BUCK-TICK、2年ぶりの日本武道館公演
 華やかに打ち鳴らした『ABRACADAB
RA THE DAY IN QUESTION 2020』の模
様をレポート

2020年12月29日(火)に東京・日本武道館で行なわれたBUCK-TICK『ABRACADABRA THE DAY IN QUESTION 2020』のオフィシャルレポートが届いたので紹介する。

BUCK-TICKが、毎年恒例の12月29日公演を東京・日本武道館で開催した。彼らがこの日に公演を行なうのは今年で連続21回目。“恒例の”に続く場所は、やはり日本武道館がしっくりとくる。今回は『ABRACADABRA THE DAY IN QUESTION 2020』と題し、今年9月にリリースしたアルバム『ABRACADABRA』の世界観と、年末恒例の『THE DAY IN QUESTION』の特別感、その両方を堪能できる一夜限りのスペシャルな公演となった。
櫻井敦司  撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
「行こう、未来へと。行こう!」櫻井敦司(vo)が力強く言い放ったのは、2度目のアンコールの2曲目、ショーの閉幕を想起させる「LOVE PARADE」を歌い終え、ラストナンバー「New World」が始まる直前のことだ。
BUCK-TICKはアルバム『ABRACADABRA』をリリースした後、本来ならば全国ツアーを回るはずだったが、コロナ禍を考慮し、当初予定していたスケジュールに会場を追加して フィルムコンサートツアー『TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN』を開催した。このツアーも他にはない試みだった。フィルムコンサートでありながら、実際のライブと同じ音響システムと照明を使い、臨場感を再現。気迫に満ちたメンバーのパフォーマンスと、通常のライブ同様に拍手を送る観客とが三位一体となってよりリアルに近い空間を作り上げていたが、それでもやはり拭えない寂しさはあった。その『ABRACADABRA ON SCREEN』のメニューを踏襲したこの日本武道館公演は、ガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策を行ない、2020年最初で最後の有観客で開催。さらにネット生配信も実施し、会場に来られないファンの思いにも応えた。
本公演は、9月21日の無観客生配信ライブ『ABRACADABRA ON THE NET』から始まった『ABRACADABRA』を引っ提げた2020年の活動の集大成であり、パレードの終着点となる公演だと思っていたが、先の櫻井の言葉でその思いは一蹴された。彼らはこの武道館にみんなを迎えにきたのだ。“パレードは続くよ、さあ行こう!”と。そして、差し伸べた手の先にある未来もしっかりと指し示してくれた。終演後に2021年秋の全国ツアーと、12月29日(水)日本武道館公演の開催を発表。未だ光の見えない世界に、また明るい希望をくれた。
定刻を少し過ぎた頃、新たなアレンジを加えたSE「THEME OF B-T」をバックにステージ前の紗幕には、クリスタルやダイヤモンド、その上をひらりと舞う青い蝶と、『ABRACADABRA』のアルバムジャケットの世界が映像となって展開された。ツアータイトルが砂塵となって消え去るのを合図に、「月の砂漠」がスタート。オリエンタルな楽曲とリンクするように、砂漠のビジョンがメンバーの前に広がった。櫻井が時折鳴らすディンシャのキーンと澄んだ音が、会場の空気を浄化していくようだ。続く「ケセラセラ エレジー」のイントロで紗幕が落ちメンバーの姿が露わになると、ぶわっと会場の熱が2、3度上がるのを体感した。確かに目の前にメンバーがいる。声なき興奮が熱となって伝わってきたのだ。「獣たちの夜 YOW-ROW ver.」はエッジの効いたビートや、櫻井の歌と今井寿(G)のギターのユニゾンが実にスリリング。「SOPHIA DREAM」では、樋口豊(B)とヤガミ・トール(D)が生み出す重厚感のあるリズムの上を、浮遊感のある櫻井と今井のツインボーカルが乗り、サイケデリックな世界へと導いていた。
今井寿  撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
樋口豊  撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
一曲一曲の世界観を演じるように歌う櫻井のパフォーマンスも冴えていた。「URAHARA-JUKU」で真っ赤に光る床に寝転がったまま歌う姿は息を飲む程美しく、星野英彦(G)の爪弾くイントロが冷ややかに響いた「凍える 」で子供を腕に抱いてあやすように揺れる姿は慈愛に満ちていた。直前に赤い口紅を自らひいて歌い始めた「舞夢マイム」では、看板にBUCK-TICKの過去曲のタイトルが散りばめられた飲み屋街の風景をバックに、表情と細かい手の仕草で男女2役を演じ分けた。
星野英彦  撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
櫻井と今井のツインボーカルによるテクノナンバー「Villain」では、観客の手拍子もリズムの一つとなって一体感を生んだ。4つ打ちのダンスチューン「堕天使 YOW-ROW ver.」はよりソリッドに進化を遂げ、「ダンス天国」は武道館をダンスホールに変えて会場のテンションをぶち上げた。優しい和声を響かせた今井の独奏から「MOONLIGHT ESCAPE」へ。櫻井の伸びやかなヴォーカルは祈りのようにも聴こえた。そして8ビートのアッパーチューン「ユリイカ」へ。今井と星野が掲げるピースサインと同じタイミングで観客もピースを掲げる。それは『ABRACADABRA』ツアーで一番見たかった光景だった。櫻井は下手から上手へとステージを歩き、その光景を眺めていた。そしてラストを飾ったのは「忘却」。切なさと温かさが同居するアンサンブルと、情感込めた歌が胸にひしひしと沁み渡る。深い余韻を残し本編を締め括った。
『ABRACADABRA ON SCREEN』とほぼ変わらないセットリストを、リアルで再現するような今回の公演で、何より印象的だったのは、曲が終わるたびに鳴り止まない大きな大きな拍手の音。声に出せない思いを拍手に託してメンバーに届けていたのだ。いつになく曲間をたっぷりと取っていたのは、きっとその思いをメンバーが全身で受け止めるためだろう。無観客ライブを経験したからこそより実感する、演者と観客との相互作用。ライブとは双方の熱量をもって作り上げられる。観客の熱はしっかりと彼らに届いたことだろう。櫻井は曲が終わるたびに「ありがとう」を口にした。
撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
15分の換気時間を経て、タイトルでいう「THE DAY IN QUESTION」パートがここから始まる。待ちきれず換気時間が終わる5分前から始まった手拍子に迎えられ、メンバーがステージに登場。この時、ヤガミのジャケットの背中の文字が“FU○K OFF!! COVID-19”だったと知る。「FUTURE SONG-未来が通る-」「Luna Park」の未来を照らす2曲も、星空を背景に歌ったミッドナンバー「世界は闇で満ちている」も、不安定な情勢に少し疲弊してしまった心にパワーと癒しをくれた。「ROMANCE」では、燭台の上のろうそくに火を点す冒頭から、ステッキで胸を貫くエンディングまで、櫻井のドラマティックなパフォーマンスに酔いしれた。そして次の「LOVE ME」を前に彼はこう告げた。「次の曲は自分を大切にすると、大事な人も大切にできるというお話です。医療関係の方に捧げたいと思います」。最大級の敬意を歌と演奏に込めるメンバーと、客電のついた明るい会場で来られなかった人の分まで精一杯左右に手を振る観客の姿を目に焼き付ける。思えば、いつもは賑やかな開演を待つ間も、最寄り駅から武道館へ向かう道のりでも、マナーを守り、静かだった。誰かを思い、守りたいと思う気持ちをみんなで共有する、ここはそんな優しさに満ちた空間だった。
ヤガミトール  撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
「Alice in Wonder Underground」で高らかにスタートしたダブルアンコール。「LOVE PARADE」の後の鳴り止まない拍手を受けて、「今日はたくさんの拍手をありがとうございます。手が痛いでしょ?」と思いやり、この公演を成功に導いてくれたスタッフやファンに向けて感謝の言葉を述べた櫻井。「真面目な話ばっかりでつまんないか。下ネタでも言おうか……」と、独り言のような呟きで場を和ませるシーンも。「来年はいい年でありますように。みなさんの幸せをお祈り致します」と祈るように深く頭を下げた後、「それでは行こう、未来へと。行こう!」とラストナンバーの「New World」へ。“無限の闇を切り裂いて未来へと進め”、この曲に込めた力強いメッセージが、希望の光となって会場に降り注いでいた。
BUCK-TICKと同じ響きである爆竹は、古来より邪気や疫病を払い幸運を呼び寄せるために鳴らされるという。2020年の締めくくりにBUCK-TICKが盛大に、華やかに打ち鳴らした『ABRACADABRA』は、疫病退散のおまじない。然すればBUCK-TICKは、その存在自体が希望そのものなのである。2021年に向け、BUCK-TICKのパレードはここからまたスタートした。みんなで高らかに「PEACE」と叫べる未来を、共に願わずにはいられない。
撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
なお、この『ABRACADABRA THE DAY IN QUESTION 2020』日本武道館公演は、WOWOWメンバーズオンデマンドと各配信サイトで、アーカイブ配信の視聴が可能となっている。サイトによって視聴期間が異なるので、ぜひチェックしてほしい。
文=大窪由香

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