Nothing’s Carved In Stone、10ヶ月
ぶり有観客のステージで躍動 "2020
年の11月15日"に刻んだ姿

Live on November 15th 2020 2020.11.15 KT Zepp Yokohama
今年8月にリリースしたセルフ・カバー・アルバム『Futures』のインタビューで、当初考えていたリリース・ツアーはできないが、「11月のKT Zepp Yokohamaだけはやろうと思って、会場を押さえている」と生形真一(Gt)が言っていたのは、なるほど、この『Live on November 15th 2020』のことだったのか。
「(セットリストの)最初のブロックが終わって、拍手がわーって来たとき、泣きそうになりました。俺はこんなにライブがしたかったんだって思って、(自分でも)びっくりしました」
ライブの終盤、村松拓(Vo/Gt)はそう言いながら、照れ臭そうに笑ったが、その村松が「始まりの歌」と紹介してから演奏することが多い曲のタイトルに因んだ毎年恒例のライブは、5回目の開催となる今回、村松が言ったようにバンドにとってももちろんだが、ファンにとってもちょっとびっくりするくらい新鮮な感動を得られる2時間となったのだった。
村松が雄叫びを上げ、08年に始動したNothing’ s Carved In Stone(以下ナッシングス)がバンドとして初めて作ったという「Isolation」で始まった。手拍子を求めると、すでに立ち上がっている観客が精一杯、手を打ち鳴らす。
「行こうぜ!」
村松が客席をさらに煽るように声を上げ、そこからこの日、バンドが繋げていったのが、バンドの誕生日を祝うという意味合いを持つライブにふさわしい全20曲の新旧のレパートリーだった。つまり、昔からのファンならその1曲1曲に自分なりの思い出があるに違いない代表曲の数々がずらりと並んでいたわけだ。だが、それにもかかわらず、ライブハウスならではの熱を孕んだ会場の空気が、懐かしさよりむしろ瑞々しさを感じさせるものになったのは、ほぼ全曲が『Futures』の収録曲だったこともさることながら、メンバー全員が観客の前で演奏することに歓びを感じながら、自分たちが考えていた以上に興奮していたからなんじゃないか。
思えば、ナッシングスにとって実に10か月ぶりの有観客ライブ。ここにいる誰よりもステージの4人がこの日を待ち焦がれていたことはまちがいない。「Isolation」のアウトロで、4人は大喜多崇規(Dr)を中心に円陣を組むように向き合い、思いを通わせたのだが、この日、幾度となく見ることができたそんな4人の姿がなんだか無性にうれしかった。
いや、同じような光景を、僕らはこれまでもたびたび目にしてきたかもしれない。しかし、この日、満面の笑みを浮かべ、お互いに顔を見合わせていた4人は何と言うか、無邪気に演奏を楽しんでいるようにも見え、ナッシングス以前の活動も含めれば、20年以上、もしくは20年近いキャリアを持つベテランがそこまで⁉と筆者は驚きとも言い換えられる感動を覚えたのだった。
「みんなを信じていてよかった。来てくれてありがとう。状況が違うのはわかってるけど、いつも通りやるからついてきて。最後まで楽しんでください」
「Isolation」から観客の気持ちをぐいぐいと鷲掴みにするように「In Future」「Spirit Inspiration」「Beginning」と曲を重ね、会場の温度を一気に上げた序盤戦が終わったところで、村松が語ったのは、今日のライブの心構え。状況が違うというのは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、本来はスタンディングの1階にも座席があって、これまでのようにモッシュできないことに加え、観客は声を出せないことを指しているのだが、だったら違うやり方で楽しめばいいじゃないか。
そう思ったのか、思わなかったのかはさておき、バンドが披露したのが有観客ライブでは初披露となる「NEW HORIZON」。声を出せないなら手を打ち鳴らせばいい。イントロでダイナミックに鳴らすハード・ロッキンなリフ、生形と日向秀和(Ba)が中盤に炸裂させるユニゾンのプレイ、そして生形が奏でるエキセントリックでフリーキーなソロももちろん、この曲の聴きどころには違いないが、曲を作る過程で加えられたハンドクラップが、ライブでここまで生きるとは。レコーディングではメンバー自ら叩いたハンドクラップを観客が叩き、一体感が生まれたことで、この日、「NEW HORIZON」は新たにナッシングスのライブ・アンセムに生まれ変わった。
そして、ライブの流れを加速させるように繋げた「Who Is」「Overflowing」で、生形と日向が競い合うように繰り出す超絶プレイに観客が掲げた手を懸命に振りながら応える光景に勇気づけられたのか、村松が快哉を叫ぶ。「みんなの声、聴こえてます。届いてます。行けるところまで行こうか!」
観客をひっぱるように村松は、続く「Rendaman」で気迫に満ちた歌声を響かせた。そして、大喜多のドラムの連打からバンドの演奏はさらに白熱! そこから今一度、再び向かいあい、呼吸を合わせた4人が繋げていったのが、爽やかな「Pendulum」、リラックスしたメロディの魅力が染みる「Red Light」、そして、さらにテンポを落としながら、トレモロ・カッティング、アーミングと言った技巧を駆使した生形のプレイも含め、圧倒的なバンド・アンサブルを印象づけた「シナプスの砂浜」だったのだから、直前のハイテンションから一転、観客の気持ちを揺さぶるドラマチックな展開に思わずニヤリとせずにいられない。これこそがナッシングス!
「コロナがあったからって、(ナッシングスの)中身は変わってない。日頃の鬱憤が晴れて、明日からがんばろうぜって思えるライブをやりたいと心から思ってます。俺たちは音楽で生き方を伝えていきたい。くだらない日常に戻っていけるように、そして本気の自分で生きられるように音楽を鳴らします。行けるところまで行こうぜ」
村松が熱弁を振るってからのラストスパートにバンドが選んだのは、ダンサブルな「Out of Control」からなだれこんだ「Like a Shooting Star」「Around the Clock」「きらめきの花」、そしてラストはこれしかないだろうと誰もが思ったに違いない「November 15th」の5曲。「Around the Clock」から大喜多の力強いバスドラのキックでつなげた「きらめきの花」では、「マジで1つになりたい。一番でかい、枯れない花を日本に咲かせよう!」という村松の言葉に、観客全員がワイパーで応えながら最後に手を高く挙げ、村松が求めた「最高の花」を咲かせてクライマックスにふさわしい眩い景色を作り上げたのだった。
駆け抜けるように「November 15th」を、一丸となって演奏した4人はアンコールに応え、「BLUE SHADOW」と、やはりこの日、有観客ライブ初披露となる「Dream in the Dark」を披露した。
「(コロナ禍を意識したわけではないものの、「Dream in the Dark」は)この時期に生み出せてよかったと思える曲。ナッシングスの本質を歌っただけなんだけど、自分たちの背中も押してくれた」と村松は語ったが、そんなエピソードといい、歌詞に込めたメッセージといい、サーフ・ロック調の明るい曲調といい、「Dream in the Dark」ほど、ナッシングスの新たな始まりとなるこの日のライブを締めくくるのにふさわしい曲はなかったはず――なのだが、実はライブの生配信終了後、バンドはさらにもう1曲、「Perfect Sound」を演奏したのだった。
きっと会場まで足を運んでくれたファンのために、という配慮からのダブル・アンコールだったと思うのだが、観客に伝えたいことを伝え終えても、なかなか演奏に入らず、まだまだ喋りたそうにしていた村松の様子から察するに、本当は自分たちが名残惜しかったからなんじゃないか。
そして、ついにステージを去る時、バンドを代表して、深々と頭を下げ、なかなか頭を上げなかった村松の姿からは、こうしてまた観客の前で演奏できたことに対するさまざまな思いが胸を打つほどに伝わってきた。どんな思いなのかは、陳腐な表現になってしまいそうだから、ここでは言葉にはしないがが、コロナ禍という苦境に立たされ、彼らの中でバンド、そして音楽に取り組む情熱と使命がさらに大きなものになってきたことは明らかだ。それも含め、新たな始まりなのだと思う。
最後に「Dream in the Dark」を演奏する前に村松が言った言葉をつけ加えておきたい。
「ナッシングスはすでに新曲を作っています。それがみんなと通じ合って、おもしろい世の中を作っていける一番自分たちらしいやりかただと思っています」

取材・文=山口智男 撮影=西槇太一

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