大阪南港ATC Galleryで『バンクシー
展 天才か反逆者か』がスタート、コ
ロナ禍でバンクシーが作った作品の初
再現も

10月9日(金)から大阪南港・ATC Galleryにて、2018年からモスクワ、サンプトペテルブルク、マドリード、リスボン、香港、横浜の世界6都市を巡回し、100万人を動員した『BANKSY GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』がスタートした。本展では、世界中の複数の個人コレクターの協力のもと、オリジナル作品や版画、立体オブジェクトなど70点以上が展示されている。インスタレーションや映像など、バンクシーの世界観に入り込んだような体験ができる展示もあり、彼の魅力に多角的な方面から迫った展覧会となっている。また、大阪展で初めて展示される作品もあるとのこと。大阪での開催を翌日に控えた10月8日(木)、ATC Galleryで記者発表会が行われ、FM802 DJの大抜卓人と朝日放送テレビ 桂紗綾アナウンサーが登壇。本展の内容や見どころを語った。また、『美術手帖』ユニット ビジネス・ソリューション プロデューサーの田尾圭一郎氏も招き、大抜卓人が選ぶおすすめ作品の解説や、展示室を巡りながらのガイドツアーも行った。今回は記者発表会と大阪バンクシー展の内覧会のレポートをお届けしよう。
◇現存する数少ないバンクシーの作品70点以上を展示◇
《GIRL WITH BALLOON(ガール・ウィズ・バルーン)》
バンクシーはイギリスを拠点に活動する匿名の芸術家。世界中のストリート、壁、橋などを舞台に神出鬼没に活動している。社会風刺や抗議をユニークな表現で突きつけてくる彼の作品に刺激や影響を受けた人もいるだろう。彼の作品は公共の場に描かれることが多く、すぐに消されてしまうため、実際作品を目にする機会も人も、非常に限られている。本展覧会キュレーター兼プロデューサーのアレクサンダー・ナチケビア氏は、作品の表層だけでなく、バンクシーの作品を通して日々の生活で忘れがちな「感じる」「考える」キッカケを作って欲しいと語っている。
記者発表会では、ロシア在住のアレクサンダー氏から届いたコメント映像が流れた。バンクシーらしき人物が壁にスプレーを振ってステンシル作品を描いている場面が映し出される。パトカーのサイレンから逃げるように、車の下に潜り込む。このバンクシーに扮した男性がアレクサンダー氏。長年バンクシーのファンだったという彼は、バンクシーの魅力を「他のグラフィティー作家が思いつかない場所にステンシルをする」と語る。バンクシーの作品を直接目にする機会を作るため、ヨーロッパ、イギリス、アメリカの個人コレクターに連絡を取り、本展覧会を実現させたそうだ。しかも大阪のために作った展示もあると述べた。「バンクシーのオリジナル作品からエネルギーを感じて欲しい」とアレクサンダー氏は語り、「BANKSY GENIUS OR VANDAL? OSAKA #BANKSYJAPAN」とステンシルで描かれたメッセージで映像は終了した。
◇大抜卓人のおすすめ作品5選◇
FM802 DJ 大抜卓人
続いて、FM802 DJの大抜卓人が選ぶおすすめ作品5点を、田尾氏とともに紹介。
『美術手帖』ユニット ビジネス・ソリューション プロデューサー 田尾圭一郎氏
大のバンクシーファンである大抜が選んだのは、《LOVE IS IN THE AIR(ラブ・イズ・イン・ジ・エア)》、《TINKTANK(シンクタンク)》、《TROLLEYS(トロリーズ)》、《POLICE KIDS(ポリス・キッズ)》、《PULP FICTION(パルプ・フィクション)》。
《LOVE IS IN THE AIR(ラブ・イズ・イン・ジ・エア)》
バンクシーの作品で最も有名であろう《LOVE IS IN THE AIR(ラブ・イズ・イン・ジ・エア)》は、もともとパレスチナとイスラエルの分断壁に描かれていた作品。壁の向こうに何を投げ入れるべきかと考え、火炎瓶ではなく花束を描いたバンクシーの平和へのメッセージが込められている。
《THINK TANK(シンク・タンク)》Blurのアルバムジャケットとポスター
《TINKTANK(シンクタンク)》は、2003年に発売されたイギリスのバンド・Blurのアルバム『TINKTANK』のジャケット。日本でバンクシーが知られるようになったのは、映画が上映された2010年〜2011年頃だが、まだ世界的にもそれほど認知度が高くなかったバンクシーのPRにもなった作品。ジャケットの裏側が見れるのも展示ならではのポイントだ。
《PULP FICTION》
《PULP FICTION》の刑事に扮した2人
《PULP FICTION(パルプ・フィクション)》紹介時には特別な演出も行われた。最初に大きなハートを持った少女が会場に登場。ハートを掲げるように踊りながら出ていったと同時に、映画『パルプ・フィクション』のオープニング曲「Misirlou」をBGMに、刑事に扮した2人の男性が現れた。豊かな表情と仕草を見せながら、ポケットの中からキュウリ、クレジットカード、ハート……とさまざまなものを取り出しては掲げる。最後に彼らが取り出したのはバナナ。そう、《PULP FICTION》に描かれた2人の男性(サミュエル・L・ジャクソンとジョン・トラボルタ)が、バナナを拳銃に見立て構えている様子を再現したのだ。この作品は2002年にロンドン・オールドストリートで初めて出現してから何度も塗り潰され、そのたびに描き直された。さらにバンクシーのライバルでストリートアーティスト・オゾンとの悲しいエピソードも残る作品。本展ではプリント版を見ることができる。
記者発表の締めくくりに、田尾氏は「バンクシーは現在のトピックを扱っている。新たな発見があって何回見ても楽しい。大阪の展示は広くて見やすかったです」と語り、大抜は「社会的風刺、政治的メッセージがバンクシーの魅力。1つ1つの作品のメッセージを受け取って楽しんでもらいたい」と熱意たっぷりに話した。
◇コロナ禍でバンクシーの自宅トイレに描かれた作品を、大阪で初めて再現◇
『マルチメディア・ホール』
記者発表会後は内覧会と、田尾氏によるガイドツアーが行われた。展示会場の入口を入ると、大迫力の「マルチメディア・ホール」が出迎えてくれる。大型3面スクリーンを使い、世界中に描かれたバンクシーの作品を紹介したイメージ映像が視聴できる。これは本展の導入部分であり、謎の覆面アーティスト・バンクシーへのイマジネーションを掻き立てられる構成になっている。
『アーティスト・スタジオ』
次に現れるのはバンクシーのスタジオをイメージして再現したインスタレーション「アーティスト・スタジオ」。謎に包まれているため、写真や映像を参考に作られていて、スプレー缶やステンシルの型などが置かれている。スタジオにはバンクシー自身の姿もあるが、フードを被り顔は見えない。田尾氏曰く、バンクシーはストリートアーティストとして、サッと描いてすぐにその場を立ち去る必要があったため、必然的にステンシルという技法を選んだという。バンクシーが監督をつとめた映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を観たことがある人は、世界観をより楽しめるだろう。
2020年4月15日バンクシーがインスタグラムに投稿した自宅トイレを再現
ラット(ネズミ)たちが自由に遊んでいる
そしてこの部屋の見どころは、何と言っても大阪展で初めて展示されたインスタレーション作品だ。2020年4月15日、バンクシー自身がインスタグラムに投稿した自宅トイレが非常に精密に再現されている。コロナ禍で来日できなかったアレクサンダー氏とリモートで打ち合わせを行い、この場所に設置することに決めたそうだ。自由に遊ぶラット(ネズミ)たちを見て、あなたは何を思うだろうか。
◇消費・政治・戦争など、社会問題に、鋭くユーモラスに切り込む◇
バンクシーは社会問題をテーマに扱っている。ここから先は「消費」「政治」「抗議」「バンクシー・アートの生と死」「ラット」など、テーマに沿って作品を展示している。
田尾氏のガイドに沿って、見どころや作品を紹介しよう。
《KATE MOSS(ケイト・モス)》
《KATE MOSS(ケイト・モス)》は、アンディー・ウォーホールの「マリリン・モンロー」をオマージュしたもの。大量消費時代のアイコンとして流行したマリリン・モンローがバンクシーの生きる時代でいえば誰か、と考え、ケイト・モスを選んだそうだ。色違いで制作した6枚全てが揃っているのは非常に稀。世界中のコレクターから集められた6枚が一堂に会する機会を見逃さないようにしよう。
ちなみにプリント作品にはエディションが書かれていて、作品が本物だということを証明している。
展示の様子
展示の様子
警察官は本来市民を守るはずの存在だが、一般の生活を抑圧したり、時には暴力になることもある。《SMILY COPPER(スマイリー・コッパー)》や《FLYING COPPER(フライング・コッパー)》は、警察への批判が込められている。一見優しそうで友好的だが、実は無表情で全員同じ顔。全く個性がない顔をしているのだ。警察の本質やアンチテーゼを示すところがバンクシーらしさ。彼の作品には警察がよく登場する。
バンクシーの世界観を追体験できる『監視カメラ』
ここまで彼の作品を見て、その世界観に入り込んでいたが、「見られていること」を体験できるのが「監視カメラ CCTV」のコーナー。街のいたるところに設置される監視カメラは犯罪の発見を支援するものだとイギリス政府は主張するが、実際に監視カメラを使って解決した犯罪はわずか3%。展覧会場の中に設置された監視カメラを監視しながら監視される(自分もカメラに映っている)という不思議な感覚を味わうことができる。
《世界一悪い眺め The Walled Off Hotel》
《世界一悪い眺め The Walled Off Hotel》
バンクシーは2017年、パレスチナとイスラエルの分断壁の近くにホテル「The Walled Off Hotel」を建設した。客室からは必ず分断壁が見れるようになっていて、「世界一悪い眺め」と名付けられている。宗教や政治的な問題を現地で体験できるプロジェクトだ。展示では、バンクシー自身が手がけた部屋が再現され、内装に描かれた、まくら投げで戦うイスラエル国境警備隊とパレスチナ人の姿を見ることができる。
展示の様子
美術業界への問題提起も行うバンクシー。イギリスの美術館ブリトルミュージアムをジャックする形で作品をどんどん描いていった。美術館という守られた空間や既得権益に対する疑問を投げかけ、美術館に飾られているものだけが美術ではないという、美術に対する姿勢を説いたものだ。
《ラット(ネズミ)》シリーズ
バンクシーはラットを自分自身に見立てている。表通りを闊歩するのではなく、日陰の路地裏をすり抜けながら、たくましくしたたかに生きるネズミの姿を自分に重ね、ストリートアーティストとして活動する。美術家だけにとどまらない彼のアクテビティックな面も見ることができる。
壁に書かれた言葉はバンクシーのもの
いろんなものに問いかけられて出口を出る。バンクシーは私たちに、現実の社会問題や事件、悲劇に対して「本当はこうじゃないのか」と疑問を投げかける。作品の背景にどんな意味が込められているのか、自分ならどんな解釈をするのか、キャッチーでユーモラスな作品の裏にある社会的背景をぜひ感じて欲しい。
なお、音声ガイドはアプリ「izi.TRAVEL ツーリストオーディオガイド」をダウンロードすれば無料で聞くことができる。大抜曰く、「1つ1つ音声ガイドを聞きながら展示を回ると3時間弱かかる」そうなので、ゆっくりじっくり作品を鑑賞できる時間を確保して、足を運んでもらいたい。
また、会場近くのトイレのポスターには、バンクシーの作品にちなんだいたずらがされているので、そちらも要チェックだ。
『BANKSY GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)』大阪展は、10月9日(金)から2021年1月17日(日)まで、大阪南港・ATC Galleryにて開催中。チケットの販売状況などは、必ず事前に公式サイトをチェックしよう。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA

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