世界を魅了するヴァイオリニスト岡本
誠司が語る~リサイタルシリーズ始動
に向けた Vol.0コンサートへの意気
込み

小学校6年生で全日本学生音楽コンクール全国大会ヴァイオリン部門の1位に輝くなど、早くから音楽的才能を開花させてきた岡本 誠司(おかもと・せいじ)。東京藝術大学に在学していた2014年には、ドイツ・ライプツィヒで行われた第19回J.S.バッハ国際コンクール・ヴァイオリン部門で優勝し、その名を世界に知らしめた。岡本は、2017年にドイツへ渡り、昨秋からはクロンベルクのアカデミーで更なる高みへ向けた研鑽に励んでいる。少数精鋭で若手音楽家を養成するこのアカデミーにあって、岡本は数多くの世界的音楽家からの薫陶や仲間との切磋琢磨といった密度の濃い時間を過ごしているに違いない。コロナ禍を受け、彼の成長を聞く機会は相次いで中止された。しかし、若きヴァイオリンの名手は、次なる扉を開くべく動き出した。来たる2020年12月17日(木)、浜離宮朝日ホールで岡本誠司リサイタルシリーズVol.0『はじまり』を行うのだ。これは、全5回におよぶリサイタルシリーズのプレ公演として位置づけられたもの。岡本に、今回のリサイタルとシリーズ全体への意気込みや来年リリース予定のCDアルバム、そしてドイツでの生活について訊いた。
新しい扉を開く
――今回のコンサートは、岡本誠司リサイタルシリーズVol.0『はじまり』という名前ですね。一体何がはじまるのか、楽しみになってきます。
来年(2021年)から全5回のリサイタルシリーズが予定されています。12月17日(木)に行うリサイタルは、その第一弾に先駆けて行われる、第0弾という位置づけなんです。有難いことに、単発のリサイタルの機会は何度もいただいてきましたが、シリーズ化したものをやりたいというのが一つの夢でした。ある期間の中での変化や成長を皆さんと一緒に共有していきたいという想いがありましたので。
――全5回のリサイタルシリーズとは嬉しい発表です。
日程の詳細には不透明なところもありますが、半年に一回のペースでやっていきたいですね。今回の第0弾を含め、シリーズを通して聴いていただくことで面白いと感じて頂けるようなプログラムを組んでいます。最終回を迎えるのが2023年。僕にとっては20代最後の年になります。最後に、ひとつの集大成としてバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全6曲をお披露目したいと考えています。
――今回は3曲の作品の演奏が予定されていますが、その第一曲目も無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番ですね。
今お話しした通り、最後にはバッハの無伴奏全曲を演奏するつもりなので、やはり最初もバッハにしようと考えました。バッハで始まり、バッハで終わるという流れが、このリサイタルシリーズの一つのコンセプトになっています。
岡本 誠司
――岡本さんにとって、バッハはやはり特別な存在なのでしょうか。
無伴奏は、あれだけ多くの宗教曲、合唱曲、鍵盤楽器の曲を書いたバッハが、敢えてヴァイオリン一本で限界に挑戦した曲だと思います。僕は、二十歳の時にライプツィヒのバッハ国際コンクールで賞を頂きました。バッハの演奏で、僕のことを知ってくださった方も多いと思います。バッハが好きだから、バッハのコンクールを受けたということも有りますし、コンクールを通じてよりバッハを弾く機会も増えて、益々深まってきたものもあります。
――続く第二曲目はイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番。これはどういった選曲なのでしょうか。
イザイは、バッハの無伴奏があまりに素晴らしすぎるということで、それに近い作品を書きたいと考えました。同じヴァイオリン一挺のために書かれた作品です。この曲は調性や楽想、楽章の構成の全てが、バッハの第一番へのオマージュとしてかぶせてあります。
去年、エリザベート王妃国際コンクールで、このイザイの第1番から3、4楽章をセミファイナルの舞台で演奏しました。ファイナルまで進むことが出来たのですが、そのとき初めてこの曲に深く取組みました。是非、日本のお客様の前で全曲を演奏したいなと思って選曲しました。
――この作品の聴きどころはどこでしょうか。
バッハとイザイの作品の2つを並べて聞くことで、バッハの素晴らしさを改めて感じることができます。同時に、イザイ作品にあるロマンティックな部分を、バッハの質実剛健な時代と違った良さとして感じていただけると思います。どちらも17、18分くらいの作品ですので通して聴いていただき、違いを体感していただきたいですね。
――そして、プログラムの最後はブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」です。しっとりとしたソナタで本当に素敵な曲ですね。
違った意味で、一生をかけて深めていきたいと感じている曲です。きっと60、70歳になって弾いたら違う表現ができるんだろうなと思いますし、「今」の自分が伝えたい部分を表現していきたいですね。
リサイタルシリーズの第1~4回では、19世紀のドイツロマン派の作品群を演奏するつもりです。ブラームスやシューマン、シューベルト、さらにリヒャルト・シュトラウスも。そこへの導入として、今回は「雨の歌」を選びました。
――この作品ではピアノに反田恭平さんを迎えますね。反田さんと同い年だと伺っていますが、長い親交があるのですか?
反田くんのことは、彼が日本音楽コンクールで第1位になったときから知っていました。いつか一緒に弾きたいなと思っていて……初めて共演したのは2015年のロームミュージックファンデーションのスカラシップコンサートでした。厳密に言うと細かい音楽性には違いがあるのですが、彼の音楽に対する熱量と、より大きなビジョンを見ているという点でビビっとくる部分がありました。
――これまでの共演の中で感じた反田さんの音楽的な魅力はどこですか?
反田くんは、ロシアやポーランドに留学していることもあって、とても大きなフレーズ感をもっています。音作りにストイックで、音に対する幅の広いイメージをもっているんです。しかも、表現はダイナミックで、技術ももち合わせています。ピアノを弾きこなすという次元をゆうに超えて、その先にいる音楽家だなと感じています。今回のブラームスの作品での共演がどうなるか、楽しみですね。
CDデビューを控えて
――岡本さんは、去年、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学を修了され、現在は、クロンベルク・アカデミーで学ばれています。ドイツでの留学生活はいかがですか。
クロンベルク・アカデミーは、もともとロストロポーヴィチが作った学校で、「将来有望な若手音楽家を育てる」という理念を掲げています。ヴァイオリンの学生は10名、アカデミー全体でも学生は30名いるかどうかという少数精鋭のアカデミーです。月に2、3回は世界的に活躍している演奏家によるマスタークラスが開かれています。クリストフ・エッシェンバッハとか、ダニエル・バレンボイム、アンドラーシュ・シフ、ギドン・クレーメルといった演奏家によるものです。集中的に学べて、すごく贅沢な環境ですね。単にレッスン受けるだけでなく、マスタークラスに朝から夜まで参加して、その音楽家が学生にどういうアドバイスをして、その学生がどう変わっていくのかを見るだけでも面白いですよ。
留学先での様子 (c)Kronberg Academy

留学先での様子 (c)Kronberg Academy

留学先での様子 (c)Kronberg Academy
――来年にはCDアルバムの発売も予定されています。益々忙しくなりそうですね。
はい。2021年5月にNOVAレコードのレーベルから発売されます。ファーストアルバムになるのですが、楽しみなものになりそうです。反田くんとの共演もあって、色々とアイディアを出し合いながらプログラムを決めていきました。「今、自分が表現したいもの」、長く温めてきて「今こそ表現したい」と思える作品の数々を選びました。
メインは、今回のリサイタルで弾くブラームスの「雨の歌」と、シューマン、ブラームス、ディートリヒの合作による「FAEソナタ」の2曲です。そして、クララ・シューマンの「3つのロマンス」も収録します。ブラームス、ロベルト・シューマン、クララ・シューマンの複雑かつ素敵な関係性をご存知の方も多いと思いますが、ロマンティシズムに溢れる時代を生きた人間が書いた作品たちの演奏を通じて、その時代の19世紀中ごろのドイツロマン派を感じていただけるようなプログラムです。
――最後に、今回の演奏会について一言、いただいてもよろしいでしょうか。
未だに厳しい状況が続いているので、「気軽にコンサートに来てください」とは言いにくい部分もあります。普段からクラシック音楽を聴いている方にとって、今年は楽しみを奪われたような感覚があったと思います。僕は、音楽というのが本当に人の心に寄り添うものだと思っています。人間が絶滅しない限り、音楽を介したコミュニケーションというものは、世の中にあり続けるでしょう。音楽を一緒に共有しましょうという気持ちと、5回シリーズの始まりを是非聴いていただきたいという気持ちがとても強いですね。難しい事情もあるとは思いますが、聴きに来ていただく心の準備が出来ましたら、会場でお会いしましょう。
取材・文=大野はな恵

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