末満健一、中屋敷法仁、岩井勇気が新
しいTRUMPシリーズ『黑世界』を語る
「凝り固まったTRUMPの世界観をかき
混ぜたい」

2020年9月20日(日)から東京・サンシャイン劇場にて、10月14日(水)から大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて、Shared TRUMP シリーズ音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』が上演される。

Shared TRUMPシリーズとは、劇作家・末満健一がライフワークに掲げ2009年より展開する演劇公演<TRUMPシリーズ>を、一つの世界観を複数の作家で共有して創作する“シェアードワールド”手法を用いて上演する試みであり、今作では末満健一と6名の作家陣による短編アンソロジーで2作品同時上演するというもの。
2作品のうち「雨下の章」で脚本を務める作家の中から劇団「柿喰う客」代表の中屋敷法仁、そして「日和の章」を手掛ける作家から舞台作品の初脚本を務めるお笑いコンビ・ハライチの岩井勇気、そして2作品全体を通してハンドリングする末満に話を伺った。
ーーTRUMPシリーズが昨年10周年を迎え、次の10年に向けての第一歩となる最新作『キルバーン』がコロナ禍で上演延期となりました。まずは延期となった時の心境から聞かせてください。
末満:コロナ禍の最初の方は「秋には治まっているのでは?」と思っていたんですが、だんだん状況が悪化し、読みが甘かったな、と感じました。それで、これはまず上演は出来ないな、と。それが残念でしたね。
末満健一
ーーそれに代わって今回複数の作家が手掛ける“シェアードワールド”手法を用いた作品となるそうですね。
末満:はい。最初『キルバーン』を朗読劇など、他の形でできないか? という案もあったんですが、この作品は勢いを大事にしたミュージカルだったので、これを朗読劇でやっても『キルバーン』でやろうとしていたことはできないなという想いがありまして。スタッフとの打ち合わせにむかう前の電車の中で「何かできないか、代案を出さないと『キルバーン』を朗読劇でやることになってしまう……」そんな追い詰められた状態から生まれたのが『黑世界』でした(笑)。
中屋敷・岩井:(笑)。
末満:役者は渡り鳥のようにいろいろな現場に顔を出せますが、脚本と演出家を両方やっていると他のクリエイターが手掛ける現場に関わる機会がない。だからいろんな演出家、脚本家と仕事ができる役者たちがうらやましいなと昔から思っていました。小劇場時代、コントの台本を複数作家で手掛けた時にすごく面白かったという記憶があり、ならばこの状況を逆手にとって前からやってみたかった複数作家による共作の舞台をやりたい、と提案したらGOが出まして。転んでもただでは起きないという心境から生まれた企画なんです。
ーーそして今回集まった作家さんはいずれも出自もバラバラ、個性豊かですが、人選は末満さんの希望ですか?
末満:はい。とにかく凝り固まった世界観をあの手この手でかき混ぜたかったので、演劇畑の作家だけでなく、いろんなジャンルから呼びたいと考えました。降田天さんは実力派のミステリー小説家ですが、舞台脚本は初めて手掛けていただきます。僕は降田さんの作品を以前から読んでいて、降田さんも僕の作品を観てくださっていたので、お互いがお互いのお客さんでしたね。アニメ・ライトノベル界から参加のGoRAチーム・宮沢龍生さんと来楽零さんは、僕が演出を担当した舞台『K』がきっかけです。そしてお笑い界からは岩井さん。同じ事務所というご縁もあり、シリーズ前作を観ていただいていました。演劇界からは中屋敷さんと葛木さん。葛木さんも以前からシリーズを観てくださっていて。中屋敷さんは、僕が柿喰う客の作品が好きで、あの世界観でTRUMPシリーズを書いていただいたらどうなるのか、観てみたかったんです。
ーーそんな末満さんから依頼を受けた岩井さんと中屋敷さんの心境は?
岩井:脚本は書いたことがないので「どうなっても知りませんよ!」というスタンスでした(笑)。演劇は社長に誘われないと観に行かない人間だったんですが、「うちの会社でやっている舞台で2次元ぽいのがあるよ」と聴いて。僕はアニメが好きなので、2.5次元と呼ばれる舞台は何度か観たことがあるんですが、うちの会社はそっち方面は強くないというイメージを持っていて(笑)。それで、気になって『COCOON 月の翳り星ひとつ』(2019年)を観たら面白くって。他のTRUMPシリーズも次々と拝見しました。こういう、サブカルチャーっぽいものをできる人が同じ会社に居るんだ! どんな人が書いているんだろう? と思い、一度ごはんにも行かせていただきました。これまでコントの台本なら書いていましたが、コント用の台本はすべて横書きでしたから、芝居の台本を書く時、縦書きに直すのがめちゃくちゃ大変で!
岩井勇気
末満:芝居の台本も横書きで書いてくれたら、こちらで縦書きに直しますよ(笑)。そういうソフトがありますし。
岩井:ああ、それなら……って、そこが問題じゃないですって(笑)。僕が書くものってほぼ漫才で、自分ともう一人とでやる仕様で書いているので、芝居の台本によくあるト書き的な事も口頭で説明すれば済むようならあえて書かないですし、そういう点で、脚本は難しかったです 。
中屋敷:僕はこの仕事のお話をいただいた時、「末満さん、倒れたんだ!」って真っ先に思ったんです(笑)。
全員:(大爆笑)。
中屋敷:だってTRUMPシリーズって末満さんのものであり、末満さんなしでは成り立たないという認識があったから。だからこそ、そんな作品を任されるということは末満さんに何かあったのでは? と思っていたんですが、蓋を開けるとそうではなかった。体調が悪いどころか6名の作家を取り込んでTRUMPの世界をさらに大きくしようとしていることに恐怖を抱きました。まだ巨大化するのか、と。僕の作品が末満さんの養分となり、TRUMPの世界観をどれだけ広げられるのかと背筋が伸びる想いです。また、他の作家さんの脚本も拝見しましたが、皆さんすごく個性豊かでこんなにいろいろなアイディアが出てくるんだなって驚きました。
中屋敷法仁
ーー6名の作家さんと末満さんで作る新しいTRUMPシリーズ。どんなスタートを切って始まったんですか?
末満:最初にZoomでキックオフミーティングをやって、設定などの不明点などを質問形式で解消しました。初めましての人が多かったので緊張感が何もほどけないまま終わりましたね(笑)。
岩井:僕も何度かZoomで打ち合わせをしているんですが、あんなに殺伐とした会は初めてでしたね(笑)。
末満:作家という職業柄か、人見知りするタイプが多かったのかな。なんにせよ、初対面が多い状態でのコアな打ち合わせは危険でしたね。このZoom会議はやって正解だったのかと疑問は残りました(笑)。
末満健一
ーーそんな不安しかない(笑)キックオフミーティングの後、各自で脚本を書き出したということですが、できあがった脚本をご覧になっていかがでしたか?
末満:僕から見たらTRUMPの世界に寄り添ってくれる方と、あえて寄り添わない方がいて両方面白かったです。岩井さんの脚本はこの世界にハマらないのに、それでいてこの世界にしっかり在る感じが面白いし、これもありだなって。「こんな感覚が欲しくてこの企画を提案したんだな」と改めて思いました。あと僕は監修をするとき「ここはこうして、あそこはこうしてほしい」といろいろリクエストするタイプなんですが、中屋敷さんのプロットは監修をする部分がほとんどなかった。絶対自分からは出てこない発想だったので脚本が完成するのが楽しみです。
他にもミステリアスなものやハートウォーミングなもの、いろいろあるのが楽しくて、今から第2弾をやりたい気分です(笑)。
岩井・中屋敷:まだ第1弾始まってないのに(笑)。
ーー中屋敷さんと岩井さんから見たTRUMPシリーズの魅力とは何ですか?
中屋敷:とにかく残酷なイメージがありました。しかし今回、改めて過去の作品を紐解くと、そういうシーンは意外と少ない。自分の中のTRUMPと舞台上のTRUMPに刺激的な乖離があります。自分の中ではぐちゃぐちゃに爆発しているのに、舞台上では繊細に作り込まれていたり。実際には血みどろではないのに、血みどろなシーンの印象があったりと、観客の中でイメージが膨らんでいるんだなと思いました。

中屋敷法仁

岩井:そもそも2次元っぽい世界を、2次元が好きじゃない人がいじって作った作品だと僕は思っています。客観的にいじって作っているなって。
末満:「2.5次元」というジャンルが生まれる前から、この手のタイプの作品をやっていたので(笑)。最近2.5次元と呼ばれる舞台が次々と出てきて、その余波で自分のオリジナル作品が2.5次元じゃないのに2.5次元っぽいと言われるようになって『差別化をどうしよう』と考えることはありますね。
岩井:2.5次元ではないというところがいいですよね! アニメを舞台化したような舞台なのに原作アニメがないんですから。
岩井勇気
ーー今回朗読劇ということで舞台上では立ったり座ったり、距離を置きながら朗読をすることになりますが、いつもと違う表現の形だからこそやってみたいことってありますか?
末満:これまでステージングで具現化してきた表現をどうするか。稽古がまだ先なので、これからいろいろ考えていきたいですね。今思い描いているのは、物語の中心人物である鞘師里保さんと新良エツ子さんの二人は朗読ではない普通の芝居で、他のキャストたちが「本」を媒介に彼女たちのいる世界に干渉していくというもの。面白い化学反応が生まれそうだなと。このコロナ禍でいろいろ難しいですね。先日、舞台『刀剣乱舞』をソーシャル・ディスタンスに配慮した形で上演しましたが、それと同じやり方では面白くないので、今回ならではのアプローチを考えたいと思います。
ーーそしてキャストの方々はいずれ劣らぬ“声”に定評のある方が勢ぞろいしています。そこも見どころ、聴きどころの一つではないかと。
末満:何しろ『レ・ミゼラブル』経験済み俳優が4人もいますからね! とにかく「歌うまさん」を揃えたくてこの顔ぶれでお願いしましたので、お楽しみにしていてください!
取材・文=こむらさき 撮影=池上夢貢

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