日常と所蔵作品に光をあてる上野の森
美術館の展覧会『なんでもない日ばん
ざい!』開幕レポート

東京・上野の森美術館にて、『上野の森美術館所蔵作品展 なんでもない日ばんざい!』が、7月23日(木)から8月30日(日)まで開催中だ。「なんでもない、どこにでもある日常」をテーマに、上野の森美術館大賞展の受賞作で、同館のコレクションとなった79点の絵画を展示。さらに秋山さやかの「あるく 私の往来基本形 上野恩賜公園」や版画家・野田哲也の《日記》シリーズ40点(前後期展示替えあり)も同時に展示される。
同館は、この展覧会が「明るく楽しい気持ちにさせてくれるもの、おだやかな日常の情景、いつも変わらずそこにある街や自然、そして身近な人や風景からユニークな想像や思索を巡らせたものなどをグループにし構成」した内容であるとコメント。22日に行われたプレス向け内覧会よりレポートする。
展示風景
■作家の目を通した、多様な「日常」
第1章「日常のなかに」は、「まなざし」をキーワードにまとめた人物画ではじまり、「おだやかな時」「世界への視線」「自己をみつめる」と続く。
展示風景
藤原早苗の日本画《ピクニック》は、屋外に広げたレジャーシートが描かれている。これは家族とピクニックに出かけ、皆で写真を撮ろうとレジャーシートを立ったあとの様子を描いたものだという。軽やかな色の組み合わせや、直線とにじみの柔らかい掛け合いに、木漏れ日の心地よさと弾む心を感じた。
藤原早苗《ピクニック》(第38回優秀賞受賞)
《神秘》は千葉美香の油彩画だ。沖縄の伊計ビーチを訪れ、太陽の光、穏やかな風、水などがもたらす心地よさから「生きる喜び」を表現しようと制作された作品。女性は水面を境界に、水の中と外に分かれている。水面、反射する光、水を通して見える女性の身体、さらに波の揺らぎなど、いくつもの要素が複雑にカラフルに描き込まれている。鑑賞の目がつま先から青い海へ辿りつく頃には、心地よい浮遊感に包まれた。
千葉美香《神秘》(第35回絵画大賞)
■所蔵作品と日常を振り返る
同館は、1983年より毎年行われている「上野の森美術館大賞展」の公募に寄せられた、日本画・油絵・水彩・アクリル・版画などの絵画作品の中から受賞作品約300点をコレクションしてきた。しかし常設展を行っていないことから、所蔵作品をまとめて鑑賞できる機会は、貴重といえる。
広い展示スペースに、1辺が160cmを超える作品が並ぶ。
この展覧会の開催には、コロナ禍が影響している。3月以降、多くの美術館が感染拡大防止のための自粛要請や、国内外の物流の滞りにより、展覧会の変更や中止を余儀なくされてきたが、上野の森美術館も例外ではない。予定していた企画がかなわない状況となる中で、「この機会をチャンスと捉えて、所蔵作品の中から“当たり前だった日常”を振り返り、見ていて楽しくなるような作品を展示することを考えた」とコメントを発表している。
「自己をみつめる」をテーマにしたコーナーも。
第2章「日常から絵画へ」。作家たちが20~30代半ばに制作した作品が多く、実験的精神が感じられる。
上のフロアに続く階段をあがると、巨大タンカーがせまってくるかのように瀬島匠の《RUNNER 塔 -La Tour-》が姿を現し、第4章「風景」に続く。第5章は「ひろがる想像」と題し、抽象画を多数紹介している。
瀬島匠《RUNNER 塔 -La Tour-》(第29回絵画大賞)
第5章「ひろがる想像」は抽象画を中心に。
■野田哲也の日記シリーズ
展覧会場の一角では、野田哲也が1960年代よりライフワークとしている版画《日記》シリーズの展示も行われている。《日記》は、自身が撮影した写真をもとに木版とシルクスクリーンなどで制作した版画作品で、制作年月日をタイトルとしている。これらのモチーフは、まさに身近なものや家族の「なんでもない日」。日常の1コマが洗練された抜け感をまとい、モノクロの世界に美しく収められている。タイトルを見て制作から40年以上経っていると気づき、古びない魅力に改めて驚かされた。
野田哲也《日記》シリーズ展示風景  ※現在後期展示中のため、これらの作品は現在展示されていません。
■なんでもない日、ばんざい!
展覧会のタイトルは、ルイス・キャロルの児童文学『鏡の国のアリス』に出てくる「お誕生日じゃない日のプレゼント」(un-birthday present)という言葉に由来してつけられたという。ディズニー映画『ふしぎの国のアリス』(日本語版)では、帽子屋とウサギが「誕生日じゃない日のうた」で「♪祝え、なんでもない日!ばんざーい!」と歌う。
日本だけでなく世界が、半年前には想像もしえなかった日常を過ごす今だからこそ、作品を通し「なんでもない日」の多様さ、色鮮やかさ、かけがえのなさを感じてほしい。『なんでもない日ばんざい!』は、上野の森美術館で8月30日(日)までの開催。
※展示替えを行い、現在は後期の展示中です。
手前:呉亜沙《distance》(第21回優秀賞)

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