二つの夢を同時にかなえた作品、『い
まを生きる』再演に挑む佐藤隆太を直

ロビン・ウィリアムズ主演の映画をもとにしたオフ・ブロードウェイ発作品『いまを生きる』が再演される。2021年1月~2月にかけて東京・大阪・名古屋にて上演される本作、2018年の日本初演に続き、厳格な全寮制の男子高校に赴任してきた同校OBの型破りな教師ジョン・キーティングに扮するのは佐藤隆太。初演の舞台においては、キーティング自身がかつてはナイーブな男子高校生であったことをうかがわせる好演を見せていた。今、再びキーティング役に挑む意気込みやいかに。
――初演のときの思い出からお聞かせ願えますか。
中学生のときに映画版に出会って、もともとすごく好きな作品だったんです。その作品でキーティング先生を演じられるという喜びと、ちょっと不思議な感覚に満ちた時間でした。先生と生徒たちとで心を通わせていくことが大事な作品だったので、稽古場のときから、生徒役のキャストたちとの距離感をすごく意識して臨んでいて、作り上げた実際の舞台の世界だけでなく、稽古場から非常に思い出深い作品でしたね。
僕は、先生役をやっているからといって、あんまりでしゃばることは、映像でも舞台でもしたくないなと思っているんです。生徒役のキャストたちとも、あくまで役者同士としての自然な距離感でいたいと思っていたんですが、大きな劇場でのストレートプレイに初めて挑戦する子たちもいた中で、もし求められれば、ぐいぐいとはいかないにしても、一歩踏み込んだ、そんな作品でもあったのかなと自分の中では思っています。先生が生徒たちを導くところが少なからずある作品ですから、そういった意味での責任はあるわけですが、彼らと一緒に考え、悩みながら作り上げられたことがすごくよかったなと思って。その意味で今回プレッシャーになるのが、僕以外のキャストが総入れ替えになることですね。こうして再演のチャンスをいただけて本当に嬉しいんですけれども、新たなキャストの皆さんとの信頼関係、距離感、関係性を築き上げていく作業がまた始まる、そこが、楽しみでもあり、一方で、再演だからといって慣れた感じにはなれない、そんな思いがありますね。
佐藤隆太
初演のときは、キャリアや経験を一切気にせずに、生徒役の一人ひとりが思ったことを恥ずかしがらずに口に出せるような稽古場になったらいいなと思っていて。演出の上田(一豪)さんは、僕以上に、とにかくみんなが心地よく、自分から発信できるのを待つ、そんな空気を大事に作っていらしたイメージがありました。僕もそこはすごく共感できて。作中のキーティング先生ともリンクするところもあるんですけれど、本当に思っている気持ちを尊重して、何でも言い合える現場になったらいいなと思って取り組んでいましたね。とはいえ、僕がもっと若いころに結婚していたら実際に息子であってもおかしくないような年齢の生徒役がいる中で、40手前のおっさんが若作りしてみんなの会話に入ろうとしているように見えてたりするのかな?そんなことをふとした瞬間に思いましたけれども(笑)。目線を合わせて、友達じゃないですけど、そういう距離感をとろうとしている先生の役ではあるんですが。自分自身が子供なのかなと感じたりもしつつ、楽しく演じることができました。
――再演にあたり、何か変更点は?
そこは、再演用の台本をもとに、上田さんとお話ししてみてからですね。上田さんの狙いとして、前回はこういう課題があったからそこを改善したいということがあればそれに応えられるようにやりたいです。
ロビン・ウィリアムズさんの演技には、やっぱりオーラというか、どっしりとしたものがありますよね。初めて映画版を観たとき、絶対的、圧倒的なキーティング先生の存在感を感じましたが、僕がやるとちょっとポップというか、ふとすれば軽くなってしまっていたところもあったのかなと。今回は初演から数年経っていることもあるので、重厚感とまでは思っていないですけれども、ちょっとした重みと、少年っぽさのような軽やかな振る舞いと、そのバランスを前回よりもっとよくとれるようになったらいいなと思っていますね。
佐藤隆太
――中学生のときに映画版をご覧になって、どんな影響を受けましたか。
役者を志すニールという生徒が出てきますけれども、(映画版を観た)当時から芝居に興味があったので、ニールの背中を押してくれるキーティング先生の存在が、自分にとってもありがたい存在に感じましたね。映画という世界での出会いではあるんですけれども、どのように生きるかを考えたとき、すべて包んで肯定してくれる先生で、学校生活で実際に出会った先生方とはまた違う存在として、大切にしたい先生と出会えたなと感じて。
中学生のときに初めて観たというのも大きいと思います。例えば、今この歳で初めて出会ったら、また印象は違うのかもしれない。やはり、自分自身、多感な時期にこの作品と出会えたことが大きかったですね。
――実人生で思い出に残る先生はいらっしゃいますか。
僕はその点すごく恵まれていて、小・中・高・大、それぞれに、出会えて、教えていただけてよかったと思える先生がいらっしゃいます。
高校の先生は、担任でもあり、僕が所属していた野球部の顧問でもあったので大変お世話になりました。
甲子園を目指した球児の夏が終わり、役者になる勉強を始めようと芸術学部を希望したのですが、それまで野球しかやってきていない僕が突然「役者になりたいんです」と言っても先生は親身になって話を聞いてくださって「お前は、だれがなんと言っても挑戦するんだろうから、がんばれ」と、僕を理解して背中を押してくれました。
そして、大学でも大好きな先生との出会いがありました。日大の芸術学部に入って、二年生のときにデビューしたんですが、仕事が忙しくなり、だんだんと授業がおろそかになっていた時に、「ここまで何とかやってきたんだから頑張って卒業しなさい」と、様々な形でフォローしてくださいました。卒業後も付き合いは続いて、厳しい言葉もちゃんとかけてくれたりして。時には「最近ちょっと老け込んでないか。あのときのお前らしさが……」なんて言われたり(笑)。先生との出会いにとても恵まれていると思います。それって自分で選べることじゃないですからね。
それに加えて、キーティング先生にも出会えた。僕はずっと役者になりたかったんですけれども、あえて二番目の夢をあげるとしたら、学校の先生なんですよ。
佐藤隆太
――では、この作品では一つで両方の夢がかなったと。
そうなんですよ。だからすごく不思議な感覚だったんです。お芝居と教師、そのどちらにも興味を持つキッカケを与えてくれた作品に、実際に自分が出演できていると思うと。それをまた舞台でやれているというのが、ライブ感があってグッときますよね。
あ!不思議な感覚で思い出したことがあります!話としては全く違うタイプになるんですが、これは嬉しかったお話です。初日の舞台にあがったとき、まずびっくりしたんですよ。それまで経験してきた舞台と、客層がまるでぜんぜん違う。もう若い女の子だらけで、なんじゃこれ!やばい!って緊張しちゃって(笑)。若い生徒役の彼らのファンの方々が沢山観に来てくださっていたんです。感覚としては、初めて109や渋谷のディズニーストアに足を踏み入れた時のような……学生時代に過ごした汗臭い部室とは真逆の空間ですよね(笑)。
それで……僕と校長先生(大和田伸也)が二人で話している、物語上大切なシーンがあるんですが、その時に、視界に入る客席の多くの人がこっちを見ていないんです!舞台の奥で台詞なしのアドリブを続けている生徒たちに釘付けになっている(笑)。
終演後、考えたんです。どうすればこの話にフォーカスをあててくれるかなと。せっかく劇場まで足を運んでくださったのだから、お目当の彼を見ながらも、物語全体の醍醐味も存分に味わって帰ってもらいたい。
この作品には特に若い方々の胸に響くであろう言葉や場面が溢れています。だから、その全てには共感しなくても、「あ、今の先生の言葉いいな」というものを、一つでも届けたい。そういう想いも込めて舞台に立っていました。そうしたら、公演が進むにつれ、それぞれの生徒役のファンの方たちから、僕にも手紙が届くようになったんですよ。「もともと誰々くんのファンで観に来たんですが、キーティング先生に出会えてよかったです」とか、「あの言葉がすごく胸に響きました」とか、「この作品に出会えてよかったです」とか、けっこう何通もいただいて。すごく嬉しかったですね。初めて舞台を観に来てくれた子もたくさんいて、舞台ってこんなにおもしろいんだなということを、わざわざ僕宛ての手紙に書いてくれて。嬉しかった。舞台を観始めるきっかけは何でもいいんですよね。
佐藤隆太
――もし実際に先生になっていたとしたら?
まず一度はキーティング先生の真似をするでしょうね(笑)。で、職員室とかで、「あれ絶対真似してるよね」ってバレて、ちょっと注意されたりして(爆笑)。当時はやっぱり憧れましたよね。生徒と同じ目線で、寄り添って、勉強だけじゃないところで支えられたら……そんなことを思ったときもありました。
でも自分が親になって子供たちが学校に通い始めると、改めて先生って大変だなと。毎日本当に頭が下がる思いです。
――役柄として大切にされていることは?
いろいろな言葉を紡いでいきますが、それを言っている本人が、生でやる舞台では特に、そこでイキイキと「生きている」ことを体現しないと説得力がない、生徒たちに響かない、ということですね。先生らしさも欲しいんですけれども、ただ落ち着いてその言葉だけ言ってしまうのも、生徒たち、お客さんたちに届きづらいのかなと。ドンとした先生らしさもありながら、軽やかな身のこなしも大切。色んな意味で大胆さが必要なんだと思います。こんな大人もいいなと思ってもらえるような先生を体現したいです。
感情の波がけっこう大きい役どころなので、初演のときは毎日舞台にあがる前は、いつも以上に気持ちをリセットする作業をしていました。そういう意味では、楽しかったけれども、タフな作品でもありましたね。みんなといろいろ話してご飯にもよく行きましたし、まるで修学旅行のようにテーマパークにも行きましたけれども、いざ本番となると、けっこうシビアな展開で、舞台上で感情を爆発させなくてはいけなかったので。すごくハッピーな学園ものをやっているわけではなかった分、オンオフのメリハリのある関係性を築けたかなと思います。
佐藤隆太
――このコロナ禍で、改めてご自身のお仕事について感じられたことはありますか。
例えば、今の仕事を続けていくことが、自分自身にとって、家族にとって最善なのだろうか……とか、色んなことを見つめ直す時間になりました。でも、結局は、今やっていることを全うしていくしかないなと。世界中が経験したことのない出来事に直面して、多くの人が不安と戦っている。その中で、もし、自分達がやっていることが誰かの気持ちを少しでも軽くできる可能性があるなら、迷わず進んでいきたいです。
――では、佐藤さんにとって演じることとは?
ここまで長くやってきて、やっぱり好きなんですよね。大変なこともありますが、楽しいし、続けていきたい。舞台での、お客さんと一体となれる時間は何物にも変えがたい特別な時間です。まだまだ道半ばではありますが、ここまで恵まれて、皆さんに支えられてやってきて、すごく幸せに思います。
――再演の舞台を、今どう観客に届けたいですか。
『いまを生きる』は、この時代、この瞬間、自分が何を求め、どの道を選択するのか、自分と向き合うきっかけを与えてくれる作品だと思います。全てがハッピーエンドではないけれど、そもそも人生がそうですよね。辛いこともたくさんある、けれど、そうであっても、なんとか前を向いて進んでいく。今だからこそ響くであろう言葉もたくさんあるので、そうしたものも含めて、舞台ならではの魅力をお届けできたらと思います​。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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