珠麟 -しゅりん-

珠麟 -しゅりん-

【珠麟 -しゅりん- インタビュー】
“これから私も、
あなたも何にでもなれるのよ”
っていう新しいスタート

パッと閃いたからって感じで
深く考えずに作った曲たち

そういう単に歌謡曲的ではないところが随所にありますよね。冒頭で話した「猫背。」はまさにそうで、普通の歌謡曲ならこういうサウンドにはしないでしょうね。

そうですね。私がある程度のアレンジを作り上げた上で、そこに寄り添ったアレンジをしてくれる人が多いんですけど、アイゴンさんはアイゴンさんって感じで(笑)。

出来上がったものにアイゴンさんのアレンジをそのまま加えたような?

そうです(笑)。なので、この曲は任せようと思って任せたらすごいことになった感じですね。

あと、これはヴォーカリゼーションについてですが、「Got Tricked?」の圧しの強さ、ワイルドな歌い方が面白いと思いました。

何年か前に作った曲を名村武さんにアレンジしてもらったんですけど、彼はすごい器用というか、私がやりたいであろう音楽を分かってくれていて、アレンジがすごくロマンチックなんですよ。なので、この曲の場合、AメロとBメロはウィスパーヴォイスにして、サビでガンガンやったという。歌詞的には“恋人が喧嘩してるんだろうな?”って思わせる様な内容が最後にどんでん返しがくる面白い仕掛けにしたいと思ったので、ヴォーカルの熱量はそこに持って行くためのものですね。

迫力のあるところと可愛らしさを同居させているのが面白いです。

そういうのが結構好きなんです。落ちサビだけ全然違う声で歌ったりすることは、昔からずっとやってたんで、この曲はすごい面白いし、それが映えると思って。ミックスもヴォーカルが埋もれるように小さめでっていう発注をしたし。

サウンドはノイジーでロックな感じですよね。「さよならミッドナイト.」から続けて聴いていくと、表現の幅がしっかりあるヴォーカリストだということがよく分かりますよね。あと、これも今日どうしても訊いておきたかったことなんですけど、J-POP、J-ROCKではあまり聴かない言葉がいっぱい出てくるなと。まずは「Got Tricked?」の《私を騙すなんて御門違い。》とか《証拠隠滅出来ると言うのなら》とか。

あはははは。

あとは、「ガラクタゴシップ」の《慇懃無礼なわりに内股膏薬よね、貴方?》《貴方のモノだわ虚礼虚分でも》もそうで、“内股膏薬”と“虚礼虚分”はググりましたよ(苦笑)。

みんな、読めないって言うんですよね。…あぁ、なるほど、そういうことか(笑)。

この辺の言葉のチョイスはレトロ感に合わせたものなのかとも想像していたんですけど、自身の中からストレートに出てきたものなんですか?

そうですね。実は歌詞にはあまり重き置いていなくて、基本的に音の耳障りを重視して書いているので、「Got Tricked?」みたいなストーリーをつけるのはちょっと珍しいですね。あとは、「ガラクタゴシップ」の繰り返しのサビっていうのも珠麟 -しゅりん-では初めてなんですよ。同じ言葉を繰り返して言うことはなかったんですけど、何かちょっと変えたいということでやってみました。で、《慇懃無礼》などのフレーズに関しては、“このメロディーが気持ち良く聴こえる文字はないかな?”と…でも、そこには言葉としてちゃんと意味を持たせてあげたいんですよね。私は昔から擬音語擬態語辞典とか、四字熟語辞典とかを読み漁るのが好きだったので、“そう言えば、こんな言葉があったな”って思い出し、もう一度辞書を引いて、意味合いが馴染みそうならば起用するという感じで入れました。

“内股膏薬”と“虚礼虚分”は日本のポピュラー音楽で初めて使われた言葉なんじゃないですかね(笑)。

あはははは。私、家で作ってて“メロディーができた!”と思ったら、まずヴォーカルを入れたくなるんですよ。♪ラララ〜ではなくて、ちゃんと歌詞を入れたいんです。例え適当な言葉であっても。なので、適当に3~4分で書いた歌詞で仮歌を入れて、本番までに“この音、気持ち良いな”“こう聴こえてほしいな”みたいな言葉の音に直す感じなんですね。「ガラクタゴシップ」は普通の言葉を入れて説明文になるよりは、四字熟語で“ん?”ってなるほうが言葉遊びに聴こえて、あんまり深くも重くもとらえられなくていいかなって。調べた時に意味が分かって“あぁ〜”って思ってもらえたらそれが面白いなと。

なるほど。確かに「ガラクタゴシップ」はファンキーなノリがあるから、そういう言葉を使ってもいいところがあるのかもしれません。スローバラードで四字熟語の入った歌詞を壮大に歌われたりすると、その意味をじっくりと考えそうですもんね。しかし、サウンド面もそうですし、今の歌詞の面でもそうですけど、珠麟-しゅりん-さんの音楽には他には絶対にない部分があって、やはり唯一無二なものを標榜されているアーティストなんでしょうね。

そう言っていただけると…(照)。

まぁ、他にあるものを作っても面白くはないでしょうから、それがアーティストとしては当たり前の姿勢なんでしょうけど。

『真っ白。』に収録されている曲を作ったのは、閃いたから作るとか、それが好きだから作るとかを繰り返していた時期だったので、もともとのルーツがあるとかっていうよりは、パッと閃いたから“今、打ち込まなきゃ!”って感じで作ったような曲たちだし、深く考えずに作った曲たちなんです。

もちろん珠麟 -しゅりん-さんもさまざまな音楽体験をして、それが自身の音楽にも反映されているとは思いますが、それだけが先に立つことがなかったということですね。

もちろん皆様にも自分の中には絶対的なルーツはあると思うんですけど、今回に関しては“これは今までに作った中で似たようなものがあったっけな?”ってことを考えながらというよりは、降りて来たものを“これだ!”という感じだったので、何の迷いもなく、スラスラと作れた曲たちでした。

これは深読みかもしれないですが、「猫背。」の歌詞に《いつの日か必ず/本物(自分)を見つけられる》とありますよね。やはりこれは“唯一無二な自分”を目指すという想いを重ねたところもあるんでしょうか?

それは深読みですね(笑)。

失礼しました(苦笑)。ただ、《未来(まえ)だけ見つめて》ともありますし、前向きな内容であることは間違いないですよね。

ですね。珠麟 -しゅりん-としてはすごい珍しい歌詞だなと。これは仮歌から全然直してなくて、今こういう時期で、わりと前向きな歌詞に仕上がったのは、自分の中での心境の変化が大きかったと思います。そもそもタイトルの“真っ白。”がそうなんですけど、毎日の出来事をノートに書き綴るようになったんですね。今日あったこと、嫌なこと、良かったこと、“こうなりたい”“これを今から実行する”というのを書き溜めるノートを作ってて、それを毎日毎日めくって、新しい真っ白なページに書き込むってなった時に“今日も自分を生きたな”という感覚になったので、そこからこのタイトルがついたんです。ノートを書き始めてから多少の変化があったというか…今までは視野が狭くなって、自分自身で嫌なことを溜め込んで消化できずにいるようなループが続いていたけど、ノートに書くことで発散して、それを後日見返して整理をし、一個ずつクリアーしていこうとなったことで心境が変わっていき、自分自身のことをよく知れるようになった。それまでは自分が自分のことを一番分かっていると思っていたけど、実は分かってなかったということに気づけたし、自分と向き合う時間として、すごいそのノートを書くことを大切にするようになったんです。なので、それが「猫背。」の歌詞にも反映されているのかもしれませんね。

“真っ白”と言うと、全部クリアーして0になった状態にしたと想像もできますが、そうではなくて、前向きな0ですね。

そうですね。新しいページの意味です。“これから私も、あなたも何にでもなれるのよ”っていう新しいスタートの意味合いでつけたので。

さて、ここまでいろいろと話をうかがって、珠麟-しゅりん-という方がどういうアーティストであるのかが掴めてきたところですが、先ほど、この『真っ白。』の収録曲はほぼ過去曲というお話がありましたよね。

「猫背。」は完全にこの作品に向けて作りましたが、それ以外は私が想いを馳せて作ったものばかりで、とりあえずアルバムを作るのであれば、ここでちゃんと全部消化したいと。そこから新しい曲を作っていきたいと思って。

なるほど。先ほどの“ノート”で言えば、ここで全てを書き出して、次の新しいページを迎えるということですね。そうしますと、『真っ白。』がリリースされていないうちからこんなことを言うのも変ですけど、この次はどうなっていくのかが興味深いですね(笑)。

あははは。それは私も分からないです。まだ真っ白なので(笑)。まぁ、この曲たちを作った4〜5年前はひとりで音楽を作ってたけど、そうではなくなったという環境の変化はあると思います。そこからどういう化学反応が起こるのかというのは、自分でも楽しみなところはありますね。そもそも人と作るという環境になった時に自分も変わっていくだろうし、人と合わさってまた違うものが生まれれば…というところは楽しみにとっておきます。

取材:帆苅智之

ミニアルバム『真っ白。』2020年11月18日発売 BETTER DAYS/日本コロムビア
    • COCB-54304
    • ¥2,400(税抜)
珠麟 -しゅりん- プロフィール

シュリン:2013年、音楽活動での名義を“珠麟 -しゅりん-”として開始。名前の由来は金魚の品種「珍珠鱗」。マルチアーティスト、ヴォーカル、作詞、作曲、編曲、楽器演奏、マスタリング、デザインなど、さまざまなことを自身で担当し、和モダンをモチーフにした絢爛豪華な花魁世界を発信し続けている。19年には園子温監督のNetflixオリジナルドラマ『愛なき森で叫べ』エンディング テーマ「さよならミッドナイト.」を歌唱。20年11月にミニアルバム『真っ白。』をリリース。珠麟-しゅりん- オフィシャルHP

OKMusic編集部

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