PELICAN FANCLUBが映像や照明、空間
までを掌握する演出で創り出したステ
ージ

PELICAN FANCLUB DX ONEMAN LIVE “NEW TYPE” 2020.11.7 渋谷WWW X
観客同士の距離を十分に確保するため、テープが貼られたライブハウスのフロア。区切られた何分の一、自分に与えられたスペースで開演を待っていると、SEが鳴り始めた。シミズヒロフミ(Dr)、カミヤマリョウタツ(Ba)、エンドウアンリ(Vo/Gt)の順にステージに上がるなか、メンバーのイニシャル&パート名を示すリサイクルマーク風のロゴが浮かび上がる。照明が朝焼け色に変わると、視線を合わせた3人がジャーンと鳴らす。そして大きく表示されるバンド名――。
PELICAN FANCLUBにとって約10ヶ月ぶりのワンマンとなった『PELICAN FANCLUB DX ONEMAN LIVE “NEW TYPE”』。ライブは「Amulet Song」から始まった。同公演は、バンドがメジャーデビュー以降にリリースした全作品のジャケットデザイン、および「Amulet Song」MVのアートディレクションとグラフィックを手掛けたデザイナー・GraphersRockとのコラボによるもの。メンバーの背後には巨大なスクリーンがあり、演奏する彼ら越しに映像演出が――例えば今は「Amulet Song」のMVを再構築した映像が投影されている。なお、照明演出およびVJを担当したのは、空間演出ユニットのhuez。そして冒頭のリサイクルマーク、見覚えあると思えば、MVにも登場していたものだった。芸が細かい。
バンドの音に映像と光が掛け合わさって生まれる瞬間の連鎖。形に残ることのない建築・変形が絶え間なく行われるここは、いわば、渋谷の真ん中に出現した架空都市か。アウトロを終えると、エンドウが観客へ「渋谷、高層ビル、ネオン街、人混み。その中で僕らは君に唄います。なので、この舞台は君が主人公です。ようこそ『New Type』へ」と告げる。
全編通じて鳴らされる特徴的なリズムが鍵の「Dali」では、フロアから自然と手拍子が起こる。ギターとベースでコードを鳴らしながら転調していくと、突如エンドウが激しくカッティングを鳴らし、そのまま「Telepath Telepath」へ。この曲では、バンドの生身の魅力を打ち出すためか、映像と照明もシンプルにまとめられていた。そして「ディザイア」の爆発力たるや。1曲目から続いた疾走は、この曲に向かうためだったか!と感じさせられるほどだった。
演奏はもちろんのこと、エンドウが演奏後に言う「サンキュー!」にも、MC後にカミヤマが重ねた「行けますか! 行こうぜ!」にも、気合いと充実感が滲んでいる。“都市”を辞書で引くと、“多数の人口が比較的狭い区域に集中し、その地方の政治・経済・文化の中心となっている地域”と出てくるが、ならば、音楽を共通言語に人々が集まるライブハウスもまた、一種の都市といえるのだろうか。そしてこの“都市”が――音楽の鳴る場所が、得難いものになる日が来るなんて、誰が想像していただろう。望まずとも、新しい生活様式に臨まざるを得なくなったこの世界で、奇しくも「New Type」と名付けられたこのライブは、想定以上の(そして実は非常に根源的な)意味や切実さを宿していった。そういう意味で特に強烈だったのは「ハッキング・ハックイーン」。2018年にリリースされた曲だが、人に会うこと・体温に触れることができなくなる未来を――愛を求め愛に追われる人間の性(さが)を言い当てているように聞こえる。タイポグラフィ✕モーションキャプチャの演出も、言葉をさらに鋭利にさせた。
「7071」以降はレーザーが使用され、映像の中で走っていた光が外に飛び出してきたかのような錯覚に陥る。轟音と不協和音の組み合わせが誘うトランス感も相まって、ここでグッと没入感が増した。「ハイネ」は、未来都市の航空写真、あるいは何かの電子回路、はたまた万華鏡の模様のような複雑な図形をバックに演奏。最後の間奏では一気に雰囲気が変わり、EDM調に(しかしラスサビに入ると平然と戻る)。「喋れないけど踊れるよね」(エンドウ)という呼びかけに呼応するような“踊れる”アレンジだ。
ここからは新曲を3曲続けて披露。一つ目は、ボーカルの言葉数が多く、プログレ的な尖り方をした曲。俳句が題材に扱われているため、和モチーフの映像が添えられていた。リリース未定とのことだが、エンドウアンリ特有の捻りが効きまくった曲だったため、歌詞カードを読みながら楽しめる日が来ることを期待したい。他2曲は、11月25日にリリースされるシングル『ディザイア』のカップリング曲。「Day in Day out」は、感情の発露としての音楽について歌った曲で、剥き出しの情熱が感じられた。サビはエンドウとカミヤマ&シミズが交互に歌う構成なのだが、ラストでユニゾンになるのが熱い。あと、いつかシンガロングできたら最高だろうなあ、とも思った。一方、青白い光の中で演奏された「Gradually」は、リズムパターンが主軸の曲で、自然と身体を揺らしたくなる感じ。曲の大半でカミヤマがサンプラーを演奏していた。
「to her」を終えたところでMC。ここではエンドウが、この日バンドがメジャーデビュー2周年を迎えたことに触れ、“数字を積み重ねた分、生きた経験が蓄えられていく”、“過去が積み重なるということは未来があるということ”という持論を展開。そのうえで「僕らにとっては(ライブができなかった期間中の)苦しいこと、いろいろな感情は、この日のため、『New Type』のためにありました。でも、明日からのための、この日なんですよ」と語った。
「みんなも明日からの楽しみがなくなったらまたここに帰ってきてほしいと思うし、僕はそこに寄り添ってくれるのが音楽だと思う。つまり、何が言いたいかというと、この瞬間を後悔なく生きようということです。今、みんなと僕らは同じ時間を共有しています。今、僕らは生きているんです。そう思えるような一日にしたいなと思って、今日『New Type』を開催しました。後悔のないように、一緒に楽しんでいきましょう。よろしく」(エンドウ)
そうして始まったのは「Night Diver」。スクリーンに映るのは、ネオンの道を駆け抜けるような映像。向かう先、地平線には強烈な光源。直前に語られた“これまでの昇華としての今日”、そして“明日の糧としての今日”が演奏でも映像でも体現された。<死期が迫る中/色褪せないように急いで>と歌う「ノン・メリー」に続くのは「みんなの色を混ぜていこう」(エンドウ)という言葉、からの「三原色」。果てない想像、他者との創造を求める気持ちを鳴らすバンドサウンドはどこまでもみずみずしい。
「Girlfriend In A Coma」では、GraphersRockが手掛けた歴代ジャケットデザインや、『New Type』のメインビジュアルが表示されるなど、実質エンディングといえる演出があった。その後、本編ラストに選ばれたのは新曲。一人ひとりが別々のきっかけで音楽に出会い、今ここに集まって、そうしていつの間にか出会っていて……という群像劇のような今日の尊さを歌った、温かい曲だった。この舞台は君が主人公。初めに伝えた大切な言葉を、もう一度あなたの手に握らせる。
3曲を演奏したアンコールで、最後に鳴らされたのは「記憶について」。まさしくすべてを叫ぶような熱演を前に、この曲がなぜライブでずっと演奏されてきたのか、その意味を改めて噛み締めた。蓄積した想いの爆発・生存証明としての創造、音楽、ライブ。人間が都市を作るのは、迷いや困難、破壊と建て直しの先にある光を信じているからなのかもしれない。彼らのライブを求める気持ち、ライブをするうえでの気概が伝わってきた日だった。「(観客が)声を出せないって抵抗もあったけど、関係なく、君たちの表情は分かるなと。それだけでステージに立つ意味があるなと思いました。心から感謝しています」(エンドウ)という発言もあったが、発表された通り、12月には有観客&無観客配信の2デイズライブが開催される。生命の火、明日への灯を絶やさないために、3人は地元・千葉LOOKのステージに立つ。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=伊藤惇

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