病院屋上演奏で世界を感動させた横山
令奈が地元凱旋、ピアニスト・杉林岳
、関純子アナウンサーとの鼎談で大阪
・箕面公演への意気込みを語る

2020年4月、イタリア北部にあるクレモナの新型コロナウイルス患者への治療最前線となった病院の屋上から、医療従事者への感謝、そして患者が再び音楽を楽しめる日が来ることを祈って演奏を届けた、ヴァイオリニストの横山令奈。演奏の模様をとらえた映像は世界中でニュースとなり、大きな感動を巻き起こした。そんな横山令奈の地元凱旋となる公演『横山令奈 ヴァイオリン・リサイタル&トークショー』が1月21日(木)、大阪・箕面市立メイプルホール大ホールで開催。同公演では、病院屋上でも演奏されたモリコーネ作曲「ガブリエルのオーボエ」、「ニューシネマパラダイス 愛のテーマ」などが演奏される予定だ。そこで今回は、横山と同じく箕面出身で共演者のピアニスト・杉林岳、そして司会をつとめるカンテレのアナウンサー・関純子も交えて鼎談を実施。3人に、コンサートの見どころや箕面の街について語ってもらった。
横山令奈

●人間愛を超えた、神の力が働いた映像と音のよう●

杉林:横山令奈さんの病院屋上での演奏、あらためて素晴らしい取り組みだと思いました。新型コロナウイルスの影響で音楽界は演奏の機会が減るなど厳しいなか、あの行動に出られたのはすごく尊いこと。すべての音楽家に勇気を与えてくださいました。
関:まるで天からの使いとして、令奈さんが調べを届けたような、そんな神々しさがありました。現地の医療従事者の方々が手を止めてパッと見上げているカットがありましたが、人の心に染み渡るような、見えない力が働いているように感じましたね。令奈さんも美しく、この世のものとは思えなかったですし、人間愛を超えた、神の力が働いた映像と音のようでした。
横山:映画のような映像だったので、報道やコメントのなかには「これはヤラせじゃないのか」という意見もありました。確かに、シーンが出来すぎていましたもんね……。でも、そうじゃなくて、あの映像に映っているものが、実際のみなさんのリアルなリアクションと状況でした。医療従事者の方々にもお知らせが入っていないサプライズな演奏で、場所も遠かったですし、直接表情は伺えませんでしたが、後で映像を観たら「こんな顔で聴いてくださっていたんだな」と。
杉林:真っ赤なドレスが際立っていました。「赤は愛の象徴」と令奈さんもおっしゃっていて、印象的でした。
関:ドレスの赤色は闘う姿勢も感じました。情熱的であり、こういった状況にも負けないという意志があったのではないでしょうか。
横山:最初は防護服などで演奏をした方が良いのかと思っていましたが、高所ということで人との距離も保てましたし、何より「演奏家としての、そのままの姿で」と病院側からもお話をいただいたので、あのドレスを身にまといました。病院関係者のみなさんは、その前に私がおこなったクレモナの鐘楼「トラッツォ」での演奏を聴いた時に、音が空から降ってくる感覚があったらしく、「そういったイメージで演奏をお願いします」というお話でした。
杉林:ただ、野外はどんな場所であっても音響設備は整ってないですよね。しかもあんなに高い場所から演奏するなんて、ピアノではとても想像できません……。すごいです!!
関:風は大丈夫でしたか? 風が強く吹くとヴァイオリンを弾くのは大変ですよね。
横山:そうですね、野外は風が大変です。もし楽譜を使用するとなれば、屋外だと風で飛ばされちゃうことがあるので、洗濯ばさみで譜面台に留めたりします。野外演奏では洗濯ばさみは必ず必要です。
関:アナウンサーも屋外でレポートすることは多いのですが、風でカンペが飛びそうになります。そのときは洗濯ばさみで留めますね(笑)。ちなみに杉林さんとの演奏に関する打ち合わせなどはどれくらい進んでいるのでしょうか。
横山:実はこれからなんです。音楽的なことって、文字で書いたり、口で説明しても伝わらないことばかりなので。それよりも直接お会いして、一緒に演奏して、その場で合わせながら作り上げる方が良いんです。
杉林:経験値が高ければ高いほど、直感的に出来ますよね。相手がどうしたいか、相手が仕掛けてきたときにどうするか、すべて直感的に気づくことができます。付き合いが長ければ長いほど、密なアンサンブルができるんです。
関:そういうときは何か合図などあるんでしょうか。目と目で通じ合うとか、顎などで合図を送ったり?
横山:気の知れた仲なら何も見なくても合うんですが、初めての場合は、お互いの癖をつかむために、アイコンタクトを送ったりして探っていきます。フレージングの癖もリハーサルで分かってきますし。大袈裟にジェスチャー的なことをする場合もありますが、それは敢えて、お客さんに曲の見せ場やフレージングを伝えやすくするためにやったりします。
●素晴らしいピアニストだから「この人に今回の共演をお願いしたい」●
杉林岳
関:海外で活躍されているおふたりの演奏はもちろんのこと、令奈さんの妹・亜美さんのヴァイオリンミニ講座も楽しみです。
横山:今回のミニ講座は、楽器についていろいろ知ることができる内容になると思います。私たちにとっては普通のことでも、みなさんが知らないことは多いはず。練習の仕方、メンテナンスの仕方などを知ってもらって、楽器のことをもっと身近に感じてほしいなと思います。
杉林:確かに私も、ヴァイオリンについて知らないことはたくさんあります。「ヴァイオリンにはそういう特性があるのか」と勉強になることも未だにありますしね。
横山:ヴァイオリンとピアノってすごく対照的な楽器ですよね。ヴァイオリンは300年前からほとんど形が変わっていないけど、ピアノはチェンバロからフォルテピアノになって、いろんなルートを辿って現在まできていますから。
杉林:そうそう、ピアノフォルテとも言われますよね。
横山:日本ではピアノと言いますけど、本来はピアノフォルテで、小さい音(ピアノ)から大きい音(フォルテ)まで出るという意味なんです。イタリアではピアノフォルテと呼びます。だからピアノだけだと呼び名としては間違っているんですよね。
杉林:ピアノって小さい音ということなので。省略記号のピアノもありますし。
横山:鍵盤楽器の先輩格にあたるチェンバロは撥弦楽器(弦をはじくことによって音を出す楽器)で、一つの音だけでは大きい音も小さい音も区別がきかなくて、和音の音数を増やしたり、レジスターという仕組みを使って鳴らす弦を増やしたりして強弱をつけます。
杉林:チェンバロはペダルもないですから。
横山:そこからピアノフォルテになって、ようやく小さい音から大きい音まで出せるということになるんです。
杉林:宮殿のような石造りみたいな場所なら、チェンバロもちゃんと音が響く。でもロマン派の19世紀くらいから演奏するホールもどんどん大きくなり、チケットをどんどん売ってお客さんをたくさんいれるような形になってくる。そこでフランツ・リストあたりがはじめて「より強い音が出る楽器を」ということで、マッチョなグランドピアノになっていったという経緯があるんです。
関:へー、おもしろい! そんなお話も、会場である大阪・箕面のメイプルホールで聞くことができそうですね。私自身、子どもたちを箕面の小学校に通わせましたが、おふたりも箕面出身で小学校も地元だったんですよね。
横山:私は、杉林さんが箕面出身だなんて知らなかったんです。妹と共演しているコンサート映像を観ていて、素晴らしいピアニストだから「この人に今回の共演をお願いしたい」と思って。最初は、ウィーンにいる方としか聞いていなかったから、まさか同じ地元だったなんて。
●箕面は文化的な街●
関純子
関:今、関西テレビでも箕面をたくさん取り上げているんです。箕面といえば大滝ですが、(昔はお猿さんのイメージが強かったですが)春夏秋冬の季節感を自然から感じられる街。子育てもしやすいです。『よ〜いドン!』(カンテレ)で箕面を紹介するとなったら、「とりあえず関に行かせよう」というほど、私は箕面が大好きで、関ジャニ∞の丸山隆平くんに、以前、放送していた番組のロケで街を案内したこともあります。
杉林:私も小さいとき、父と連れ立って山へスケッチに行ったりしました。そんなときにお猿さんに出会ったり。自然が身近にあって触れ合える良い街ですし、あとグルメの印象が強いですね。オススメのお店が、「マッシュルーム(mushroom)」というお店なのですが、ここは小学校3年生のときから通い詰めているんです。
関:あ、知っています! 有機野菜を使っているお店ですね。
杉林:そうそう。「マッシュルーム」のイカ墨パスタは世界でもっともおいしいです。いろいろ食べ比べましたが、ここが一番ですね。
横山:箕面はそういうオシャレな感じもありますよね。だけどちゃんと自然が身近にある。私は昆虫が大好きで、お父さんたちとクワガタを取りに行ったりしました。箕面公園昆虫館も大好き。あと私は、石などの鉱物採集も趣味で、山へ拾いに行っていました。
杉林:実は私も石の採集が好きなんです。玄武岩とか。
横山:一緒じゃないですか!。山で見つけた石を拾ったりして、結晶や鉱物を集めて標本するのが趣味になりました。それがキッカケで散財してしまったんですけど……。
関:山で見つけた石が自分にとってのダイヤモンドに変わっていくわけですね(笑)。箕面に観光へ来られる方は、箕面温泉、箕面の滝、そして西川きよし師匠の家を見に来る人もいます。
横山:西川きよしさんのお家はおなじみですよね。
杉林:そういえば上沼恵美子さんも箕面にお住まいですよね。
関:実は箕面は芸能人が多いんです! ミヤコ蝶々さんも住んでいらっしゃいましたし、菅田将暉さんも箕面出身。
横山:そういう意味では箕面は文化的な街ですよね。イタリアの音楽家と箕面でリハーサルをしたとき、街に本格的なホールがいくつもあることにびっくりしていました。メイプルホール、グリーンホールなど大きな規模のホールがいくつもありますから。
●思い出が詰まった場所で今回、ひとつ成長した自分の演奏したい●
関:2021年には箕面市立文化芸能劇場も出来上がる予定ですし。このコロナ禍のなか、そんな箕面から世界へと飛び立って活躍されているおふたりが、地元に帰ってきて演奏をしてくださる。音楽の強い力、そして音楽の喜びや感動をぜひ味わっていただきたいです。今回の『ヴァイオリン・リサイタル&トークショー』は多くの方にとって忘れられないひとときになるはず。
杉林:世界中で大変な状況が続いていますが、そのなかでも私たちができることを、一つ一つやっていきたい。特に今回はメイプルホールという私にとって思い入れのある会場で、中学のとき、箕面第四中学校の吹奏楽部に入って、初めて演奏したのがメイプルホールの大ホールだったんです。
関:そういう縁があるんですね。
杉林:そんなメイプルホールに、ウィーンで学んだことを還元できるのはすごく誇らしいです。メイプルホールの大ホールにはベーゼンドルファーインペリアルという特別なピアノが置いてあります。通常のグランドピアノは88鍵なのですが、ベーゼンドルファーインペリアルは97鍵。バス弦が追加されて、豊かな中低音が鳴る特別な楽器。それを使って令奈さんとどういうアンサンブルが奏でられるのか、楽しみです。
横山:2021年は、私たち音楽家にとってはすごく難しい年になりました。そんななか、音楽の力を信じてコンサートを開いていただけることに感謝しています。私も小さいときからメイプルホールには親しみがありまして、亡き母であるヴァイオリニスト・清水玲子がよくコンサートをおこなっていて、私は楽屋をうろうろしていたり、照明のところからこっそり覗いたりしていました。
関:座席に座らず、ご覧になっていらっしゃったんですね。
横山:なぜか私の方がお腹が痛くなるほどすごく緊張してしまうので、いつも客席ではなく隠れて見ていたんです(笑)。ヴァイオリンを勉強し始めてからは、父親の教室の発表会で、メイプルホールの小ホールで毎年演奏をしていました。大ホールは2011年、私がクレモナの音楽院を卒業したときの記念コンサートを両親がオーガナイズしてくれたんです。そのときを最後に、この場所で演奏をしていなかったので、私たちにとって思い出が詰まった場所で今回、ひとつ成長した自分の演奏をお届けできるのがすごく楽しみです。
取材・文=田辺ユウキ

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