30回目の公演『和義の嫁』を東京で行
う、THE GO AND MO'Sの黒川猛×丸井
重樹に聞く

京都では伝説となったコント劇団「ベトナムからの笑い声(以下ベトナム)」の作家・演出家の黒川猛と、制作の丸井重樹が、黒川の一人コントを上演する企画として立ち上げた「THE GO AND MO’ S」(以下GOMO)。2012年から年数回ペースで公演を行い、次回作『和義の嫁』で第30回公演を迎える。その記念すべき公演は東京で行うなど、最近はあえて本拠地・京都以外の都市で本公演を打つという、珍しいスタンスを取るGOMO。その真意や30回目への思い、そして「現代アート的」とも言われた笑いの変化について、黒川と丸井に話を聞いた。

まず、第30回公演を迎えようとする今の気分は「ベトナムが29回(で活動休止)だったんで、30回は僕の目標でした」(黒川)「僕は30回もやるとは思ってなかったです(笑)」(丸井)と、キレイに意見がわかれた二人。現代アートのように、理解できる人は大笑いできても、そうでないと「?」となるネタから、子どもも一緒に大喜びできるベタ中のベタなネタまで、多種多彩なコントを披露してきた。

【動画】THE GO AND MO'S Trailer 2020年10月
丸井 初期の頃と比べると、割と形態が変わってきています。活動のやり方も、作品の方向性も、すごく紆余曲折。一人芝居のユニットだから、ここまで柔軟にできたんでしょうね。
黒川 ゲストを呼ぶ回もあったり、昔みたいに「わかる人だけ笑って」みたいなネタばっかりじゃなくなったり。それは僕がだいぶ柔らかくなって、我を張らんようになっただけじゃなく、(番外公演の)『黒川の笑』シリーズや『黒川寄席』を始めてから、意識的に変えた所もあります。発想やひらめきでパッと作るだけじゃなくて、漫談や落語みたいな“芸”になるよう磨く方向に、自分からシフトチェンジをしたんです。
丸井 それでも「黒川」という軸が一人いれば、根本的にブレることはないというか、あとはブレまくっても大丈夫という感じで進んでますね。
黒川 たくさん人を集めてやる時は、昔のようなとがった笑いを出せると思うんですけど、GOMOみたいに一人でやってると、それだけでは戦えないんですよね。でもその部分は、どっかに何か置いておきたいなあとは思っています。
コント『体操のお兄さん~finale』より。
『和義の嫁』で上演する8作品は、すべて既成のもの。小学生男子が作詞したような歌が脳内リピート必至な『体操のお兄さん』や、芥川龍之介の小説を現代落語にした『蜘蛛の糸』、今年5月に行った『妄想コント』内でも取り上げた『床』など、過去に上演して好評だったコントを選りすぐった内容となっている。
黒川 今回はベスト盤みたいな感じですね。『床』は、東京でオリンピックが開催されて、体操で日本人選手が金メダル取ってたら、盛り上がったネタだと思うんですけど(笑)。
丸井 漫談『斎藤紋之丞』は一番演劇に近いと思います。動かないけど、しゃべりだけで想像させていくというネタなんで。話の中身はシュールだけど、ネタとしては割とオーソドックスかなあと思います。
その『床』を含む11本のコントを“妄想”した『妄想コント』は、京都の劇場[THEATRE E9 KYOTO]が立ち上げた仮想空間劇場[THEATRE E9 Air]第一弾の作品として発表。黒川が考えたコントのプロットを元に、参加した俳優たちが妄想したアイディアを集約して、コントを作成。しかしそれは実際には上演せず、結果的にどんなコントになったのかを、ポストパフォーマンストークの配信で匂わせるだけという、仮想空間というコンセプトを遊びまくった異色コント公演となった。
講談『斎藤紋之丞』より。
黒川 正直、普通のコントを書くよりキツかったです。いつもなら、実際にやってみせて理解してもらったり、笑ってもらったりができるんですけど、まず(プロットの)文章だけで面白みを伝えなきゃいけない。そして役者やスタッフ間の、オンラインの意思疎通も難しくて、伝えきれない部分もあったなあと思います。
丸井 そもそも黒川みたいな、デジタルデバイスにまったく疎い奴……家にインターネット環境が満足にないような人間が、あれをやろうとしたのがおかしい(一同笑)。でも僕自身は、すごく演劇的だったという印象です。演劇に必要な、妄想したり想像したりという部分を、いつになく活性化させられた体験でした。参加した人たちもそこを楽しんでいたし、実は大変な可能性を秘めた企画じゃないかと思います。
黒川 人数を減らすとか、僕がSNSやLINEを使いこなせるようになったら、もっと面白いものになるかもしれない。でも本当に40名ぐらいの、しかも「俺が一番知名度低いんじゃないか?」ぐらいに豪華なメンツと一緒にできる機会なんかないし、すごくいい経験になりました。これに出て、(リアルで)共演したことない人同士が、後々「はじめまして」「いや、妄想で一回やってますよ」「あー、やったなあ。そういえば」みたいな会話をしてくれたらいいなあ、と思います。
この『妄想コント』が生まれたきっかけは、当然新型コロナウイルスの影響で、リアルの演劇公演ができなかったため。しかしGOMO自体は、コロナで公演が激減したどころか「今までで一番公演してるんじゃないか」(黒川)というほど、精力的な年になっているという。
コント『床』より。
黒川 『妄想コント』をやったのは、劇場スタッフの皆さんの現状を聞いて「それはえげつないなあ。何かできないかなあ」と思ったから、というのもありました(ちなみに公演の収益は、必要経費分以外は全額劇場に寄付)。でも僕自身は、割と普通に今年のスケジュールをこなしています。
丸井 4月と5月の寄席と、誘われていたイベントが2本飛んだぐらいでしたね。
黒川 というのもGOMOは、スタッフを入れても3人しかいないから、どこに行ってもあまり人と接触しないし、楽屋でもほぼ交わることがない。お客さんもそんなに多くないから、何も言わなくてもソーシャル・ディスタンスを取ってくれるし(笑)。
丸井 舞台上も一人しかいないから、密になりようがないしね。舞台と客席の距離だけキッチリしとけば問題はない。そこは少人数のユニットの強みだったなあと思います。
黒川 大人数だったら、東京公演は見送ってたかもしれないです、今の状況では。そんな感じで、以前と変わりなく公演ができてますけど、お客さんがマスクをしてるのは、思ったよりやりづらい。表情が見えないから「ウケてないのかな?」「聞いてるのかな?」と、不安になってしまいますね。
2018年以降、京都公演は試演的な『黒川の笑』『黒川寄席』にとどめ、本公演は名古屋や福岡などの他エリアで行うスタイルが定着しているGOMO。その理由を「新しい観客に出会うため」だと、2人は口をそろえる。
創作落語『蜘蛛の糸』より。
丸井 ベトナムの時もそうだったけど、京都はもう似たようなお客さんしか来なくなってしまったんです。その人たちはすごく深い笑い方をしてくれるけど、ちょっと初心に帰りたいと。新しいお客さんに最新のコントを観せた時に、どんな反応をするかを見て、自分たちを確認するという所に、立ち戻りたいと思ったんです。
黒川 「あ、これは身内にしかウケへんなあ」とかね。でも初めての土地でいきなり本公演をするのはしんどいから、まず『黒川の旅』というお試しの公演をやって、そこで手応えを感じてから本公演を打つ、という作戦でやってます。
丸井 名古屋は去年の5月に『旅』をやって、その年のうちに本公演をやりました。先日も、松山の[シアターねこ]でやってきたばかりです。劇場の人はすごく面白がってくれたし、お客さんの反応も悪くなかったので、何らかの形でいずれ、と思っています。
そして今回の東京公演も、一番求めているのは「新しい観客との出会い」だ。
1o月に京都で行われた『黒川寄席 vol.10』。東京公演の予行演習として、上演予定の作品数本を披露した。
黒川 名古屋でも本公演をきっかけに、イベントに呼ばれるようになったんで、東京でもそういうつながりができたら、新しいモチベーションになるなあと。以前東京でやった時よりも、一人でしゃべるレベルはちょっと上がったと思いますし(笑)。最近見やすさを意識してはいますけど、一方で根本的な何かは変わりようがないと思うんです。8作品のうち何本かは、観ている人たちに引っかかってほしいと願ってます。
大多数の人が思い浮かべるような「関西の笑い」のイメージとも、あるいは京都のほとんどのコメディ劇団が得意としているシットコム的な笑いともかけ離れた、「突然変異種」としか言いようがないGOMOの笑い。以前より口当たりが良くなったとはいえ、今もなお「何、その発想?!」的なネタで、観ている人を惑わせるのは確かだ。その惑いが惑いのままで終わるか、それとも未体験の笑いに変わるか、ちょっとしたギャンブル気分で足を運んでみてはいかがだろう。
「THE GO AND MO'S」黒川猛(左)、丸井重樹(右)。
取材・文=吉永美和子

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