「図夢歌舞伎『弥次喜多』」が配信開
始! 松本幸四郎、市川猿之助の会見
に染五郎、團子も

東京・歌舞伎座が、8月以来新規感染者を出すことなく興行を続け、12月の千穐楽を迎えた26日(土)、Amazon Prime Videoでは、松本幸四郎と市川猿之助が出演する映像作品「図夢(ずぅむ)歌舞伎『弥次喜多』」の配信がスタートした。本作は、2020年6月に幸四郎が立ち上げた「図夢歌舞伎」の第二弾であり、同時に2016年より毎年歌舞伎座の舞台で上演されてきた『東海道中膝栗毛』の主人公・弥次郎兵衛(幸四郎)と喜多八(猿之助)コンビによる「弥次喜多」シリーズの最新作となる。
「図夢歌舞伎『弥次喜多』」配信中  (c)松竹
幸四郎、猿之助のほか、市川中車や、市川猿弥、市川笑三郎、本シリーズにかかせない市川染五郎、市川團子、さらに市川寿猿、市川弘太郎(声)も出演する。収録時間は1時間51分、レンタル視聴料は1900円(購入後30日、一度再生した後は48時間で自動返却となる)。26日に会見が行われ、幸四郎、猿之助が出席、染五郎と團子もかけつけた。
■猿之助、初監督作品
「図夢歌舞伎『弥次喜多』」は、2009年初演の現代劇『狭き門より入れ』(脚本・演出:前川知大)を原作に、映像作品で、しかも弥次喜多シリーズの世界観で再構成したもの。猿之助は初演の舞台に出演しており、今作では監督・脚本・演出も手がけている。
「監督を引き受けたのは、誰もやりたがらない飲み会の幹事を、気づいたらやらされちゃった、みたいな感じです。監督は藤森圭太郎さんと共同でした。幸四郎さんも中車さんも映像経験がありますから、皆でアイデアを出しながら制作しました。それでも矢面に立つ責任者は必要だろうと、僕の名前を出すことになりました」
図夢歌舞伎を立ち上げた幸四郎も、「矢面に立っていただくなら、猿之助さんが一番じゃないかと」と冗談まじりのリアクション。猿之助が「ひどい!」と嘆き、会見を盛り上げる。
■舞台中継でもない、映画でもない
図夢歌舞伎の第一弾『忠臣蔵』は、オンライン会議アプリZoomに着想を得た画面構成や、別空間の俳優や過去の映像との共演、歌舞伎によりズームする試みが話題となった。今回はどのような映像を目指すのか。判断は難しかったと猿之助は言う。
「舞台中継として撮るのか、映画として作るのか。映画として撮るには時間がない。舞台中継ならカメラ1台で取れるけれども、それで伝えるには物語が混み入っている。舞台中継でも映画でもない、図夢歌舞伎ならではを目指し、皆で相談しながら作りました。その結果に対しどのような感想を持たれるかは、皆さんにお任せします」
市川猿之助
現代劇を原作に、新作として制作した。幸四郎が悩むことがある。
「これは歌舞伎か、歌舞伎ではないか。新作歌舞伎を作る時には、いつも思うところです。そして行き着くのは、面白い、すごい、びっくりするお芝居を作ろうという思いです。今回も同じです。歌舞伎座でシリーズ化した弥次喜多の世界観や匂いは、しっかりと出しつつ、積極的に楽しんで作ろうと思いました」
松本幸四郎
過去の弥次喜多シリーズやメインビジュアルから、はちゃめちゃなSFコメディを想像する方もいるだろう。しかし今回は、期待通りの笑いもありつつ、スリリングな展開でひきつけ人類全体への問いかけを残す作品となっている。
「昨年までの弥次喜多シリーズで、僕らはバカをやってきました。ですがこの作品をきっかけに、我々が生きている文明は本当に正しいのか。地球をめちゃくちゃにして疫病も流行して……って、これは人災なんじゃないか。本当に僕らに責任はないのか。このままの生き方では、人間はちょっとヤバいんじゃないか。そういったことも考えてほしいと考えました。エンドロールには、現代に通じる映像を入れています」
約2時間の作品だが、撮影はわずか4日間で敢行した。
「一般的な映画の撮影のように、たくさん撮りためて編集段階でよいテイクを残していければ良いのですが、僕らは必要な場面をなんとか撮り終えるだけの時間しかありませんでした。……なのに! 幸四郎さんと中車さんは、アドリブになると止まらない! 編集ではそれを切るのが大変で!」
猿之助の訴えに、会場は笑いに包まれた。幸四郎は「だいぶ切られました」と苦笑いを返していた。
「図夢歌舞伎『弥次喜多』」収録風景。
本作は、江戸のコンビニエンスストアを舞台に「世界の更新」を描く壮大なドラマだ。SF的なエンディングに、弥次喜多シリーズもいよいよこれで終わりでは、と心配する声があった。幸四郎は「今回の終わり方は、たしかに……」と同意しつつ、次のように答えた。
「弥次喜多を始めた時、シリーズ化は考えていませんでした。毎回、先の展開は考えずその時々に出し切る。そして次回作が決まるたび、前回あのように終わったから今回こうしよう、と考えます。また次のお話をいただくことがあれば、その時にまた考えて思いつくことがあると思います」
図夢歌舞伎であり、弥次喜多シリーズであり、前川知大によるSFでもある本作だが、中でも猿之助が見せたいのは、「弥次喜多コンビが、2人でおにぎりを一緒に食べるシーン」。過去のシリーズにはない二人の距離感は、ぜひ本編で見てほしい。
■グレてしまった梵太郎と政之助
会見には幸四郎の長男・染五郎と、猿之助の甥で、中車の長男・團子も駆けつけた。染五郎は、まじめな若君の伊月梵太郎、團子はその家臣の五代政之助をつとめる。今回のふたりは、ワケあってすっかりグレてしまっている。
「図夢歌舞伎『弥次喜多』」収録風景。
染五郎は「不良になったと聞いた時は驚きました。今まで梵太郎と政之助は、子どもなのに弥次さん喜多さんよりも大人っぽく、その中にも少年らしいところがありました。今回は不良になりましたが、それでも少年らしいところは変わらずにあると思いました」。メイクやアクセサリーに自らのアイデアも加えながら、撮影を楽しんだという。
市川染五郎
團子は「4年目(2019年)の『弥次喜多』の時の、雲助の役に少し近かった気もします。学校にいる“こういう”(肩で風を切る身振り)のクラスメイトを参考にしました」と、オラオラ感を出すための工夫を明かした。
市川團子
■歌舞伎だからこそ半沢ネタも
本編には、猿之助と中車(香川照之)が出演した大ヒットTVドラマ『半沢直樹』を連想させるネタも登場する。猿之助は、今回のような新作に限らず、古い演目でも時事ネタを取り入れるのが歌舞伎の形式だと説明し、「今回はちょうどよいネタがあって良かったです」と続けた。
「詫びろ」の名セリフをリクエストされた猿之助が、別件のお詫びをはじめる一幕も。
團子は、父親の芝居について感想を求められ、「芸風が変わりましたね。映画『ゆれる』(2006年、西川美和監督)の頃からは考えられないくらいのキャラ変で……(一同、爆笑)。役にあそこまで入り込めるのはすごいことだと思います!」と笑顔で語った。『半沢直樹』についての質問は染五郎にも及んだ。穏やかな表情で「見れていないのですが……生でドラマのセリフを聞けて感動しました」と熱いコメントを寄せるも、その口調はあまりにもクール。ギャップが笑いを誘っていた。
ドラマの感想を聞かれた幸四郎が、「あそこ(『半沢直樹』)に僕がいたほうが良かったんじゃないかな」と首をかしげる一幕も。猿之助は膝から崩れるようにして笑いながら「そうね、そうね。仲間に欲しかったな! ふたりなら僕らの方が強かったかもしれない」と悔しがっていた。
新年に向けて猿之助は、「歌舞伎座の興行は、8月に何とか復活しました。12月の歌舞伎座公演を無事に終えることができ、自分の中でホッとした部分もあります。しかし予断を許さない状況です。このままでは、来年はもっと大変なことになると思っています。気を引き締めてまいります」と意気込みを語った。幸四郎が「今、歌舞伎をなくさないために、何ができるかを考え動いていかなければと思っています」と言葉に力を込めて語り、締めくくった。
2021年1月2日(土)には、歌舞伎座で『壽 初春大歌舞伎』が開幕する。年末年始のご自宅では「図夢歌舞伎『弥次喜多』」を、劇場に足を運べる方は歌舞伎座で新年の舞台を楽しんでほしい。
今作は現時点では日本限定の配信。「世界進出したいんだよね!」と猿之助。
取材・文・撮影=塚田史香

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