リュックと添い寝ごはん 音楽を奏で
ることそのものをピュアに楽しみ、爽
やかな余韻を残した初ワンマンライブ
をレポート

リュックと添い寝ごはん ワンマンショー in お茶の間

2020.8.27 Shibuya O-nset
今年、高校を卒業したばかりの3人組ロックバンド、リュックと添い寝ごはんが初のワンマンライブ『リュックと添い寝ごはん ワンマンショー in お茶の間』を開催した。3月に初の全国流通盤『青春日記』をリリースしたあと、4月に開催予定だった東名阪ツアーが新型コロナウィルスの影響により中止となった彼らが、こんな状況でも“バンドが進んでいる姿を見せたい”という強い想いで開催することを決めた生配信ライブだ。無観客のShibuya O-nestから届けられたライブ中には、クイズ企画を盛り込みつつ、12月にメジャーデビューすることも発表。メンバーの和気藹々とした雰囲気が、ライブハウスと画面越しの距離感をゼロにしてしまうようなリュクソらしい一夜になった。
リュックと添い寝ごはん 撮影=関口佳代
定刻を少し過ぎたころ、松本ユウ(Vo,Gt)、堂免英敬(Ba)、宮澤あかり(Dr)と、サポートギターのぬんがステージに現れた。気合いを入れるように、こぶしを合わせる……のかと思いきや、おもむろにジャンケンをしてふざけ合う4人に思わず笑みがこぼれる。楽器をスタンバイ。宮澤が繰り出すビートが軽やかに走り出し、堂免のベースが心地好く跳ねた。オープニングは、8月19日にリリースされたばかりの新曲「生活」だ。これまでのギターロック的なアプローチから視野を広げ、踊れるロックンロールを目指したリュクソの最新モードと言えるナンバー。それを1曲目に置く攻め姿勢に、この初ワンマンに賭けるバンドの本気を感じる。続けて、疾走感あふれる代表曲「ノーマル」へ。変わりたい、けれど変われないという明日への焦燥を、松本の柔らかな歌声が繊細に紡いでいく。
リュックと添い寝ごはん/松本ユウ( Vo,Gt) 撮影=関口佳代
哀愁漂うメロディに苦しみと衝動、未来への希望が入り混じる「サニー」と、穏やかにスイングする未発表曲まで、5曲を終えたところで前半戦は終了。ここから「換気タイム」と称して、バーカウンターに場所を移し、「リュックと添い寝ごはん カルトクイズ」に突入した。「バンドの結成日は?」(正解は、2017年11月10日)というライトな問題にはじまり、「昨年出演したROCK IN JAPAN FESTIVALで堂免が着ていた衣装の柄は?」(正解は、ヤマメ模様)、「3月4日にリリースしたミニアルバム『青春日記』のジャケ写に映っている黄色いのぼりに書かれた文字は?」(正解は、鶏白湯)といったマニアックな問題の数々に苦戦するメンバー。「「ノーマル」という楽曲の歌詞に“明日”は何回出てくる?」(正解は11回)という問題では、作詞作曲を手がける松本は「ちょっと喋りかけないで!」と真剣に考えていたが、正解したのは宮澤だったりと、波乱の展開に終始笑いが絶えない。最終的にはいちばん多く正解したのは、ベースの堂免。バンド名にちなんで、優勝賞品のお米5kgを受け取ったが、「どうやって持って帰ろう?」と微妙な反応を見せる堂免に、「幸せの重みですから。ニヤニヤして帰ってください」と切り返す松本の言葉が優しくて微笑ましかった。
リュックと添い寝ごはん/堂免英敬(Ba) 撮影=関口佳代
再びライブフロアへと戻った。前半は、通常のライブのように正面を向いていたが、後半は4人が向き合い、スタジオセッションのような立ち位置でライブは進んだ。ギターと歌のみで録音したリリース音源とは一味違うバンドアレンジに乾いた口笛がふわりと重なった「500円玉と少年」、リズム隊が次々に表情を変え、キャッチーなサビへと勢いよく駆け抜ける「手と手」。曲ごとに異なる景色を描いてゆく松本の歌に寄り添うように、時おり、宮澤と堂免がマイクを通さず一緒に口ずさみながら演奏していた。堂免が繰り出すイントロのベースラインに合わせて、松本がおどけるように踊った「グッバイトレイン」のあと、リュクソの楽曲のなかでもとりわけ疾走感あふれる「青春日記」は、不規則なテンポチェンジをメンバーの阿吽の呼吸でぴったりと合わせる。
リュックと添い寝ごはん/宮澤あかり(Dr) 撮影=関口佳代
ラスト1曲を残したところで、突如、映像が挟まれ、12月9日に1stアルバム『neo neo』でメジャーデビューすることが発表された。再びステージに切り替わり、改めて松本から、「いままでと変わらず、僕たちらしく楽しんで音楽活動をしていけたらと思います」と意気込みが語られる。そして、最後に届けたのは、一聴して口ずさみたくなるようなメロディが瑞々しい新曲「あたらしい朝」だった。その一節からは、“毎日を愉快に暮らそうよ”というフレーズが聞きとれた。以前、インタビューのなかで松本が「(たとえ不安や苦しいことがあっても、)将来、笑っていられたら、全部それでいいんじゃないかと思うんです」と言っていたが、リュックと添い寝ごはんの歌には、そんな松本のシンプルな人生哲学が根付いている。この日披露された「ノーマル」や「サニー」もそうだ。リュックと添い寝ごはんがこれから足を踏み入れる新しいフェーズでも、おそらくそんなバンドの本質は引き継がれていくのだろう。そんな予感に胸が高鳴るなか、松本が「リュックと添い寝ごはん、メジャーデビューがんばるぞ!」と軽やかに宣言して、ライブは終演。最後まで肩肘を張ることなく、音楽を奏でることそのものをピュアに楽しむような3人は爽やかな余韻だけを残して、ステージを後にした。
リュックと添い寝ごはん 撮影=関口佳代
本来、インディーズバンドのワンマンライブでメジャーデビューが発表された瞬間とあれば、ライブハウスには大きな祝福の歓声が湧くことが多い。だが、それが叶わなかった今回のライブでは、チャット欄が祝福の書き込みで埋め尽くされていた。そうやって応援してくれる人たちに、自分たちの口でメジャーデビューを伝えるために、この日、彼らは無観客の初ワンマンライブを開催することを選んだのだろう。おそらく何年経っても、決して忘れない初ワンマンになった。だが、いつかお客さんを入れたリュクソの初ワンマンも絶対に見たい。彼らはよく“野外でライブをすることが夢”だと言うが、それが野外であれ、ライブハウスであれ、リュックと添い寝ごはんというバンドの居場所には、その音楽に呼び寄せられたお客さんの笑顔がよく似合うと思うのだ。
取材・文=秦 理絵 撮影=関口佳代
リュックと添い寝ごはん 撮影=関口佳代

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