劇団四季の『オペラ座の怪人』はやっ
ぱり凄かった【新劇場・観劇レビュー

劇団四季の『オペラ座の怪人』は凄かったーー。
竹芝に誕生したJR東日本四季劇場[秋]のこけら落としとして、2020年10月24日(土)に開幕した『オペラ座の怪人』。1988年、日生劇場での初演以来、劇団四季のレパートリー作品として絶大な人気を誇るミュージカルである。
前回、KAAT神奈川芸術劇場での公演から、首都圏での上演は約3年ぶり。ここでは新劇場の印象などを織り交ぜながら、新生『オペラ座の怪人』観劇レビューを綴っていきたい。
新たな四季劇場[秋]と[春]はウォーターズ竹芝・シアター棟に入っているため、建物内の劇場エントランスに到達するまで少々時間がかかる。また、[春]は[秋」の上階に位置するので、以前のように左右に分かれて入場することはない。

『オペラ座の怪人』新キャストボード
手指の消毒等を終え、劇場内に入ってまず驚くのがキャストボードだ。これまでは俳優の名前が書かれたプレートがはめ込まれるスタイルだったが、新劇場では液晶での掲示に。観客が持ち帰れる紙のキャスト表は、これまでと同じく液晶画面の下のスペースに置かれていた。
ホワイエ(ロビー)はかなりゆとりのある設計。置かれたソファにはソーシャルディスタンスが保てるよう、座っていい場所とNGな場所の線引きがされている。
劇場内は特に横幅が広くなったという印象。客席数でみると、旧・秋劇場が約900席だったのに対し、新劇場は約1200席。筆者は1階席に座ったのだが、嬉しい驚きが前の座席とのシートピッチ。かなりのゆとりがあり、まったく圧迫感がない。
日本で『オペラ座の怪人』が上演されて32年(上演回数=約7200回、総入場者数=721万人以上)。2004年には映画化もされているので多くの方がストーリーはご存知だろうと思いつつ、一応おさらいしておくと、舞台は19世紀中頃のパリ・オペラ座。地下に”オペラ座の怪人”が住むといわれるこの劇場で、新作オペラ『ハンニバル』の舞台稽古が行われているのだが、相次ぐアクシデントでプリマドンナが主役を降板。急遽代役を務めたコーラスガールのクリスティーヌは見事にソプラノを響かせて拍手喝さいを浴びる。終演後に彼女の楽屋を訪れる劇場の新パトロン・ラウル。2人は子どもの頃に同じ時を過ごした幼馴染だった。
懐かしそうに語り合う2人の様子を鏡の向こうからじっと見ている存在……彼こそが”オペラ座の怪人”だ。地下の隠れ家へクリスティーヌを連れ帰った怪人は、彼女に自分こそが「エンジェル・オブ・ミュージック」だと信じ込ませ、自らが作った曲を歌わせようとする。その頃、オペラ座の支配人たちは怪人から届いた脅迫状を手に対策を考えるが、道具係・ブケーの首つり死体が見つかり、劇場はパニックに。屋上に逃れたクリスティーヌとラウルが愛の言葉を交わすのを見たファントムは、怒りを爆発させてシャンデリアを舞台に突き落とすーー。

劇団四季『オペラ座の怪人』(撮影:阿部章仁)
久し振りに『オペラ座の怪人』を客席で観てまず感じたのは、登場人物たちの感情表現が以前よりビビッドになったことと、キャラクターの個性が際立っていた点だ。
怪人ことファントムを演じる佐野正幸は、音楽や建築の天才でありながら、こと他者との心の交流においては子どものような未熟さや残虐性を見せ、自身の感情の制御がきかなくなる複雑な人物像を構築。誰からも愛されずに育ち、やっと愛情を注げる相手と出会えた喜びと、その対象であるクリスティーヌからの拒絶で全身にまとう怒りと哀しみ、愛情への渇望といったどうしようもない思いの揺れを繊細に紡ぐ。
クリスティーヌ役の山本紗衣は「音楽の天使」に憧れる可憐で夢見がちな少女が、次第に確固たる意志を持った大人の女性に成長していく様を丁寧に魅せ、ラウル・シャニュイ子爵を演じる加藤迪は、貴族感を醸しつつ、直情的ともいえる感情のふり幅を鮮やかに表現(このラウル像なら、本作の後日譚『ラブ・ネバー・ダイ』のあの姿に繋がるのもわかる気がする)。また、アンサンブルに長らくファントム役を務めた高井治やマダム・ジリーの経験者、秋山知子がいるのも心強い。
聞けば今回、海外のクリエーションスタッフとライブ映像をつなぎ、振付(ロンドン)や演技面(ニューヨーク)でのブラッシュアップを実現したそう。また、『オペラ座の怪人』の象徴のひとつともいえるシャンデリアは、1988年の初演で使用したものを基に劇団小道具スタッフが手を加え、新劇場の舞台に登場させたそうである。
『オペラ座の怪人』を語る上で外せないのが、アンドリュー・ロイド=ウェバーによる音楽だが、これは時に諸刃の剣で、あまりにも完成度が高いため、俳優がスコア通りに歌っていればある程度ミュージカルとして成立させられてしまうところがある。が、今回の東京公演では、そこからさらに作品を高みに押し上げようというカンパニーの気迫が伝わってきた。先にも書いたが、特に演技面でのアップデートには目を見張るものがある。

四季劇場[春][秋]外観(撮影:上原タカシ)
本来ならば新劇場・JR東日本四季劇場[春]のこけら落としは2020年9月のディズニーミュージカル『アナと雪の女王』で、[秋]では『The Bridge ~歌の架け橋~』が上演される予定であった。しかし、このコロナ禍でさまざまなスケジュール変更を余儀なくされ、[秋]は『オペラ座の怪人』がロングラン公演、[春]では2021年1月の『The Bridge ~歌の架け橋~』を皮切りに、2021年6月に新作『アナと雪の女王』を上演予定だ。
3.11の時もそうだったが、世の中が大きな禍で覆われた時ほど、劇場で体感するライブエンターテインメントの力と、そこから得るパワーの強さを実感する。初演から32年、さまざまなアップデートでより解像度が高まった『オペラ座の怪人』の”凄さ”を客席で目撃して欲しい。
※キャストは筆者観劇時のもの
取材・文=上村由紀子(演劇ライター)

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