アンダーグラフが「ツバサ」に
代表されるセンスと
十分な個性を発揮した
デビュー作『ゼロへの調和』
秀逸なメロディーとギターサウンド
アルバムを通して聴くと、メロディーもさることながら、当然ながらそのバンドサウンドにも耳が行く。これもなかなか興味深い。M2「パーソナルワールド」からしてニューロマっぽい。そのサウンドの特徴からすればギターバンドとして括るのが適切であろうが、アンダーグラフを単なるギターロックと言うのはちょっと違うような…と思ってしまう風情もある。あんまり普通じゃない鳴りというか、誤解を恐れずに言えば、少し変態気味だ。特に2番で微妙に主たるリズムから遅れていく感じのディレイのかけ方は──これは誉め言葉として受け取ってほしいのだが、どうかしている響きだと思う。サイケデリックな外音と相俟って、よく言えば幻想的、ストレートに言えばアシッドでドラッギーに聴こえてくる。
そう思ってM2「ツバサ」を聴くと──それこそ「ツバサ」はメロディーが立ちまくっているので、案外そこを忘れてしまうというか、印象に残らないようなところがあるが、この楽曲、ギターもわりと変だ。イントロからしてカッコ良いカッティングだが、やはり残響音がやや長めで、奥行きがある。何でもそのイントロのコードは所謂コードブックに載っているような抑え方ではないそうである。その上、他の箇所でもテンションコードを多用しているそうで、なかなか完コピは難しいという。M4「アンブレラ」も同様。この楽曲のイントロはアルペジオだが、これもあまり聴き馴染みがない和音な印象だし、間奏で語るかのようにメロディアスに鳴らされるギターソロも特徴的だ。アルバム前半だけでも十分に個性的なギタープレイを聴くことができる。もちろん後半においても、ニューロマっぽいギターサウンドはM5「白い雨」やM9「忘却の末、海へ還る。」でも聴くことができるし、M6「ヌケガラカラダ」ではギターポップ的な構成と展開、M11「君の声」ではオルタナ風なガツンとした鳴りも聴かせている他、M12「ハローハロー」は一発録りのアコースティックサウンド。多彩な音色とアンサンブルが確認でき、何と言うか、ロックバンドとして真っ当な印象である。M10「四季(Album Version)」やM11「君の声」では管楽器やストリングスを取り入れているので、少なくとも音源においてはバンドの音だけで楽曲を成立させようとしている人たちではないのだろうが、ギターの鳴りひとつとってみても、バンドサウンドへこだわりの強さが垣間見れるのである。
反戦メッセージの清々しさ
《白い雨 降り注いでくれよ つないだ手離さないでいたいよ/蒼いホシその先にあるはずの無争の未来 今は/白い雨 降り続いてくれよ 居たいだけ愛すべき人達と/柔らかい日々を見ていたい 見ていたいだけなんだ》(M5「白い雨」)。
《伝えていたいんだ 今日も十億のキスがどっか溢れてるんだ/ただいつも答えを探して 愛すべきものだけ手にして/歪んだ明日を消すべきだ/世界の何処か少年 銃口を向ける今日は見たくないんだ/君を抱いて 明日も眠っていたい それしかないのです》(M8「シュノーケル」)。
《記憶 何度も何度も消したって その度にまた強くなれたんだ/辿り着いて 座って 寝転んで 見上げたら何か思い出すだろう/純粋な感情を取り戻して海へ還るだろう》《それ以上は何もいらないんだ 瞬きさえ忘れた人類(ぼくら)は/入り組んだ感情で廻り続け何を探すんだ》(M9「忘却の末、海へ還る。」)。
「白い雨」のタイトルは井伏鱒二の同名小説でも知られる放射性降下物を指す“黒い雨”の反対語(?)だろうし、M8「シュノーケル」では《銃口》、M9「忘却の末、海へ還る。」では《人類》という言葉も使って、平和を訴えているようにしか思えない。本作『ゼロへの調和』のリリース時にはその試聴会をJohn Lennon Museumで行なったというから、そのメッセージが当時起こっていた紛争か何かへの直接的な抗議であったかどうかは定かではないものの、そこに“LOVE & PEACE”の思想があったことは間違いない。ここだけをもって“ロックバンドはかくあるべし”とまでは思わないけれども、ほとんど直球勝負に近い形で“LOVE & PEACE”を作品に入れ込んできたのは、自らが言いたいことを貫くという点ではバンドとして真っ当であると言える。しかも、デビュー作でそれを貫いた彼らの姿勢は今もとても清々しく映る。
TEXT:帆苅智之