪意や狂気には蓋をしなければいけない、という空気が強ければ強いほど、そういうものをフィクションの世界に求めてしまう部分があるのかもしれませんね。
僕が思うには、どこにでもある日常を描いた作品や、等身大の人間を表した作品とか、そういう平穏ともいえる演劇や表現の仕方はたくさんあるし、それも必要なものだと思いますけど、やっぱりこの作品のような“見世物”的なものというのは、絶対的に演劇の要素としてあると考えていて。それは失ってはいけないと思うし、そこを求める人たちは必ずいると思います。松尾さんは演劇的なそういう“見世物的な要素”をすごく受け継いでいる劇作家さんなんだろうな、と思いますね。
ーー現在のコロナ禍において、演劇などの舞台作品も自粛せざるを得ない状況を経たりして、それでも舞台をやる、ということを考えたときに、“見世物”というのはキーワードな気がしています。松尾作品の魅力のひとつに“見世物”として完全に振り切っているところがあるのではないでしょうか。
この状況下ではそういう感覚が持ちづらいので、今こそやった方がいい作品だと思うんですけど、やるのはガッツがいるな、と思っているところです。一生懸命粛々と生きていましたからね、この数か月。
舞台をやらないと何かが失われるような気がしている
ーー大倉さんご自身は、ブルー&スカイさんとの演劇ユニット「ジョンソン&ジャクソン」の公演やご出演予定だったケラリーノ・サンドロヴィッチさん作・演出舞台などが中止になってしまいました。
「ジョンソン&ジャクソン」のことを知っている人は今東京に5人くらいしかいないのに、よくご存じでしたね。
大倉孝二
ーーそんなことはないと思います(笑)。あんなナンセンスコメディをやってくださる人たちは他にいませんから。
確かに、今いないですね。ここだけの話、次はコクーンでやるんですよ。
ーーえっ!
嘘です(笑)。
ーー一瞬本気にしてしまいました(笑)。場所はともかく、ジョンソン&ジャクソンの公演もまた楽しみに待っています。話を戻しますが、そうした中止などを経て演劇作品へのご出演はかなり久しぶりになりますよね。
夏に本多劇場でリーディングの配信公演をやりましたけど、それ以外では去年のKAATでの『ドクター・ホフマンのサナトリウム』以来ですね。
ーー配信は配信で新たな可能性として非常に楽しく拝見していますが、昨今の流れを見ていると、それでもやっぱりやる側も見る側も生の舞台に戻っていくのかな、という感じを受けています。
正直ね、僕は「お客さんの喜んでいる顔が見たい」とか、カーテンコールでお客さんに「ありがとう」と感謝の気持ちを伝える、みたいなところは一切なくて、だから舞台に立ちたくてうずうずしていたわけでも何でもないんですが、ただなんとなく、舞台をやらないと自分の中の“何か”が取り戻せない気もするんですよね。舞台ってキツいですし、みんなが思ってるほど楽しくないんですよ、非効率的ですし。でもそこに身を置かないと得られないものがあるというか。あと、演劇だけではなく音楽とかもそうですけど、ライブに人が来なくなってしまって、そうしたものが失われていくのは困るので、やらせていただきます、という思いもあります。
ーーインターネット回線越しのコミュニケーション機会がどうしても増えた分、直接会ったり生の舞台を見られる機会というのが貴重になりましたし、これからもそこは大事にしていきたいですよね。
もちろん、ネットを使って配信とかSNSを利用するとか、そのこと自体はすごくいいことだと思っています。今やそういうものを否定したら何もやっていけないですしね。ただやっぱり、生の舞台にしかない良さというものを失いたくないので、それを知らない人、例えば若い世代の人とかにも味わってほしい。こういう全然違う面白さもあるんだよっていうことを知って欲しいですね。
ーードラマや映画など、映像で大倉さんのことを知っている人はたくさんいると思いますが、そういう人にこそ舞台でしか味わえない大倉さんの魅力をぜひ見てもらいたいなと思います。
本当ですか? まあ元々舞台の人間ですからね。舞台の方が良くないって言われたら舞台やめます(笑)。
ちっとも楽しくない新年を迎えることになりそう?
大倉孝二
ーーナイロン100℃の劇団員ですし、やはり舞台を主軸に活動されているのかなとお見受けしていますが。
そんなつもりもないんですけどね。でも、さっきも言いましたが、舞台をやらないと何かが失われるような気がしていて。だから、偉そうに舞台の未来を見据えてる的な発言をしてしまいましたが、実を言うとそんなことはどうでもよくてですね(笑)、究極は僕自身の問題なんです。日々緊張感を持たなきゃいけない状況で常に自分に刺激を与えていくことも大事というか、安定したところに身を置かないようにすることでしか生まれないものもあると思うんです。そういう意味で舞台はすごく適しているんです。「お前のリハビリかよ」というふうに舞台関係者からは言われてしまうかもしれませんが(笑)。​
ーー今作も出演者4人という比較的少ない人数での座組ですし、この台本ですし、やはりキツい状況に身を置くことになりそうですね。
そうですね、ちっとも楽しくない新年を迎えることになりそうです(笑)。
ーーこういった公演のご紹介を兼ねたインタビュー記事の場合、最後に読者やお客様への「観に来てください!」といった公演への前向きなお言葉をいただくことが多いのですが……おうかがいしても大丈夫でしょうか?
大丈夫ですよ、そこらへんはちゃんとしたことを言いますから(笑)。本当にこういうときに劇場に来てもらえるだけでありがたいので、舞台からどういうことを受け取っていただけるかはお客さんの自由ですが、単純にどの方にも楽しんで帰っていただけたらいいなと思っていますので、お待ちしております。……どうです、ちゃんとしたこと言ったでしょう?
ーーありがとうございます(笑)。なかなかハードな内容だけに、観る側にもちょっと覚悟がいるのかなと思ってしまいます。
全然そんな気負わないで観に来て欲しいですね。どういうふうに観てもらいたい、ということは少なくとも僕にはないです。神妙な顔して観いただいてもいいですし、ただゲラゲラ笑っていただいてもいいですし。こういうふうに観なきゃいけない、っていうものじゃなくて、どうやって観てもいいものですからね、演劇は。
大倉孝二
メイク=山本絵里子
スタイリング=JOE(JOE TOKYO)
シャツ(エストネーション TEL:0120-503-971)​
取材・文=久田絢子  撮影=中田智章

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