L→R 今井 寿(Gu)、ヤガミ・トール(Dr)、櫻井敦司(Vo)、樋口 豊(Ba)、星野英彦(Gu)

L→R 今井 寿(Gu)、ヤガミ・トール(Dr)、櫻井敦司(Vo)、樋口 豊(Ba)、星野英彦(Gu)

【BUCK-TICK リコメンド】
現在的視点と普遍性を同化させた、
静穏たるBUCK-TICKを表す楽曲

BUCK-TICKが待望のシングル「MOONLIGHT ESCAPE」をリリースする。テレビ東京 水ドラ25『闇芝居(生)』エンディングテーマであるカップリング曲「凍える」と併せ、彼らの揺るぎない世界観を深遠に表現した同作。来るアルバム『ABRACADABRA』を想像しながら綴られた物語を熟考したい。

「MOONLIGHT ESCAPE」に至る
BUCK-TICKの歩みを振り返る

 BUCK-TICK以外の何者でもない絶対的な安心感を有しながら、新しさも感じさせるーー。最新シングル「MOONLIGHT ESCAPE」を初めて耳にした時、すぐさまそんな感想を抱いた。この楽曲が生まれた背景には何があったのか詳細はまだ伝わってきていないが、まずは彼らの近年の歩みを改めて振り返ってみたい。
 2018年3月14日にリリースされた重厚かつ深遠な響きを持つアルバム『No.0』は、BUCK-TICKの孤高たる存在感に魅了される作品だった。「美醜LOVE」「Ophelia」「BABEL」「ゲルニカの夜」等々、バリエーションのあるマテリアルそれぞれが強烈な求心力を持ち、聴き手の内面に訴えかけてくる。発売後に行なわれたツアー『BUCK-TICK 2018 TOUR No.0』でのパフォーマンスも、これまで体験してきたライヴの中でも特に印象的なものだった。その余韻が今も残っているという人も少なくないだろう。2018年7月26日の東京国際フォーラムA公演の模様を収録したライヴ映像作品『TOUR No.0』を観ても、その凄みは実感できるはずだ。
 新たなアルバム『ABRACADABRA』が2020年9月21日に発表されることがすでにアナウンスされているが、前作『No.0』から約2年半という期間が彼らにしては決して短くはないだけに、その事実にも何らかの意味を見出したくなる。制作から実演を終えるまでの『No.0』に伴う一連の活動があまりに濃密だったがゆえ、ある種の充電期間がとられたということなのか? 当初からの計画通りのことだったのか? それとも他に理由があるのか? その真相はメンバーの発言を待ちたいところではあるものの、2019年5月25日と26日に行なわれた千葉・幕張メッセ公演『ロクス・ソルスの獣たち』の直前には、シングル「獣たちの夜/RONDO」がリリースされている点も見逃せない。
 「獣たちの夜」は“YOW-ROW ver.”が『ABRACADABRA』に収録されるが、この楽曲自体は今井 寿がストックしてあったリフのアイディアをもとに再構築したものであり、その時点では必ずしも次なるアルバムの全体像を見据えたものではなかったという。しかし、この退廃的躍動感とでも言うべきマテリアルは、ポジティブな意味でのBUCK-TICKの変わらなさを伝えるとともに、未来への期待感を大きく高めるものでもあった。
 それから約半年を経た2020年1月29日に発表になったのが、シングル「堕天使」である。ギターのストロークから始まる、シンプルなロックチューンだ。当然、この頃にはアルバムの内容が具体的に見えてきていたはずで、その意味では実質的な先行第一弾だったととらえていいだろう。年末の恒例ツアー『THE DAY IN QUESTION 2019』のステージでも先駆けて披露されていた。
 本来であれば、5月からはファンクラブ会員及びモバイルサイト会員限定のツアー『FISH TANKer's and LOVE & MEDIA PORTABLE ONLY LIVE』が開催され、夏にアルバムがリリースされるはずだったが、このコロナ禍で諸々の作業が中止・延期になった。レコーディングのスケジュールも再調整されたようだ。そんな紆余曲折を経て、今回のシングル「MOONLIGHT ESCAPE」が発表になる。

エレクトロとオルタナ、
聴き手に訴えかける歌世界

 作曲した今井によれば、アルバムに向けた曲作りを進める中で、最初に出来上がったのが「MOONLIGHT ESCAPE」だったという。実は「堕天使」をシングルリリースする際、この曲も候補に挙げられていた。エレクトロとオルタナ、キーワード的にはそのふたつがあったようだが、ギターが前面に出る印象はない。「堕天使」や「獣たちの夜」とは対照的だ。サウンドの質感で言えば、切なさのあるメロディーラインが軸にありながら、爽快さも感じさせる。冒頭に記したような安心感は、郷愁感と同義でもある。どこかで触れたことのあるような心地良い音空間が存在し、それでいて新たな世界へと導いていく。聴き手によっては、ポップな楽曲と受け止める人もいるだろう。
 しかし、そういった包み込むようなやさしさは、櫻井敦司が綴る歌詞を読み込んでいくと、二律背反のようにも思えてくる。まずタイトルだけでも意味深長さが窺えるだろう。“MOONLIGHT”とは月光であり、ロマンチックな雰囲気も漂う。その一方で“ESCAPE”とは、何らかの捕らわれている状況からの逃避・逃亡である。月光の輝く夜に何が起こったのか? 何かしらの抗えない環境下にいる主人公の想いを映し出したものなのではないか? 歌われる言葉を繙いていくと、その予想は現実味を帯びてくる。
 《踊り出すんだ LAST NUMBER》と始まる歌。なぜ“最後”の曲で踊り出すのか? それまで抑えていた気持ちを振り切るかの如く、音楽に身を委ねているように見えてくる。とはいえ、ダンスをするというのは比喩だろう。従前とは異なる行動へと一歩踏み出すことかもしれない。続く《神様お願いだ 僕の事をゆるしてね》という一節で表されているのは、よくある神頼みではなく、神に願うほどの重大事であり、ある種の“罪”への許し・赦しを乞うシーンなのではないかとも思える。
 《たった一人だ 旅立ちだ》と自らに言い聞かせ、《夜が明けるその前に》逃避をする。《パパママおやすみ》と告げ、《僕の事を 忘れないで》と嘆願もする。状況的には、ある家族からひとりの子供が離れていくところを描いたものだろうと解釈できる。ただ、それが単なる家出や親離れではないことも推察できる。《溢れる程 愛を抱きしめて》、そして《悲しみの無い世界へ 永遠に》と“ESCAPE”するとは何を意味するのか? しかも、包まっていたマントを翻し、“タカ‥ク タ‥カ‥ ク”舞うのである。言葉としては“高く”のはずだが、あえてこういった表現をしているところは、重要なポイントになるに違いない。
 ここで結論めいたことは断言できないものの、少なくとも若者を取り巻くひとつの社会問題に言及するストーリーが描かれているのは確かだろう。いくつも光景は思い浮かぶが、それゆえに「MOONLIGHT ESCAPE」が自分の中で幾度も反芻してしまう。この歌に込めた櫻井の真なる想いも訊いてみたくなる。
L→R 今井 寿(Gu)、ヤガミ・トール(Dr)、櫻井敦司(Vo)、樋口 豊(Ba)、星野英彦(Gu)
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OKMusic編集部

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