大和シティーバレエ・プロデューサー
佐々木三夏に聞く~「いつかは世界へ
」、夏は『SUMMER CONCERT」&冬は『
美女と野獣』全幕世界初演

大和シティーバレエ 佐々木三夏プロデューサー

ここ数年、バレエファンの夏を熱くする公演がある。神奈川県大和市に拠点を置く大和シティーバレエ(YCB)による「SUMMER CONCERT」だ。第1回公演は2016年。出演者にはバレエ団をプロデュースする佐々木三夏の門下生、菅井円加(ハンブルク・バレエ団)や大谷遥陽(スペイン国立ダンスカンパニー)、五月女遥(新国立劇場バレエ団)らに加え、新国立劇場バレエ団の小野絢子や米沢唯、福岡雄大や福田圭吾といった実力や人気もともに高いダンサーたちが名を連ね、非常に豪華だ。また作品では「天才」とも称される宝満直也(NBAバレエ団)の新作や再演作、さらに多様な振付家の実験的、あるいは尖った作品なども上演されることもあり、何が飛び出してくるかわからない面白さがあるのもこの公演の魅力のひとつとなっている。
今夏の公演は2020年8月14日に「SUMMER CONCERT 2020 想像✕創造」として日本の怪談4作とコンテンポラリー作品2作を上演。さらに12月27日には冬公演では宝満振付、小野絢子&福岡雄大主演の全幕作品『美女と野獣』(世界初演)の上演が予定されており、ますます目が離せない。夏公演の見どころとバレエ団の活動について、プロデューサーの佐々木三夏に話を聞いた。(文章中敬称略)
■バレエ鑑賞の入り口に。地域からのバレエ文化鑑賞のすそ野の拡大を目指す
佐々木の主催する佐々木三夏バレエアカデミー(SBA)のジュニアカンパニーとしてYCBが設立されたのは2016年秋のこと。「大和市文化創造拠点シリウス」の開設がきっかけだ。佐々木は語る。
「バレエは東京まで出ていけば海外の有名なバレエ団や新国立劇場バレエ団、東京バレエ団など在京カンパニーの公演が見られます。でも『東京まで出なくても、歩いて行けるところでバレエ鑑賞ができるのはうれしい』という市民の方の感想もいただいており、やはり地元で気軽に芸術にふれる機会があるのは大事なことだと感じました。シリウスでの公演は、そうしたバレエ、舞台芸術文化の扉を開くきっかけになればいいなと思っています」
YCBは2016年秋の旗揚げ後、2019年までの毎年12月に日本全国で圧倒的な人気の演目『くるみ割り人形』を上演。2017年の「SUMMER CONCERT」は古事記をテーマとした『日本神話』や『ライモンダ』2幕、宝満直也振付『fell and fell and ...』など、古典やコンテンポラリーを交えたプログラムでの公演を行い、2018年夏は井上バレエ団の故・井上博文が振り付けた、日舞とバレエの融合作品『ゆきひめ』を井上バレエ団芸術監督の関直人の改訂振付のもと、衣裳や音楽も新たに加えたバージョンとして上演した。
「『ゆきひめ』は井上先生の、バレエと日舞の融合作品の草分けともいえる作品です。もともと日本舞踊版とバレエ版があったのですが、YCBではその双方を融合した形にして上演しました。こうしたあまり知られていない素晴らしい作品を発掘するのは意義があったと思います」と振り返る。
そして2019年は宝満に加え児玉北斗、福田圭吾らの振付作品などが並ぶ、コンテンポラリー作品中心の公演となった。
「昔と違い、近年振付をしたいという若いダンサーがたくさん出てきた。海外では古典とコンテンポラリーの両立は当たり前で、日本もよりそうあればいいと思います。お客様の中には古典のヴァリエーションをもっと見たいと望む人もいたりしますが、私自身、作品にもよりますが60分のコンテンポラリーはしんどいなと思うことがあるので、その気持ちはわかります。でも『なんだかよくわからないが面白かった』という感想でもいいんです。何か心に残るのが大切だと思うのです。またバレエと言えばチュチュを着た古典作品と思われがちですが、YCBの公演でコンテンポラリー作品を見て『こういうバレエもあるんだ』と思ってもらえれば」。

■「怪談」は4つの作品のオムニバス形式。大和から世界へ発信できる日本の作品作りを目指す
今年2020年「SUMMER CONCERT」のテーマの一つは「怪談」だ。
「怪談を選んだのは夏だし、日本らしいテーマであり、また私が面白そうだな、と思ったので(笑) 」
上演される作品は『耳なし芳一』(振付:熊谷拓明)、『牡丹灯篭』(振付:池上直子)、『雪女』(振付:中原麻里)、『死神』(振付:福田紘也)の4作品。
「振付家それぞれに美意識などがあるし、無理やりテーマを与えても気乗りがしなかったらいい作品はできない。ですから、演目のセレクトはそれぞれの振付家に任せ、個々にリサーチしてもらい、ピンときたものを選んでもらいました。大体1作品20分ずつ、4作連続のオムニバスのような、そんな構成を予定しています」
しかしながら昨今のコロナ禍により2月末を機に国内のバレエ団やスタジオは閉鎖。出演ダンサーや振付家たちはリハーサルもできず、創作する場所を得ることもままならず、公演自体も7月上旬まで開催可能かどうかもわからない状態であった。
「運営的には座席数50%での上演は厳しい。6月中に開催決定が出せれば昼夜2回の公演を行うなど、対処のしようがありましたが、行政との関係上、そうした決定も7月を待たねばならなりませんでした」
また菅井や大谷、松井学郎(ノルウェー国立バレエ団)ら、海外を拠点として活躍するダンサーの来日が叶わず、出演者や演目の変更も余儀なくされたのだが……。
「木下嘉人さん(新国立劇場バレエ団)の『Contact』や中原麻里さんの『ルナティック』を上演する機会につながった。海外で活躍するダンサーの姿をこの機会に一目見たいというファンも多いし、菅井や大谷らも、ハンブルクやスペインで踊れない作品をこの機会に踊りたいと考えており、この公演はそうした場の提供ともなっています。クオリティの高いゲストを中心に公演を組み立てつつ、将来的にはまずは作品ありき、作品の魅力など、多彩な演目にふれられる公演となるよう育てていきたい。YCB公演で生まれた作品が再演され、さらに世界に発信できるような、そうした日本発のコンテンポラリー作品が誕生するようになればいいですね」
■生の舞台のライブ感は特別。冬公演は世界初演となる『美女と野獣』を上演
2020年の冬公演は新作『美女と野獣』に取り組む。宝満自身、ロマンティックな、時にはコミカルな味わいで多様なコンテンポラリー作品を発表し、またNBAバレエ団でも振付補佐として『白鳥の湖』『海賊』など全幕物の作品に関わってきたが、今回は初の全幕振付作品としても注目となろう。
「主演の小野さん、福岡さんのほか、振付家の希望で数人のゲストを呼ぶことになるかもしれないが、そのほかのダンサーは基本的にはYCBの団員たちです」。
YBCにとってもさらなるステップアップの機会となる。
現代はインターネットの動画やテレビ、映画など、様々なところに映像が溢れ、バレエにも気軽に触れられるようになった。またコロナ自粛期間中は世界中の様々なバレエ団が公演の動画配信を行い、来日公演でも見ることのできない貴重な映像にふれられる機会ともなった。
「でも生の舞台の感動は特別。私自身、子供の頃に木馬座の影絵など、生の公演を目にしたときのインパクトは今でも心に焼き付いています。また美容や健康の一環として大人バレエを習う人は増えていますが、劇場でバレエ公演を見たことがないという人もいるのも事実です。そうした方々にもぜひ、生の舞台を見てほしい。大和で生の舞台を見て舞台芸術にふれ、1年に1回は東京に出て、海外の有名なバレエ団や在京バレエ団などの本格的な公演を見るという、そんなきっかけをつくりたい」
「劇場は非日常世界を見せるところだとよく言われますし、もちろんそうなのですが、でもまずそうしたことも抜きにして、気楽に気軽に足を運んでいただきたい。そして楽しんでほしいんです。バレエだけでなく、ライティングの仕掛けに驚いたとか衣裳がきれいだったとか、見たり感じたりするものは人それぞれでいいんです。それぞれの舞台の楽しみかたで、劇場にふれてほしいと思います」
何が出てくるのかわからない、多彩な作品にふれられる8月の「SUMMER CONCERT」。そして若手振付家が日本屈指のペアを得て挑む全幕作品『美女と野獣』。大和市という東京郊外の芸術発信拠点、YCB。今後も注目である。
取材・文=西原朋未

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