GLIM SPANKY初のオンラインワンマン
公式レポートが到着

GLIM SPANKYが、10月にリリースした2年ぶりとなる5thアルバム『Walking On Fire』を引っさげ、11月14日に自身初のオンラインワンマンライブとなる『GLIM SPANKY STREAMING SHOW 2020』を開催した。以下、オフィシャルのライブレポートを掲載する。

松尾レミ(Vo/Gt)と亀本寛貴(Gt)による二人組・GLIM SPANKYの大きな強みのひとつは、ロックを文脈で体現できることだ。1950年代に、ブルーズ、R&Bやカントリーなどをルーツとしたロックンロールが誕生。1960年代に入りザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズらが世界を席巻して以降、ロックは約70年に渡りさまざまな国や土地の音楽、思想や世相、テクノロジーなどと結合を繰り返し、その魅力を拡張してきた。そんなロックが積み重ねてきた歴史にリスペクトがあるからこそ、ロックが好きだからこそ、過去を掘り現在を追う人並外れた二人のインプットが止まることはない。そしてときにロジカルに、ときに直感的に、自らのサウンドを進化させアウトプットしてきた。
そして2020年。インターネットや音源制作にともなう技術が大きく発達し、ロックひいてはジャンルという概念そのものが大きく変化しつつある近年の音楽シーンに起こった激流だけでなく、世界は新型コロナウイルスのパンデミックという未曽有の事態に襲われ、人々の価値観が根っこから揺れ動くなか、GLIM SPANKYは通算5枚目のニューアルバム『Walking On Fire』をリリース。二人は作品についてオフィシャルインタビュー上で、「今の時代に響くソリッドなロック」(亀本)、「とにかく今このアルバムを聴くことに意味がある」(松尾)と語っていたが、まさにその言葉通り、これまでの“GLIM SPANKYらしさ”も新たなチャレンジも、すべてがネクストレベルで鳴り響くサウンドと、コロナ禍も含めた時代と向き合う自身の気持ちを吐露した今この瞬間に響くメッセージ、すなわち歴史の記録がここに収められている。
そして本来なら、そんな素晴らしいアルバムを引っ提げてのツアーといきたいところだが、今はウイルスの感染拡大防止という観点から、アーティストのライブにも選択が迫られる時期。人数を制限し徹底した予防対策のもとでフロアに観客を迎えて開催するのか、オンライン配信だけで届けるのか。二人とクルーは現時点で後者を選んだ(配信収録会場に入れたのは、FCで当選した若干名のラッキーな特別観覧者のみ。それもスタッフに紛れヘッドフォンでMIXをその場で聴くという贅沢な環境で)。そして迎えたTOKYO FM HALLでの『GLIM SPANKY STREAMING SHOW 2020』は、松尾も亀本も、“配信のみで届ける方向に振り切ったからこそ音質や映像にとことんこだわった”と公言はしていたが、その言葉からくる期待感を大きく上回るものだった。
360度さまざまなアングルから迫るカメラワーク、レトロとモダンを往来する映像のフィルターや色彩感、曲の世界観にとことんフォーカスした照明、いずれにせよそうなっていたであろう新たなバンド編成。それらのすべてが先に述べたアルバムに対する二人の言葉を、今度は生演奏で見事に表現した、まぎれもなく瞬間を切り取った”ライブ“であると同時に、芸術的な“作品”という言葉も加えたくなるほどの、至高の時間だった。
通常のライブであればまずあり得ない近い距離感とアングルでステージを捉えたモノクロの映像に静まり返る場内。亀本がシールドをギターに指す音や、ストラップを肩にかけたときに反応する弦の音などから独特の生々しい緊張感が漂う。そして始まったのはニューアルバムで冒頭を飾ったインスト曲「Intro: Walking On Fire」。おそらく多くの人がまず、その音質の良さに度肝を抜かれたのではないだろうか。音源とは当然異なる、ライブならではの空間的な音がクリアに力強く鳴り響き、凄まじい臨場感を演出する。サポートメンバーは4人。かどしゅんたろう(Dr)、栗原大(Ba)、元ゴメスこと中込陽大(Key)のお馴染みの3人に、今回初めてサポートギタリスト・竹之内一彌が加わったことで、演奏に厚みが増し、今までは基本的にギター&ボーカルだった松尾がハンドマイクで歌うセクションが増え表現の幅が広がったことはかなり大きい。松尾こだわりのビンテージファッションが頭の上から足の先までじっくりと堪能できたこともまた、ファンにとっては嬉しいポイントだ。
そして、ニューアルバムで見せた新機軸と言えるファンキーなリード曲「東京は燃えてる」と、同じくニューアルバムから、今まで直接的には触れていなかった90年代のR&Bやネオソウルにアプローチしたグルーヴィな「こんな夜更けは」、「Up To Me」の間に、フェスやイベント、ワンマン問わずここぞというときの疾走感のあるロックな定番曲「怒りをくれよ」を挟む展開へ。それによって、今までのライブでは表の拍をポイントに縦ノリで盛り上がっていた速い曲も実は柔軟なグルーブを持っていることが際立つ。ライブならではと言える落差のある曲順と、配信ならではのクリアな音質が掛け合わさったことで、過去の曲の本質が引き出されたように思う。
続いてはGLIM SPANKYのお家芸と言えるボトムの低いロックから、「愚か者たち」と「Breaking Down Blues」のダークでスリリングなチョイス。サウンドの厚みや強度、ブルーズ味が増していくグラデーションや松尾の鋭い眼光にゾクゾクする。そして、そんな緊張を優しく包み込むようにロックバラード「美しい棘」へと移る流れはこれぞカタルシス。亀本がギターを弾きながら浮かべる恍惚の表情を間近で観られたこともまた印象的だった。
ニューアルバムについて「今までにない挑戦ができた。今の時代を反映したアルバムになったし、これからのGLIM SPANKYを予感させるものになった」と松尾が話し、続いて演奏した曲は、同作からの先行シングル「Singin’ Now」。あえてトラディショナルなロックの王道を走ることでオリジナリティに磨きをかけたその力を、ライブでも見事に表した。
ステージも終盤に差し掛かり、ここで“ゴメストリングス”(中込が集めたストリングスメンバーだからそう呼んでいるらしい)の須原杏、銘苅麻野、秀岡悠汰、吉良都が登場。変わりゆく時代のなかでも二人が常に示し続けてきた、“自分らしくいることの大切さ”を象徴する「大人になったら」に美しい弦の調べが重なり、その強さや温もりや優しさといった感情のハーモニーはさらに豊かに。続くフォーキーで軽快な「By Myself Again」が描くのどかな田園風景にもまた一つ新たな緑が加わったよう。そしてブリティッシュフォークを思わせる甘美でどこか妖しげなストリングスと松尾の絶品メロディーに、亀本のギターがそっと寄り添う詩的な「若葉の時」では、松尾が椅子に座り本を片手にリーディングスタイルで歌う。暗い森にふと指した光のような照明とその様を映すカメラアングルは、配信ならではの世界観と情緒に溢れ、時代の喧騒に苛まれた心が少し軽くなった気がした。
ラストはニューアルバムでもフィナーレを飾った「Circle Of Time」だ。GLIM SPANKYの真骨頂と言えるディープなサイケデリアを、亀本のギター以外はほぼ全編打ち込みで更新したスペイシーで壮大な新次元。それをメンバー全員の強力なアンサンブルという肉体的な表現でさらに塗り替える離れ業をやってのけ、この日最大の驚きとともにステージは幕を閉じた。
そして画面に映し出されたのは、「SEE YOU IN NEXT ONE-MAN LIVE 2021.2.20 SAT @新木場STUDIO COAST」の文字。内容はフロアに観客を迎えると同時に配信も行うという。二人とサポートメンバー、そしてスタッフにとってのまた新たなチャレンジは、きっと我々ファンにとっても新たな思い出の1ページになることだろう。

取材・文=TAISHI IWAMI

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