Superfly Photo : Hajime Kamiiisaka

Superfly Photo : Hajime Kamiiisaka

Superfly、
熱量と喜びにあふれた
初のオンラインライブをレポート

 Superflyが11月3日(火・祝)に自身初となる無観客オンラインライブ『Superfly Live at Studio “Sing Together”』を開催した。

「そろそろ歌いたいヨォ~。」

 美味しそうに揚がったフライドポテトの写真にさりげなくそんな言葉が添えられた志帆のInstagram投稿を目にしたのは8月の中旬だったか。歌いたいんだ。歌いたくてしょうがなくなってるんだ。そう思った。

 そして10月に入り、「Superfly初オンラインライブ開催!」の情報が公開されたとき、ああ、志帆はその思い、その欲求を、いよいよ解き放つんだなと思った。

 Superflyは大規模な全国ツアー『Superfly Arena Tour 2019 “0”』を昨年12月8日の福岡で終え、今年に入って1月15日に6thアルバム『0』がリリースとなり、同日、都内のライブハウスで人数限定のライブ&トークイベントを行なった。4月23日にはビルボードライブ横浜でこけら落とし公演のひとつとなるライブが行われる予定だったが、それは新型コロナウイルス感染予防・拡散防止のため中止となった。つまり1月15日以来、ライブをしていなかったのだ。そろそろ歌いたい。そんな気持ちがムクムク頭をもたげたのも無理はない。

 「おうちにずっといたので、ボイストレーニングとか、たくさん練習をしてたんですね。そうするとカラダがうずうずしてきて、気がついたら生まれて初めて自分の口から“ライブをやりたい”ってスタッフに提案していまして」。ライブと同時に配信されたインタビューのなかで、志帆は「オンラインライブをしようと思ったきっかけ」を聞かれ、そう答えている。

 コロナ禍で有観客のライブをすることが難しくなり、いまでは多くのミュージシャンたちがそれぞれのやり方で配信ライブを行なっている。どうしてそれをやるのか。そこにはそれぞれの思いと理由があるだろう。が、志帆にとってのそれはまず、至ってシンプルな、至って純粋な思いからだった。「歌いたい」。「ライブをやりたい」。そういうことだ。

 そうして行なわれた『Superfly Live at Studio “Sing Together”』2020.11.03。それは近未来的な映像演出などの一切ない、極めてシンプルな形の“Live at Studio”となった。歌い手の志帆がいて、演奏するバンドのメンバーたちがいる。それだけと言えばそれだけだ。が、それだけである故に、「歌いたい」という思いを生き生きと解放している志帆の喜びと、演奏しているミュージシャンたちのプレイの上質さ、それが合わさった熱とうずまくグルーブを大いに感じることができた。その内容をレポートしよう。

 バンドのメンバーは、八橋義幸(ギター、バンドリーダー)、名越由貴夫(ギター)、山本健太(キーボード、バックグランドボーカル)、須藤優(ベース)、玉田豊夢(ドラムス)、稲泉りん(バックグラウンドボーカル)。場所は渋谷区富ヶ谷のStudio Tantaだ。

 メンバーたちが静かに“その部屋”(=スタジオ内)へと入ってくる。名越がアコギを手に取り、2音鳴らす。と、黒いウルフヘアの志帆が部屋へ。位置につくと3~4秒ほど目を閉じて気持ちを整え、そしてメンバーに目で合図。ピアノがお馴染みのあのイントロを奏でる。「愛をこめて花束を」だ。ドラマティックなストリングスはそこにかぶさらない。ピアノだけに乗せて志帆が柔らかに歌い始める。初めのAメロのあと、アコギがそこに入る。しっとりしていて、優しさを感じさせるピアノとギターと歌。これまで何十回と聴いてきた曲なのに、どうしてこんなに沁み入るのだろう。「ここに来られて本当によかったわ」というそのフレーズが、まさに今の志帆の心情のようにも思えてくる。曲途中でベースが入ると、それだけで音に立体感が。ミニマルな編成であるが故にひとつひとつの楽器の音が実に説得力を持って響いてくる。マイクを持ってないほうの手を上下に、そして上半身も音に合わせて揺らしながら志帆は歌い、ときどき柔らかな笑顔も。「violet,indigo,black and blue…」。色を歌う大サビにさしかかると途端に演奏もブルージーな色合いを帯び、志帆の歌が力強くなった。1曲のなかで優しさと同時に強さの表現も入り込む。それができるのがSuperflyなのだと、改めてそう思う。

 歌い終えると、お辞儀しながら満面の笑み。ところで今回のこのライブはこうしてアコースティックなあり方で、スローやミディアム曲多めの落ち着いたものになるのかな。そんな思いがよぎった瞬間、ドラムがリズムを刻みだし、エレクトリックギターがロックンロールを鳴らしだした。志帆はといえば弾いている八橋の後ろに回り込み、カメラに向かってお茶目にピース! リラックスした状態でこのライブに臨んでいるのがわかる。そして「こんばんは~、Superflyです。お久しぶりです」、そう言って笑顔でカメラ……の向こうの我々視聴者に手を振り、「今日は初の配信ライブ。見てくれてどうもありがとうございます。今日はみんな、最後まで一緒に盛り上がりましょう! バンドのみんな、準備オッケーですか~?」、そう言ってメンバー全員に目をやると、続いて「画面の前のみんなもオッケーですか~?」とこちらを指差しながら勢いづけの声をあげた。そしてテンポ・チェンジ。名越が持ち替えたエレクトリックギターで、かつてのライブでよく聴いたあのゴキゲンなロックンロール曲のギターリフを弾きだした。「Rollin’ Days」だ。

 歌いだしのあたりでカメラが引いて、ここで初めてスタジオ内の全景が映される。バンドメンバーたちは平行線上での横並びではなく、円を描くような並びでプレイしていた。また、そこには草花や家具、フロアライトなども置かれ、ウッディーな壁面も手伝って、まるで居心地のいい部屋のよう。それもあって志帆はこんなにも伸び伸びと歌っているのだな、とも思った。演奏が熱を帯び、そして間奏に入ると、カウベルを叩く稲泉を指差したりもしながら、心底嬉しそうな表情になる志帆。「やっぱりライブ、楽しー! みんなで音出すの、さいこー!」。そんな心の声が聞こえてくるようだった。

 3曲目は「Beautiful」。ブルーがかった光が志帆を照らす。そして疾走するサビが、観る者たちに景色の広がりをイメージさせる。「明かりのない明日を迎えたとしても 悲しみの先に孤独が押し寄せても 息をしてる 今日も息をして 生きている」。何度も聴いたこの曲のそのフレーズが、今までとはまた違うリアリティを伴って胸に刺さるように入ってきた。世界がこんなふうになり、この数ヵ月、孤独に押しつぶされそうになったひとも少なくなかっただろう。が、それでも……「今日も息をして 生きている」。ないもの、あるいはなくなってしまったものは、この歌で言っているように数えきれないだろうが、「私というこの命」をもう一度「ゆっくり愛して」みる、今がそのときなのだと、志帆はそう歌っているんだなと解釈した。「あなたに幸あれ」。志帆はカメラのこっち側の僕たち私たちにすっと「幸」をふりまくように手を動かして歌った。歌い終わると手を大きく広げ、「ありがとう」とつぶやいた。

 4曲目はピアノから始まる「輝く月のように」。かつて志帆の心が隠れるように彷徨っていたときに「光をぶつけてくれた」そのひとへの感謝の気持ちから書かれたこの曲も、現在のこのバンドの演奏で歌われると、現在の輝きが放たれる。間奏においての稲泉と山本のコーラスがとてもいい。「見て、光るよ~」と、どこまでも伸びていく志帆の歌が笑顔とセットになって、聴いている我々に安らぎにも近い幸福感を与えてくれる。続く5曲目は昨年のデジタル・シングル曲「フレア」だ。ハンドクラップで始まり、「みんな一緒に歌ってください」と志帆。ライブ会場にいる感覚がよみがえってくる。「どこかでまた会えるまで 冷たい雨に負けるもんか」。そのフレーズもまた、去年聴いたときよりも励ましのトーンを伴いながら響いてくるのだった。

 6曲目からロックなモードへ突入。ローリング・ストーンズ直系のギターリフが印象的な「How Do I Survive?」。ちょっと久しぶりに聴く気がするが、アレンジは変えていなくともメンバーが変われば演奏も変わるもので、とりわけ山本の鍵盤音が入るのが新鮮だ。大サビ終わりのあたりからバンドの演奏はいっそう熱を帯びてくる。玉田のタイトなドラムの支えの上で、鍵盤と2本のギターが柔軟に動き回る。バンドアンサンブルの妙を感じてゾクゾクする。そしてその熱をキープしたまま、玉田の「1,2,3,4」というカウント始まりで7曲目「恋する瞳は美しい」へ。ディスコ味ありのファンキーなビートに乗って志帆もイントロで軽やかにダンス。「one time, two times, three times」とカメラに向けて指で数字を示したり、挑発的な表情を見せたりしながら、伸び伸びと声を放つ。間奏における八橋のグランジ的なギターソロや、終盤の山本の縦横無尽かつスペーシーなキーボードの鳴りもたまらない。とてもじゃないがPCの前でじっと座ってなどいられなくなるほどのグルーブだ。

 「カバーやります! アレサ・フランクリンで、“Since You’ve Been Gone”!」。志帆がそう言って始まった8曲目は、このライブのために用意されたスペシャルなもの。ソウルの女王アレサ・フランクリンが1968年に放ったヒット曲で、ニューヨーク録音ながらもサザンソウルの匂いがプンプンするソウル・クラシックスだ。アレサは志帆にとってのルーツでもあり、昨年のツアーや2010年のフジロックでアレサの「(You Make Me Feel Like)A Natural Woman」を歌ったりもしていたが、「(Sweet Sweet Baby)Since You’ve Been Gone」を取り上げたのは今回が初めて。英語曲で、しかもアレサの曲ともなれば歌唱法も変わり、志帆は抑制せずにパワーを全開にする。声を伸ばす箇所など、圧倒的だ。間奏部分では志帆のメンバー紹介の声に合わせ、山本→名越→八橋→須藤→玉田と、順にソロをプレイ。そして最後に「コーラス、りん。カモン!」のかけ声を合図に、稲泉りんがまさしくアレサばりのソウル歌唱を聴かせる。と、その歌に志帆が歌で応え、稲泉がまたそれに応え、そうしてふたりの掛け合いがしばらく続く。いやもう、これが本当に凄かった。とてつもなく高レベルで圧倒的な声と声とのソウル表現。質と個性の異なるふたつの声が、しかしぶつかり合うというよりは重なり合いながら、どんどん高みへとのぼっていく。最高だ。ふたりの喜びの表情もいい。ここ、見ていてもっとも高揚した場面であり、間違いなくこの初オンラインライブのハイライトだと言えるだろう。これまでテレビの歌番組でしかSuperflyを見たことがなかったひとたちに言いたい。「どうだ! これがSuperflyだ!」と。

 そんな昂りにさらに追い打ちをかけるかのように、あの機械音のようなビートが聴こえてきた。「Alright!!」だ。「画面の前のみんな、盛り上がってますか~。バンドのみんなは盛り上がってますか~。スタジオはとってもとっても熱くなってます。さあ、一緒にまだまだ盛り上がりましょ~~!!」。そしてドラム、ギターと続いてその曲がスタート。疾走感と躍動感が混ざり合い、画面が揺れる(カメラワークもその疾走感と躍動感を伝えてくる)。こうなったらいよいよ立ち上がって見ないではいられない。「いくぜ!」とカメラのこっち側に訴えかけ、挑発的な顔を見せる志帆。間奏で八橋のギターが火を噴いた。バンドの音と志帆の歌が火の玉になってそこで回転しながらバチバチ転がっているようだった。

 最後に歌われたのは、これがライブ初披露となる曲「Together」だった。コロナ禍でひととひととが会うことが困難になり、そんななかで志帆が巡らせた思いと考えを綴った曲。どのように考えたかは挿入されるインタビューのなかで彼女が話しているので改めてここでは書かないが、全ては歌に込められているので、聴けばわかる。ソウルのニュアンスを含んだ山本の鍵盤と、70年代米国ロックのニュアンスを含んだ八橋の土臭いスライドギターで始まり、志帆は丁寧に、祈りにも似た思いを込めて歌う。「Together」は緊急事態宣言がでていた最中に、八橋、山本、須藤、志帆の4人がリモートでレコーディングした曲で、MVではそれぞれが自宅で演奏する4つの画面が最後に合わさるのも印象的だった。それを見れば「一緒にいたい」という言葉はメンバーたちへの思いとも受け取れたわけだが、そう考えるといまこうして同じ場所に揃って、同じ音、同じ思いを共有しながら演奏し、歌っているというそのことだけで胸が熱くもなる。「おんなじ時間の中」に志帆とバンドメンバーたちがいる。そして僕たち私たちもまた、その「おんなじ時間の中」にいる。「一緒にいたい」。そう願い、祈り、そういう日が来ることを信じていれば、必ずいつかそうなる。改めてそう思えた、ここでの演奏と歌唱だった。また曲の終盤には、録音されたそれには入っていなかった部分が加えられてもいた。「Lalala Lalalala ~ Sing a song with us ~」というコーラスだ。祈りと思いやりのその歌は、その部分が加わることで希望の歌へと昇華されたように感じられた。

 ひとりではなく、何人かが同じ場所に集まって、ひとりひとりの個性とエネルギーをそこに重ね合わせることで初めて生まれるもの……音楽。そのことの価値と尊さを実感させられたオンラインライブだった。それはなんというか、とても人間くさいものでもあった。志帆もインタビューのなかで「ひとが、ナマで、本気で演奏している、その熱量を私も感じたかった」と話しているが、全10曲、まさしくその熱量をどの曲からも感じることができた。志帆の歌の熱量。演奏者たちそれぞれのプレイの熱量。そのアンサンブルの熱量。そこからはひとりひとりの「歌える」喜び、「演奏できる」喜び、「それを同じ場所で合わせられる」喜びも、強く感じとれた。音楽の素晴らしさを改めて思った。

photo by Hajime Kamiiisaka
text by 内本順一

<セットリスト>
M1 愛をこめて花束を
M2 Rollin’ Days
M3 Beautiful
M4 輝く月のように
M5 フレア
M6 How Do I Survive?
M7 恋する瞳は美しい
M8 (Sweet Sweet Baby) Since You’ve Been Gone
M9 Alright!!
M10 Together

※アーティスト写真クレジット
Photo : Akinori Ito (aosora)
Hair & Make-up : Kazuhiro Sugimoto (maroonbrand)
Stylist : Sharaku

『Superfly Live at Studio
“Sing Together”』
アーカイブ情報

アーカイブ配信:11月10日(火)23:59まで
チケット:一般視聴券¥3,300(税込)/オリジナルグッズ付視聴券¥5,000(税込)※システム手数料、送料別
チケット販売:2020年11月10日(火)19:00まで
配信サービス:Streaming +、ローチケ LIVE STREAMING、PIA LIVE STREAM、LINE LIVE VIEWING
※詳しくは特設ページにて
Superfly Photo : Hajime Kamiiisaka
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Superfly Photo : Akinori Ito (aosora) Hair & Make-up : Kazuhiro Sugimoto (maroonbrand) Stylist : Sharaku
Superfly Photo : Akinori Ito (aosora) Hair & Make-up : Kazuhiro Sugimoto (maroonbrand) Stylist : Sharaku

OKMusic編集部

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