ハイバイ『投げられやすい石』岩井秀
人にイロイロ聞いた~「作品の時代性
とか1秒も考えたことないです、マジ
で」

美大時代「天才」の名を欲しいままにした佐藤。が、ある時彼はさまざまな噂を撒き散らしたまま忽然と姿を消す。2年後、友人・山田のもとにかかってきた1本の電話。受話器の向こうのかすれた声は「天才」佐藤のそれだったーー。
ハイバイ初期の作品『投げられやすい石』が東京、長野、三重の三都市で上演される。作・演出の岩井秀人に話を聞いた。
■台本の”匿名性”が強味になる
――『投げられやすい石』いよいよ初日が迫ってきました。
岩井 初演と再演で僕が演じた佐藤役を、今回はオーディションを受けてくれた岩男海史くんが担います。元主演に演出されるって演じる側にとっては結構なハードルだし、場合によっては演出する側もストレスを感じる状況だと思うのですが、今回はまったくそういうことがない。優秀な俳優さんが参加してくれていると実感しています。俳優の力ってやっぱりすごいですよね。
――2011年の再演では岩井さんをはじめ、松井周さん、内田慈さん、平原テツさんの布陣でした。三演目となった今回は岩男さんに加え、井上向日葵さん、町田悠宇さん、山脇辰哉さんの若手俳優4人が登板します。
岩井 岩男くん以外の3人は僕が何年もやっている若手俳優のワークショップから厳選したメンバーです。彼らは世間的にはまだ知られていない俳優かもしれませんが、僕が書く台本の強味がある種の匿名性だと思っているので負ける気がしません。『投げられやすい石』も俳優の知名度に頼るところがまったくない作品。むしろ、まだ世に知られていない彼らが演じることで、お客さんもそれぞれの役に自身を重ねて見やすいんじゃないかと思っています。
――4月に上演予定だった2作品がコロナの影響で中止になり、ハイバイとしては、2018年の『て』と『夫婦』以来2年ぶりの本公演になります。この禍の前から決まっていたことだとは思いつつ、なぜ今『投げられやすい石』なのでしょうか。
岩井 僕、作品を上演する時に、時代性とかってあまり考えないんです。今はこれまで自分が書いた台本の中からある程度評価されたものを順繰りに再演していて、今回はその順番が『投げられやすい石』だったということです。
――そこまで言い切っちゃう劇団主宰の方、あまりいないと思います(笑)。
岩井 そうなのかな(笑)。作家さんによってはそこにこだわる方もいると思いますが、僕は最初から「この時代だからこの作品をやる意味がある」とか考えたことないんですよ。うん、マジで1秒も考えたことない(笑)。

岩井秀人((c)︎平岩享)
――あらためて台本も読ませていただきましたが、劇中で大きな事件は起きないのに、登場人物たちの心のうねりがズキズキ刺さって痛かったです。

岩井 確かに大事件は起きませんよね。だけど、たとえば僕が過去にひきこもったことって、社会的にはなんの事件でなくても、僕にとってはすごいドラマだったんです。皆、生きていく中でいろんな酷い目に遭って、それは個人の問題ではあるけれど、それぞれの身にとんでもないドラマが起きている。僕が興味があって描きたいのはそういうことなんだと思います。で、それを観てくれたお客さんが「あー、こういうことある」って感じてくれたら「やった、仲良しが増えた!」って。
■岩井秀人が思う”演劇”とは
――コロナ以前とはまったく違う「果たして本当に幕を開けられるのか」という状況の中、稽古を続けることに不安があったりしませんか?
岩井 僕は作品を上演できなくても作り手としての最低ラインは達成できると思っているんですね。だから今の事態に特に不安はないです。
――その視点、コロナ禍で演劇にかかわる人から初めて聞きました。ちょっと驚いてます。
岩井 多分、演劇というものに対してのかかわり方が、僕は他の人と違うんですよ。これ、誤解がないように伝えるのが難しいのですが、僕にとっての演劇は「お客さんがいること」が絶対じゃない。稽古場で俳優とやり取りをする中で生まれるもののパーセンテージが自分の中で非常に大きいんです。
今回の『投げられやすい石』はフィクションですが、過去、僕の身体に実際に起きたことを劇中で俳優さんの身体にも起こしてもらいます……で、それは自分にとっての療養なんですね。直截的に自分の傷を癒すことになるかはわからないけれど、大きな目で見たら、稽古場で俳優と作品を作っていくことで僕は絶対に癒されているはずなんです。たとえばめちゃくちゃ腹が立つことがあったとして、それを自分の口で叫ぶのもいいけれど、誰かが一緒になって叫んでくれることで救われたりもするじゃないですか。僕にとっての演劇って、そういうものなんだと思います。
さらに言うと、「公演が飛ぶ可能性もある」っていう今のジリジリした空気、じつはそんなに嫌じゃなくて。
――それも現場の方から初めて聞きました。
岩井 たとえば、今回の公演が打てなくなったとしても、演劇は終わらない。そこから、次は何ができるかって考えることこそが演劇だ、って思っているフシが自分の中にあるんでしょうね。演劇ってすごく広義なものだし、タフな表現じゃないですか。劇場で満席のお客さんの前でやることだけが演劇の正しい姿だと僕は思っていないので。
――ここまで来たらちょっと詰めてみたいんですけど、岩井さんにとっての“演劇”の定義ってなんでしょう。
岩井 すごいところから来ましたね(笑)。じつはそれ、ここのところちょっとわからなくなってはいるんですよ(笑)。もともと“演劇”ってガチガチに定義されたものが自分の中にあるワケじゃなくて、ネットだったりデジタルなものだったり、いろんな要素を取り込んで表現として見せていっても全然“演劇”だし、僕はそれでいいと思ってます。“演劇”は生身じゃなきゃイカン!って考えはまったくないですね。

岩井秀人((c)︎平岩享)
――だとすると、岩井さん的にはオンライン演劇もあり、ですよね。

岩井 えっとね、ありなんですけど、従来と同じことをやって、それをただ映して「オンライン演劇です」って言い切るのはどうなのよ?とは思います。たとえば、オンラインゲームはプレイヤーをその世界に連れていくための仕掛けがめちゃくちゃ良くできていますよね。でも演劇って、これまで生であることが何より大事だ!みたいなところにあった分、ネットに乗せた瞬間、訴求力が急激に低下しちゃうことも多い気がして。そこは今後、オンラインで演劇を見せる場合に作り手側が考えていかなきゃいけないことだと思います。
――このコロナ禍で、一時期は日本全体がひきこもりモードになる状況がありました。ひきこもり有段者の岩井さんとしては、あの期間をどう過ごしていましたか?
岩井 基本的には普段のひきこもりモードの時となんら変わらなかったです(笑)。むしろ、コロナで世の中が閉じ始める寸前に会社を設立したり、『いきなり本読み』の企画をスタートさせたりということもあって、なんなら初期の頃は躁状態だったかもしれません。
――大切な人たちとの絆を再認識……みたいな話は……
岩井 一切ないですね(笑)。平常運転でした。まあ、そこはひきこもりの年季が違いますから(笑)。あとは、ちょうど自分たちが持っているコンテンツをネットでも出していこうとしていたタイミングと自粛期間が重なったこともあって、できる範囲で動いていた気はします。
■自分の中にあった”暴力性”を客体化したきっかけ
――さきほど、すこし『投げられやすい石』のお稽古も見せていただきましたが、とてもニュートラルな状態で演出なさっていると感じました。
岩井 年々そうなってきてますね。昔はそうじゃなかったんですけど、子どもがクリエーションの場に入ったことがきっかけのひとつかも。
――なにがあったのでしょう?
岩井 誰かの子どもが現場に入って自分たちの稽古を見ていて……みたいな時に「やりづらっ!」って思ったんですよ(笑)。自分が力で場をコントロールすることで傷つく人がいるって、その時子どもに気づかされて。演出を始めた頃は普通に人を威圧することで場を治めていましたから(笑)。
――今の岩井さんからはまったく想像できないです。
岩井 初期は完全にそうでした。だけど、とても嫌だなあ、気持ち悪いなあと思っていた人をモチーフにして書いた台本で、自分がその人を演じた時にすごくおもしろくて楽だったんです。そこで自覚したんですよ。「ああ、俺の中にもこういう暴力性や他人を力でコントロールしようとするところが確実にある、てか稽古で普通にやってるわ!」って。
――おおー!
岩井 で、早いうちにそういう暴力性のようなものを自分の中から取り出して、一旦どこかに置いて、それを対象としておもしろがる方向に切り替えようと思いました。その方が絶対に皆が幸せになれるし。今、話していて再認識しましたが、自分の身に起きたそんな変化も僕にとっての“演劇”なんですよ。だからやっぱり「お客さんがいてこそ演劇は成立する」なんて僕は言い切れないです。もちろん、お客さんをないがしろにしたり軽く考えているわけではないですが。

岩井秀人((c)︎平岩享)
――『投げられやすい石』で描かれる重要な要素のひとつが“才能”ですが、岩井さんにとって“才能”とはどんな意味を持つ言葉でしょう。

岩井 ぶっちゃけ、ある年齢までしか通用しない言葉だと思ってます。10代、20代くらいまではその2文字に僕自身も呪われていましたし……うーん、やっぱり“才能”の2文字は僕にとって呪いでしかないかなあ。
――呪い、なんですね。
岩井 ですね。才能って基本的には「あるか、ないか」の二者択一で語られる言葉だし。じゃあ、なぜ今も自分がこの仕事を続けていられるのかって考えると、99%は運だと思ってます。本当、もう、運ですよ。
――「幕が開かない可能性がある状況も嫌じゃない」というお話もありましたが、いろいろうかがって新たな『投げられやすい石』を客席で観たい気持ちでいっぱいになりました。
岩井 良かったです(笑)。僕の作品を初めて観る人には「これがハイバイです」と自信をもって言えますし、これまで初演、再演と観てくれたお客さんには「責任をもって若い俳優たちに受け継いでもらいましたから、安心して観てください」とお伝えしたいです。おもしろいと思ってもらえるよう、岩井が今詰められるすべてを詰めましたので、少しでも引っかかるところがありましたら、ぜひご覧いただければと思います。

【取材note】
このコロナ禍、いろいろな俳優やクリエイターに話を聞く中で「今の状況もアリ」との答えが返ってきたのは初めてだった。この事態も”演劇”。そうか、そうなのか。そして、今回も岩井さんとのやり取りには”否定”がなかった。こちらがトンチキな返しをしても「うんうん、なるほどねー」と一旦受け容れてくれた上で、いつしかスっと話の筋を戻す。優しい……だから怖い……わからない。
そんな岩井秀人さんと世の中がひきこもり中に観た『愛の不時着』について語っています。なぜか(興奮のあまり)わたしサイドの敬語がスっ飛んでいますが『投げられやすい石』に加えて岩井さんの毛布のようなコチラのトークもぜひに → 岩井秀人『ワレワレノモロラジ』(https://note.com/iwaihideto/n/n1e69a210de5a )
取材・文・構成=上村由紀子(演劇ライター)

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