森山開次&アオイヤマダに聞く〜KAAT
『星の王子さま―サン・テグジュベリ
からの手紙―』

KAAT神奈川芸術劇場で11月に幕を開け、松本、京都、兵庫をツアーする森山開次演出・振付『星の王子さま―サン・テグジュベリからの手紙―』。2017、2018年にKAATキッズプログラムで上演された『不思議の国のアリス』は、全員が軸になれる実力派ダンサーがそろい、カラフルでユーモラスな衣裳で繰り広げられ、観客自身も登場人物になって物語世界を体験するような楽しさがあった。そして本作にも、美術を担当する日比野克彦、音楽を手がける阿部海太郎、生演奏に乗せた歌声を披露する坂本美雨が参加するなど、「ダンスにとどまらないアート」はさらなるステップに進みそう。この顔ぶれ、すごすぎる。王子役に起用されたのはアオイヤマダ。高校時代から多くのアーティストとコラボレーションしてきた彼女は、弱冠20歳にして独自の雰囲気をまとっている。森山開次とアオイヤマダ、どちらも中性的な魅力を秘めた存在だ。そんな二人に対談をしてもらった。

■物事を見る視点を変えるのがアートの醍醐味。それはサン=テグジュペリが飛行士になっての気づきとリンクする
――森山さん、「星の王子さま」は以前から舞台化を考えていらっしゃったんですか?
森山 僕はこの物語を2度体験しているんです。最初は音楽座ミュージカルの研究生時代に、劇団が『リトルプリンス』というタイトルで上演した時。僕自身は出演していなかったのですが、ダンサーの白河直子さん(H・アール・カオス)がヘビをやられていて、ダンスにすごく興味を持つきっかけになりました。それからダンスに専念して数年経ったころに白井晃さん(現KAAT芸術監督)からオファーをいただき、宮﨑あおいさん主演の『星の王子さま』でヘビ役をやらせていただいたんです。思い入れがある作品でもあり、自分だったらどう料理するだろう、こんな舞台にしたいと漠然と思っていたこともありまして、KAATさんから作品制作のお話しをもらったときに僕から提案させていただきました。
――どんなところから舞台をつくろうと発想されたんですか?
森山 いろんな思いがあるんですけど、言葉がすごく大事な作品ですよね。名言もいっぱいある。その言葉を使わずにダンスで表現してみたいと思ったんです。僕はミュージカルの世界にいながら言葉をしゃべったり歌うことに違和感があった時代もあって、踊りの魅力にとりつかれ、言葉にならない言葉をしゃべり始めたことが今につながっている。原作を読むと言葉の大切さを感じる一方、「大切なものは目に見えない」という表現もあって、このセリフを身体で表現したら新たな可能性にアプローチができるんじゃないかと考えたんです。
森山開次 (撮影:平岩享)
――その深みのあるセリフにダンスで迫るというのは興味深いです。
森山 言葉を使えば具体的にわかることを身体で表現するわけですが、ストーリーを伝える踊りもあれば、抽象的になったり、はみ出したりもする。お客様にはそのときに「これは何だろう」と見てもらえたらうれしいです。本を読むようにはストーリーは伝わらなくても、サン=テグジュペリが大事にしていた「これが何に見える?」というテーマを大事にしたい。ウワバミを飲み込んだ象が大人には帽子に見えてしまう。でも視点を変えることで、いろんな物の見え方ができる。それがサン=テグジュペリの原点。地上160センチあたりの目線ではなく、彼は飛行士になって空高く飛んだことで、目線の角度を変えた。そのことで見えてきた世界の変化が小説にいろいろと書かれています。そのことを伝えられたらいいなと思っています。そして、そんなふうに視点を変えられることがアートの醍醐味であると思うんですよね。
■舞台表現用のものではない身体の魅力が王子役にぴったりだった
――アオイヤマダさんとはどんな出会いをされたんですか?
森山 プロデューサーさんに「こんな子がいる」と紹介してもらったんです。アオイが自分のことを「踊る人」と名づけていて、その響きが懐かしくて。僕は今でこそ振付家・ダンサーという肩書きですが、若いころは「踊る人」と言っていたんですよ。その当時はジャンルに縛られることなく活動したいと思っていたし、自分の身体を自分らしく表現する言葉として「踊る人」を使っていた。そこからアオイのことをもっと興味を持って、さまざまな広告やPVに出演しているのを見て、彼女がまとう世界観がとても詩的で王子にぴったりなんじゃないかなと。もう直感的に会ったこともなかったけど「この子がいい」とお伝えして、コンタクトを取っていただきました。
――せっかくだから聞きましょう(笑)。アオイさんが「踊る人」を名乗っている理由はあるんですか?
アオイ ダンスという一つの肩書きにしてしまうと、自分の中で消化しきれないんです。曾おばあちゃんが亡くなる寸前に動かした手が私にはダンスに見えたり、ふとした瞬間に人がする仕草がこの人のダンスかもしれないと見えることがあって。あれもダンス、これもダンス、どこまでがダンスなんだろうと思ったんです。それと同時に自分は本当にダンスができているのか、自信を持って言い切れないところもありました。でも踊ること、揺れることは好きだから「踊る人」にしましたんです。ただ最近「踊る人」は逃げ道だったとも思い始めて。この稽古場で開次さんや皆さんを見ていると「これがダンスだ」と自然に思えてくる。今は「踊る人」でも「ダンサー」でもなんでもいいやって思っています。
アオイヤマダ (撮影:平岩享)
森山 そう、なんでもいい。この舞台だって「KAATダンスシリーズ」のイチ演目だけれどもバレエでもないし、コンテンポラリーでくくれるだろうかとも思う。原作にアプローチしていく中で、踊る人、踊る舞台というくらいのざっくりしたところでつくっていけばいいなと。人がいればそこにダンスのようなものが見えてくる、それはアオイが言ったように僕もダンスを始めたころにすごく考えて、いろいろ悩んだテーマ。ダンスってみんなが持っているものだからダンス=身体、人間でもいいというくらい、大きな芸術だと思っています。そこに技術や個性など表現する手法を持っていることで、舞台に上げる踊りが生まれる。そういう意味で、アオイの身体は舞台表現用のものではない魅力があって、それは今回の王子としての一つの素質であり、魅力になっていく。だからアオイへの僕の振付は、あえて超アバウトにしています(笑)。
アオイ そんなことないですよー。
森山 自由に動いてと言えばアオイは動くから。それは強みとして泳がせたいと思うし、でも時々決まりごとをつくってそれをやらせていきながら、でも同じことにはならない、違うものに転換されていく意外性を僕は楽しみにしているんです。
■共演者の皆さんへの憧れが、王子でいるためには大事な要素
――アオイさん、王子役のオファーがあったときはいかがでしたか?
アオイ 私、王子っぽいよねって言われることがよくあるんですよ。王子っぽいってなんなんだろう、王子になりたいな、王子という存在がうらやましいなと思っていたときにお声がけいただいて、ものすごくうれしかったです。稽古が始まって皆さんガンガン動けるし、身体の基礎がしっかりしているし、技術面ではとても追いつくことはできません。もちろん努力はしています。でも王子にしかないもの、わがままであってもいいし、皆さんのように動いてみたいという憧れを常に持っていることが王子には大事なんじゃないかなって。お客様が入った大きな舞台の経験はほぼ初めてで、本番で舞台に立ったらビビると思うんですよね。そしてその時の「なんだこれ、やばい」みたいな感覚も、王子が星に飛び立ったときにたぶんあったものだと思うんです。その新鮮な気持ちをKAATでの5日間、松本、京都、兵庫でも忘れないでいたい。それが自分にできる唯一のことなんじゃないかなと思ってやっています。
アオイヤマダ (撮影:平岩享)
――原作を読んでみて、いかがですか?
アオイ 王子って実際に見たことがないし、原作に近づけようとしてもわからないことが多いんです。だから何かすでにあるものに寄せていくというよりは、稽古を通して開次さんの中、皆さんの中の王子みたいなものを見つけられたらいいなと思います。この空間の中でつくられていく王子を探していきます。
――ひびのこづえさんの衣裳はいかがですか?
アオイ とっても素敵です。でも衣裳にヒントを得るというよりは、衣裳を巻き込みたいと思っています。白タイツは何にでもなれるような気がするし、自由に存在しながらも一人の王子になれるようにはいたいです。
――森山さんはヘビ役ですよね?
森山 もう一度やってみたいなと思っていたんです。白河さんのヘビを見て、その後に自分でやってから15年になるんですけど、今ヘビをやったらどんなことができるかなと。バク転もし、しゃべりながら踊っていた前回の感覚はまだ残っているんです。当時と比べれば身体能力との戦いがあるんですけど、追いつかないのか、追い越しているのか、でも新しい感覚は見つけられたらと思っています。
――『星の王子さま』にどんな思いで取り組み、どんな作品にしたいか教えてください。
アオイ 舞台は自分が想像していたよりも難しい世界。私の曖昧な動作と感情では何も伝わらない。島地(保武)さんからは、踊る側もコミュニケーションしなければいけない、開次さんの振付をそのまま踊っても、踊り手の間でも会話をしないと成立しないとアドバイスをいただきました。今までやっていたことが、いかにふんわりしていたんだろうということに気づきました。『星の王子さま』をどんな作品にしたいかは、まだまだわからないというのが正直なところ。でも一番は開次さんが演出して、振付をして、メンバー皆さんが一緒になってつくり上げる意味、なぜこのメンバーでつくっているのか、なぜ「星の王子さま」なのか、そんなあれこれを届けられればいいなと思っています。
森山開次 (撮影:平岩享)
森山 僕は初めてこの物語を読んだときに、王子が自分の星に帰るということは「死ぬということ?」と思ったんです。素朴に読んだ子どもたちはそのことをどう受け止めているのかな。「死」について考えることが最近多いじゃないですか。この舞台をどう届けていくのか考えたときに、そんなこと深く考えずにつくればいいんだけれど、考えざるを得ない部分もあって。そのとき僕は、言葉で言いたくはないんですけど、飛行士の立場から考えれば、王子が帰るということをもって「生きることへの旅立ちである」と考えたいんです。日比野克彦さんの美術による空間で、阿部海太郎さんの曲、坂本美雨さんの声、佐藤公哉さん、中村大史さんの奏でる音楽のリバーブしていく音に、波動に、ひびのこづえさんの衣裳をまとった僕たちダンサーの身体の動きや息遣いを乗せてどこまでも遠くに届かせたいんです。『サン=テグジュペリからの手紙』という副題がついていますが、より遠い世界に届かせたい、見えない人に想いを伝えたい、そのことを強く感じています。
 僕がアオイに期待していることは、この舞台の流れの中で体験したことをピュアに持ち続けていてほしいということ。主役の王子という役割もあるけれど、お客様の思いを受け止める器になって、扉を閉ざすことなく開けておいてもらえば、きっとアオイがいろんなことを感じたりしたことに、みんなが入ってこられるのかなと思うんです。そこにはアオイならではの独特の雰囲気があっても構わなくて、むしろそのアオイワールドを体感させてほしいなという思いがありますね。
森山開次(右)とアオイヤマダ (撮影:平岩享)
取材・文:いまいこういち

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