リュックと添い寝ごはん バンドの可
能性を大きく広げる新曲「生活」から
紐解く、もどかしさとタフさ

高校時代から、新人オーディションで優勝を果たし、インディーズ・アーティストの配信サイト「Eggs」では、2019年の年間ランキングで1位を獲得するなど、いま若手バンドのなかでも特に大きな注目を集めるリュックと添い寝ごはん。彼らが、8月19日に新曲「生活」をリリースする。これまでのバンドの持ち味だった歌ものギターロック路線ではなく、グルーヴィーに踊れるサウンドを目指したという今作は、リュックと添い寝ごはんというバンドの可能性を大きく広げる1曲だ。以下のテキストでは、そんな新曲「生活」で起きた変化の理由と、今年3月に高校を卒業したばかりという彼らが、コロナ禍に何を思うか、話を聞いた。バンドとして“これから”というタイミングで直面した苦境にもどかしさを抱きながら、それでも前向きにバンドを動かそうとするタフさを感じてもらいたい。
やっぱり音楽って人生にあることで人の心を豊かにするものだと思う。他の芸術も、人の心を成長させるために生活のなかに必要だなって。
――個人的には、ロッキングオン主催のオーディション『RO JACK』で優勝したときに、リュックと添い寝ごはんの存在を知ったんですよ。
松本ユウ(Vo/Gt):ありがとうございます。去年の夏に優勝して、ロッキン(『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』)にも出させてもらいました。
――他にも、そういう若手オーディションには、積極的に応募していたんですか?
松本:いや、『RO JACK』だけでしたね。最初は、“優勝できたらいいね”っていうくらいで。“(優勝特典の)ロッキンも出られたいいね”ぐらいだったんですけど。
宮澤あかり(Dr):優勝が発表されたときは、衝撃的だったよね。
堂免英敬(Ba):びっくりしました。
――オーディションに優勝したことで、バンドのモチベーションがあがったとか、活動の弾みになったとか、そういう変化はありましたか?
松本:全員が“こっからやるぞ”っていう気持ちにはなりましたね。
――当時は高校3年生でしたよね。結成は何年生のときだったんですか?
松本:1年生のときです。
――メンバーは同じ高校の軽音部ですよね。
松本:そうです。軽音楽部で夏に合宿があったんですよ。軽井沢のほうに行って。そのときは、それぞれ違うバンドをやっていたんですけど、最後に発表会みたいなのがあって。そこで全員の演奏を見て、お互い上手い人に声をかけたんです。そのとき、ドラムの宮澤が声をかけてくれて。
宮澤:ユウくんの声がいいなっていうことで、私から声をかけたんです。で、私とベースの堂免は同じバンドをやってたっていうのもあって、一緒にやることになりましたね。
堂免:もともと、うちの軽音部は女子のほうが多くて。男子はみんな超仲良しぐらいの感じだったから、ユウとも、“絶対にバンドを組もうね”みたいなことを言ってたんですよ。
松本:入部したときから、なんとなくね。
堂免:それが半年ぐらいして叶ったような感じでしたね。
――組んだときは、カバーとかやりました?
松本:1曲だけカバーをやったんですけど、それ以降はずっとオリジナルでしたね。
――カバーは何をやったんですか?
松本:Saucy Dogさんの「ナイトクロージング」っていう曲です。
――サウシーは、3人とも好きなんですか?
松本:その時は、僕が好きで。半強制的にやってもらいましたね(笑)。
――メンバーが共通して好きなバンドはいるんですか?
松本:go!go!vanillasさんは3人とも好きですね。あとは、2とかDenimsさん、星野源さんも。
――3月にリリースされた『青春日記』から聞かせてもらうと、“歌”に力があるバンドだなと思いましたけど。それはバニラズの影響ですか?
松本:うーん、そこは意識してないんですよ。作ったら自然とそうなってる感じで。
堂免:もともと僕らの曲の作り方は、ユウが弾き語りでメロディをもってきて、そこに楽器をぶつけていくっていう感じなので。自然と歌が真ん中にある感じになりますね。
宮澤:ドラムを叩くときも、歌を邪魔しないフレーズというか、前に出すぎないようにしているので。
――ちなみに、リュックと添い寝ごはんっていうバンド名はインパクトがありますけど。どういうふうに決めたんですか?
松本:これは、宮澤さん。
宮澤:“添い寝”っていう言葉が、そのとき自分のなかで流行っていて。で、さっきユウくんの話に出た合宿の最終日に、すごい急いでごはんを食べなきゃいけないっていうときに、リュックを背負いながらごはんを食べたんですよ(笑)。そこから、リュックと添い寝ごはんになったんです。
堂免:そのときから、バンドを組もうぜって話しててね。うん、語呂いいやんって感じで。
松本:一度聞いたら忘れないですよね。
――自分たちの音楽がリスナーに添い寝をするような、みたいな意味はないんですか?
松本:えっと……じゃあ、そうしておきましょう(笑)。
――ははは、ないんですね(笑)。で、そこから約1年半後にオーディションで優勝して。さらに、去年はEggsの2019年の年間ランキングで、アーティスト・楽曲ともに1位という結果も出してます。
松本:“やったー!”とは思うけど、あんまり実感はないですね。
宮澤:“すごいな”っていう感じで。
――客観的に評価されたことで、自分たちの自信になったりはしませんか?
松本:ああ、それはありました。朝、電車のなかで、毎日ランキングをチェックしてて。“あ、まだみんなに聴いてもらえてる”みたいなのは、すごくうれしかったです。
――そういう状況だと、高校を卒業したあともバンドを続けることには迷いはなかった?
松本:うん、そこはなかったですね。
――で、3月に『青春日記』をリリースしたあと、4月から予定していた初の東名阪ツアーが、新型コロナのために中止になってしまって。これは悔しかったでしょう?
松本:最初はすぐに終わると思っていたから、こんなに長引くとは思わなかったですね。
――この状況で、“いまできることをしよう”って、すぐに切り替えはできましたか?
宮澤:ツアーがなくなって、悲しいなっていうのはあったんですけど。いろいろなYouTubeを見て、ドラムの勉強をしたりしたので、よかった……と言っていいかわからないですけど。
――この時間を無駄にしないようにしていたと。
宮澤:はい。
堂免:ツアーだけじゃなくて、3月のライブも全部なくなっちゃったから、僕はけっこう引きずっちゃったんですけど。いままで、こんなに長い時間、家にいることがなかったから、本を読んだり、いろいろな曲を聴いたりして。ベースの技術だけじゃなくて、感性を鍛えるようにしてました。
――松本くんは?
松本:ライブができないのは残念だったんですけど、僕は、制作に集中するようにしました。ちょうど自分の作りたい曲が、『青春日記』とは違うものにしたいって考えはじめたときだったので。
――たしかに新曲「生活」を聴いて、新しい挑戦をしたいんだなって、すぐにわかりました。
松本:あ、本当ですか。
――よりグルーヴで聴かせるような曲になりましたよね。
松本:そうなんですよ。いままでの僕らの曲は、歌ものが多かったんですけど、もっと踊れる音楽を作りたいっていうのがあったんです。いま、おっしゃってくださったように、よりグルーヴ感のある方向に転換したいと思っていて。その1曲目ではありますね。
――歌詞でも、《あなたへの踊れるミュージック 届け》という一節がありますし。
松本:そう、“踊れる”というのはキーワードでした。
――そういう方向に変えたいと思ったきっかけは何かあるんですか?
松本:もともと僕が音楽をはじめたきっかけが、SAKEROCKさんだったんですね。SAKEROCKさんのライブの雰囲気が好きで。で、そこから半年ぐらい試行錯誤をしてて。実は「生活」のまえに、『青春日記』のなかで「グッバイトレイン」っていう曲を出して、その曲でも踊れる雰囲気は目指していたんですけど。それを経て、「生活」が出来上がった感じです。
――他のメンバーは、そういう松本くんの変化はどう受け止めています?
宮澤:ユウくんが聴く音楽がちゃんとバンドに還元されているのは、いいなと思います。もともと私はネバヤンを知らなかったんですけど、去年一緒にロッキンで見て。それから、こういう音楽をたくさん聴いていくうちに、私たちもこういうバンドを目指せたらいいなと思うようになりましたね。よく言うんですけど、野外が似合うバンドになりたいので。
堂免:あと、目指すものが変わったことで、曲を作る段階が楽しくなったんですよ。
宮澤:うんうん。
堂免:いままでは、“この曲を聴く人が、どういう気持ちになるんだろう?”とか、そのリアクションだったり、音の重なり合いとかを難しく考えて、良くしよう、良くしようと思ってたんですけど。いまは曲のテイストのせいかもしれないんですけど。気楽に作れるような感じというか。
――より自然体になったような?
堂免:そうですね。もちろん集中して考えるときは考えるんですけど。そういうのも含めて、楽しいなと思える瞬間が増えたような気がしますね。
宮澤:その楽しくなったっていう要因としては、たぶん聴く曲が変わって、自分のなかで新しいフレーズが増えたのもあると思うんです。聴いているものと、作るものが噛み合ってきたんですよ。
松本:いままでより、自分の作りたい曲ができたなっていうのはありますね。
――目指す方向性が変わったことで、松本くんのソングライティングの方法は変わりましたか?
松本:あんまり難しく考えすぎないようになりましたね。いままでは、進行とか構成とか、けっこう複雑に作り込んでいたところがあったんですけど。もっとシンプルに作れないかな、みたいなのはあって。でも、いままでと変わらないのは、最初にメロディから作ることですね。
――たとえば、コロナ禍という社会の状況が、この曲に与えた影響はありましたか?
松本:あります。もともと、この曲は2月ぐらいから作りはじめていたんですけど、歌詞はコロナのときに書いたものなので。それも、「生活」というタイトルにした理由のひとつなんです。Aメロでは、《空っぽなときが少し増えてきた 体はまだ動かないままで》って書いたんですけど、それも遠回しに言わずに、そのまま自分の状況を書いたりして。この期間だからできた曲だと思います。
――たしかに、いま自分がやりたいことに対して、動けないもどかしさがダイレクトに伝わってきますけど、それでも、“前向いていこうよ”って、明るい方向を示す曲でもありますね。
松本:そこは意識しましたね。
――それは、自分の気持ちを奮い立たせるために書いたんですか? それとも、もっと外に向いているというか、この楽曲を受け取ってくれる人に対して勇気づけたいという気持ちなのか。
松本:どっちもかな。やっぱり僕らがバンドをやるうえで、夢っていうものが明確にあって。それに向かってがんばりたいっていう気持ちはあるけど、いまは動けないっていう状況があるから。どちらかと言えば、自分に対してのほうが強いかもしれないです。そのうえで、特にいまは自分と同じ気持ちの人が多いと思うから。そういう毎日を過ごすなかで、愛のある前向きなメッセージを与えられる曲であり、元気になれる曲を作りたいなっていうのはありました。
――私ね、この曲の《続く夢の先で笑っていたいだけさ》というフレーズが好きなんですよ。
堂免:うんうん。そこ、いいですよね。(松本は)いつもメロディが抜けるところに、めっちゃ印象的なフレーズの歌詞をもってくるんですよ。それがマジですごいですよね。初めて歌を入れて、そこの部分を聞いたときに、僕、泣けてきて。
――ええ。たとえ今日が笑えなくても、せめて明日は笑っていたいっていうのは、『青春日記』の頃から変わらない、松本くんのテーマなんだろうなと思います。たぶん、松本くんって、根っからの明るいタイプではないですよね。
松本:そうですね(笑)。
――だからこそ、自分に言い聞かせるように、こういう歌が生まれるんだろうなと思ってて。
松本:うん。たしかに、願望とか不安とか、僕はそういうのを歌詞にしがちなんですよ。それでも、将来、笑っていられたら、全部それでいいんじゃないかと思うんです。どんなに苦しいことがあっても、いくら貧乏だとしても、明日、笑っていられれば、オールオッケーみたいな。
――さっきも少し出ましたけど、この歌を「生活」というタイトルにしようと思ったのは?
松本:タイトルは最後につけたんですけど、本当に自分のコロナ期間の生活そのものだからですね。あとは、「生活」っていう文字がかわいいなと思ったんです。
――なるほど。タイトルに関して、もうひとつ言うと、この曲では、“君の近くに音楽がある大切さ”も歌っている気がしたんですよ。
松本:ああ。
――でも、いまは、みんなで音楽を共有することが不要不急ではないとされている。だから、音楽を生活の一部に入れたいっていう、いちミュージシャンとしての想いなんじゃないかなって。
松本:いまは音楽を体感する場所がない時期じゃないですか。もちろん自分ひとりで聴くことはできるかもしれないけど、みんなで共有する場所はない。やっぱり音楽って、人生にあることで、人の心を豊かにするものだと思うんですよね。それは、音楽に限らず、他の芸術もそうですけど、人の心を成長させるために、生活のなかに必要だなっていうのはありますね。
新曲「生活」ミュージックビデオ 2020年8月19日0:00プレミア公開
――わかりました。で、その「生活」のリリースに伴って、8月26日に配信ライブ『ワンマンショー in お茶の間』が開催されます。本来、コロナがなければ、この時期に、通常の初ワンマンとして開催する予定だったそうですね。
松本:はい。O-nestでやる予定だったんですよ。
――コロナが落ち着いたころに仕切り直すのではなく、いま初のワンマンライブと銘打って、オンラインで開催したいと思ったのは、どうしてですか?
堂免:ツアーもなくなってしまったし、このワンマンもなくしてしまうと、完全にバンドが足踏みしちゃうなっていう気持ちがあって。もちろん、お客さんが遊びに来られるようになるまで待つっていう手もあったんですけど、それよりも、何て言うんだろう……自分たちが前に進んでいる感じを伝えたいなっていうので、ライブをすることにしたんです。
松本:ツアーも全部なくなっちゃった状態でいきなりワンマンなので、不安はあるんですけど。
宮澤:やっぱり予定通りにやりたいなっていうはあったしね。
松本:できるかぎり、ふだん通り楽しめるようなライブにしたいなと思ってます。
――リュックと添い寝ごはんのライブでは、どんな空間を目指したいと思っていますか?
松本:決まったところで盛り上がるよりも、自分たちが好きなように聴いてほしいなと思いますね。
宮澤:とにかく自由に楽しんでほしいです。
松本:今回はオンラインだから、みんな自宅で観てくれるだろうし、ライブハウスみたいに動いたりはしないと思うけど、心のなかで盛り上がってもらって。
堂免:終わったあとに、めっちゃ笑顔になってほしいね。
宮澤:楽しいライブにするので、8月26日の配信ライブ、ぜひ観てください!

取材・文=秦 理絵

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