マーベル映画の全作品をポイント解説
、フェーズ1から浮かび上がるものと
は?【短期連載〜MCUは全部見るから
おもしろい〜Vol.1】

マーベル・コミックの人気ヒーローたちを主人公にした実写映画シリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース」(以下、MCU)。2019年公開のシリーズ22作目『アベンジャーズ/エンドゲーム』が、『アバター』(2009年)を抜いて世界歴代興行収入第1位を記録するなど、映画史に残るビッグスタジオとなった。さらに大阪・大丸梅田店では現在、日本初上陸のイベント『マーベル・スタジオ/ヒーローたちの世界へ』が開催されており、好評を集めている。今後も2021年4月29日公開予定『ブラック・ウィドウ』など多数のシリーズ作品が控えているが、今から観始めても追いつけるように、映画評論家・田辺ユウキがMCU全作品をポイント解説。物語に繋がりがあるフェーズ(シーズン)ごとに短期連載する。
★はじめに……MCUは全部見るからおもしろい!
MCUシリーズは観始めると途中でやめられなくなる。なぜなのか? それはひとつの作品の内容と、他のタイトルの物語がリンクしているからだ。各物語の時系列を整理しながら、どの作品のどんな場面が他のタイトルと繋がっているのか、考えながら観る楽しみがある。たとえば、『インクレディブル・ハルク』の兵士強化のための人体実験は、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の人体実験「スーパーソルジャー計画」に繋がっている……という具合だ。1本の単体作品として観るのではなく、別タイトルにどのような影響を及ぼしているか、どんなふうにキャラクターが関係していたりするか、そのあたりがポイントになってくる。
【フェーズ1】
『アイアンマン』(2008年公開)
アメリカ屈指の巨大軍事会社創業者にして天才発明家のトニー・スタークが、アーマーを作りあげてテロリストと激闘を繰り広げる本作。『アイアンマン』は、MCUの方向性をはっきり指し示した作品として語るべき点が多い。特に着目すべきは、9.11以降のアメリカ社会だ。単なるアクション娯楽作品としてではなく、アメリカと中東勢力の関係性を強烈に織り込んでいるところを、必ず頭に入れて観るべき。破壊兵器製造で巨万の富を得たスタークが、中東訪問時に誘拐され、自分の開発兵器がアメリカの“敵側”であるはずのテロリストの手に渡っている事実を知る皮肉。それはもはや語るまでもないアメリカの軍事産業、経済の現実のあり方である。イラク戦争中の公開作というところもメッセージ性としてドンピシャ。
『インクレディブル・ハルク』(2008年公開)
『インクレディブル・ハルク』は悲劇である。主人公の生物学者のブルース・バナーが、政府からの要請で兵士強化のための人体実験をおこない、自分自身を被験者にした結果、失敗。心拍数200を超えると緑色の野獣「ハルク」に変身してしまう。そんなこんなで政府から追われる身に……と、国のために尽くしたのにムゴい仕打ちだ(しかもブルースの追っ手となるのが、恋人の父親という点も残酷)。ただ、ブルースの凶暴化=ハルク化をどのようにとらえるかが重要な点。ハルクに変身すると自制が効かないほどの暴力性を発揮する。そんなハルクを、パンパンにデカく膨らんで破裂寸前なアメリカの姿として見ずにはいられない。ハルクを失敗と位置づけ、ブルースも「元の姿に戻りたい」と願うなんて痛烈すぎる。
『アイアンマン2』(2010年公開)
内容の深い考察はひとまず置いておいて、映画ファンとしてはこの人の出演を喜ばずにはいられない。ハリウッドの問題児、ミッキー・ロークだ。『レスラー』(2008年)で再評価された彼が演じたのが、悪役のイワン・ヴァンコ(=ウィップラッシュ)。トニー・スターク(=アイアンマン)とのレース場での激闘が大きな見どころで、ムチをふるってレースカーを真っ二つにするイワン・ヴァンコが格好良く、一方で返り討ちにあってボコボコにされるヴァンコも、ミッキー・ロークの生き様に通じてグッとくる。内容面では、アイアンマンのパワーに焦点があてられる。彼が身につけているアーマーとその強大な力を正義として見るか? 使い道を誤れば人類を脅かす兵器となりうるのではないか? アーマーの存在を、当然ながらアメリカと重ねて観ずにはいられない。
『マイティ・ソー』(2011年公開)
『アイアンマン』シリーズ、『インクレディブル・ハルク』で、凄まじい力を持つ男性たちを主人公に配し、いずれもアメリカという超大国の現実に重ねてきたMCU。そこにきて、この『マイティ・ソー』だ。同作は冒頭から、メインキャラクターである最強の雷神・ソーが、力に溺れるがあまりに傲慢さが目立ってしまい、父である全能の神・オーディンから罰を食らう。その罰が、人間界への追放だ。この物語のポイントは、ソーが人間界で弱体化する部分。ある日、ソーは自分の武器であるハンマー・ムジョルニアを見つけて、持ち上げようとする。でも、力を失っていて持ち上げることができない。ソーは、もはや神でも何でもない。そこで「今の自分の姿」を知る。その絶望感と虚しさから自分のやってきたことを反省し、精神的成長を遂げるソー。その展開を自分なりに解釈してほしい。
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年公開)
本作が公開された2011年は、ブッシュ政権からオバマ時代へと移り変わって約2年が経ち、その年の暮れにはアメリカ軍がイラク完全撤収をおこなったときである。振り返ればオバマは就任間もなく、「核なき世界」を掲げてノーベル平和賞を受賞。「新しいアメリカ」を実現させようとした。で、この映画の主人公のスティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカである。貧相だった彼は人体実験を経て強靭な肉体へ。まずここで「生まれ変わる」という要素が描かれる。さらにスティーブは、待望である出兵は叶わずマスコットキャラとして戦意高揚のプロパガンダに利用されたのち、ようやく戦地で活躍の機会を得るが、「戦う」「人を殺す」「犠牲」への疑問を抱く。ここでも「心の変化」に触れられる。『マイティ・ソー』で語られたアメリカの反省は、キャプテン・アメリカの心身の生まれ変わり=新生アメリカの可能性へと昇華しつつあった。
『アベンジャーズ』(2012年公開)
フェーズ1を締めくくる『アベンジャーズ』には、アイアンマン、ハルク、ソー、キャプテン・アメリカらシリーズ各作品のヒーローたちが集結。つまり多国籍軍というワケだ。同作のおもしろさは、そういったヒーローたちが集まりながらも、まとまりがなければ力は十分に発揮されないという点。それぞれに主張すべき点、クリアすべき問題点があるため、目的がズレていく。これは国際社会の現実、そのままだ。「オールスター」「夢の映画」みたいな触れ込みではあるが、実はめちゃくちゃリアリティにあふれている。しかも外敵の地球侵略、さらにはアメリカ政府による対侵略者用の破壊兵器製造という、聞き覚えがある問題が絡む。ただそこにシビアさはまったくなくて、ブラックジョークに富んでいて娯楽性を出している部分が、『アベンジャーズ』という総決算的なタイトルシリーズの持ち味である!
文=田辺ユウキ

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