『オワリカラ・タカハシヒョウリのサ
ブカル風来坊!!』おおらかで刺激的
だった「ゲームブック」の世界 ライ
ター塩田信之に直撃インタビュー【後
編】

ロックバンド『オワリカラ』のタカハシヒョウリによる連載企画『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』。毎回タカハシ氏が風来坊のごとく、サブカルにまつわる様々な場所へ行き、人に会っていきます。
第26回目は、80年代~90年代にブームを巻き起こした「ゲームブック」の後編をお届けする。

後編、
人によっては懐かしい、人によっては新しい「ゲームブックの世界」に迫るこちらのシリーズ、今回は後編!
前編では、数々の著作を持つライターの塩田信之さんに、80年代に巻き起こったゲームブックブームの隆盛と、当時の制作秘話をお聞きしました。
後編ではゲームブックブームの衰退と、あらためてその魅力はなんだったのかを振り返りたいと思います。>>3へ進む。
3、
◆ゲームブックブームの衰退
タカハシ:ゲームブックのブームが、ピークを過ぎたのってどれくらいの時期になるんですかね。
塩田:そうだなあ……89年にはだいぶ下火になっていたと思います。
タカハシ:ブームから3年くらいですね。それは作っていて実感としてわかりましたか?
塩田:もちろんそうですね。やっぱり、書店の扱いがいちばんはっきりわかるところだと思います。本屋さんでの扱いがどんどん減っていきましたし。あとは、あんまり有名なタイトルが来なくなったとか。初期の頃は版権の許諾も厳密ではなくて、けっこう大雑把だったみたいなんですけど、だんだんゲームの本って許諾をとるのが難しくなっていくんですよ。ゲームの攻略本なんかそうなんですけど、特定の出版社さんしか許諾が下りないとか、そういう方向にシフトしていくんです。
タカハシ:その90年くらいを境に、ゲームブック自体の人気が下がったってどういう理由だと思いますか?
塩田:やっぱりゲームの普及率が、とても上がったんですね。ゲームソフトを代替品で遊ぶ必要がなくなっていったんじゃないかなと。 それと、よく言われるのがあまりにも出しすぎた。自分で言うのもなんだけど、粗製濫造みたいな印象があったと思いますね。どれを遊んでもそんなに変わり映えしなくて、離れていく理由にはなっていたと思います。
タカハシ:海外の翻訳物の流れというのは、その後も細々と続いたんですかね?
塩田:そうですねえ……ファミコン冒険ゲームブックよりはちょっと長く続いていたと思いますけど、同じくらいの時期に下降線をたどっていたと思います。たとえば、いちばん歴史があるのは『ファイティングファンタジー』というシリーズなんですけど、それも後ろに行くにしたがって部数が下がっていったと思います。
タカハシ:塩田さんとしては、最後に担当なさったゲームブックは?
塩田:たぶんエニックス文庫の『ドラゴンクエストI』(『ドラゴンクエスト 甦るロト英雄伝説』『ドラゴンクエスト 死闘!竜王の島』)だと思います。さっきの版権がらみの話にもかかわってくるんですけど、エニックスさんが出版業を立ち上げて、その中でゲームブックを出していたんですよ。ドラゴンクエストのI、II、IIIとかは、その時点でだいぶ過去の作品だったんですけど、それもゲームブック化しようということで。それのチャートを作ったのがたぶん最後くらいかなあ。
甦るロト英雄伝説』" class="img-embed">エニックス文庫『ドラゴンクエスト 甦るロト英雄伝説』
加東:ファミコン冒険ゲームブックでもドラクエが出てるんですよ、『ドラクエI(ドラゴンクエスト 蘇る英雄伝説)』と『ドラクエII(ドラゴンクエストII 悪霊の神々)』。
塩田:出てますね。
加東:そのIIが当時、好きなやつのなかで大騒ぎになって。初の上下巻だったんですよ!だいたい1冊で完結するんですけど、上巻で完結せず「下巻に続く」で終わるんですよ。それが話題で、さらにエニックスが改めてエニックス文庫でドラクエのゲームブックを出すみたいなことがあったんですよ。
塩田:エニックス文庫のドラクエVは、全4巻みたいに大量に出てましたね。
タカハシ:僕が遊んでたのはこれくらいのときですね、エニックス文庫。
◆ルパンシリーズ、ガンダムシリーズ、外伝としてのゲームブック
加東:逆に僕は世代的には、エニックス文庫の頃は記憶にないんですよ。こっち(ファミコン冒険ゲームブック)の世代だから。塩田さんにご持参頂いたものの中で、印象に残ってるのが『ルパン三世』のシリーズなんです。これは難しかったし、この『ルパン3世 謀略の九龍コネクション』の何が良いって、主人公がルパンじゃなくて五エ門なんですよ。
タカハシ:えええー。めっちゃ熱い。
塩田:正確に言うと五エ門と女の子っていう感じですかね。
タカハシ:五エ門を主人公に据えようと思ったのはどうしてですか?
塩田:ゲームブック自体が、傍から物語の主人公を見る立場で書いたほうがやりやすかったんですよ。で、これもそうなんですけど、子供のキャラクターを立てるのが私の主義みたいなところがあって。これは7歳くらいの女の子が主人公で。そこに五エ門を絡めたいと思ったのは、観ていた宮崎(駿)系のルパンの影響だと思います。
『ルパン3世 謀略の九龍コネクション』
タカハシ:それはすごいですね、いいですね。読者の分身になるような男の子、女の子っていうのが共感できる存在としていて。
塩田:ゲームブックの進行はその人でやる。
タカハシ:原作に対する”外伝小説”としての需要もありましたよね。アニメものだと、ガンダムもやってらっしゃいますよね?『Gの影忍 太陽系の秘宝』は、そもそもが外伝的な漫画作品のゲームブックです。
塩田:もともとガンダムは好きだったので。『Gの影忍』は、お話が来てからマンガを読んだかな。あのときは、バンダイさんが出版業に入っていて、そのなかにゲームブックのシリーズがあったんですよ。もともとスタジオ・ハードってアニメ系のムックをよく作っていたんですね。双葉社さんで『カリオストロの城』の大型のムックとか、啓文社さんで「大百科」シリーズとか、そういうのを作っていたのでバンダイさんともつながりがあったんです。
タカハシ:「大百科」シリーズとか、アニメムックには塩田さんは関わっていないという感じなんですか?
塩田:関わっていないですね、まったく違う部署です。スタジオ・ハードって編集プロダクションとしてはけっこう大きな会社で、その中で僕が入っていたのは作家班という感じだったんですよ。だからゲームブックしかやらない。ゲームブックだけ書いていたという状態です。
タカハシ:じゃあ、ゲームブックが衰退しちゃったらスタジオ・ハードの編集部の中では、仕事がないという感じだったんですか。
塩田:そうですね、これはどこまで内情を話していいのかよくわからないな……。当時は契約社員という形だったので、ゲームブックのブームが下火になったときに、このままではいけないだろうなと、契約を更新しないで終わったという感じですかね。
『機動戦士ガンダム Gの影忍―太陽系の秘宝』
タカハシ:そこからシービーズプロジェクト(ダービスタリオンや女神転生シリーズの攻略本を制作していた編集プロダクション)に参加するという感じですか?
塩田:ああ、ちょっと間はあるんですけどね。何年かくらいフリーランスだったんです。シービーズプロジェクトが始まる前は、ゲームブックを作った流れからテーブルトークRPGの業界にいたことがあって。いくつか仕事をしたなかで、『ワースブレイド』っていうTRPGのルールブックとか書いてましたね。
加東:うわあ……。『ワースブレイド』と『ソードワールド』は当時高校の先輩や友達と死ぬほどやりましたね。どんだけ影響を受けてるんだろ俺。
塩田:それは本当にただのライターとして、ルールブックのここの部分を書いてくださいみたいな感じですけど。ルール自体は、僕が作っているわけではないので(笑)。
◆ゲームブック、その刹那の魅力
加東:かなりゲームブック持っていたんですけど、けっこう処分しちゃったんですよ。なんでかっていうと、ページをめくる数が多いから(笑)。本を行ったり来たりするから、どんどん劣化するんですよ。
タカハシ:書き込んだりするしねえ。だから、今まんだらけの即売会とかいくと、ゲームブックってショーケースに入っていて、けっこう高いんですよね。みんなやっぱりハードユーズするからボロボロになっていて、きれいなものが手元に残ってないっていうのはあるかもしれないですね。遊んじゃったら捨てちゃうっていう人もいるじゃないですか。
塩田:あとは、初期のころはゲームがあまり買えなかったから、ゲームブックを買ってみんなで回し読みしているような状態もあったので、初期のころのは傷んでいるんじゃないかなって思います。
加東:僕らは、友だちでゲームブックが好きなやつが3人くらいいて、貸し借りしてたんですよ。「俺グラディウス買ったから、月風魔伝貸して」みたいな(笑)。全員が一通りやると、やっぱり読み捨てなんですよね。ペーパーバックじゃないけど、一度やったらいいみたいな。
タカハシ:消費される宿命、ある意味美しいですね。
加東:ファミコンソフトってやっぱり高いから、捨てないし持っておくけど、ゲームブックって400円くらいだから読み捨てになっていくんですよ。それもねえ、すごい今思うと刹那的だったなって。
タカハシ:すごいわかる。あとね、学校に持っていけるじゃないですか。子供たちの味方っていう感じで、良いですよね。のちのバトル鉛筆とかもそうだと思うんですよ。大人と子供が結託して、学校のルールの隙をついてる感じ。まぁ、結局流行りすぎると禁止になるんだけど(笑)。
加東:マンガを持っていくと没収されるけど、ゲームブックは大丈夫なんですよ。あと、『弟切草』とかノベルゲームみたいなものってあるじゃないですか。日本での、ああいうサウンドノベルゲームってここからの流れだなと思っていて。
タカハシ:いわゆる、アドベンチャーゲームですよね。「弟切草」や「かまいたちの夜」が出てきたときっていうのはプレイなさったんですか?
塩田:しましたね。とても面白かったですし、うらやましかったですね。コンピュータ上で処理ができるので、フラグ管理をする必要がないとか、1回目はこっちに進んだけども、2回目に同じところを選択しても違う結果にすることができるっていうのは、とてもうらやましかったですね。
タカハシ:ああいうシリーズって、『街』とか『風のリグレット』とかありましたけど、あれ以降そんなに増えないというか、ジャンルとしては一時期で途絶えちゃいましたよね。
塩田:そうですね。僕は、『街』の攻略本を作っているんですけど、ゲームシナリオの作り方みたいなコーナーを作ってですね、アドベンチャーゲームの歴史とか、ゲームブックというものがあったみたいな話とか、どういう分岐の構造がこの中にあるのかみたいな話を書いた記憶があります。
タカハシ:Netflixの『ブラックミラー』っていうドラマシリーズで数年前に、シーンごとに選択肢を選んでいって、自分でドラマの展開を選べるっていうやつがあったんですよ。その内容っていうのが、80年代の最初期のPCアドベンチャーゲームを作っているやつが主人公で。選択式のゲームブックをそのまんま、ネトフリが映像でやってるみたいなやつ。当時やっていた人が30~40代になって消費の中心になって、なつかしさ補正もあってそれに近いものとかリメイクとかもありますもんね。ゲームブックは、今かなりキャッチ―な存在になってますよね。
加東:Kindleとかでもゲームブックの配信・販売が始まっていますね。
塩田:そんなに活況を示しているというほどではないかなと思いますけど、昔からやっている人と、ちょっと話題になっているから新たに入ってきた人が増えてきつつあるかな?とくに今は、ちょっと前からボードゲームとテーブルトークがブームと言われている状態にあるので。衰退した時期から考えると、ちょっと浮上しつつあるのかなみたいな気がします。
加東:観ている人がインタラクティブなものを選ぶっていう楽しみ方が、また出来るようになってるのかもしれませんね。
◆すべてのゲームの原点「選択する面白さ」
塩田:ゲームブック作家としての取材も何度かあるんですけど、単独のネタが多いですね。『ウィザードリィ』のゲームブックの作者としてとか。
タカハシ:代表作にピックアップされるのは、やっぱり『ウィザードリィ』が大きいんですかね。
塩田:『ウィザードリィ』はとても大きいと思います。『ルパン』は『ルパン』で大きいと思うんですけど、ゲームブックシリーズも作者がたくさんいるので、必ずしも僕が中心というわけではないですからね。あとは古いところで『メトロイド ゼーベス侵入指令』というゲームのゲームブックがあって、それはわりと好きと言ってもらえる確率が高い。
加東:サイコロを使った記憶があるなあ。
塩田:たぶん、ファミコン冒険ゲームブックのなかでサイコロを使うのを初めてやったのは僕だと思うんですよ。ゲームブックを作っているときによく意識していたのは、何かオリジナリティを出したいというのはよく考えていて。システム的に少し凝ってみたいというのは、よくやっていましたね。
タカハシ:それは、「D&D」であるとか、ゲームが好きだったという経験もあるんですかね。
塩田:それはありますね。少なくともスタジオ・ハードのライターのなかで言えば、そういう方面からゲームブックを書いている人っていなかったんですよ。なので自分なりに面白さを出せるとしたら、そういうところを入れたかったみたいなところはありますね。
加東:でも面白いですよね。『ウィザードリィ』自体が『D&D』をコンピュータ上でやりたかったっていうのがきっかけだから、それが一回りしてアナログに戻っていくというのはすごい面白いと思います。塩田さんから見て、人生のなかでゲームブックに関わっていた時期というのは、どういうものかっていうのを最後にお聞かせください。
塩田:ゲームブック自体を作るのが、すごく好きでした。ゲームが好きだというのがもとにあるんですけど、チャートを作ること自体が好きでしたね。ゲーム的にするにはどうしたらいいんだろうと考えながら作っていくことが、すごく自分に合っていたんだろうなと思います。あと、ゲームブックのブームが終わってからすごく時が経ったあとに「昔ゲームブックやってましたよ」って言われることが結構多くて。それは、仕事をしていく中で支えになっているところはありますね。
加東:ありがとうございます。ヒョウリくんにとっては、ゲームブックはどういうものですか?
タカハシ:今、ゲームってめちゃめちゃ進化してるじゃないですか。オープンワールドRPGなんかは、なんでもできる自由度って言われてるけど、でも基本的にずっと選択を繰り返しているっていうところは変わっていないと思うんですよね。要は、いちばん最初の、2個の選択肢から0か1かを選ぶっていうところから基本的に変わっていない。それが無限に増えて無数の選択肢になったけど、面白さの本質はここにある「選択の面白さ」っていう感じがするんですよね。
加東:僕は、30年以上前の気持ちに戻った感じで懐かしいです(笑)。本日は、ありがとうございました!
タカハシヒョウリ・塩田信之 
文・インタビュー:タカハシヒョウリ 構成:加東岳史・塩田信之 撮影:加藤成美

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