長与千種が語るつか作品に、MARUとA
KIRAが驚きの声!〜劇団水色革命が上
演する“令和版”『リング・リング・
リング』

幼い子どもを抱えながらも、プロレスラーとしてチャンピオンを目指す女性の葛藤と強い生き様を描いた、故つかこうへいの『リング・リング・リング』。1991年の初演は、全日本女子プロレスに所属し、ライオネル飛鳥とのクラッシュギャルズで超絶な人気を誇っていた長与千種が、クラッシュ解散直後に出演したとあって、パルコ劇場の観客動員記録を塗り替える人気ぶりだった。その後もキャストを変えて何度か上演されてきた本作だが、今回は「令和版が見たい」との長与の一言から動き始めた。上演するのはやはり元女子プロレスラーのMARUが率いる、女子プロレスラーが何人も所属する劇団水色革命。また現役レスラーで、役者としてもNODA・MAP、カムカムミニキーナなどに出演しているAKIRAが主人公・千種のコーチ役の万作を演じる。MARUとAKIRAは初演当時のセリフも交えて熱く語る長与のトークに聞き入った。
――パルコでの舞台のことは覚えていらっしゃるんですか?
長与 はい、今振り返れば楽しかったという思いしかありませんが、当時は地獄でした。本番に入っても毎日、毎日セリフが何ページ分も変わるので。つかさんは聴講室で本番を見ていらっしゃるんです。なるべく顔を合わせないようにして帰ろうと思っていると、いつの間にか目の前に現れてダメ出しをされました。そして翌日はお客様があまり反応しなかったシーンをごっそり入れ替えるんです。新しいセリフは紙でいただくんですけど、私は劇場の中をランニングしながら覚えていました。そして本番ギリギリまで稽古するんです(電車で一人で通えと言われたこと、毎晩のように焼肉屋に連れていかれたこと、稽古場がタバコの煙で煙っていたこと、などなどの思い出が語られた)。でも、私はつかさんには娘扱いしていただいていたんですよね。「どうせ、お前はこの世界になんか残らんのだろう」みたいなことをよく言われました。
――『リング・リング・リング』は長与さんの方からMARUさんに持ちかけられたそうですね?
長与 水色革命さんの舞台に、私が率いるプロレス団体の彩羽匠がお世話になったことがあって、陣中見舞いに伺って拝見したんですよ。他にも何人か女子プロレスラーが出ていらっしゃった。その時に、水色さん所属の松井珠紗さんのことを俳優さんだと思って見ていたんですが、後でプロレスラーだと聞いて、しゃべり方、感情の出し方、いでたち、間が素晴らしくて、プロレスラーでもここまでできるのかと感動したんです。数年前に、キンタロー。さんの主演で平成版が上演されたのを思い出して、「令和版はどうですか?」とMARUさんに提案したんです。プロレスラーが子供をなくすという設定にどれだけ挑んでいけるかを見てみたいと思いお願いしたんです。そして、元女子レスラーでありながら、今は演劇界に身を投じていらっしゃるMARUさんだったら『リング・リング・リング』という作品をどう料理してくださるのか、そんな思いが膨らみました。
AKIRA そんな経緯があったんですね。
MARU お話をいただいた時はびっくりしました。私はつかこうへいさんのお芝居を拝見したことがなかったので、やれるのかなあと心配になりましたが、業界の大先輩でもある長与さんのご提案でしたから挑戦してみようと。うれしかったですね。そのお話しをさせていただいた時のことは緊張していて覚えていないんですけど。
長与 ただただ緊張されていたのはわかりました(笑)。
MARU 今日も緊張しています。
――AKIRAさんはプロレスと並行して演劇を始めた、役者として活動し始めたという意味では先駆的存在でもありますね。
AKIRA はい。プロレスに何かプラスになればと思って、あらゆるエンターテインメントを見まくっていた時期がありました。ちょうどそのころに『幕末純情伝』『モンテカルロイリュージョン〜熱海殺人事件〜』を見て、つかさんの世界に圧倒されたのを覚えています。それでつかさんの本を購入して、号泣しながら読んでいましたね。俺は本作の戯曲を読んでみて、つかさんが長与さんのために戯曲を書いた理由がわかりました。現役時代の長与さんのパワーはすごかったですから、つかさんも魅了されたんでしょう。
長与 うれしいです。ありがとうございます。
AKIRA
AKIRA つかこうへい、本当にすごい世界ですよね。人間の美しさも汚いところも描き出していて、嘘がないというか、汚ないんだけどもみんな必死に生きている。せりふを覚えればいいというわけではなく、エネルギーがものすごく必要なんです。俺は主人公・千種のコーチ、万作役を演じるのですが、こいつも身勝手なやつなんですよ。千種のライバルであるデビルのことが大事で、また自分の思いを遂げようと周囲を巻き込むんだけど、そのエネルギーにどっぷり浸かって生きていこうと思います。
長与 つかさんがいつもおっしゃっていたのは、人は、オギャアと生まれた瞬間から幸せになる権利を持っている、誰しもが幸せになりたいという思いで大泣きをするということ。つかさんの作品はどれも、いつかこうへいな時代がやってくるんだという願いが込められている気がします。ですから最後は幸せな気持ちで、明日から頑張ろうと思って太陽を見上げようという気持ちにしてお客様を送り出してあげないといけない、芝居とはそういうもんだと教えられました。ただその美しい世界を成立させるためには、めちゃくちゃハードな展開があるんですよ。汚い言葉の根底にあるのは情愛なんです。情愛がなければ愛情に育っていかない。私、つかさんと「プロレスは八百長だ」「八百長じゃない」と言うやりとりをした時に、あまりにきつい言葉を投げかけられたので、稽古中に本気で泣いてしまったことがあるんです。その時にパッとつかさんを見たら、ニヤッとされたんですよね。この人は、この感情を引き出そうとしたいたんだな、くそーって。相手を攻め立てて切り込むからこそ、数分間のラストですべて帳消しになる温かみにつながるんです。
AKIRA まじで本気にならないと表現できないですよね。型でつくっちゃダメ。
長与 万作さんはいやらしい男だけど、女性に対して情深いんですよね。そして千種に本当にすがるような弱さもある。楽しみにしています。しばしAKIRAさんではなく、万作さんになりきっていただいて。
――MARUさん、一言くらい思いを吐露してください。
MARU つかさんの作品のことはすごい、すごいと聞いていて、実際に稽古やっていく中で感じたのは、本当にワンシーン、ワンシーンが奥深いということ。追求すれば追求するほど、いろんな答えが出てくるんです。一番大事にしているのは熱量で、生きるということをいろんな観点から伝えられたらいいなと思っています。今回、役者チームとプロレスチームの二つがあって、同じ台本なのに、これだけ違う作品になるのかという思いを感じながらやっています。長与さんがおっしゃられたように、お客様にたくさんの元気をお渡しできるように頑張ります。
主演する松井珠紗(左)、岩井杏加(右)とジャガー横田
取材・文:いまいこういち

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