客席数480席の劇場の心意気、今年の
みつなかオペラは「満仲~美女丸の廻
心」を上演

清和源氏発祥の地と言われる兵庫県川西市のみつなかホールで毎年開催される “みつなかオペラ” は、オペラファンの間ではちょっと有名なプロダクションだ。
客席数が500席にも満たない劇場が作り出すオペラは、クオリティの高さと、玄人受けする内容で、毎年オペラファンの注目を集めている。
コロナの今年、関係者の尽力により無事開催が決まり、ホールの名称にもなっている景山伸夫作曲「満仲~美女丸の廻心」を20年ぶりに上演する事となった。
昨年がチマローザ「秘密の結婚」、一昨年はタイトルロールを演じた並河寿美が文化庁芸術祭賞の大賞を受賞したプッチーニ「トスカ」。それ以前は3年ごとにテーマを決めて、プッチーニ、ベッリーニ、ドニゼッティなどをやって来ただけに、和物のオペラを取り上げる事に驚かれた方も多いかもしれない。しかしそこは “みつなかオペラ” のこと、完成度の高さは間違いなし。終演後の感動は、約束されたも同然。和物だから見ないというのは、もったいないと思うのだ。
第28回みつなかオペラ チマローザ「秘密の結婚」(2019.10.みつなかホール)  (c)みつなかオペラ実行委員会
今回のオペラの題材になっているのは、能「仲光」や民話「美女丸と幸寿丸」だ。そのストーリーをご存じだろうか。これが分かっていると、この後のインタビュー記事も、なによりオペラそのものを楽しんで頂けるので、民話「美女丸と幸寿丸」のあらすじをご覧頂きたい。
民話「美女丸と幸寿丸」
平安時代、現在のみつなかホールのある川西市辺りを統治していた清和天皇の流れをくむ源満仲には、多くの子どもがいました。長男は武勇に優れ、歴史に名を残した源頼光。いちばん末子が美女丸です。美女丸はその名とは違い、傍若無人に振る舞い、村人にも迷惑をかけ通しで、中山寺に修行に出されても改心することも無く、遂には満仲の逆鱗に触れ、切り捨てられそうなところを、家来の仲光が止めに入り事なきを得ました。満仲は「この刀で美女丸を切り捨てよ」と言い捨てて下がりますが、困ったのは仲光。主君の命とはいえ、その実の子美女丸の首を刎ねることなど出来ないと思案に暮れていると、仲光の子、幸寿丸が「我が首を殿様にお差し出し下さい」と身代りを申し出ました。仲光は「よくぞ申した!」と決意を褒め、意を決してわが子の首を刎ね満仲に差し出しました。満仲は、流石にわが子の顔を見る事は出来ず、計画は上手く運びました。
美女丸は、幸寿丸が自分の身代わりになった事を知り、心を入れ替え比叡山で厳しい修行に励み、日夜、幸寿丸の菩提を弔い、恵心僧都の下で名を源賢と改め、立派な僧侶となりました。ある日、仏の教えを乞いたいと、満仲が恵心僧都を招いた折に、源賢と顔を合わせ、全てを知りました。満仲は源賢を許し、仲光に深く詫びました。そして自らは、自分の犯した罪を悔い、仏門に入る決心をしたと伝えられています。

この民話や能「仲光」を元に、川西在住の作曲家 景山伸夫が作った「満仲~美女丸の廻心」の上演について、指揮者の牧村邦彦と、演出家の井原広樹に聞いた。
―― 作曲家の景山伸夫さんは昨年お亡くなりになったそうですね。
牧村邦彦 はい。昨年、お葬式に参列していてオペラの再演を決めました。ちょうど今年は初演から20年。また、源満仲が多田院を創建されて1050年という記念の年です。みつなかホールの名前の由来でもある源満仲を題材とした記念碑的作品「満仲~美女丸の廻心」を再演するには良いタイミングだと思ったのです。
指揮者 牧村邦彦     (c)H.isojima
井原広樹 オペラの元となるストーリーは、民話や謡曲、人形浄瑠璃や歌舞伎にもなったと言われる有名な話ですが、みつなかホールの名前の由来にもなっている和製オペラですので、しっかり台本を読み込んで作りたいと、台本に書かれている事などの出典を台本作者の橋口武仁さんに伺ったところ、創作だという事が分かりました。なので、あまり神経質になり過ぎず、それでいて丁寧には作っていこうと思っています。

演出家 井原広樹     (c)H.isojima
―― このオペラ、さすがに音源が無く、聴いたことがないのですが難しい音楽なのですか。

牧村 音楽は近代和声ですが、所々オオッ!と思わせる所もあり、聴きやすい所はコーラスのナンバーのようなところもあります。ただ、曲の冒頭からゆったりした音楽で始まり、ストーリーテラーの陰陽師の語りに次いで、出演者が自己紹介のアリアを歌う。初演の時にはそのスピード感の無さが引っかかって、景山先生にも意見を言ったのですが、結局その時はそのまま上演しました。
しかし今回は、僭越ながら私がオペラ全編から曲のモチーフを繋ぎ合わせて、新たな序曲を作りました。それに合わせて、井原さんが景色を作ってくれました。やはりオペラは掴みが大事です!スピード感が出て、効果的に働くと思います。ただこの曲、一音たりとも私が勝手に作った音は使っていません。景山先生に対するオマージュ、追悼の思いを込めて作った序曲です。
第8回川西市民オペラ「満仲~美女丸の廻心」初演の舞台(2000.3.みつなかホール)   写真提供:みつなかホール
井原 序曲は良いですよ。とても効果的で、ストーリーテラーの陰陽師は変わらず出てきますが、序曲が出来た事で、陰陽師の見え方も違います。また、オリジナルでは児童合唱も出て来るのですが、思い切ってカットしました。しかし結果的に、児童合唱が入ったままだったら、コロナの現在、演奏出来なかったかもしれませんね。
―― ストーリーを見ると、このハナシは満仲ではなく仲光が主役のようにも思えるのですが。
井原 例えば、観世流の謡曲は「仲光」となっています。コチラでは、最後には恵心僧都に乞われた仲光が、幸寿丸にも見せてやりたかったと延々と舞って終わります。つまり、満仲も仲光もどちらも主役と言っても良いでしょうね。完全な男の戯曲ですが、お能をオペラ化するにあたり、女のドラマも織り込むところに苦心しました。そういう意味で、男女ともに出演者がたいへん重要です。今回は両日共に最高の歌手を揃える事が出来ました。
ちょうど、仲光役の西尾岳史さんと迎肇聡さんが到着されましたね。
―― 西尾さん、迎さん、よろしくお願いします。今日が、初めての通し稽古だそうですね。このオペラどうですか、やられてみて。
西尾岳史 和物をやる機会自体が少ないのですが、このオペラは特に音が難しく、スッと身体に入って来ません。日本の伝統的な和声とも違い、無調でもないのですが、リズムも5連符や7連符など日本語を乗せる上でも難しいです。
バリトン歌手 西尾岳史     (c)H.isojima
迎肇聡 音域は自分には少し低めだと思います。音楽的にも難しいのですが、仲光の役が、これまでの自分の経験などが活かせる役ではなく…。自分の子供を殺してまで、主君に仕えるなんてハナシは想像を超えていて、役作りには正直苦労しています。「満仲」というタイトルですが、先ほどの井原さんのお話を伺って、よしっ、自分が主役だ!と思って演じようと思いました。二枚目路線で、とにかく格好良く演じようと思っています。
バリトン歌手 迎肇聡     (c)H.isojima
西尾 そうですね、本当に役作りには苦労していますが、このような重要な役を頂いた以上、責任を持ってお客様に喜んでいただけるように演じたいと思っています。
井原 確かに歌うのは難しいオペラだと思います。モーツァルトのように、勝手に歌になるような旋律ではありません。話している中に、たまに耳に残る旋律が有るような感じで、同じ和物でも「夕鶴」のようにずっと歌っている感じとは全然違います。
牧村 景山先生はオペラ「満仲」を書くまで、幾つオペラ作品を書かれたのかは存じ上げないのですが、先生はもっとオペラを書きたかったのではないかと推測します。みつなかオペラ実行委員長として、毎年リハーサルをご覧くださって、その折には必ずその作品のスコアをお持ちでした。我々が企画する珍しいオペラ作品からインスパイアなさる事も多かったのではないでしょうか。先生に対する恩返しの意味でも、今回は成功させたいと思っています。
第8回川西市民オペラ「満仲~美女丸の廻心」初演の舞台(2000.3.みつなかホール)   写真提供:みつなかホール
―― 出演者は、満仲役、仲光役、美女丸役は男性ですが、幸寿丸は女性が演じるのですね。
井原 この辺の思惑、真意は正確には分かりませんが、古典オペラに有りがちな同性愛的なニュアンスが含まれていたのかもしれませんね。幸寿丸はもしかしたら美女丸に魅かれていて、美女丸は幸寿丸の妹のゆりに恋心を抱いていた。そういった感情がベースに在ると、この物語も少し違って見えるかもしれません。あと、満仲の妻も仲光の妻も登場しますが、あまり多くを語る事はありません。大変重要な役どころですが、キャラクター設定には歌手の皆さまの頑張りが必要不可欠。それだけに、皆さまの役作りに向けた積極性には頭が下がります。
「満仲」通し稽古 10月10日組 初日の様子     (c)H.isojima
―― しかし、皆さんお忙しい方ばかりで、2つ3つと作品を並行してやられていると思いますが、ちょっとカラーの違う和物だけに大変では無いですか。
井原 そこなんです。ここにいる全員、いつもならもの凄く忙しいはずだったのですが、コロナのおかげでこの「満仲」に専念出来ています(笑)。本当なら今週末の26日、27日、関西歌劇団のフランチェスコ・チレア「アドリアーナ・ルクヴルール」の本番が吹田メイシアターであるはずだったんですが延期となりました。迎さんもミショネ役で出演予定だったんです。
迎 コロナの影響で、この仲光役に集中して取り組めています。オペラ歌手として20年くらいやって来ましたが、このオペラは、歌以外にもお能の所作なども要求され、かなり難易度が高いですね。他のオペラと同時進行でやるのは大変だったと思います。
西尾 私はカレッジオペラハウス11月公演、ベンジャミン・ブリテン「カーリュー・リヴァー」に出演が決まっていました。確かに同時進行だったら大変だったと思います。
迎 皆さん、逆にコロナの影響で体調万全な様子で、練習中も声を抜くこと無く思いっきり歌っておられます。マスクや除菌で感染予防対策も万全だからなのか、季節の変わり目なのに風邪をひいておられる方も皆無で、集中して練習が出来ています(笑)。

「満仲」通し稽古 10月10日組 初日の様子     (c)H.isojima
牧村 この作品に限っては、コロナが良い方に影響していますね。私も「カーリュー・リヴァー」が無くなって、集中出来ます。20年前、もう2度とこのオペラを指揮する事は無いと、封印したつもりでいましたが、今回スコアを探し出して見てみると、至る所に不平不満が書き込まれていて(笑)、今から思うと「ああ、若かったなぁ」とつくづく思います。当時、景山先生が能とオペラをシンクロさせながら新しい事をやろうと作られた意欲作だったと、今ならわかります。罪滅ぼしの気持ちで、良い作品に仕上げたいですね。

井原 先日、国のガイドラインが変わり、ほぼ売り切れだったチケットが、急にたくさん出てきました(笑)。まだ、半分近くチケットはございます。「トスカ」や「ラ・ボエーム」なら、「えー、チケット残っているの!」という感じでチケットも動くのでしょうが、和物はちょっとチケットの動きも地味ですね。でも、本当にいいオペラです。一流のキャスト、スタッフが、本当にこのオペラに掛かり切ってお届けする、みつなかオペラの名称の元となるオペラ「満仲」。ぜひお越しください!
演出家 井原広樹
牧村 今、仲光役の二人がいるから言う訳ではありませんが、西尾さんも迎さんも非常に頼もしいです。自分の役割を自覚していて、間違いなく関西を引っ張って行ってくれる二人ですし、このプロダクションのメンバーは皆さん本当に素晴らしい。ここ数年、言っていますが、世代交代を考える歳だと思っていますが、彼らと一緒にやれる事がとても嬉しく思います。
指揮者 牧村邦彦
ーー まだまだ牧村さんの果たす役割は大きいと思いますよ。どうもありがとうございました。では最後に、「SPICE」をご覧の皆さまに、西尾さんと迎さんからメッセージをお願いします。
西尾 コロナによるステイホームで、リモートの演奏が流行しましたが、何と言ってもライブにまさるモノはありません。劇場は万全のコロナ感染予防対策で、皆さまをお待ちしています。安心して劇場にお越しください!
バリトン歌手 西尾岳史
迎 オペラというと西洋のオペラがメインで、日本のオペラを観る機会はあまり無く、今回は貴重な機会だと思います。今ではオペラの世界では有名なプロダクションの一つ、みつなかオペラの名称の元となるオペラ「満仲」にご期待ください!
バリトン歌手 迎肇聡

このオペラのタイトルロール満仲役を演じる片桐直樹、福嶋勲からもそれぞれメッセージを頂いている。
■片桐直樹(バリトン)
「ほぼ毎回、みつなかオペラに出演させて頂いている者として、ホールに所縁のある役をさせて頂く事はとても光栄です。これまで、色んなオペラに出させて頂いていますが、和物に出る機会は少ないです。今回の「満仲」は、譜読みや音楽練習をしている時には、音やタイミングなど難しく思っていたのですが、慣れてくるとこれまでやって来た和物より、身体になじむというか、やり易く感じています。満仲は威厳、風格、人望など、どこを取っても偉大な人物のようですが、一方で直情的な所もあるように思います。実の息子を殺してしまえ!と思う心情などは理解を超える人物ですが、それほど民の事を考えて、迷惑をかける美女丸が許せなかったという事でしょうか。美女丸が源賢になって戻って来て、顔を合わす瞬間の表情など、驚きと喜びを同時に表現しないといけませんが、井原さんの演出の通りやれば上手くいくと思っています。
普段なら2つ、3つ並行してオペラの役作りをしていますが、このご時世、今回はコロナの影響で思う存分「満仲」を集中してやれています(笑)。オペラを上演するのが難しいコロナの時代に、日本人に馴染みのあるオペラ「満仲」が出来る事に感謝をしています。ぜひ会場にお越しください。
バリトン歌手 片桐直樹
■福嶋勲(バリトン)
「満仲という人物の持つ、ある種の緊張感を纏う事が出来ているかを、常に考えています。そのために、どれだけ激しい感情の迸りが起ころうが、それを直接的なアクションで見せるのではなく、声の音色、言葉の扱い、立ち居振る舞い、全てにおいて抑制された、いわば重さのようなものとして出せるよう心掛けています。
みつなかオペラ初参加で、ホールの名前にもなっている役! みつなかオペラの長い歴史の一端を担える事はたいへん光栄です。この満仲役は、声楽的に見て、自分にとっては音域が少し低く、音の運びも決して歌いやすいものではありません。が、幸い?この自粛期間中、時間だけは潤沢にありましたので、色んな発声方法や表現方法を試し、また定着させることが出来、新しい引き出しをいくつかこしらえる事が出来たように感じています。
椿姫やボエームやカルメンや、あちらのオペラのような派手さや華やかさは少ないかもしれません。はっきり言って色目も地味です。が、日本人のDNAに必らず語りかけてくるであろうこのオペラのテーマや雰囲気、その地味さもあわせて、ぜひ体感してください。出演者一同、お待ちしています!」
バリトン歌手 福嶋勲
観客を前に、音楽を奏でる事が当たり前ではない事に気付いた音楽家は強い。クオリティが高く、玄人受けするオペラを作り続けている “みつなかオペラ” が、コロナの時代に自信を持ってお届けするオペラ「満仲~美女丸の廻心」は、そんな音楽家によって演奏される創作オペラだ。ホールの名称に由来するオペラを視聴する機会なんて、そう有るものではないはず。満を持して再演を決断した ”みつなかオペラ” 渾身の一作を、ぜひ会場で楽しんで頂きたい。
皆さまのお越しをお待ちしています。 「満仲」通し稽古 10月10日組 初日の様子     (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

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