アップデートされたキラキラ青春コメ
ディ『ブックスマート 卒業前夜のパ
ーティーデビュー』#野水映画“俺た
ちスーパーウォッチメン”第七十九回

TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
(c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
今も昔も、私は友達が少ない。学生時代は今で言う“陰キャ”(陰気な性格のキャラ)で、サッカー部やテニス部所属の“陽キャ”とは、ほとんど口をきいたことすらなかった。特に楽しかった思い出は無いし、「あの頃に戻れたら」なんて思いもしない。けれど『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を観たら、ちょっとだけ「うらやましいな」なんて思ってしまった。
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親友のモリーとエイミーは、学校生活をすべて勉強に費やし、優秀な大学への進路を勝ち取った。しかし、遊んでばかりいたように見えた同級生たちもハイレベルな進路へ進むことを知り、愕然とする。「こんなことならもっと遊んでおけばよかった」と後悔した二人は、楽しい時間を取り戻すため卒業パーティーへと乗り込むことを決意する。

“今ならでは”にアップデートされたコメディドラマ
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女性たちがやらかしまくる『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11)や、ネガティブをこじらせた女の子の成長物語『スウィート17モンスター』(16)など、女性主人公のコメディドラマは多く製作されている。その中でもこの『ブックスマート』は、コメディ特有の乱痴気騒ぎのハチャメチャ感は残しつつ、非常に“今”の物語にアップデートされた作品だと感じた。
たとえばモリーの体型は、エイミーと比べると太めではあるが、クラスメイトたちが彼女の容姿ををからかう場面は一切描かれない。逆に、細いスタイルにこだわるエイミーを、モリーがたしなめるシーンならある。過度に体型を気にする女性は私の周りにも多いが、「体型であなたの美しさは決まらない」という、監督のメッセージが聞こえてくるようだ。
また、エイミーは同性愛者であることを2年前にカムアウトずみ。カムアウトまでにスポットを当てるのではなく、自然に展開される恋バナが瑞々しい。エイミーが想いを寄せる相手を眺めながら、「あの子と一緒にゴロゴロしたり出来たら楽しそうだな」と言うと、モリーは「私とはいつもしてるじゃん」と答える。すかさずエイミーが「そういうのじゃなくて、もっと体の付き合い」と返すと、「(なるほどね)」とモリーは納得する。このシーンの、片思いならではの甘酸っぱさと、心強い親友との何気ない会話にキュンとなった。はぁ、私もこんな親友に背中押されながら恋したかったわ。来世に期待。
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どんな容姿だって堂々と生きている人間はキラキラしているし、性的指向がどうあっても構わない。当たり前のことが当たり前に描かれていることが、とても素敵だ。遊んでばかりだと思っていたクラスメイトたちが実は優秀だったという事実も、多様性の尊重が謳われる今だからこそ、より響く要素と感じる。本作では、ありがちな“騒いでばかりの男の子はバカ”、“遊んでいる女の子はバカ”などといったステレオタイプな描き方はされない。人は見かけによらないぜと思わされる箇所がいくつも出てくるのだ。
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他人が内面に抱えているものや、人の関係性などは、側から見ているだけではわからない。そう考えさせられるキャラクターとして、私はジャレッドというムードメーカーの男の子が好きだ。自分の顔入りTシャツを作って配り歩いたり、ちょっとクレイジーな行動が目立つ人物なのだが、最後まで観ると彼が内に抱えたものが見えてきて、「なんだ……すごくいい子なんじゃん」と、とっても愛おしく思えた。
本作の製作総指揮は、コメディ映画常連のウィル・フェレルと、彼を主演にしたコメディをたくさん撮ってきたアダム・マッケイのコンビが務める。監督は、女優として第一線で活躍するとともに、フェミニストととしての活動なども行うオリヴィア・ワイルドだ。コメディ映画のプロと、ブレない視点を持つ監督の座組みでつくられたからこそ、笑いとフラットな感覚の両立が適ったのだろうと思う。
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プールで泳ぎながら片思いの相手を探すシーンの美しさ。長い髪の毛を覆面がわりに使って顔を隠すキュートな行動。「自分なんてどうせ」と卑下するモリーを「私の親友の悪口を言うな」と叱るエイミーの強い友情。思い返してみても胸に残った場面がたくさんある。彼女たちに近い年代の方にはもちろんだけれど、大人が観ても、この感覚は味わえるはずだ。
2020年現在でも、無意識の偏見はその辺にゴロゴロと転がっている。ネットを開けばギスギスしたやり取りばかりが目につき心の疲れが溜まっていたところに、光のような作品に出会えた。たくさん笑わせてくれて、胸にあたたかさを残してくれた。最高の青春バディモノをありがとう!
皆さんとも、この気持ちを共有できますように。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は公開中。

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