ミュージカル『ビリー・エリオット〜
リトル・ダンサー〜』東京公演が開幕
〜本作の見どころを改めて解説!

ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』東京公演が2020年9月16日(水)、開幕した。本来、今年7月に初日を迎える予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言が出されたため、7・8月の公演を中止。万全の予防策を講じた上で、ようやく初日の幕が開いた。

 
なぜ、このミュージカルはこんなにも人々を魅了するのか。到着したばかりのオフィシャル舞台写真とともに、本作品の魅力や見どころを解説してみたい。 
総数1511名から選ばれた4人のビリーがすごい!
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:中村海琉、右:河井慈杏(撮影:田中亜紀)
ビリー役を演じるためには、芝居、歌、器械体操、バレエをはじめとするさまざまなジャンルのダンスをこなさなければならない。その上、映像とは違い、生の舞台であるため、それらを毎回“完璧”に届けるための体力や安定感が求められる。オリジナル演出を務めたスティーヴン・ダルドリーが、ビリー役を演じることを「マラソンを走りながらハムレットを演じるほど大変」と表現したそうだが、1つのミュージカルで、ここまでオールマイティな能力が求められる作品は、大人キャストであってもなかなかないだろう。
 
11歳のビリーを演じるため、オーディションの条件は、声変わり前の8歳〜13歳ぐらいの男の子に絞られる。それでもビリーになりたいと全国から1511名の応募があり、292名が書類審査を通過。そして、2019年6月に8名に絞られ、そこからレッスンを重ねて、最終的に日本版2代目ビリーとして4名が選ばれた。
『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:川口調(撮影:田中亜紀)
兵庫県出身の川口調くん。連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)、舞台『るろうに剣心』などに出演経験があり、特に芝居で定評がある。一方、バトントワーリングで全日本選手権での優勝経験もあり、多彩な才能の持ち主だ。以前、SPICE編集部が取材した際は、将来の夢を「将来の夢はいろいろありすぎて、何にしようか迷っているんですけど、1つ目は、海外のバレエ団に入りたいということ。あとは、バトントワーリングの先生になること、遊園地を経営すること、そして、ファストフードのお店で働いてみたいです(笑)」と子どもらしく語っていた。
 
東京都出身の利田太一くん。幼少期からバレエを始め、コンクールで入賞経験多数。2017年初演時にもオーディションに参加し、今回見事リベンジを達成した努力家だ。以前、ビリーに共感するところを聞いたときは、「ビリーはバレエをずっと頑張っていますが、僕もバレエを3歳からやっています。でも「バレエの好きなところは何?」と言われても、うまく答えられないんです。ちょっとわからない。(笑)けれど、「Electricity」の「うまく言えません」という歌詞を聞いて、「これだ!」と共感しました。それですっかり『ビリー・エリオット』にはまりました​」。
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:中村海琉、右:大貫勇輔(撮影:田中亜紀)
神奈川県出身の中村海琉くん。ボーイソプラノユニット「ソプラノ♪7ボーイズ」のメンバーとして活動していることもあり、抜群の歌唱力。また、タップダンスも得意。利田くんと同じく、初演時オーディションに参加し、今回初めてビリー役を射止めた。取材で本作の好きなシーンを聞いたところ、「「Solidarity」のシーンです。ビリーが少しずつ成長していき、最後にはアラセゴン・ターン(バレエの基本的な回転のひとつ)をできるようになるところがすごく格好いいなと思いました​」と語っていた。
 
東京都出身の渡部出日寿くん。両親ともに世界トップクラスのバレエダンサーといういわばバレエ界の“サラブレッド”で、実際、自身も数多くのバレエコンクールで入賞。今回、芝居や歌は初挑戦だったが、等身大のビリーをのびのび表現している。以前、SPICEが行った取材で、憧れの人は誰かと尋ねた際は「前回の公演でビリー役を演じていた前田晴翔くん」と回答。その上でどんなビリーを演じたいか聞くと、「自分にしかできない、最高のビリーになりたいです」と笑顔で話してくれた。
 
4人とも初めからすべてを“完璧”にできたわけではない。得意分野を伸ばし、苦手なジャンルを努力で克服し、いま、こうしてこの舞台に立っている。そう、本作は、ビリーの成長を描いているが、ビリーと同じように、ひたむきにレッスンを重ねてきたビリー役の彼らの成長が見て取れるからこそ、リアリティがあり、より観客は感動するのである。
初演続投組も再演初参加組も!共演陣がすごい!
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:安蘭けい、右:益岡徹(撮影:田中亜紀)
ビリー以外のキャストも、皆、魅力的だ。ビリーがバレエを習うことに反対する炭鉱夫のお父さんや、ビリーの才能をいち早く見抜いたウィルキンソン先生。ストライキの旗振り役であるビリーの兄(トニー)に、ビリーの理解者でもあるおばあちゃん。そして、ビリーの親友であるマイケル。ビリーを取り囲む登場人物たちの存在にもぜひ注目してほしい。
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:橋本さとし、中央:中井智彦、右:柚希礼音(撮影:田中亜紀)
東京公演初日(マチネ)の先陣を切ったのは、ウィルキンソン先生/柚希礼音、お父さん/益岡徹という2017年初演からの続投コンビだった。
 
柚希は初演に比べて、いい意味で肩の力が抜けた。宝塚歌劇団トップスターの名残りが良くも悪くも見えていた初演だったが、再演はよりウィルキンソン先生の人物像を深め、直接語りはしないが、ウィルキンソン先生が諦めたであろう「夢」、「母」であることや「女」であることに対する思いなどが、芝居の間に滲み出ていた。
『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:中河内雅貴(撮影:田中亜紀)
また、初演でミュージカル初挑戦だった益岡は、今回も、堅物だけれど息子思いの父親を好演。初日に先駆けたプレスコールで「3年前のかつての自慢の息子たち、その思い出の上に、新たな息子たちが加わって。信用できる仲間たちと一緒にこれから11月まで、宝物のような時間を舞台に立って過ごせることが、とてもかけがえのない、忘れられない時間になるだろうな」と語っていたが、その言葉通り、息子を見る眼差しから、彼なりの(不器用ながらも深い)愛が感じられた。
 
再演からの参加となる、ウィルキンソン先生/安蘭けい、お父さん/橋本さとし。言わずと知れた実力派俳優だが、本作でどんなパフォーマンスを見せてくれるか。期待したい。
『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:橋本さとし、後列左:渡部出日寿、右:中井智彦(撮影:田中亜紀)
エルトン・ジョンによる楽曲がすごい!練りに練られた演出がすごい!
『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:益岡徹、左手:星智也(撮影:田中亜紀)
原作映画『リトル・ダンサー』に感動し、即座にミュージカル化を提案したのが、エルトン・ジョンだった。彼が作った、ロック調からバラードまでの幅広い楽曲は、時に優しく、時に鋭く、物語を豊かにし、素敵にまとめあげる。耳に残る印象的なメロディーラインばかりで、観客の感情を大きく揺さぶってくる。ビッグナンバーにどうしても目が行ってしまうだろうが、1曲1曲丁寧に聞くと、どれも「名曲」だ。ぜひ訳詞も含めて、ひとつひとつを味わってほしい。
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:川口調、右:永野亮比己(撮影:田中亜紀)
また、一度見たら忘れられないような、凝った演出も見どころの一つ。特に「Solidarity(団結を永遠に)」では、炭鉱夫と警察の衝突の様子を描きつつ、バレエ教室のレッスンが同時並行で進む。炭鉱夫、警官、バレエダンサーが同じ空間にいて、時に交わりながらも、それぞれの時間経過を表現する。非常に演劇的で、見る者をあっと言わせる演出である。
 
アンサンブルの群舞がセクシーな「Grandma's Song(おばあちゃんの歌)」、大人になったビリー(オールダービリー)と一緒に踊る「Swan Lake Pas de Deux(白鳥の湖 パ・ド・ドゥ)」の幻想的な空間、炭鉱夫のヘッドライトが誇り高く美しい「Once We Were Kings(過ぎし日の王様)」など、そのほか挙げるとキリがないのだが、洗練された演出は必見だ。
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:渡部出日寿、右:根岸季衣(撮影:田中亜紀)
これは、希望を与えてくれる物語
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:阿知波悟美、右:利田太一(撮影:田中亜紀)
描かれるのは、子どもの成長物語だけではない。これは親子の物語であり、自分らしく生きるための物語であり、そして、ビリーの成長が、うらぶれた街や大人に希望を与えていく物語でもある。
 
作品中では、「社会というようなものは存在しない」と言い切り、個人の「自助」を強く促進したマーガレット・サッチャーへの痛烈な皮肉が込められており(「サッチャー!くたばれ」などとなかなか露骨な政治批判が盛り込まれている)、その社会的な背景が描かれることで、大人が楽しめるミュージカルとして、グッと作品の厚みが増していると思う。
『ビリー・エリオット』舞台写真。左:利田太一、右:安蘭けい(撮影:田中亜紀)
今回、新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の発令により、稽古は2ヶ月間中断し、残念ながら東京公演は前半73公演が中止になってしまった。海外のクリエイティブスタッフからの指導はリモートで行われ、フェイスシールドやマスクを着用した上で稽古をするなど、いろいろと通常通りにはいかない状況だった。それでも、出演者・スタッフ・関係者は希望を捨てず、最大限の対策と警戒をしながら、ようやく幕を開けた。
 
上演時間は、1幕80分、休憩25分、2幕75分(計3時間)。 この「奇跡」をぜひ目撃してほしい。
『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:中村海琉、左:河井慈杏(撮影:田中亜紀)
文:五月女菜穂

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