第33回東京国際映画祭「ジャパニーズ
・アニメーション」部門のご紹介 プ
ログラミング・アドバイザー藤津亮太
氏インタビュー

 2020年のジャパニーズ・アニメーション部門は、日本のアニメと特撮が生み出したキャラクターを柱に、「劇場版ポケットモンスター」シリーズ、特撮「スーパー戦隊」シリーズの足跡をたどる特集を実施。また、特集「2020年、アニメが描く風景」 として、「劇場版ヴァイオレット・ガーデン」を含めた3作品の上映が行われ、特集とリンクしたマスタークラス(シンポジウム)も開催される。プログラミング・アドバイザーとして企画に携わったアニメ評論家の藤津亮太氏に、特集の狙いと上映作品をより楽しむためのポイントを聞いた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
●「日本のアニメーションが何を描いているのか」を切り口に
――プログラミング・アドバイザーとして、どのような関わり方をされているのでしょうか。
藤津:作品をつなぐコンセプトを立てて、作品と作品の間にきちんと文脈をつくっていく役割といえばいいでしょうか。映画祭の事務局とラインナップについて相談するとき、こちらからアイデアを出したり、あるいはその場で出たアイデアに対して大まかな柱をたてて「それならこういうテーマにして、この作品とこの作品を組み合わせたらどうでしょう」といった話をしました。実際は、いろいろな事情で上映が難しいケースもでてきますが、そういうときも最初に立てた柱に照らしあわせて、テーマにあわせた上映企画を練っていきます。
 映画祭の上映ですから、最新作や単なるセレクション上映ではなく、ラインナップ自体がプレゼンテーションになっていたほうがいいですよね。映画祭の企画として背骨をとおすようなラインナップにできたらと、コンセプトと上映できるフィルムの間をとりもっていくような関わり方です。
――「ジャパニーズ・アニメーション」部門の今年のテーマについて聞かせてください。
藤津:ジャパニーズ・アニメーション部門は昨年からスタートして、一昨年までは監督のレトロスペクティブ(※回顧上映)を中心にした内容でした。2015年だけはガンダム特集(「ガンダムとその世界」)でしたけれど。
 昨年は、日本のアニメ映画史の転換点になった「白蛇伝」「エースをねらえ! 劇場版」「AKIRA」の3作品が上映されました。マスタークラスでは「アニメ映画史、最重要変化点を語る」と題して、氷川竜介さんと原口正宏さんが日本のアニメ映画史の大事な論点を60分で語るという濃密な内容で、上映とトークをセットにすることで、論点が非常にクリアになる素晴らしいものでした。
 今年は、氷川さんから引き継いで僕がプログラミング・アドバイザーをやらせていただくことになり、人間も変わるので、これを機にガラッと流れを変えつつ、もう少し振り幅を広げていけたらなと考えました。作家や映画監督という切り口での特集は、今後も必要に応じてやるべきだと思いますが、そうではない切り口も出していくことで、「日本のアニメーションが何を描いているのか」をプレゼンテーションできる“しつらえ”をつくれたらなと。その時点で今回の特集にある映画「ポケットモンスター」(※「『劇場版ポケットモンスター』の世界」)のことは頭にあって、最初にオファーをいただいた顔合わせのときから腹案として挙げていました。
――なぜ映画「ポケットモンスター」だったのでしょうか。
藤津:「ポケモン」のアニメは今特にホットな状態なので取り上げるなら今かなというのと、世界的なキャラクターですから日本発世界という東京国際映画祭のベクトルにもピッタリあうタイトルだと思ったんです。映画「ポケットモンスター」の歴史をたどる特集上映をすることで、ひとつの大きな柱になるなと。そこから「キャラクター」というテーマも自然とでてきました。
 また、「ジャパニーズ・アニメーション」部門には「VFX・特撮」という項目をいれる建付けになっていて、昨年は「ウルトラQ」の特集上映が行われました。今年は「秘密戦隊ゴレンジャー」の生誕45周年で、来年が「スーパー戦隊」シリーズ45作品目のスタート年にあたります。その流れで東映さんにご協力いただけることになり、戦隊シリーズもキャラクターという同じ枠のなかに入れることにしました。「スーパー戦隊」シリーズも「パワーレンジャー」がありますから、「ポケモン」同様、日本発世界のキャラクターという切り口が用意できます。そうした流れでこの2作品が、特集の大きな柱になりました。
●「ミュウツーの逆襲」の魅力を多くの人に知ってほしい
――映画「ポケモン」、「スーパー戦隊」シリーズは両作品とも子ども向けタイトルでありつつ、プログラムピクチャーであるという共通点もあると思いました。
藤津:プログラムピクチャーをとりあげることを恐れないでいこうというのは最初に考えたことでした。プログラムピクチャーというか、まあ娯楽映画ですよね。映画祭ではどうしても作家という切り口が優先されがちで、それはそれで大事なことなんですけれども、日本のアニメをとらえるときにないものにされがちな娯楽映画を見つめなおすことは意味があることだと思っていました。映画「ポケモン」も「スーパー戦隊」シリーズも、ずっと続いているのには理由があって、そこには娯楽映画としていかに時代と寄り添ってきたかという歴史と、シリーズを長く続けてきたスタッフの工夫があります。また大きな言い方をすると、それは我々の文化や生活の一部でもあるとも思いますから、そうした視点もいれていければなと。
――なるほど。
藤津:ご存知のとおり、アニメ「ポケモン」はゲームからメディアミックスとして派生した作品ですが、劇場版をとおして見ていくだけでも監督の色や変化が感じられると思います。12月公開の「劇場版ポケットモンスター ココ」も手がけている矢嶋哲生監督の「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」(2018)も、新しい時代の「ポケモン」を感じさせる内容になっています。プログラムピクチャー的な娯楽映画って、知らない人にはアノニマス(※匿名)的な作品に見えがちですが、こうして特集してプレゼンテーションすれば、プログラムピクチャーでありつつも「作り手がちゃんといるぞ」ということを感じやすくなるし、「劇場版ポケモン」はそれに足る作品でもあるので、そうした点でもやる意味があるなと考えたんです。
――「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」に感じた新しさについて、もう少しくわしく聞かせてください。
藤津:具体的に取材しているわけではないので僕の印象になりますが、アニメ「ポケモン」はここ何年かブランドの再構築というか、作品をより長く楽しんでもらうための体制づくりをしているように感じられます。次の時代をにらんで動いているようにみえて、特に劇場版でいうと1作目から担当していた湯山邦彦監督がシリーズの監督ではなくなり、テレビシリーズなどで実績のあった矢嶋監督がフレッシュな映画をつくっています。その矢嶋監督が初めて手がけた「みんなの物語」は、複数のキャラクターがそれぞれポケモンとの関係を問い直すという内容でした。
 ポケモンとの関係という視点でいうと、映画「ポケモン」特集についてはもうひとつ明確な狙いがあって、「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」(1998)の魅力をあらためて多くの人に知ってほしいというのもありました。「ポケモン」の面白さをつきつめると、「ポケモンといるとなぜ我々はうれしいのか」という問いをどう考えるかということにつながると思います。それは、一緒にいるとうれしいはずなのに「なぜポケモンバトルをやるのか」ということと多分セットで、そこをどう考えるかというのが「ポケモン」の究極のテーマである――そのことをアニメ「ポケモン」に取り入れたのは、脚本を担当した首藤剛志さんだったと思うんです。
――なるほど。
藤津:首藤さんが「WEBアニメスタイル」で連載したコラム(編注:)などを読むと、「ミュウツーの逆襲」はその問いにたいするひとつの結論であり、当時首藤さんが考えられていた「ポケモン」の最終回にかぎりなく近い要素がふくまれていることが分かります。そうした「ポケモン」についてのクリティカルな要素をふくむテーマが20年以上前すでにでていて、首藤さんの思いを湯山監督がうけとめて映画にした。しかも、それを近年「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」(2019)では、ほぼ完コピの状態でもう一度つくっているわけですからね。そうしたことを、多くの映画ファンやアニメファンに知ってもらえたらと考えています。
編注:首藤剛志氏が「WEBアニメスタイル」で連載したコラム「シナリオえーだば創作術 誰でもできる脚本家」
http://www.style.fm/as/05_column/05_shudo_bn.shtml
――「ポケモン」特集上映3作のうちの1作を、「劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール ディアルガVSパルキアVSダークライ」(07)にしたのは、どうしてでしょうか。
藤津:「ミュウツーの逆襲」「みんなの物語」2本のちょうど中間あたりの時期の代表作という位置づけです。「神々の戦い」3部作の1作目で、この頃の映画「ポケモン」はドラマ性以上に、スペクタクルに力を入れたものが多い。興行収入も50億円を超えていて(※50.2億円)、映画「ポケモン」が世間とカチっとはまっていた時期のものともいえます。怪獣映画っぽい要素もあって、子どものなかにある欲求を反映した娯楽映画という側面もあり、真ん中の時期で選ぶなら、誰もが「ポケモン映画らしい」と思えるこれかなということで選びました。
――「ポケモン」に関するマスタークラスでは、どのような議論を行う予定でしょうか。
藤津:「ポケモン」に絞ったマスタークラスを開催する代わりに、「キャラクター」をめぐる討議を行います。「シン・ゴジラ論」著者の批評家の藤田直哉さん、「キャラがリアルになるとき」著者のマンガ研究者、岩下朋世さんと、「アニメ・映画・キャラクター」についての三大噺のようなかたちで行います(※「ジャパニーズ・アニメーションの立脚点、キャラクターと映画」)。岩下さんは漫画のキャラクターを中心とした表現論などに詳しい方ですし、藤田さんはキャラクター論から映画論まで幅広く網羅されている方なので、幅広い視野からキャラクターについて考えられればと考えています。これが今回のジャパニーズ・アニメーション部門で「ポケモン」や「スーパー戦隊」に触れた狙いを深堀りすることになればと。

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