土田英生(MONO)×上田誠(ヨーロッ
パ企画)、映画公開記念のトークイベ
ントをレポート ~「劇団で映画を作る
と、圧倒的にやりたいことが反映でき
る」

劇作家・演出家・俳優の土田英生が率いる劇団「MONO」と、劇作家・演出家の上田誠が代表を務める劇団「ヨーロッパ企画」。笑いの多い群像劇を得意とし、全国的な人気を得ながらも京都を拠点に定め、演劇だけでなく映像分野のワークも多数と、いろいろ共通点が多い2劇団。ついに今年は『それぞれ、たまゆら(以下たまゆら)』『ドロステのはてで僕ら(以下ドロステ)』と、劇団主導で製作した映画を、同時期に公開するという偶然まで重なった。
7月に、この両作品を一気に上映した京都のミニシアター[出町座]で、土田と上田のトークイベント「京都と映画と演劇と」が、7月25日(土)に開催された。公私ともに交流の深い2人だが、意外と公開トークの機会は少ない上、コロナの影響で限られた人数しか立ち会えず、結果的に大変貴重なイベントとなった。2人とも、人前で話す機会そのものが久々ということもあり、大いに盛り上がったトークの一部を、特別に公開する。
※各作品の決定的なネタバレはありませんが、できれば映画鑑賞後に読まれることをオススメします。
ミニシアター[出町座]は、アニメ『たまこまーけっと』の舞台としても有名な、出町桝形商店街の中にある。 [撮影]吉永美和子
■【京都】京都にいることが、今後はあまり障害にはならないかも
土田 上田君とは、2年ぐらい前に下北沢で偶然会って、そのまま僕の事務所で朝まで呑んだことがありましたね。
上田 土田さんの作った革細工を、見せてもらったりしました。でもあれ、4年前です(笑)。
土田 マジで? でもなぜ今この話をしたかというと、その時僕が上田君に「これだけ活躍してるんだから、東京に引っ越すとか考えないの?」って聞いたんですよ。そしたら……。
上田 僕が酔っぱらって、土田さんに怒ったんですよね。
土田 そうそう。というのも、昔、僕は雑誌のインタビューで「一生京都にいる」と話してたらしいんですよ。で、上田君はそれを見て「京都にいてもいいんだ」と思ったのに「なのに東京への引っ越しとか、マジで言ってるんですか?!」と。そこから一生懸命「今も私の住民票は京都にある」とか、すごくアピールしました(笑)。でも普通に考えたら、マーケットは東京の方が大きいのに、ヨーロッパ企画はどうして拠点を移さないのか?……という所から、話を始めたいなあと思います。
『それぞれ、たまゆら』フライヤ-
上田 そもそも実家が京都というのが、自分としては大きい理由かもしれない。でも本当に、気持ち的に二択を迫られる時期があって。京都でやり続けるか、東京に行くか? という時に、僕は当時コントライブをご一緒した「吉本新喜劇」の小籔(千豊)さんに、実は結構影響を受けました。小藪さんは関西に拠点を持ちながら、東京でも仕事していきたい、って当時おっしゃっていて、その後それをちゃんと実現してらっしゃるので、僕の中で「東京にも大阪にもいる人」というイメージがあって。それで僕も「往復すればいいんだな」と思いました。(どちらか)選ばず、両方にいるキャラにしようと。
土田 でも、実際はほとんどの人が移っていっちゃうし、僕も結局年間の8ヶ月ぐらいは東京なんだよね。どっちかというと、京都が別荘になってきてる。
上田 僕は結構、京都の方が長いです。でもたまに東京で(長期の)稽古をする時もあるし。だからアレです。家から会社に通って、また家に帰るというのが普通の生活だとしたら、それに近いというか。
土田 あー、会社が東京にあると。ちょっと長いだけってことやね、通勤時間が。
上田 そうです。で、忙しい時は会社に泊まらなきゃいけないという感じ。
『ドロステのはてで僕ら』フライヤー。
土田 でもそれこそコロナで、リモートでだいぶ変わったんじゃない? 意識が。逆にリモートができるようになってから「今まで何やったん?」っていうこと、結構あるんじゃないの?
上田 むちゃくちゃありますよ(笑)。みんなが「リモートで意外と行けんじゃん」ってなってから、急に東京と京都の垣根がなくなりました。それまで親しく話す機会があまりなかった(東京の)役者さんと、日常的にリモートでしゃべるようになったり。だから逆に、知り合いが増えましたね。
土田 場所だけじゃなくて、異業種の人とも気軽にしゃべれる空気になってるし。僕、弁護士さんの友だちが増えたんですよ。この前のZOOM呑みなんか、周りは全員弁護士で「先生、それは○○法42条ですよー!」みたいなツッコミに着いていけなかったり(一同笑)。
上田 リーガルギャグが(笑)。
土田 そうやって、いろんなことの垣根が取れていってるから、今後京都にいることは、今まで以上に障害にはならないかもしれないね。
(左から)土田英生(MONO)、上田誠(ヨーロッパ企画)。
■【映画1】『ドロステ』を外でやるなら、いろんな説得材料が必要
上田 『たまゆら』は、本当に面白かったです。それこそ『燕のいる駅』とか『少しはみ出て殴られた』(注:すべてMONOの作品)などのいろんな作品が、映画の中で少しずつ足跡(そくせき)としてつながってるという、その流れが面白かったですね。
土田 でも自分らで映画を作るって大変ですよね、お金の面でも。何で上田君は、劇団で撮ろうとしたんですか?
上田 まず「劇団でTV番組を作ったら、どうなるんだろう?」と思って、10年前に『暗い旅』を始めたんですが、やっぱりそれが面白かったんです。だったら映画も全部自分たちで撮ったら、圧倒的にやりたいことをやりたいまま作れると思いました。
土田 それにすごく同意するというか、ほぼほぼ同じことを考えてる。外で頼まれるのと、一番違うのは何やろう? 外の人も、割と「こうやりたい」「そうですか」って言ってくれるけど、劇団で自分がやってるような形には、なかなかならないですよね。
映画『それぞれ、たまゆら』予告。

上田 わかりやすいのは、キャスティングが違う。やっぱり外は、いろいろな力学があるので。もう一つは説明が……特に『ドロステ』はコンセプトがだいぶ変な映画なので(笑)、外の人に「やる」と言った時に、いろんな説得材料を持っていかないといけないし、多分OKが出ないと思うんです。でも劇団の人なら「だいぶ野心的だねえ」で、やろうって話に。
土田 よく言われるもんね。「これ、何の話なの?」って(笑)。「え?(脚本に)書いてるんですけど」「いや、それはわかったけど、何の話なの?」って。
上田 そうですそうです! めっちゃわかりますよ。
土田 それで細部をワーッと説明すると、次は「いや、わかったけど、そもそも面白いの?」って言われる(一同笑)。
上田 それは結構、ありますよねえ。で、『たまゆら』は「すごく会話が早い」って聞いたんですけど、実際には違和感がないというか、心地よく耳に入ってくる会話でした。映像の会話は、普通もっと遅いですよね?
土田 そうそう。僕の台詞って、遅くしゃべられると面白くなくなるし、あげくの果てに(時間が)延びてカットされるし、いいことがないんです。あと台詞が(台本の)半ページぐらいになると、必ず何かを入れられるんですよ。(手元のペンを持って)これのアップとか(一同笑)、何か画変わりをしないと飽きるって。だから自分で監督したら「いやいや、(会話だけで)全然もつよ」というのを、証明したかったんです。
MONOの映画『それぞれ、たまゆら』より。
上田 確かに、DVを受けてる3人の会話って、結構長く……しかも3ショットのままで、ずーっと撮ってましたよね?
土田 あれこそ、あり得ないじゃない? DVだったら、絶対家の割れた花瓶(の映像)とかが入ったりする(笑)。
上田 確かにそうですよね。割と演劇だと、役者さん自身の気持ちのいい(テンポの)会話でやられると、多分観客は遅く感じるんです。ちょっと早目ぐらいが、聴いてて気持ちいいみたいなことは、演出の肌感覚としてあるんですけど、映像の現場は別にそういうことでもなかったりする。
土田 そうね。役者さんも普通のトーンでやられる人が多いし、間も割と長い。
上田 もちろん場面によっては、間を作る方がいい場合もあるけど、ああいう(MONOのような)会話って、なかなか映像ではできないと思います。
土田英生(MONO)。

■【映画2】監督は「演技」と「画作り」に分けたらいいと思う
土田 上田君、何で監督は自分でやらなかったの?
上田 映像の監督をやるなら、人生の残りの時間をかけるぐらい、めっちゃ本気でやらないといけないという気持ちがあって、そこまではできないなあと思ってたんです。だったらヨーロッパ企画には山口淳太っていう、僕より何歩も先に行ってるディレクターがいるので、(監督は)彼に任せて。でも演技の演出は付けたいから、ずっと現場にいて、ちょっと口を出す脚本家というスタンスでやってました。
土田 それって監督にとって、一番来てほしくない脚本家やけどね(笑)。
上田 そう思います。でも監督って、二個やらなきゃいけないことがあるじゃないですか? 演技を見るのと、画作りと。これって全然違う職能やから、分けた方がいいんじゃないかと、僕は思うんです。
映画『ドロステのはてで僕ら』予告。

土田 そうですね。僕も実は、画は何もわからない。「役者がちゃんと見えたらいい」ぐらいしか判断基準がないので、カメラの人に勝手に決めてもらってました。『ドロステ』の撮影は、(TV画面の)向こう側とは分けて撮ってるわけじゃない? あの素材を先に撮ってたということだよね?
上田 そうですそうです。(TVの)映像が何枚も重なる画だから、その一番奥を一番先に撮って、それをTVに写して演技して、それをまたTVに写して……という。
土田 あれ実際に、写しながら撮ってるんだ。ハメ込んでるんじゃなくて?
上田 ああ、そうです。全部現場でやりました。その撮影が、もう地獄で。
土田 いや、地獄でしょうね! っていうか……それって楽しいの?(一同笑)
ヨーロッパ企画の映画『ドロステのはてで僕ら』より。
上田 これね、キツイです。しかもちょっとずつ画面の明るさを変えていかないと、キレイなグラデーションにならなかったり、奥が潰れて消えてしまったりするんですよ。6枚目を撮ってる時に「ごめんなさい、3枚目の色を間違えてました」といって、撮り直しになったりしました。地獄です(笑)。これはもう絶対、うちの(劇団の)現場じゃないとできない。
土田 そうだねえ。どんな現場でも「4枚目の色味が……」と言う人、いないですよ。
上田 本当にそう思います。だからいろいろ無理を言うことができるのも、劇団を母体に撮ってる映画だから。
土田 しかも今まで『サマータイムマシン・ブルース』とか、そういうタイムリープものをいくつかやって来てもいるから、劇団員にはその浸透度というか、理解度が違うでしょうね。
上田誠(ヨーロッパ企画)。

■【演劇】ルールが似ていても「許せる」「許せない」が違う
上田 劇団員の話で言うと、水沼(健)さんと奥村(泰彦)さんが、稽古されなかったのに(演技が)すごかったって。
土田 そうなんですよ。(避難所の)境界線をめぐるシーンで、それぞれのグループのリーダーをこの2人にして。そうしたらやっぱり、水沼と奥村は(撮影前の)稽古をしていなかったのに、いつもの(MONOの)リズムでしゃべって、他の人もそれに合わせてくれて、形になったんです。今回はやっぱり、お互い劇団員のありがたみを知ったというか。
上田 そうですよねえ。やっぱりその、リズムなんですよね。一人ひとりのキャラクターの強さで押していく劇団もあるけど、MONOも僕らも群像劇のグループで、多分リズムが他の劇団にはないものだと思うんです。
土田 そう。ヨーロッパのメンバーに、MONOに出てもらったことがあるけど、限りなく会話の基本ルールが一緒。だから他の役者さんと組むより、格段に楽でした。ただ、中川(晴樹)君が出た時「ちょっとだけ、ここヨーロッパっぽく言っていいっすか?」って言われて。
上田 ええ、何ですかそれ?
MONOの前回公演『その鉄塔に男たちはいるという+』より。 [撮影]谷古宇正彦
土田 MONOではツッコミ台詞に、絶対一瞬もウケ笑いを入れないんですよ。(平坦な口調で)「ちょっと待ってくださいよ」って言うのが、中川君は「ちょっ(笑)、待ってくださいよ」なんです。どうもその「ちょっ(笑)」を、すごくやりたいと。
上田 はいはい、僕らの伝家の宝刀がね(笑)。
土田 でも確かに永野(宗典)君とかも、割とそういう台詞回しをしているから、細かい違いはあるなあと思いました。
上田 僕らは多分「お客さんを笑わせる」という所に、より特化したやり方をしてるので、そこが一番違う所かもしれない。
土田 いやいや、僕も「笑わせたい」と思ってやってるけど(笑)。
上田 でもやっぱり、リズムの方を優先して。
土田 そうそう。受けの演技って、難しいじゃないですか? 一瞬素に戻るように見えるのが行き過ぎると、作ってる世界が壊れるから、そのさじ加減の好みはあると思う。「ここまでは許せる」「ここからは許せない」の差はあるなあ、と。でも今、あまりないもんね。そこまで文法がしっかりしてる劇団って、そんなに。
ヨーロッパ企画前回公演『ギョエー! 旧校舎の77不思議』より。 [撮影]清水俊洋
上田 方法論が、ってことですよね?
土田 そうそう。ヨーロッパ企画の役者は、ある程度ヨーロッパ企画のしゃべり方をしている……酒井(善史)君以外は(一同笑)。彼は説明に特化した俳優という、オリジナルの存在だからね。でも一人も劇団員がいない現場だと、思ったようにできないってことないですか?
上田 めっちゃありますね。
土田 だから僕は必ず、2人ぐらいは呼びます。その2人のシーンをまず作っておいて、他の役者さんに「こうやってほしい」というのを、微妙にアピールしながら作っていく。
上田 その方がわかりやすいですよね。確かに劇団員がいると、ちゃんと劇団の演技体を映像にも反映できるのが面白いなあ、と思いました。
(左から)土田英生(MONO)、上田誠(ヨーロッパ企画)。

■【未来】次に作る時は、情報を共有しておいてほしいです
土田 映画は今後、どうしていきます?
上田 どうですかねえ? 映画はメジャーな監督でも、当たらなかったら次が撮れないとかがあるので、それは結構キツイなあと。なるべくそういうことと関係なく、作品を作れる状態ができたらいいですね。『ドロステ』は結構低予算で作ったんですけど、ある程度回収できたら「次作ろう」ってなるから。そういう感じで続けられたらなあ、と思います。土田さんは、また作りたくなってるとお聞きしましたが?
土田 作る前は全然そんな気なかったけど、やってみたらやりたくなった(笑)。次やるなら、ストーリーのあるものを、1本ポーンとやりたいです。今回はMONOのメンバーを全員出すために、話をどんどん増やしてるうちに、短編集になっちゃったので。次は本当に、普段劇団でやってるような芝居を、そのまま映像化したいと思います。上田君は、次どんなのを作りたいですか?
上田 『ドロステ』は2分縛りだったし、昨日は嵐電(京福電気鉄道)の中で芝居してもらったりして(注:ヨーロッパ企画の生配信劇『京都妖気保安協会』)、そういうのって役者にはある種のストレスだろうなあ、と。せっかく良い芝居をしても「2分に間に合いませんでした」でNG、とか。普通に「良い芝居、OK!」みたいなことを、あまりやってあげられてないんです。次はもうちょっと、いい環境の中で芝居させてあげたいというのがあります。
(左から)土田英生(MONO)、上田誠(ヨーロッパ企画)。
土田 もうピタゴラスイッチのコマみたいになってるもんね、役者が(一同笑)。一往復でバケツを倒すだけ、みたいな。じゃああんまり、仕掛けから行かずに?
上田 仕掛けからは、やっぱり行きたいです(笑)。ただ、今は上田の仕掛け8:役者の芝居2みたいになってるので、役者を特殊な状況の中に置きつつ、お芝居も仕掛けも見せるという形で、できたらいいなあと思います。
土田 でも次がある時は、ちょっと教えといて。いつやるか(笑)。いや、今回(公開が)重なって俺は良かったけど、やっぱり必ず取材の時に「『ドロステ』は観ましたか?」と、ヨーロッパと込みでしゃべることになるので。
上田 そうなんですか? やっぱり「一緒にやってる」という風に思われてるんですね。
土田 だから今後は、情報を共有しておいてほしい。そうしたらいろいろ一緒にできるでしょ? 全然違う作品だけど、ワンシーンだけまったく同じシーンを使うとか。
上田 あー、なるほどなるほど。それはぜひ、お願いします。
(左から)土田英生(MONO)、上田誠(ヨーロッパ企画)。
取材・文=吉永美和子

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