岩井秀人がユースケ・サンタマリア、
松本穂香、橋本さとしを翻弄 ~ WAR
E『いきなり本読み!』初日レポート

2020年8月1日(土)、2日(日)の両日、本多劇場にて行われたWAREプロデュース『いきなり本読み!』。岩井秀人(ハイバイ/WARE)の配役・演出・進行のもと、俳優たちがその場で初めて渡された台本を読み合わせる”エンゲキ”だ。ここでは初日・8月1日(土)の模様をレポートしたい。

来場者は入り口でサーモグラフィによる体温チェックと手指の消毒を経て劇場内へ。ロビーのソファやフライヤー置き場、物販コーナーはすべて撤去され、各所に消毒液が置かれている。
客席は隣と2席空けの設定。スペースごとに黒い布で覆われたパーテーションが設置され、つねに換気も行われるなど、ウイルス対策は厳重。通常、386ある本多劇場の客席を約100席に減らしての上演となった。

『いきなり本読み!』1日目(撮影:平岩と坂本)
舞台上にはテーブルと椅子が4セット。開演時間とともに進行・演出の岩井秀人が登場し、出演者を呼び込む。この日のキャストはユースケ・サンタマリア、松本穂香、橋本さとしの3名。2009年の舞台『東京月光魔曲』で共演した岩井、ユースケ、橋本と、岩井を含め他の出演者とはほぼ初対面となる松本。何とも言えない緊張感の中、岩井とユースケがフリートークで場を盛り上げ、劇場内の空気が温まったところで3人の俳優が初めて台本を開く。
今回使用する台本は、ハイバイが過去に上演した『ごっちん娘』を岩井自身がリライト&改題した『ゴッチン』。身の丈2mで全身がチョコボールのように黒光りするスーパー(?)小学生”ゴッチン”を主軸に、家族や同級生、教師とのアレコレがぶっ飛んだ世界観で描かれる短編戯曲だ。場面によっては10名弱の人物が登場するため、俳優は基本、1人で複数のキャラクターを担当する趣向である。
岩井の配役により、短い場面をノー下読みで声に出し演じていくユースケ、松本、橋本の3人。舞台奥には巨大なスクリーンが設置され、本読みの進行に合わせて台本がそのまま映し出されるため、観客も置いてけぼり感がない。短い場を一通り読み終えたところで、岩井の演出が入り、俳優たちは微調整を経て同じ箇所をふたたび読み合わせる。
『いきなり本読み!』1日目(撮影:平岩と坂本)
……と書くと、非常に真面目にコトが進んでいくようだが、そこは岩井秀人。抜群の間合いと一切の否定がないコメントで俳優たちを自在に遊ばせ笑いを生みだす。たとえば、初見の段階で戯曲冒頭、老人の語りを読んだユースケには「あ、忘れてました、本当はこのBGMを使おうと思ってた」と、場のイメージに合った音楽を後出しし「”木”になる寸前の人が喋ってる感じで」と振ってみたり、ゴッチンの同級生、いけけん役の松本に「なんかこう、前歯が思いっきり出ちゃってる感じで行きましょうか」とヒントを出したり、お母さん役の橋本に「タンポポみたいな感じでお願いします」と伝えてみたりと、即興でオモシロな指示をガンガン飛ばす。
いきなり渡された台本、突然言い渡される配役……だけでもハードルが高い中、途中で役をチェンジし、同シじーンを複数回読むことで、観客側にも「どのチョイスが正解か」が一瞬にして伝わるのが興味深くもあり恐ろしくもある。稽古場は関係者のみのクローズドな空間だが、ここは100人の観客が見つめる劇場空間なのだ。
『いきなり本読み!』1日目(撮影:平岩と坂本)
青山円形劇場で2011年に上演された『その族の名は「家族」』で過去にも岩井の演出を受けているユースケ・サンタマリアは、時に茶々を入れながら物語に出てくるヘンテコな人物たちを見事に立体化する。特に「自分では正しいことをしているつもりが完全な空回り、もしくはパワハラ」の平原先生役が秀逸だった。
『いきなり本読み!』1日目(撮影:平岩と坂本)
大劇場での舞台出演も多い橋本さとしは、読み間違いを岩井にイジられ、それを利用して突き進むベテランの凄味を見せる。劇団☆新感線作品やミュージカルとは一味違う笑いの間合いを体現しつつ、決めるところはきっちり決める姿が頼もしい。
『いきなり本読み!』1日目(撮影:平岩と坂本)
そして今回、筆者も含めた観客の驚きが1番大きかったのは、舞台経験がほぼない松本穂香の振り切った芝居だろう。初見の台本をものともせず、速攻で役を掴む勘の鋭さや笑いのセンスに客席からは幾度となく大きな拍手が起きていた。ゴッチン役も良かったが、前述の「素敵な色鉛筆を持っている前歯が出過ぎた小学生・いけけん」はもはや”伝説”の域だ。
上演時間約2時間30分(休憩あり)で俳優が持つ無限の可能性、演劇のとてつもないパワー、個性ダダ漏れの演出スタイルと、盛りだくさんの”目撃”ができた『いきなり本読み!』。じつは2日目も違うキャスト(荒川良々、黒木華、古舘寛治)で同じく『ゴッチン』の台本を読んでいるので、併せて観ると明確な違いも浮かび上がり、より深みにハマりそうである。
事前の稽古もいらず、舞台上で出演者同士のディスタンスを成立させられ、同じ台本でも組み合わせによってまったく違う世界が見える『いきなり本読み!』。まさにこの時勢にぴったりハマる、岩井秀人”企み”の勝利であった。
『いきなり本読み!』1日目(撮影:平岩と坂本)
第3回「岩井秀人(WARE)プロデュース『いきなり本読み!』」上演の模様は8月中旬より配信予定(有料・詳細はWAREのHPにて発表)。
取材・文 上村由紀子(演劇ライター)

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