梶浦由記 初のスタジオ配信ライブに
ついて思いを語る 「音楽が美しいと
思うのは、聴く人の心が美しいから」

数々の楽曲を世に生み出してきた稀代の作曲家、梶浦由記が2020年9月18日にオンライン配信ライブ『Yuki Kajiura LIVE 番外編 ~STUDIO配信LIVE vol.#1 reprise!』を開催する。スタジオからの配信になるというこの特別なライブについて、SPICEでは梶浦由記本人にメールインタビューを行った。今回の配信ライブに対する梶浦由記の思い、内容などについて耳を傾けてみたい。

――まず、今回のオンラインライブを開催しようと決断するまでの経緯を改めてお聞かせ願えればと 思います。
多くのミュージシャン、エンターテインメントに関わる皆様と同じように、私も今年ステージに上りお客様をお招きしての音楽活動は難しくなりました。夏に予定していたツアーを全て来年に延期したため、何か違った形で音楽をお届け出来ないかとスタッフの皆と相談して、オンラインライブの開催を決めました。
――今回はスタジオからの配信ということですが、通常のコンサートホールやライブハウスなどの 空間とスタジオと、表現的にどういう違いがあるでしょうか? またどういう違いを見せたい、楽しんでもらいたいという思いがありますか?
スタジオからの配信で、幾つかのブースに別れての演奏収録になりますので、まずライブステージのように全員が「お客様のいる」同じ方向を向いてプレイすることはできません。基本は見える範囲でのアイコンタクトと、主に耳から聞こえるみんなの音と共に演奏する、スタジオセッションに近い形になります。
なので今回は、むしろ気持ちの上でもステージライブには寄せず、プレイヤーさんのライブな顔より「演奏者」の表情を見ていただくものになるなと思っています。演奏もライブの一体感や興奮よりセッションの楽しさをお届けするものになるでしょうね。カメラをそれぞれ置いて、ステージでは遠すぎてなかなか見えないプレイヤーさんの手元も映したいなと。そんなところもお楽しみいただけたらいいなと思っています。
――今回の配信ライブの内容はどういうものになりますでしょうか? どういう構成にしたいとか話せる部分があれば。
実はセットリストは公開しまくっています……というのも今回のコンセプトは「1stライブの再現」で、セットリストも本当にそのままやりますよ、と公言していますので、ライブ告知ページに直接的には載せないにせよ例えば私のサイトなどで1stライブの記録を調べていただければ曲目はすぐ出て来ます。
Yuki Kajiura LIVEは2008年4月に始まりました。1stライブのコンセプトはまず「日本語封印」、日本語の曲は一曲も歌いませんよ、というものでした。今でこそ珍しくはないと思いますが、当時いわゆるBGM音楽を、オーケストラとかストリングス中心ではなくがっつりバンド編成で、それも複数の女性ヴォーカルが競い合うように非日本語で歌いまくる……というライブはあまり、というかほぼ、無かったのではないかと思います。
私はBGMの他にSee-SawFictionJunctionや当時活動を開始したばかりのKalafinaで日本語の曲も書いていましたから、個人名のライブと言えばまずそちらを期待されるだろうという思いはありました。なのでまず1stライブに限っては、ですが、そちらは一切やりませんよ、BGM側の曲でやります! というコンセプトでやってみたかったんです。つまり自分達にとっても実験的な意味合いもかなり強いライブで、ですからハコも小さく抑え告知もブログのみでしたが、やはり今取り出してみても第一回目のセットリストには「ライブをやるとしたらこういう事をやってみたかった!」という当時の自分の夢や欲望が余すところなく詰まっているんですよね。
ライブアレンジも曲によっては原型を留めないほど濃いですし(笑)。お陰様でYuki Kajiura LIVEはあれから12年続き、16回目のツアーを迎えるまでになりましたが、配信ライブについては今回私たちは一年生。1stライブの時の、欲望がパンパンに詰まったあの感じ、リハーサルは積み重ねたものの、一体どんなライブになるのか、蓋をあけて見るまで分からないな……というドキドキワクワクと少しの不安、気持ち的にはちょっと似たものがあります。一度初心に帰ってみる、という意味でもこの「1st再現」というコンセプトは面白いと思いました。
――今回の演者も信頼できるメンバーとのセッションになると思いますが、一同に介して音を紡ぐのも久しぶりになるのでしょうか? 同じ空間で音を奏でるというのは梶浦さんから観てどういう時間なのでしょうか。
いや本当に、もうずっと一緒にレコーディングもライブもやってきた付き合いの長いメンバーとの時間になりますが、みんなでどん!と演奏するのはかなり久しぶりになります。まず正直会えるだけで嬉しいですよね……それに加えライブでの付き合いは長いものの「スタジオセッション」という形は私にとっても実は初めてなので、どんな時間になるのか、ただ楽しみでなりません。
――観客の方も通常のライブ会場と違う環境で今回の配信を楽しむと思います。好きな飲物や食べ物を用意したり、自宅で楽しむ人、友達と集まって大きな画面で楽しむ人、移動中に携帯などで楽しむ人など居ると思いますが、梶浦さんとしてはどういう環境で楽しんでもらいたいですか? また、どんな音楽を届けたいでしょうか。
昔からずっと、音楽は常に一対一のものだと思っています。同じ場所でみんなで楽しむ、というライブの一体感もとても素敵ですが、でも結局音楽から受け取り持ち帰るものは個人個人で全く違うものだなと。だから何を受け取って欲しいとか、どんな環境や気持ちで聞いて欲しいという願いは私の方からは一切無いんです。周囲に気を遣う必要もない配信環境であればなおさらです。
「どんな音楽を届けたいか」については、これも昔から同じで、音楽っていいな、楽しいな、素敵だな、そんな気持ちを届けたいだけ。音楽が美しいな、と思うのは、聴く人の心が美しいからだと思うんです。音楽はただその人の心の中にある「美しさ」を引き出すだけ。だからきっと同じ曲を聴いても、感じる色も景色も美しさも、一人一人全く違うと思うんです。聴いて下さる方の心の中にある、その人だけの美しさや暖かさや、いろいろな気持ちに、そうっと届くような。そっと爪弾くような。そんな音でありたいなと、願っています。
――このコロナウイルスによって、世界はどのジャンルに関しても少しづつそのあり方を 変えて来たと思います。それは音楽の世界もそうだと思うのですが、梶浦さんが作られている 音楽にもその影響はありましたでしょうか? また、今後の創作に関しても何かが変わってくる可能性もあるのでしょうか?
お仕事としてメインに作っている、いわゆるBGMに関しては、影響はありません。なぜなら作品世界の中にコロナウィルスは存在していませんから。作品と関係なく自分が作っている音楽への影響は……そうですね、正直無いと思います。
自分の生活や仕事に取り組む姿勢、時間の作り方や使い方、音楽に対する考え方にはいやが応にも影響は受けていますが、ではそれが実際作っている音楽、自分が鳴らして行きたい音や音楽を通して表現したいことにまで影響を与えているかと改めて考えると、今のところはそうは思いません。むしろ今までと変わらず音楽に取り組むために、世界の変容に合わせて自分の生活や環境の方を変えていく必要性は感じています。
――改めて来年以降、この状況が変わって実際に会場に足を運んでもらってライブを実施できるときはどういうものにしたいですか?
今回の配信では、最新の曲どころかここ12年以内に書いた曲は一曲もお届け出来ないんです。何せ12年前のセットリストの再現ですから(笑)。ただ、その分久しぶりに演奏する曲もあるのが自分でも非常に楽しみですし、ここ何年かライブ後のアンケートでいただくことが増えた「最近の曲が聴けるのは嬉しいけれど昔の曲がセットリストから減って来て寂しいです」というお声にもお答え出来るかなと思っています。
そして逆に、来年に延期になった本来のライブツアーの方ではですね、まずみなさんと直接お会いして、そして「ライブな人」の顔になった歌い手さん、プレイヤーのみんなと共に、新しい作品の曲もたっぷりとお届けするのを楽しみにしています!
――最後に今回の配信を楽しみにしているファンの方にコメントをお願いいたします。
Yuki Kajiura LIVE初の配信ライブになります今回。正直私たちもまだ色々なことが未知数で、ワクワクしております。今までのライブに足を運んで下さった貴方にも、今回はじめましてになる貴方にも、お好きな場所でお好きな気持ちで、お楽しみいただけたら。楽しい音楽の時間となりますよう、祈っております!
インタビュー・文:加東岳史

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