東京事変が多彩な演出や衣装、卓越し
た演奏で魅せた無観客配信ライブの全

東京事変2020.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ 2020.9.5
2020年9月5日(土)19時より、東京事変のライブ『東京事変2020.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ』が、配信された。
8年ぶりに“再生”し、2月からツアー『Live Tour 2020 ニュースフラッシュ』で六大都市を回るスケジュールだったが、新型コロナウィルス禍のため、そのほとんどが公演中止を余儀なくされた。という事態を受けて、東京事変が起こしたアクションが、東京オリンピックの開会式が行われるはずだった7月24日に、東京・渋谷のNHKホールに、メンバーとそのツアーのスタッフが集まって、無観客でライブを行い、収録するというこの企画である。
そのライブをノーカットで、PIA LIVE STREAM、ZAIKO、WOWOWメンバーズオンデマンドで同時に配信。さらに、全国各地の映画館でも9月5日(土)、12日(土)、13日(日)、14日(月)の4日間限定で公開される。
待機の間、画面には「永遠の不在証明」や、「赤の同盟」のMVが流れ、通常のライブで言うところの「開場時間」がしばし続く。19時、“Hard Disk”が起動し往年のコンピュータのログイン画面へ。或るパスワードが打ち込まれると、順にメンバーのIDが表示され、「accept」されていく。全画面が真っ赤なデジタル数字に埋め尽くされた果てに「Starting Incidents…」という文字が現れる。続いて「新しい文明開化」の歌い出しの字幕と共に椎名林檎の声が響いたと思ったら、画面が砕け散るように切り替わってステージの映像になり、曲が始まる──というオープニングだった。
ステージセットは「永遠の不在証明」のLEDパネル。メンバーの出で立ちは、それぞれ色違いの打ち掛けに、白のエリザベスカラー(天草四郎時貞とかがしているあれです)。椎名の背中には、大きく広がった白い羽根。右手には黄色の小旗を持ち、トラメガに勢いよく声を放り込んでいく。この曲も、次の「群青日和」も、伊澤一葉はギター。1曲目の途中でギターを携えた椎名林檎、曲後半で小旗を放ってそれを弾き始め、そのままの流れで「群青日和」につながっていく。トリプル・ギターのせいか、各々のプレイによるものなのか、オリジナルの「群青日和」よりも、格段にラウドで荒々しい。曲のアウトロでは、刄田綴色を除く4人がフロントに出て、横一列でギター&ベースをかき鳴らす。
「お待たせしました、お待たせしすぎたかもしれません。『NEWS FLASH』へようこそ、東京事変です」
というロボット声のナレーションを経て、ステージに灯りが戻ると、全員白いシャツに錫色のガウン姿に変わっている。そして浮雲→伊澤→椎名と歌がリレーしていく「某都民」へ。ここから椎名林檎は、おなじみの、身体は向かって右を向き、顔は正面を向いて歌うフォーメーションになり、伊澤一葉はキーボードへ移る。曲間なしで、というより、まるで同じ曲の続きのように入った「選ばれざる国民」では、ミラーボールが回り、後方のLEDは、多数のテレビモニターのように、さまざまな映像を映し出す。浮雲と椎名と伊澤、3人の声が2対1の掛け合いになったり、中盤で3人が揃ってユニゾンと化したり、後半でまた掛け合いに戻ったりするさまが圧巻。
続く「復讐」でストレートに重たいサウンドを聴かせる5人。アウトロでギター・ソロに入るタイミングで、椎名が前に突き出して引き金を引くように動かした右手に、モザイクがかかった。で、次は、「引き金を引いた途端立ち現わる白く空虚な時よ」で始まる「永遠の不在証明」。椎名はいつの間にか(この人たちの衣装替えはすべて「いつの間にか」だが)ケープを羽織り、赤いハットを顔に当てながら歌っている。LEDの画面ではパトライトが回る。曲のアウトロでは「PLEASE ENJOY THE OUTRO. ひきつづき演奏をお楽しみください。」という文字が画面に現れ、その間に椎名がガウン姿に戻ってから、「絶体絶命」。画面は演奏する5人の手元のアップに切り替わる(椎名は歌う顔のアップ)。引きのカメラの画が、ここが無人のNHKホールであることを思い出させてくれる。そう、忘れていました、音にも画にも引き込まれるがあまり。
「絶体絶命」のアウトロのあと、テクノなバック・トラックを一瞬はさみ、そのままつながって「修羅場」。東京事変特有の、このような、曲と曲との接合の見事さや、並べ方の美しさや、それによってライブ全体で描いていくストーリー性は、生のバンドで行うDJのようだ、と、いつも思う。間奏で浮雲と伊澤が順番にソロを取る間、椎名はしゃがみこみ、間奏が終わると歌いながらゆっくりと立ち上がった。
曲が終わる寸前に、LEDに「3:00:00:00」の表示が表れ、次の曲が「能動的三分間」であることを示す。その「能動的三分間」の前半で椎名、歌いながらサッとガウンを脱ぎ、白シャツ&白スカート姿になる。サビでボーカルが浮雲&伊澤との掛け合い状態になるパートでは、左手のフラッグをゆっくりと振る。ぴったり「0:00:00:00」で「能動的三分間」が終わると、その表示が「電波通信」に切り替わり、闘うような亀田誠治のベースと刄田綴色のドラムからその曲へ。レーザーやストロボが多用され、一気にステージの空気が変わる。ギターを提げ、右手で虚空を差しながら歌う椎名の表情も、静かに張り詰めているように思える。
伊澤のピアノと椎名の歌だけでしばし聴かせてからバンド・サウンドがなだれこんでくる「スーパースター」では、曲が進むにつれ、ギターもベースも鍵盤もドラムも、どんどん音がカオスになっていく。アウトロで、腕がもげそうな勢いでドラムを叩く刄田に目をやった椎名、ちょっと微笑んでいるように見えた。浮雲・伊澤・亀田は白シャツ、刄田は指揮者みたいな黒い燕尾服になっての「乗り気」の間奏では、ショルキーの伊澤を含む3人がフロントで演奏、椎名はその横で手旗を振る。次の「閃光少女」では伊澤はギター、アウトロでソロを弾きまくる。亀田と刄田は笑顔で視線を送り合い、椎名は遠くを見ながらマイクに声を送り込む。ステージが明るくなったり闇に落ちたりの緩急が激しい「キラーチューン」では、空の客席をカメラが左右へ走る画など、引きのショットが多く混じり始める。ステージを右へ左へと動きながら、朗々と声を響かせ続けた椎名は、曲終わりでバレリーナのような美しいフォルムのお辞儀をしてみせた。
一瞬の暗転から「今夜はから騒ぎ」。椎名、歌い出して白い衣装を脱ぎ捨て、黒いドレスと黒いハットになる。これより数曲前から、歌う時の表情が徐々に豊かになってきたのが、この曲で一層そうなったように思えた。浮雲のギター・ソロ、お得意の、「ギターの音じゃないでしょ、それ」と言いたくなる素敵な音色である。「OSCA」のイントロでは、例の各メンバーのソロ部分に合わせて、LEDに名前が大写しになる(2コーラス目に入るブロックでは「Guitar」「Bass」と、各パートが大写しになった)。椎名はトラメガをハンドマイク状態で手に持ってボーカルをとる。にしても、配信ライブという都合上だが、こうしてヘッドホンで大きな音で聴くと、メロディもアレンジも各メンバーのプレイも、展開も構成も何もかもが、J-POPのフォーマットを逸脱しているにも程がある、つくづくどうかしている曲であることがよくわかる。シングルでしたよね、この曲。すごいな、この人たち。
ノンストップで「FOUL」。おそらく、この日BPM最速。バンドの音と歌はひたすらラウドに昇りつめ、ステージからレーザーが飛び、LEDには走ったり飛んだり闘ったり飛び込んだりする人々のグラフィックが、目まぐるしく映し出される。メンバー5人と同じようにそこにいる、そこにある、そんな錯覚をしそうなほど立体的なグラフィックを背にしての「勝ち戦」(英詞なので字幕あり)、椎名の歌と伊澤のピアノがサビで競い合う「透明人間」を経ての、ラストの曲は「空が鳴っている」。
椎名のボーカルとぶつかって溶け合うような浮雲&伊澤のギターも、それらを空に解き放つように響く亀田&刃田のリズムも、すごいスケール感。「今なら僕らが世界一幸せに違いない あぶない橋ならなおさらわたりたい 神様お願いです、終わらせないで」というこの曲、このライブの最後を飾る存在として、これ以上のセレクトはなかった、と、観ながらつくづく思う。曲のアウトロで、まずメンバー5人の、続いてこのライブに関わったスタッフのクレジットが、エンドロールとして流れた。音が止まってもクレジットはしばし流れ続けたが、その途中でうっすらと明るくなったステージに、すでに5人の姿はなかった。
最後に切り替わったエンド画面には、「THANK YOU FOR VIEWING」「PHOTO SHOOT ALLOWED 撮影可」などとメッセージが載った複数のカラーバーの下に、メンバー5人それぞれの手描きのメッセージが表示された。

取材・文=兵庫慎司 撮影=太田好治

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