根本宗子が語る、無観客生配信の新作
公演~月刊「根本宗子」第18号『もっ
とも大いなる愛へ』

2020年11月4日から8日まで、下北沢の本多劇場で月刊「根本宗子」第18号『もっとも大いなる愛へ』 が上演される。上演される、といってもコロナ禍の現在、客席をすべて埋めての上演はリスクが高すぎる。一方配信で上演を中継する劇団も多いが、これだとどうしても演劇ならではの熱量が薄れる。そこで、月刊「根本宗子」主宰の根本は、配信だからこそ映える会話劇を書き下ろした。踊り子のrikoを含む女性キャストによる稽古は約1カ月リモートで行われ、本番前日に初めて全員が顔を合わせる。そして、終演後の俳優へのフィードバックもドキュメンタリーとして中継され、生々しい映像が見られることになるという。音楽は本公演のために大森靖子が書き下ろした曲が使われ、撮影は大森のスタッフとしてお馴染みの二宮ユーキが担当。盤石の布陣で臨むわけだが、当然、様々なハプニングが起こることも予想されるわけだが、それも取り込んでしまう包容力が根本の脚本や演出、俳優たちの演技にはある。ピンチはチャンス! やったもん勝ち!! そんな風にねもしゅーは今回も駆け抜けてくれるだろう。
――色々な媒体で長文のプレスリリースがアップされましたけど(※)、あれではまだ語り足りない、ということで今日の取材が組まれたんですよね?(※https://spice.eplus.jp/articles/275988
あんなに長文でリリース出したのが初めてなんですけど、粗筋はいつも通り書いていないじゃないですか。だから、あれ読んでみんな何を思うんだろう?って考えたところもあって。今どういう風に稽古していて、どういう企画をやろうとしていることが取材で分かると観る楽しみが増えるかなと。あと、今後1年活動休止することについても言っておきたくて。
――今回のキャスティングの基準は?
私より年下の座組で構成しようとしていました。あと、自分が出ないっていうのも決めていて。昔足を怪我していたこともあって、自分が役者をやるんだったら30歳くらいまでかなって。あと、自分の脚本の持っている少女性に今自分がマッチしなくなってきているという自覚もありましたし。なので、ここ2年ぐらいは今まで自分がやってきた役を託せる女優さんを探していました。それで、応募しくれた400人全員と面接して俳優を決めたり(『紛れもなく、私が真ん中の日』)。あと、近年一緒にやった俳優さんで、伊藤万理華と藤松祥子のふたりが群を抜いて自分の脚本の持つ少女性に合うと思った二人で。でも、ふたりはまだ同じ舞台で共演したことがなくて、まずそのふたりを自分の本の中で合わせてみたいなって。
――本番前日に初めて会うわけで、人柄とか性格が分からない状態で本番が始まる、と。
そうです。しかも、ふたりともシャイなんです。逆に稽古が一か月あると、シャイでも公演はもうちょっと先だから、おいおい仲良くなればいいかなってなるんですけど、今回ふたりは公演前日の場当たりで初めて会うから。ZOOM上では毎日顔を合わせていて、会話はしているけど会ったことないという不思議な関係性ですね。でも、実際に会った時にシャイでいる時間は多分今回ないので。初日が空いたら、しゃべらなければいけないことをしゃべるだろうし。
――コロナ禍では客席をひとつ空けて公演する劇団もいますが、それは考えなかった?
それだと採算がとれないから配信もやるじゃないですか。でも、配信で観て面白いものと、生で観て面白いものは全然違うから、どっちにも対応したものが作るのが絶対難しいんですよね。じゃあもう、どっちかに決めてやらないと絶対自分は納得が行かないと思って配信に。ただ、チケットの売れ行きは心配ですね。配信だとみんな始まるギリギリ前に買うから。当日になるまで人数が分からないんです。
――脚本や演出、カメラワークは当然配信ならではの特徴を活かしたものになりますよね?
そうですね。画面上でしか稽古ができないことを前提で脚本を書きました。というか、そういう脚本を初めて書いたんです。具体的には、とにかくどれだけ会話を濃密にできるか。複雑な動きとか演出で見せるんじゃなくて、俳優の会話の面白さだけで成り立つようにって。稽古で互いの会話が聞き取れないこともあると思うんですけど、そこにイライラせず、聞こえなかったら聞き返せばいいと言って稽古してる。普段会話する時ってそうじゃないですか? その状態を一か月やっていれば、たぶん対面でしゃべる時はだいぶしゃべりやすくなるはずだし、めちゃくちゃ会話劇に必要な大事な部分って稽古出来ていると思うんですよ。しかもそうすると、鮮度が高いまま本番にいけるだろうって。
――リモートならではのメリットも色々ありますよね。最前列で見ているようなものだから、細かい表情にまで眼が行くというか、解像度が高いものを見られる。
他の芝居を配信で結構見たんですけど、演劇だからこそ面白い演出、演劇だからこそ伝わる熱量みたいな部分をやりすぎるとちょっと寒くなるというか。だから今回も、うちの芝居でよくあるエモーショナルな演技は難しいし観る人が引いてしまうからほぼ入れていないです。入れたとしても誰かひとりがそういう状態になっていて、周りは淡々としているとか。
――リモートで稽古をしていて、やりづらいところはありますか?
今、人に会えないから文字でやりとりすることが多いじゃないですか。それがほんと難しいなって。複雑な感情を黒い文字だけで伝えるのってめちゃめちゃ言葉を選ぶし。恋人でも友達でも、今年関係性が崩れた人たちってかなりいると思うんですよ。だから、表情ってやっぱり大事だなと思って。言葉の持つ力、言葉だけで人に伝えることの難しさと大事さを痛感しました。そういう心境を本当にそのまま脚本にしたので、それがどうお客さんに届くんだろうって思ってます。
――あと、東京まで見に来られない人にも届けられますね。チケット料もそこまで高くないし。
そうですね。そこから生を観ようと思ってくれると嬉しいし。
――カメラは大森靖子さんの映像を撮ってきた二宮ユーキさんですね。彼は配信の『超、Maria』でもワンカメラで撮影してました。
普通演劇を撮る時って8カメとか使ってスウィッチングしていきますけど、スウィッチングされるとお客さんも冷静に観ちゃうんですよ。だからこれまで自分の作品はDVDにしてこなかったんですけど、今回二宮さんがまわしてくれるからワンカメラでやってみようと。二宮さんのことを知らなかったら配信でやろうとは思わなかったかもしれないですね。二宮さんは私の脚本への理解度もすごく高いんですよ。今回の脚本を送ったあとに返ってきた感想が、色々言ってもらった中で二宮さんからの感想がいちばん嬉しかったくらい。今自分が考えていることを書かれたみたいだったと、この芝居で救われる人がいるからマジで脚本がよかったって、朝4時くらいに連絡くれて。二宮さんが観たいところと私が見せたいところが合致する率が高いから、ほとんど撮影のリクエストはしてないんです。
――根本さんは演劇のDVDって観てましたか?
観てるけど、好きではないです。一番最初に生で観たから。だから、生で観たのがDVDで観るとこんなつまらないんだって(笑)。もちろん、(根本の芝居に出ている)ゆっきゅんとかの話聞くと、地方の学生だったから、DVDとか脚本が手軽に観られて良かったって言っていて。彼と話していると確かにそれでああいう感性の人が生まれていると思うと、DVD出したほうがいいなあとも思うんですよね。けど、私が生で観た時に自分の衝撃がでかすぎたから、なるべくそれを経験してほしいという気持ちがあるのかも。
DVDが50だとすると、0から始めて100(生)を体験するのと、50を経て100を体験するのだと感動度がだいぶ違うんです。DVDで慣れて欲しくないんですよ、生での衝撃を一発目にくらって欲しいという私のわがままです。それだったら、ラジオに出てパーソナルなことをしゃべって興味持ってもらうほうがいいかなって。それこそ夢眠ねむちゃんとの動画番組3年近くやってた時とか、「何をやっている人か分からない人が劇作家だって言っている人が出てる、けど考えていることが面白いっぽい」っていう人がチケット買ってくれるほうが、演劇と出会ってもらうまでの過程が自分の理想に近くできるのかなって。
――個人的な話で恐縮ですが、僕は大人計画のチケットがとれなくて、『キレイ』のDVDを観たんですけど、それなりにびっくりしてその後生で観て。あと、固定カメラが映していても面白い作品ってあるじゃないですか? チェルフィッチュの『三月の五日間』とか。
ああ、あれは確かにそうですね。
――あと、本谷有希子さんの小説があまりにも面白かったので、舞台やってるんだと思って見に行ったり。彼女もラジオやっていたじゃないですか?
そうですよね。そういうのも、私がいつも言っている「演劇を観る人の数を増やす」ことと関係しているかもしれないです。その意味では、過去の作品を別の形で出すものがいくつかあるかもしれない。コロナが終息するまで1年はやらない劇団とかあるじゃないですか? でも、私の劇団も場合、これまでたくさん公演やりすぎていたから、お客さんも麻痺していて(笑)。5カ月くらいやってないだけで、「全然やってなくねえ?」みたいなこと言われたり。やってるけど!みたいな(苦笑)。この全員麻痺状態を一生続けるのは無理だなって。演劇の中で11年間やってきて、外側から見た演劇界が今あんま分からないところもあって。今演劇界を外側から見て、演劇界においての自分のポジションを知ろうかと。ほら、土佐さんが前に言ってくれたじゃないですか?
――ああ、それですか。『ユリイカ』の『この小劇場を観よ』が2013年に出て、ほぼ同じ時期に『演劇最強論』という本も出ているんですが、どちらにも根本のねの字も出てこないというね。小劇場界隈という微温的な共同体の中では根本さんは異端児というか危険分子なのではないかと(笑)。まあ、そこがメインターゲットではないんでしょうけど。
『愛犬ポリーの死、そして家族の話』がよかったと、岸田戯曲賞の審査員の平田オリザさんが言ってくれたみたいですけどね。そういうのは普通に嬉しいし。でも硬派な演劇ファンには嫌われているっていうか勘違いされている節は未だにありますよね(笑)。
――あと、大森靖子さんが楽曲を提供してくれるんですよね。11月7日のみ大森さんが生で歌う。
今回の曲は、半々で詞を書き分けるんですよ。大森さんと私が半分づつ詞を書いて、それぞれが書いた歌詞を歌うという。それやったことないから面白そうって。今まで大森さんと何回かお仕事をしているけど、大森さんの声の入るオリジナル曲を芝居に書いてもらうのは初めてなんですよ。楽しみですね。
――ちなみに、今気になっている俳優さんっていますか?
広瀬すずさん、やれるなら一緒にやりたい。広瀬さんっていつでもいいじゃないですか。天才。すっごいつまんないものでも広瀬さんが面白くしてるんですよ。去年初めてNODA・MAPに出演されたのも、映像でしか観られてないんですけど、すごく良くて。まだ誰の手垢のついていない人が好きですね。あと話逸れますけど、私、爆笑問題の太田光さんのことが異常に好きで。でも、太田さんは演劇嫌いなんですよ。で、太田さんが演劇嫌いなところと、私が演劇嫌いなところって同じなんですよ。だからすごく気持ちが分かる。要するに、小劇場のオモシロ担当が勘違いしたままテレビに出ていてダサいとか(笑)。それ、めっちゃ分かるんですよ。演劇のノリのまま出るなよって(笑)。これ文字にするとめっちゃ多分語弊がありますね。要はそれぞれがプロフェッショナルなんだから、別フィールドに行く時は我を出すことと、お邪魔するの精神のバランスを品よく保ってくれって話です。
――最後に、向こう1年の間、どのように過ごしますか?
今までやってこなかったことをやってみようかなと。ちゃんと活動しているようには見えるとおもいます。あと、何回かオファーいただいていた小説の執筆にチャレンジするかどうか……。今まで逃げてきたんですけどどうなるかなあと。あとは、日本製のミュージカルを生み出せるようにとここ数年自分の出来る技を増やしてきたけど、ちょっとそれが色々あって自分の中で崩れちゃって。その場の思いつきでやっているように私見えていると思うんですけど、演劇は数年先を見越して自分の行き先を決めて動かないと意味がないので、実はとても先のために今をやっていて。一回0になったところから自分と演劇の距離感がわからなくならないように、もう一回いちから考え直したいと思ってます。
◆取材・文=土佐有明  ◆写真撮影=Masayo

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