【Oh my! インタビュー】
今まで感じたことのない
アグレッシブなオケが
どんどん出来上がってきた
せっかくだからふたりきりの曲が
あってもいいかもって
2曲目の「AWA」はダンスミュージック風で、かなりユニークな曲ですね。
モリユイ
最初にふざけて“EDMを作ろうよ”と言い出したんですよ。
タクマ
なんか全てが遅いですよね(笑)。
モリユイ
“なんちゃってEDMを作ろうよ”みたいな悪ふざけみたいなところから、“ハッピーアワーみたいなのにしようよ”と。でも、私たちはお酒が全然飲めないんで、“私たちにとってのハッピーアワーにしよう! “アワー”は“泡”だからお風呂はどうかな? お風呂って幸せじゃん!”ということで、「AWA」は“ハッピーアワーは風呂の時間”という歌です。
聴いていると、すごく楽しくなります。
モリユイ
でも、歌詞は歌録り前日まで書けなくて。真面目な歌詞ばかり書いてきたから、ふざけた歌詞というのが難しかった…。前日になって追い込まれて、“わぁ! もう、分かんない!”って最終的にこうなったという感じなんです。
タクマ
送られてきた時はすごかったよね。
モリユイ
そう。みんなにLINEを送ったのに、誰も返事をくれなくて。
タクマ
そんな1、2分で歌詞を読めるわけないじゃん!
モリユイ
不安になって“悪口を言うなら、個人的にお願いします”と。
タクマ
すごく面白くて普通に堪能していたら急にLINEがピーと鳴って。“あー、たぶんめちゃめちゃ落ち込んでるんだろうな”みたいな(笑)。でも、僕も「AWA」みたいなトラックを作るのは初挑戦でした。デモで作った段階のものでほとんど完成させたんですけど、さらにトラックメイカーの方に手を加えてもらって。
モリユイ
“お湯がブクブクする音を入れてください”って入れてもらったりとかね。ふざけることをこだわり抜いたからか分からないんですけれど、このアルバムを聴いてもらうと“「AWA」いいね!”と言われることが多いんですよ(笑)。
1曲目の「I Wanna Know!」はスタートに相応しく、一気に盛り上がる楽曲ですが、以前とバージョンを変えて収録されているそうですね。
モリユイ
ライヴで前から演奏していた曲だったんですけど、アルバムに入るとなって、さらにブラッシュアップしました。曲の内容がさわやかな恋愛というか、甘酸っぱい初々しい感じだったので、そういう部分が分かりやすくイメージされるようなものにしましたね。
「地球最後の夜に」もOh my!のバージョンで、これはピアノの印象が強いです。
モリユイ
リメイクして、かなり表情が変わったと思います。前回のは結構バンドのハンドメイド感みたいなところを前面に出して作ったので。
タクマ
セルフプロデュース感が出ているというかね。
モリユイ
“地でいくバンド感”みたいなのを重視して作ったんですけど、今回音が変わるとなった時に、もう少しキラッ!としてもいいんじゃないかということで、サウンド感を意識して変えました。
確かに、聴き比べると華やかな感じがします。
モリユイ
そうなんですよ。前回は4人くらいで“地球最後の夜はどうする?”と話していたのが、朝礼台に立って“地球最後の日はどうしますかー?”くらいになったというか(笑)。そういうスケール感になったというのはありますね。
最後はアコースティックで少し切ないイメージがある「杏のジャム」ですが、この曲については?
モリユイ
ふたりになったんだし、せっかくだからふたりきりの曲があってもいいかもって。私、ずっとやりたいテーマがあったんですよ。最初のうちはちやほやされて、美味しい美味しいと食べられていた杏のジャムが、変わったフレーバーだからだんだん冷蔵庫の奥のほうに追いやられ、誰も手を出さなくなるっていう。結局は“いちごのジャムだったら食べてもらえたかもね”みたいな。そういう寂しさみたいなものと、付き合ったふたりが一緒に住むことになって、最初は何ごともキラキラしてて楽しかったけど、だんだん慣れていって、ふたりの仲も冷めていくという情景が、すごい合うんじゃないかなと。
目に浮かんできますね…。
モリユイ
曲を作る時、どんな人が、どんな場所で、どんな生活をしていて…というのを結構具体的に話すんです。景色というか。だから、ギターソロも“小西真奈美さんみたいなのを弾いてほしい”とか。
え? どういうことですか?
モリユイ
“ギターを弾けない女の子が弾いているみたいなギターソロを弾いてほしい”って(笑)。私は音に関しては分からないから、さっきの“朝礼台に立って言う感じにほしい”といったことを伝えるんですよ。
タクマ
いつもそういう抽象的なイメージのやり取りで、大きなテーマをひとつ決めて作っていくんです(笑)。
モリユイ
“ふたりで暮らしていそうな地味なアパートの感じにしよう”とか。音源になった時の音をチープにしたいというか…壮大に録っちゃったら、たぶん生活に馴染まないと思うので。
なるほど。確かに杏のジャムって最初は珍しいけれど、食べきれないかもしれないですね。最後まで責任が持てないというか。
モリユイ
いいですね、“最後まで責任が持てない”って。そんな感じなんですよ。人と向き合い続けることは本当に難しいじゃないですか。それで向き合っていく中で関係性が変わっていく。家族にしても友達にしてもそうだし。人間は脳みそが2個ある時点で、ずっと同じ気持ちではいられないから、そういうすれ違いみたいなのが起こると思うんです。この曲のイメージはパラパラ漫画をめくっているみたいな質感にしたかったんですよ。クリアーな感じじゃなくて。パラパラとめくっていったら、最後に冷蔵庫の奥に杏のジャムがぽつんとあった…みたいな感じにしたかったんです。
それにしても、ユイさんの音を表現する時の言葉がバラエティー豊かで面白いですね。感覚派のユイさんと、それを解釈するタクマさんという関係性というか。
モリユイ
この感覚だけでやり続けていたから、この感覚が妙に育ったというか。
タクマ
そうだね。僕もそこまで知識を武器に曲を作っているタイプではないし。それを肯定してくれたプロデューサーさんもいらして…その人と今までやった作品が僕にとっても思い出ある楽曲なんですよ。その人に“タクマくんはギターを習いに行くより、そのまま自分のスタイルを磨いていったほうが、いい結果が出ると思う”みたいなこと言ってくださって、今もそれを信じてやっています。もちろん最低限の基礎的なことは分かっているんですけど、それ以外の部分は、ユイが思っている世界を再現するための感性の磨き方みたいな。モリ:逆に理論がしっかりある人のほうが、私たちの音楽を面白がってくれたりします。“理論上こんなことになるはずがない”みたいな(笑)。
(笑)。そんなOh my!ですが、これからどんなことを目指していきたいですか?
モリユイ
コロナの期間があって、ライヴも全然できなくて音楽から離れた状態で2カ月くらい過ごしたんですね。レコーディングもひと段落したあとだったし、私たちは会わないと曲を作れないので。だから、本当に音楽から離れてたんですけど、その時にすごく思ったのが、音楽がなくても人は生きられるってことで。でも、“音楽をしたくないのか?”と考えたら、そんなわけはないんですよ。だから、純粋に音楽が好きなんだなって。そういう部分だけ考えていてもいいかものかもって思ってます。
タクマ
どんな苦難があっても、結果的には何とかなっていることがすごく多いんですよ。こういうご時世になって、周りはすごい勢いで動き出していますよね。配信やYouTubeなどゼロから新しいことをやっているのを見て、僕らは置いていかれたような気もしたんです。でも、向き不向きもあると思ってて。最悪、“僕は曲を作るから、あとはよろしくお願いします!”でいいかなって(笑)。
モリユイ
メンバーが抜けたことで、逆に“なんとかなるでしょう”と開き直ったみたいなところはあるかもしれないですね。“きっとどんな感じでもハッピーなんだろうな”という自信はあるんですよ。そう思うと、もう何も怖くなくなってきてしまって。
タクマ
そうなんですよ。僕ら陽のパワーがすごくて! 結局、どんなかたちになっても音楽を続けると思うんです。そこはふたり、共通してますね。
モリユイ
そこがはっきりしているから、どうなっても大丈夫っていつも思っています。
取材:キャベトンコ