LiSA『ONLiNE LEO-NiNE』 オンライン
ならではの試みと多彩なパフォーマン
スが生んだ"遊び場"

ONLiNE LEO-NiNE 2020.12.12
全国ツアーが延期になり、おそらく多くの人が待ち望んでいたであろう、LiSA初のオンラインライブ『ONLiNE LEO-NiNE』。タイトルの通り、最新アルバム『LEO-NiNE』を再構築した今回のライブは、オンラインならではの演出もふんだんに盛り込んだものに。泥臭くとも挑み続け、ライブハウスもアリーナもフェスも特製の遊び場に変えてきた彼女ならではの空間をオンライン上にも作り上げた。
共にライブを作ったバンドメンバーは、これまでのライブでもLiSAをサポートしてきたPABLO(Gt)、生本直毅(Gt)、柳野裕孝(Ba)、石井悠也(Dr)、白井アキト(Key)の5名。ダンサーは、ツアーでおなじみのAkANE、yUkA、そして「紅蓮華」MVに出演している清水舞手、金澤慎治の4名。ライブ終了後に流れたエンドロール映像にはスタッフの名前がずらっと並んでいた。
スタート時刻を迎え、始まったのは、ペーパークラフト風のアニメーション。炎のたてがみを持つ孤独なライオン“レオナイン”は、生きる意味を求めながら、夜の中を走る。その後、画面に大きくライブロゴが表示され、ギターがギュイーンと鳴り、スタジオにいるLiSAとバンドメンバーの姿が映された。「『ONLiNE LEO-NiNE』、かいまーく!」と、景気よく始まった1曲目は「マコトシヤカ」。嘆くだけじゃ芸がないから、思いっきりかっ飛ばしてやろう。高らかにそう歌うこの曲は、今回のライブの幕開けにぴったりだ。
続くは、爽やかで少し切なげなキーボードのコード、そしてツインギターによるメインフレーズ。そう、ライブ定番曲であり、LiSAにとってもファンにとっても大切な曲「Catch the Moment」だ。演奏に臨むLiSAの表情や各プレイヤーの手元などを臨場感溢れるカメラワークがしっかりと捉えていく。「晴レ舞台」はアルバムでも3曲目に配置されていたが、序盤から一心不乱にアクセルを踏みまくるのではなく、爽やかな風を通すのが今のLiSAのモードなのだろう。軽やかなサウンドに乗った歌声は、どこまでも飛んでいけそうだ。
羽織っていたジャケットを替えてからMC。「1年ぶりじゃない? ライブするの。この日を待ってました!」と笑うLiSAからは喜びが溢れ出していて、サポートメンバーとの「打ち合わせにない(笑)」「ライブに打ち合わせとかないから!」といったやりとりも微笑ましい。ここでは「普通にオンラインでライブをするのはしっくりこない」という想いから「特別をたくさんねりねりしてきた」と説明。これ以降の展開への期待感を煽りつつ、次の曲へ向かった。振り返れば、今回のライブ、MCタイムはこの1回のみ。これまでのツアーであった、映像演出によるインターバルもなかった。直接的なストーリーテリングがなくとも、歌とそれに伴うパフォーマンスだけでメッセージは十分伝えられる。そういう自信を持てるほど、LiSAの歌の表現力が増したこと、いちシンガーとして成長したことを証明する構成だったのではないだろうか。
MCでの予告通り、以降、オンラインライブならではの“特別”が際立つ展開に。演奏再開は「エレクトリリカル」から。<バーチャルの彼方 おいでよ/ライフのハートもあげるから>というフレーズが奇しくもオンラインライブというシチュエーションにぴったりなこの曲は、ゲームの世界が舞台。LiSAとダンサーがライブで恒例の振り付けで踊ったほか、ドット絵の映像エフェクトがかけられた。続く「愛錠」は沼のような愛を歌ったバラードで、LiSAの声色も大きく変化(特に低音域の鳴らし方に違いを感じる)。マイクスタンドを伝う細い指、赤いネイルまでもがこの曲にある狂おしさを表現している。
スタンドからマイクを外し、歩みを進めるなか、衣装が白のワンピースに変わり、「わがままケット・シー」へ。この曲は、LEDの床に座ったり横たわったりしながらの歌唱。ボーカルの息遣いのみならず、LiSAの身体の使い方や視線の動かし方、LEDに映る映像、カメラワークをも含めたトータルアートで、官能的な世界を表現した。そして終盤、カメラが引いたことでいつの間にか四方がLEDの壁に囲まれていた事が分かる。雨音のSE、波紋の映像から始まった「unlasting」は、そうして生まれた異空間からボディスーツ姿のダンサー2名とともにパフォーマンス。LiSAの歌に呼応するようにダンサーは躍動し、LED上の赤い光は、点滅したり、はらはらと散ったり、渦巻いたり、走ったりする。阿吽の呼吸と言いたくなるほど見事だ。
LEDの壁がせり上がり、カメラの外へ歩いていくLiSA。「cancellation」からバンドと合流。LiSAとバンドメンバーは強い光を放つ照明装置に向かって演奏していて、カメラは後ろからメンバーのバックシルエットを映すという、これまたオンラインライブならではの見せ方だ。ライブの魅力の一つに“観客の熱気に感化され、バンドの演奏が変化していく”というのがあるが、外的要因が削がれ、自分たちの歌と演奏に入り込み、集中するからこそ生まれる凄みというものももちろんある。地を揺らすハードロックサウンドで以って、ロックシンガー、ロックバンドとしての生身の姿を改めて打ち出した。
ステージを移動し、エナメル素材の黒ワンピースにチェンジしてから始まったのは「赤い罠(who loves it?)」。ジャズとパンクのハイブリッドといえる技巧的な曲だけに、ライブの後半で演奏されると、“フィギュアスケート選手がプログラム後半で繰り出す高難度の技”に近いものを感じ、圧倒される。アルバムと同日にリリースされた「炎」もまたライブ初披露だったが、情感たっぷりに歌い上げるLiSAの脳裏にはファンの姿が浮かんでいたことだろう。そこに鬼の面のダンサーを従えての「紅蓮華」を続けることで、鬼滅コンボがキマるという嬉しい展開。イントロリフにおけるキーボードのタッチが強く、「炎」の澄んだ空気が受け継がれている感じがしたのがこの日ならではのポイントか。そして「cancellation」~「紅蓮華」のブロックでは、会場にある緊張感も私たちの元に届けられた。例えば、スタジオ内を歩いて移動するバンドメンバーの姿。灯籠の炎が揺れている間の無音。目を閉じたLiSAが呼吸を落ちつかせてから、ブレスをし、「炎」を歌い始める瞬間。それら一つひとつをカメラが逃さず捉えることで、本番に向かう者が纏う透明な空気がこちらにも伝わってくる。
バンドが鳴らしている間、LiSAが背景を叩き破り、ぐんぐん奥へ進んでいく。辿り着いたガレージのような空間で、先ほどまでギタリストとしてバンドに参加していたPABLOとのツインボーカル曲「play the world! feat.PABLO」を届けると、いよいよクライマックスへ。「Rising Hope」でお立ち台に上り、身体を激しく動かしていたのも、「ADAMAS」でタムを叩いていたのも、過去のライブを踏襲したパフォーマンス。一際逞しくなったこの2曲に、私たちの遊び場はなくなってなんかいないと、本当だ、希望有り余ってるじゃん、と思わせられる。
<最高だって信じたい/産まれ落ちたからには最後まで/beat me beat me そうだよな/この世界を遊び尽くせ>
<この願い例え魔法が無くたって叶えなきゃ、誓った/僕はキミと まだ見たい未来 あるんだよ>
<悲しみと願いの結晶体に/僕ら使命を誓う それぞれの光を目指していく/何度だって立ち上がって 僕ら明日を行くんだ>
スタジオ内を練り歩きながら歌う「ハウル」での大団円。ダンサーも全員集合し、様々なセットが並ぶスタジオの全容や、ライブを支えていたスタッフの姿などが初めて映されるなか、濃密な90分間に想いを馳せた。なくなったものを数えて嘆くのではなく、新しく生まれた可能性に目を向けたい。口にするのは簡単なそれを実現させるために必要なのは、アイデアであり、思考であり、叶えるための奔走。エンタメの力とは、要するに人の力だ。ツアーをやるのはまだ難しい状況のなか、希望を絶やさないためにはどうすればいいか。私たちの遊び場を守るためにはどうすればいいか。魔法一つで嫌なこと全部吹き飛ぶなんてことはないこの世界で、魔法のように鮮やかなライブを(しかし確かに人力で以って)作り出すに至った彼女らに勇気をもらったのは、きっと私だけでないだろう。
「いつも当たり前にあった幸せが、特別だったって気づいた2020年。キミのことをたくさん想って、どうしてもキミに会いたくなった2020年。不安になったり、立ち止まったりしそうになっても、今日私たちはここに辿り着いた。いつも本当にありがとう! もっと最高の未来が私たちに待ってますように」と、この日の手応えを語ったLiSA。「今日を越えていけ、もっともっと越えていけー!」という叫びは、日常に帰る私たちの背中をポンと押してくれるようだった。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=上飯坂一

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