玉置浩二の
全てが詰まっていると言っても
過言ではない愛にあふれた
傑作『CAFE JAPAN』

ルーツもキャリアも隠さずに露呈

ルーツもキャリアも隠さずに露呈
M4「ヘイ!ヘイ!」はThe Rolling Stonesへのオマージュを感じさせるR&R。ギターリフは基より、途中から聴こえてくるパーカッションや女性コーラスは、あえて元ネタをひけらかしているかのようだ。M5「STAR」の元ネタはSimon & Garfunkelだろうか。クリアなギターのアンサンブルは「The Sound of Silence」や「Scarborough Fair」を彷彿とさせる(もちろんこれも玉置氏が弾いている)。M4「ヘイ!ヘイ!」とM5「STAR」とのギターサウンドのギャップにも驚くところだが、特筆すべきはM5「STAR」でのヴォーカリゼーションだろう。囁くようなウイスパー歌唱は、ある意味で「田園」辺りとは真逆とも言えるものであって、ここでも“日本一歌が上手い”と評される玉置氏の歌唱力、そのキャパシティーを堪能することができる。

M6「SPECIAL」はもろにモータウン。これもまたThe Supremes「You Can't Hurry Love」が基にあることをまったく隠す気がないようなメロディー、リズム、質感である。『CAFE JAPAN』を発表した時点で、メジャーデビューしてから凡そ15年、ソロ活動もそろそろ10年になろうかという頃である。そのタイミングで自身のルーツ、フェイバリットをつまびらかにした背景は分からないけれども、そこに音楽を楽しむ姿勢があったことは想像するに難くない。前述した演奏の躍動感、生々しさもさることながら、M6「SPECIAL」の間奏で聴こえてくる氏の笑い声がそれを証明していると思う。心から楽しんでいなければ、あんなふうな笑い声は出ないはずだ。歌詞にもこうある。

《人生は遊びさ 楽しまなきゃ/たったひとつの 特別メニュー/どこでもスペシャル いつでもスペシャル/ひとりひとりのもの Woh》(M6「SPECIAL」)。

ずばり《人生は遊び》とまで言い切っている。《たったひとつの 特別メニュー》であるのならば、自らのルーツを隠す理由はまったくないと宣言しているかのようでもある。

『CAFE JAPAN』は全11曲収録なので、アナログ盤で言えばM6「SPECIAL」までがA面、M7「フラッグ」以下がB面と言ったところだろうか。ここからはミドルテンポが多く、M2「CAFE JAPAN」やM3「田園」、M4「ヘイ!ヘイ!」やM6「SPECIAL」に比べてやや派手さはないので、ファンの間で評価が分かれているようだが、いやいやどうして、聴きどころは満載だ。

渋めのアコギの音色が印象的なM7「フラッグ」はブルース…いや、エレジーと言ったところだろうか。マイナーだけどキャッチーなサビメロはメロディーメーカーとしての玉置浩二の凄みを感じさせる。M8「Honeybee」は、随所に出て来るリバースサウンドからも明らかにサイケデリックロックを意識したファンクチューン。不思議な世界観が繰り広げられる。玉置自身が弾くスリリングなギターソロもひたすら素晴らしい。

M9「愛を伝えて」はM10「あの時代に…」はともにバラードと呼んでいいナンバーで、前者はストリングスがあしらわれた弾き語り、後者はバンドサウンドとタイプの違いこそあれ、どちらも唱歌のようなシンプルなメロディーが基本であり、これもまた玉置氏の歌への向き合い方が分かろうというものだろう。フィナーレのM11「メロディー」も柔らかな旋律を持つ楽曲。前半は弾き語りにも近いサウンドで、それが徐々にバンドサウンドとなっていくスタイルで、ミドルテンポであるが故にか、パッと聴きではいわゆるロック的な派手さは薄いようにも思える。しかし、サビがリフレインしていく毎にそのサウンドは得も言えぬ迫力を増していく。それもそのはず。M11「メロディー」に参加しているミュージシャンは、矢萩 渉(Gu)、六土開正(Ba)、田中裕二(Dr)──安全地帯のメンバーである。本作で玉置氏は音楽ジャンルのルーツだけでなく、自身のキャリアも露呈していると言える。それによってM11「メロディー」には、M9「愛を伝えて」ともM10「あの時代に…」とも異なるニュアンスが加味されて、アルバムのフィナーレに相応しい大団円感を生んでいると見ることもできる。個人的には巧みな締め括りだと思う。

最後に『CAFE JAPAN』収録曲の歌詞について少しだけ触れて本稿を締め括るとする。本作の歌詞にはとにかく“愛”がよく出てくる。以下で列挙しようかとも考えたが、ほぼ全てに“愛”が出てくるので、改めて示すまでもないと並べるのは止めた(気になる人は調べてみてください。すみません)。これはどう見ても、玉置氏が愛情を受け、愛情を注いだ結果だろう。だから、いろんな形で愛情が詰まっていると想像できる。そこもまた、楽しさや愉悦であると言い換えることが可能だろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『CAFE JAPAN』1996年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.ファミリー
    • 2.CAFE JAPAN
    • 3.田園
    • 4.ヘイ!ヘイ!
    • 5. STAR
    • 6.SPECIAL
    • 7.フラッグ
    • 8.Honeybee
    • 9.愛を伝えて
    • 10.あの時代に…
    • 11.メロディー
『CAFE JAPAN』('96)/玉置浩二

OKMusic編集部

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