三沢厚彦展『ANIMALS』あべのハルカ
ス美術館で開催中ーー地上80mで等身
大の動物たちに会える、最新作『キメ
ラ』の背中にはあの生き物が

三沢厚彦展『ANIMALS IN ABENO HARUKAS』が現在、あべのハルカス美術館(あべのハルカス16階)で開催中だ。日本の現代木彫を代表する作家として活躍する三沢厚彦は、1961年京都生まれ。全国各地の美術館や公共空間に作品が収蔵、設置されているほか、2001年に平櫛田中賞、2019年に中原悌二郎賞を受賞。いずれも日本の彫刻界に貢献した作家に贈られる賞で、着実に彫刻家としての地位を固めてきた。
本展で展示されているのは、三沢が2000年から制作を開始した「ANIMALS(アニマルズ)シリーズ」。イヌやネコなどの身近な動物から、クマやゾウ、トラなどの大型動物、麒麟をはじめとする想像上の生き物まで、バラエティー豊かな動物たちをモチーフに作られてきた。クスノキの塊から彫り出され、油絵具で着彩された動物たちは、ほぼ等身大のサイズ。手のひらサイズのものから、3mに及ぶものまであり、出会った時の存在感の強さはとても鮮やかに記憶に残る。また、おもしろいのは、鑑賞者の視点で動物たちの表情が変わって見えること。コミカルだったり、微笑んでいたり、あるいは睨んでいると感じたり。ユニークで個性的な姿で、子供から大人まで幅広い人々に愛され続けている。
彼の代表作と言えるアニマルズは、これまで全国約30カ所で展覧会が開催されてきた。本展は、以前よりあべのハルカス美術館学芸員の浅川氏が「いつか展示をしたい」と熱望していたことから実現。アニマルズの展覧会は、会場ごとの場所や歴史、建物の特徴をふまえて展示方法を変えているのが特徴。本展では、木彫やブロンズ約70点、油彩やドローイング約40点、初期作品から本邦初公開の最新作まで、計110点の動物たちが“日本一高いビル・あべのハルカス”の、地上80mにある美術館というロケーションを活かして展示されている。いつもと違うあべのハルカス美術館のサイト・スペシフィックな展示は、アニマルズとの出会いを通して、見る者に新鮮な風を吹き込んでくれるはずだ。また、あべのハルカス美術館としては、初めての現役作家の展覧会となる。今回は、全6章から構成される三沢厚彦展『ANIMALS IN ABENO HARUKAS』の様子をレポートしよう。
美術館エントランス
●身近な動物に、出会う●
アニマルズの世界へ
エントランスを入ると、「作品に手をふれないでくださいね」と書かれた案内の向こうに、白いクマの姿が見える。三沢の言葉を借りて言うと、「人のいる場所とそうでない場所の境目」に足を踏み入れる時、確かにドキドキする気持ちと恐怖心が入り混じった感覚があることに気がつく。三沢の動物たちは、そこにいることで私たち人間に何かを教えてくれるのだ。
第1章はアニマルズとの出会い。イヌやネコなど、身近に存在する動物たちのペインティングやドローイング、そして彫刻が展示されている。
イヌやネコなど身近な動物と出会う
Painting 2020-07』『Painting 2020-08』
三沢自身、「ひとりの」ネコと暮らしているという。ほぼ等身大で彫られたイヌやネコは健康的で、ピンと張った尻尾やお尻までとても愛らしい。キャンバスいっぱいに大きくダイナミックに描かれた動物たちの表情と、彫刻を見比べてみるのもおもしろいだろう。
三沢が描いたドローイングとペインティング
●生きとし生けるもの、全てとつながる●
第2章では、大型の絵画作品『春の祭典』と、その中に登場する動物たちを中心に、鳥やヤモリ、トラなど、様々な生きとし生けるアニマルズが集う。その迫力には思わず胸が踊る。
『春の祭典』とアニマルズ
『春の祭典』に描かれている動物たちが佇んでいる
三沢の作品は実物に忠実に表現されているように思えるが、意外にも図鑑を見て大きさを確かめるくらいで、実物を見て制作することはあまりないという。リアルな動物と三沢の想像力のはざまで生まれるアニマルズ。それらが置かれた空間に立った時、どんなことを感じるのか。大きなクマやヤギを見上げながら、小さなヤモリを探しながら、ぜひゆっくり見つめあってほしい。
●初期の作品からアニマルズ、そして新たな表現へ●
第3章『過去↔︎現在』では、小学生の頃にはすでに彫刻家を志していたという三沢の初期作品を紐解きながら、アニマルズに至るまでの道のりと、最近制作を始めた新しいシリーズやペインティングなど、三沢の過去と現在を知ることができる。
初期の作品
『コロイドトンプ(ヒトウマ)』
海辺で拾った流木や廃材を貼りつけて作った『コロイドトンプ』シリーズ、アニマルズにつながるキッカケとなった、動物の首を表現した『Head』シリーズ、そしてコロナ禍で制作したという『Strut』シリーズなど。三沢の表現の軌跡が詰まった部屋になっている。
アニマルズの原点になった、動物の首だけを表現した『Head』
コロナ禍で制作した『Strut』が中央に展示されている
●地上80mのロケーション x アニマルズ●
第4章『IN ABENO CITY』では、“日本一高いビル・あべのハルカス”16階に位置するロケーションを活かした特別な展示を体験することができる。今回の展示のため、普段は閉じられているガラス窓を開放。アニマルズと阿倍野の風景の融合が楽しめる。ハルカスやてんしばなど、阿倍野は近年都市開発が進んでいるが、付近には昔ながらのディープな大阪の下町も広がる街だ。
地上80mで何を感じるか
外に展示されている“親方”とともに、昼は遥か関西国際空港まで見渡せるパノラマビューを、夜はキラキラとネオンが輝くアーバンな街を眺める。そして振り向くと、そこには海やサバンナに生きる動物たちがいる。私たちが生きる都市と動物たちが生きる自然。動物と人間の関係性をも考えさせられること、間違いなし。
大型動物から小動物、昆虫まで、さまざまなアニマルズに出会える
『Fish 2015-01』
なお、第4章から第6章までは写真撮影がOKなので、思う存分好きな画角で写真を撮ろう。
全ての動物は生きとし生けるもの
●BEARSの存在を通して問いかけられるもの●
第5章は、三沢のお気に入りのモチーフで、これまでも数多く制作されているクマにスポットを当てた章。太い足、大きな掌と肉球でどしんと雄々しく立つクマや、じゃれるようにゴロンとお腹を見せる子グマ、微笑みを浮かべて描かれた3匹のクマなどなど。
三沢お気に入りのモチーフ、クマ
迫力あるペインティングも見逃せない
クマという動物は、リアルでは獰猛な生き物として恐れられる一方で、絵本やアニメなどでは、愛すべきキャラクターとして愛らしく描かれている。果たして人間にとってのクマのイメージとは? リアリティーとは一体何なのか? 三沢のクマの表現のバリエーションを堪能しつつ、一度クマという存在を見つめてみてほしい。
●初公開となる最新作キメラの全容が明らかに●
本展のラストを飾る第6章では、想像上の動物をモチーフとした近年の作品の中から、代表作の『麒麟』(第41回中原悌二郎賞受賞作品)と、本邦初公開となる、最新作の『キメラ』を展示。リアルの動物も想像力を働かせて制作に臨む三沢の関心は、想像上で生きる架空の動物へと広がっている。
『Animal 2018-01』
堂々たる大きな体に、真っ白で立派な羽、天に伸びる角、銀色のたてがみ。『麒麟』は、スケールの大きさに驚くとともに、神秘的な魅力を感じる作品だ。ぜひ背後までしっかり回って見ることをオススメする。きっと発見があるだろう。
本邦初公開、キメラをモチーフにした『Animal 2020-03』
そして今作の目玉作品とも言える最新作の『キメラ』は、ギリシャ神話に由来を持つ混成体の動物。本作品も、ライオンの顔、ヒョウ柄の模様、鳥の羽、黄金の角、たてがみのはえた足、尻尾にはヘビが舌を出し、いろんな要素が1つの体を構成している。クスノキの寄木を使い、木彫りに9ヶ月、着彩に3ヶ月の歳月を費やして制作された。
背後までぐるりと回って、キメラの背中と視線の先を見てほしい
目にした時にはその大きさに圧倒されるが、神聖で不思議な雰囲気に引き寄せられてしまう。こちらもぐるりと一周して、隅からすみまで見てほしい。背中には2020年を象徴する意外な生き物が隠れている。そして、キメラの視線の先に展示されている『Painting 2020-09』には、キラキラとまばゆいカラフルな光が描かれる。誰もが苦しい思いをしたであろう2020年。キメラの見る先は希望に溢れる未来なのか。作家の願いが込められているように感じられてならない。
ミュージアムショップには本展オリジナルグッズが
本展オリジナルグッズ
本展オリジナルグッズ
三沢厚彦展『ANIMALS IN ABENO HARUKAS』は、2021年1月17日(日)まで、あべのハルカス美術館で開催中。
ぜひ「空に近い場所」で、個性豊かなアニマルズに出会ってほしい。
取材・文・撮影=ERIKUBOTA

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