17歳のVTuber・樋口楓インタビュー
フルアルバム「AIM」のタイトルにか
けた意味、そしてファンである作家陣
が描き出した「樋口楓という存在」と

12月16日、VTuber・樋口楓のアルバム『AIM』がリリースされた。
今年3月にシングル『MARBLE』でメジャーデビューした樋口。メジャー初のフルアルバムとなる『AIM』では『MARBLE』でもタッグを組んだ光増ハジメをサウンドプロデューサーに迎え、ZAQ、ぽん(ORESAMA)、結城アイラみきとPDJ WILDPARTYナナヲアカリら豪華作家陣とともに17歳の自身に「AIM」=照準を合わせた楽曲群を作り上げている。
VTuberの世界の第一人者である樋口楓はなぜ今「樋口楓」を歌うのか。彼女を直撃した。

(c)BANDAI NAMCO Arts Inc. (c)2017-2020 Ichikara Inc.
——いわゆる自粛期間ってなにをなさってました?
VTuberだっていうこともあって特に変わったことがなかったんですよ。普段と同じように毎日配信していましたし。春に予定されていたデビューシングル『MARBLE』のリリースイベントが延期や中止になっちゃったのはもちろん悲しかったし、寂しかったんですけど、その気持ちもYouTubeが和らげてくれたというか……。
——YouTubeが悲しさを和らげた?
自粛期間だからということで、私よりももっともっと有名なタレントさんや俳優さんやモデルさんもYouTubeチャンネルを作ってトークやメイク動画なんかを配信していたじゃないですか。そういう方々……たとえば渡辺直美さんの配信なんかを観たらちょっと元気になれたというか。みなさん、テレビや雑誌のお仕事が中止や延期になっちゃって、リリースイベントがなくなった私以上に大変なんだろうな、という意味で共感できたし、あとテレビに出ているような方はみんな私たちとは違う存在だと思っていたんです。でも雑談配信なんかを観ていると、実は似たような感覚を持っていたんですよね。なんかそういう発見もあった期間でもありました。
——樋口さんご自身の動画の視聴者数が増えたりは?
どうなんでしょうね? いつもどおりの頻度で配信していたので、私自身はあまり変化は感じなかったんですよね。ただ、私が所属しているバーチャルライバー(VTuber)グループ・にじさんじのメンバーの配信を観てみると視聴者が増えている人もいたし、あとVTuberのゲーム配信をきっかけにそのゲームが流行ったりもしていたみたいです。今ゲーム配信の世界では『Apex Legends』っていうFPS(First-person shooter。一人称視点のシューティングゲーム)が流行っているんですけど、そのゲームのユーザー数が増えた印象はあります。そういう意味では自粛期間におうちにいたみなさんがVTuberに触れてくださるようになったのかな、とは思っています。
●カバーアルバムだと思っていたら「どんな人に作ってもらいたい?」と聞かれて
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——そして今月リリースなさる1stアルバム『AIM』の制作も自粛期間中に?
そうですね。『MARBLE』のリリースが3月25日だったので、それが終わった瞬間……4月にはもう作り始めていました。
——自粛期間中の楽曲制作はやっぱり『MARBLE』の制作時とは勝手が違ったりしました?
確かにレーベルのスタッフさんや作家さんとのやり取りが全部リモートになっちゃったから短時間でのやり取りや会話、予定の調整が難しいこともありました。ただ、私はもともとVTuberなので。
——あっ、そうか。画面越しのコミュニケーションは慣れたものなのか。
そうなんです(笑)。しかもレコーディングのときもレーベルの方やスタジオの方がちゃんとリモート設備を整えていてくださっていましたし。スタジオには私とエンジニアさんと、サウンドプロデューサーの光増ハジメさんだけが入って、作家のみなさんはそのスタジオの様子と音をリモートでリアルタイムで聴きながらディレクションする形だったので。ちゃんと安全に配慮しながらレコーディングできるという環境でアルバムを作っていました。
——その環境に戸惑いは?
私も最初は「リモートでちゃんと音楽って伝わるのかな?」って心配だったから、トラックダウンにリモートで参加させてもらったとき、めちゃくちゃキレイに聞こえてきたのにビックリしました。しかも自分が普段音楽を聴いている環境でトラックダウン中の音を聴けたのもとてもよくて。だから最終的にはいい経験をさせてもらったな、と思っています。
——そういえば、そもそもデビュー時から「年末にはアルバムを」という話はあったんですか?
デビューしたときにレーベルの方と年間計画表を作っていて。そこには確かに「年内に1stアルバムを作りたいね」という予定も入ってはいたんですけど、最初はカバーアルバムを作る予定だったんです。「もしかしたらオリジナルになるかもね」くらいの感じだったというか。だから私は『MARBLE』を作り終えたとき「次はカバーアルバムを作るのか」と思っていたのに、なぜか「樋口さん、アルバムはどんな人に作ってもらいたい?」と聞かれて(笑)。
——「あれっ? カバーじゃないの?」と(笑)。
「オリジナルか!」って(笑)。それで「今年の1月にLantisの新年会でごあいさつした方や、ネットを中心に音楽活動をしている方にお願いしたいです」というお話をしました。
——作家陣にZAQさんや結城アイラさん、ORESAMAのぽんさんが並んでいるのは……。
新年会で「樋口楓と申します」「大ファンです」とお話しした方たちです(笑)。あとワイパさん(DJ WILDPARTY)やPandaBoYさんは以前からお世話になっている方々で、みきとPさんやナナヲアカリさんはネットで活躍なさっている私の好きなアーティストさんです。
——あと、現在17歳の若者にとって「アルバム」ってどういう存在ですか?
どういう存在?
——たぶん小さい頃、初めて音楽に触れあったときにはすでに着うたやiTunes Storeみたいな配信サービスがあったと思うんですよ。
確かにそうなんですけど、私自身、小中学生の頃から声優アーティストさんのCDを買ったりしていたから、私もアルバムを作れるのはうれしかったです。
——樋口さんの考えるアルバムという形態の魅力とは?
いろんな曲がギュッと詰まっているところですね。だから私もさっきお名前を挙げさせてもらった作家さんたちに「樋口楓という存在」をいろんな角度から切り取ってもらいたいな、と思っていました。
——で、そのアルバムのタイトルは『AIM』。目的とか照準といった意味ですよね?
FPSの世界では照準を定めることを「AIMを定める」って言うんですけど、まさに私に照準を合わせてみたくて。未来の自分や過去の自分や今の自分、いろんな自分にフォーカスしているという意味がまずあって、あと「AIM」の文字を入れ替えると「I AM」になるんですよね。だからVTuberとしての私、樋口楓としての私とはという意味も込めています。
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——確かに作詞家さんはバラエティに富んでいるけれども、基本的にどの曲も17歳女子の実像をテーマにしている印象を受けました。ただ「なんでこの人はこんなに自分のありようや、自分と世の中のギャップにイライラしているんだろう?」という気もしまして……。
あはははは(笑)。世の中に対してはあんまりイラだってはいない……むしろ世の中捨てたもんじゃないな、と思っているんですけど、自分自身にはけっこうイライラしていて。
——それはなぜなんでしょう?
なんでなんだろう?(笑) まず私が物事をネガティブに捉えがちな性格だっていうのもありますし、思ったとおりに物事を進められないことも多いし、「周りの友だちはちゃんとしているのに、私はなにをしているんだろう?」と考えることもあります。ただ普段の配信ではイラだっている自分をそこまで明け透けにするわけにはいかないと思うんです。視聴者のみなさんの思う樋口楓像があると思うから、本心を隠しているとは言わないものの、さらけ出してはいないよな、という気がしていて……。
——最初にお話ししていたテレビとYouTubeではタレントの印象にギャップがあるのと似た感じ?
そうですそうです。「そのギャップをどうやって音楽で表現しようかな?」「表現することでみなさんにVTuberや樋口楓という存在を身近に感じてもらいたいな」というのが一番の制作の動機になっていますね。
●VTuberをやっていない樋口楓(22歳)という世界線が存在していたら?
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——ところが『AIM』がひと筋縄ではいかないのが、リードトラックにしてアルバム1曲目の「アンサーソング」からして〈アンサーソング〉と〈ライアーソング〉……つまりウソ吐きの歌という2つのフレーズで韻を踏んでいる。だから聴いているとき「17歳の女の子の歌うべき歌が集まったアルバムだな」と思った半面、「樋口楓の実像とは?」という気にもなって……。
あっ、でもこの曲はゴールデンウィーク中にやった配信の内容が元ネタになっているんですよ。
——どんな企画だったんですか?
「もしVTuberをやっていない樋口楓(22歳)という世界線が存在していたとしたら、その樋口楓はどういう人になっていたんだろう?」っていうことを考えてみました。
——ただ「アンサーソング」の1行目の歌詞は〈もう知ってんだよ 結局は何も残らない両手だろう〉〈零れて失くして 真っ平だ〉。22歳の樋口さんはあまり幸せそうにないというか……。
本当にVTuberをやってなかったら、たぶん私はそういう生活を送っていたはずなので(笑)。もしこのまま22歳になったら普通に大学に行って、普通にバイトをして、ただただ平凡な時間を過ごしていたと思うし、たぶんそれにイラだっていたと思いますから。でも実際の私は今、VTuberとして活動をしている。だからこの曲の最後〈ねぇ、逃げないで 向かい合って〉という歌詞で今の私の世界線と樋口楓(22歳)の世界線をつないでみました。
——なぜその日常の樋口さんに近しい姿とVTuber活動をしているときの樋口さんの姿に言及してみようと?
「みんな、半歩進んだら世界はきっと変わるよ」ということを伝えたかったからですね。
——『MARBLE』のときと同じく、そういう思いをプロデューサーの光増さんや作詞家の平朋崇さんに伝えて楽曲を制作している?
そうですね。曲のテイストや歌詞のテーマを光増さんとお話しして、それを作家さんたちに伝えていただいています。あと、私自身はそんなにたくさん音楽のジャンルを知っているわけではないので、反対に光増さんにダブステップ調のロックを教えてもらって、ワイパさんと彦田元気さんに「ステレオアイデンティティ」を作ってもらったりもしています。
——『MARBLE』制作時には作詞家さん、作曲家さん、アレンジャーさんから届いた歌詞や音源にけっこうリテイクを出したとおっしゃっていましたけど……。
一発OKの曲もありましたけど、今回も申し訳ないくらいリテイクを出させていただいちゃいました(笑)。作家さんたちとのやり取りを通して本当に伝えたいことを引き出していった感じですね。
——その「本当に伝えたいこと」を表現するのに最適な歌詞やメロディ、アレンジのアイデアはどこから湧いてくるものなんですか?
うーん……。当たり前の話なんですけど、私は現実の樋口楓像も知っているし、理想の樋口楓像も知っているけど、作家のみなさんは基本的にネットにアーカイブされている樋口楓像しか知らないんですよね。だからみなさんが作ってくださった歌詞を読んだり、メロディを聴いたりして「私はここまでポジティブではないな」「こういう気持ちにはならないな」と気付いたら「Bメロのこの部分はそこまでポジティブにならないようにしてください」みたいなオーダーのしかたをさせてもらいました。
——制作前から樋口さんの頭の中に鳴っていてほしい音が具体的にあるわけではなく、光増さんや作家さんとのセッションのあいだに「樋口楓の思う樋口楓に似合う言葉と音」を探っていく感じ?
そうですね。さっきのダブステップ調のロックみたいに、作家さんにオーダーするときから「こういう楽器がほしい」「こういうサウンドにしてほしい」という提案をすることもあるんですけど、実際に歌詞やデモが届くまでは、どんなものができあがるのか私にはまったく想像できないので。実際にいただいた歌詞やメロディに触れて、みなさんの中の樋口楓像と私の中の樋口楓像のズレを把握して「じゃあ樋口楓らしい音ってなんだなろう?」って探っていきました。
——その「樋口楓らしさ」って言葉にできます?
それができたら本を書いてます(笑)。
——そりゃそうか(笑)。3分の曲に乗せられる歌詞の長さに比べたら、3分間で黙読できる文字量のほうがはるかに多いんだから、言語化しちゃえばいいんだ。
それができないし、もし私がひとりで樋口楓についての本を書けたとしても、樋口楓(22歳)的というか、きっとネガティブなものになっちゃうと思うので。それを作家さんと組むことでポップでポジティブなものに変換してもらう。音楽にはそういう面白さがあるな、って思っています。
——ということは作家さんからもらった歌詞やメロディを通じて、樋口楓が知らなかった樋口楓に気付かされたこともある?
めちゃくちゃあります! 「現代社会、ヒロインは!」を作詞していただいた安藤紗々さんは、女性らしい歌詞を書く方だからという理由で今回お願いしたんですけど、私自身気付いていなかったVTuber像を教えてもらいましたから。
——確かに新しい分野だから先行きをクリアに見通せはしないけど、そこまで悲観的にならなくても……。
基本的にネガティブなので(笑)。でも安藤さんは私のことを“現代社会のヒロイン”だと言ってくださった上に、今私のいる場所のことを〈100年先を想えるなんてやさしいこの世界〉と捉えてくださって。「私やVTuberの未来って安藤さんには明るく見えるんだ」っていうのがわかってうれしかったですね。
——先ほどおっしゃっていた「こういうサウンドにしてほしい」の「こういうサウンド」にはダブステップ以外にどんなジャンルがありました?
スカパンクですね。
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——じゃあ「TOBI-DERO!」は我が意を得たりという感じ?
そうですね。私自身もともとトランペットを吹いていたこともあるので、光増さんに「ブラスの入っている曲、それもスカパンクをやりたいです」というお話をさせていただきました。……ただ、この曲はアルバム収録曲の中で一番リテイクを重ねてるんですよ(笑)。
——それだけこだわりが強かった?
そうですね。最初に作曲の光増さんと編曲のEFFYさんからいただいたデモはすごく明るい曲だったんです。でもスカパンクって確かにブラスが派手になっていて、ギターがチャカチャカ、気持ちよくカッティングしてっていうイメージもあるものの、実は泥くさいサウンドでもあるじゃないですか。
——スカはレゲエの派生ジャンルですからね。
それで「明るすぎないサウンドで」というお話をして、作詞の金子麻友美さんにも「前向きな応援ソングじゃない方向で」というお願いをしました。
——逆に一発OKだった曲は?
ナナヲアカリさんに作っていただいた「アブノーマルガール」ですね。思わず「ナナヲさんってVTuberでしたっけ?」って言いたくなるくらい、私に寄り添った曲を作っていただけたので。
——なぜナナヲさんは樋口さんと共鳴できたんだと思います?
同じ女性で、同じようにインターネットを中心に活動しているのと、ナナヲさんご自身の曲にも自分のダメな部分を歌ったものが多くて。ただのファンだった頃から、そのご自身の捉え方が身近なものに感じられたので今回お声がけして、ちゃんと私のダメな部分に照準を合わせた歌詞を書いてくださって(笑)。あと曲については「キラキラした感じ、17歳らしいサウンドで」ってオーダーしたんですけど……。
——そうしたら、この青春パンクが届いた?
まさに「青春」っていうサウンドが届いたので本当にうれしかったです。
——あとこのアルバムには「たこ焼きロック」という怪作が収録されています。
あはははは(笑)。
——オールドファッションなロックンロールサウンドに乗せて、とにかく食べたいものを食べる歌です(笑)。
これはカエデちゃんっていう子の曲なんです。
——誰ですか、それ?
ファンの方が樋口楓の二次創作ということでカエデちゃんという子を作って下さって。この子は精神年齢が3歳くらいの2頭身の女の子なんですけど、人間のイヤらしい部分を持っていない上に、歯に衣着せぬ物言いをする子なんです。ほら、17歳の私たちってスタイルを気にしてダイエットとかするじゃないですか(笑)。
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——はい(笑)。
あとそうやってダイエットするのには、他人と自分を比べてしまうからという理由もあって。でもカエデちゃんは食べたいときに食べたいものを食べるんです。
——3歳児だから。
はい(笑)。だからこの曲もコミカルに聞こえるかもしれないけど「食べたいものは食べていいんだよ」「ありのままでいいんだよ」っていう、私の忘れかけていたことをカエデちゃんが気付かせてくれる曲なんです。
——ではほかの曲と同じように……。
「現実の樋口楓と理想の樋口楓の曲」なんです。
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——となると、すごく不思議なのが、ZAQさん作曲、EFFYさん編曲、そして樋口さん作詞の「Victory West!」なんですけど……。
そうですか?
——ほかの作家さんには17歳の女の子の等身大の喜怒哀楽をテーマに作詞してもらっているのに、なぜご自身は野球をモチーフに「みんなで力を合わせてがんばることの美しさ」を歌おうと?
この曲は『パワプロ』(コナミのゲーム『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』)がテーマなんです(笑)。
——へっ!?
今年8月に『パワプロ』とにじさんじ所属のVTuberがコラボした「にじさんじ甲子園」というイベントがネットであって。それは私たちVTuberが『パワプロ』で対戦するというものだったんですけど、その企画を19万人くらいの人が視聴してくれて。しかもみんな、すごく熱く応援してゲームを盛り上げてくれたから、本当に「参加してよかった」「すごくいい体験をさせてもらったな」と思っていたら、ちょうどZAQさんからこの曲が届いたんです。
——しかもそのデモを聴いてみたら、ブラスをフィーチャーしているし、ポップだし……。
応援ソングっぽいですよね。それでスタッフさんに「『パワプロ』について歌いたいんですけど……」というお話をしたら「せっかくそういうアイデアがあるならやってみなよ」と言っていただけたので、野球の歌を書いてみました(笑)。だからやっぱりこれも「樋口楓の曲」なんです。
——実際にファンのみなさんと力を合わせて戦った経験が活きている、と。ただ野球をモチーフにがんばることの美しさや誰かの応援が自分の力になることを野球になぞらえるのがまず凝っているし、Aメロの各行の頭に〈(1)〉〈(2)〉とカウントを入れる小技も効かせている。樋口さんって実は優秀な作詞家ですよね。
ありがとうございます(笑)。しかもこの曲の歌詞は4時間くらいで書けたんですよ。『パワプロ』が本当に楽しかったし、熱かったから想いがあふれ出たというか。アレンジャーのEFFYさんも「にじさんじ甲子園」を観ていたらしくて、歌詞をお見せしたら「樋口さんの言っていること、すごくわかります」っておっしゃってくれました。
——しかもメロディはZAQ流というか。1コーラス目と2コーラス目でAメロの尺が違うし、途中で突然3拍子になるし……。
そうなんです。めちゃくちゃスペシャルなアーティストさんじゃないですか。だから作詞しながら「これ、ZAQさんだったらどんな歌詞を入れれるんだろう?」ってすごく気になりました(笑)。
——ところが樋口さんはこのテクニカルなメロディにスムーズな言葉を与えている。ZAQさんにこの歌詞をお見せしたりは?
アルバムを作っているときには直接お会いできなかったので、いつか添削してもらいたいですね。
——あらためて完成したアルバムをご自身で聴いたときの感想は?
私が考える樋口楓らしい曲を集めたつもりなんですけど、私ひとりだったら絶対にできなかったアルバムでもあって。メジャーなクリエイターさんに樋口楓の曲を作っていただいたことで、私自身客観的に樋口楓を知ることができたし、聴いてくださるみなさんにも「ああ、樋口楓という人は17歳なりにがんばって生きているんだな」「その想いをメロディに乗せて歌っているんだな」って思っていただけるとうれしいです。それが理想ですね。
——じゃあその「17歳・樋口楓」が刻印されたこのアルバムを手に2021年はなにをしましょう?
『MARBLE』をリリースしたときからお話ししていることなんですけど、やっぱり樋口楓という存在を知ってもらいたいし、その樋口楓を通じてVTuberという存在を知ってもらいたいですね。VTuberの先駆けっていうと大げさすぎるんですけど、VTuberをみなさんが知るきっかけになりたいな、と思っています。
——まだご自身と世間のあいだにはVTuberに対する認識のズレ、ないしは無理解みたいなムードがある?
知ろうとしない人は多いのかな? という印象はあります。VTuberという名前は知っているけど、別にそれ以上深く知ろうとしなくても生きていけるわけですし(笑)。
——それはあらゆるエンタテインメントの世界に言えることですよね。
しかもほかのジャンルに比べてまだまだ始まったばかりの若いジャンルだから、広めるための努力をしないと、って思っています。
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取材・文=成松 哲

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